夜の学園都市。空には月がぼんやりと光を落とし、街はいつものように静寂に包まれていた。
だが、結絆の元に届いた情報は、その静寂を打ち破るには十分すぎるほど衝撃的なものだった。
「......マズいねえ」
結絆はスマートフォンの画面を睨みながら、低く呟いた。
――DAが“妹達”の一人を誘拐した。
「クソが......またふざけたマネしやがって......」
一方通行は苛立ちを隠そうともせず、拳を握り締める。
「どうやら、DAは“能力者の死体を機械に組み込む実験”だけじゃなくて、生きた能力者の人体実験も視野に入れてるみたいだねえ」
結絆は目を細めながら言った。
「ったく......どこまでクソッタレなんだよ、アイツらは......」
一方通行の殺気立った気配に、隣にいたエステルが眉をひそめた。
「......どうするの?」
エステルが二人に静かに問いかけると、結絆は微笑みながら即答した。
「決まってるじゃないか。潰しに行くんだよお」
DAの拠点――廃棄された地下施設。
広大な空間に、武装したDAの兵士達が配置され、監視ドローンが巡回していた。
そして、その奥の部屋には――ベッドに拘束された“妹達”の少女。
「ターゲットの回収完了。これより“実験”を開始する」
無機質な声が響く。
だが、その静寂を破るように、施設の入り口で爆音が鳴り響いた。
ドゴォォォォォン!!
「なっ!? 何だ!?」
「......随分と用意がいいねえ」
立ち込める煙の向こうから、結絆達が悠然と姿を現す。
食蜂結絆――学園都市の闇を支配する怪物。
「よォ......随分と楽しそうなことやってンじゃねェか」
一方通行――学園都市最強の超能力者(レベル5)。
そして――
「......人の命を弄ぶような真似は許さない」
エステル=ローゼンタール――死霊術を操る魔術師。
三人の影が、DAの兵士達を睨みつける。
「迎撃しろ!!」
DAの兵士達はすぐさま銃を構え、発砲した。
だが、銃弾は一方通行の能力で全て跳ね返される。
「ンなモンが効くと思ってンのか?」
一方通行は不敵に笑うと、軽く足を踏み鳴らした。
――その瞬間、施設全体が揺れ動き、兵士達が吹き飛ばされる。
「ひ......ひぃぃぃ!!」
「さあて、ここからは俺のターンだねえ」
結絆はニヤリと笑うと、水の魔術と自身の能力を組み合わせて兵士達の思考を操り、同士討ちを始めさせる。
「......っ!?」
DAの兵士は恐怖に満ちた表情で、次々と仲間を攻撃し始めた。
「君達のようなクズは、仲良く殺しあえばいいと思うよお」
結絆の声が、冷たく響く。
エステルが戦闘の隙をついて、奥の部屋へと駆け込んだ。
そこには、拘束された状態の妹達の一人がいた。
「大丈夫?」
「......問題ありません、とミサカは自らの無事を報告します。」
エステルはすぐに拘束を解き、彼女を抱えるようにして立ち上がる。
「一方通行! 妹達は確保したわ!」
「あァ......ンじゃあ、さっさとコイツらにトドメ刺して帰るか」
一方通行は腕を振り上げ、残ったDAの兵士達を一掃する準備をする。
「やりすぎないようにねえ?」
結絆が軽く笑いながら言うが、一方通行はニヤリと笑って――
――DAの拠点は、粉々に吹き飛んだ。
救出された妹達は、結絆の手で安全な場所へと送られた。
「......感謝します、とミサカは礼を述べます」
彼女は淡々とした口調ながらも、どこか嬉しそうに見えた。
「おっと、そんな顔されたら照れちゃうねえ」
結絆は軽く冗談を言いながら、彼女の頭を優しく撫でた。
一方通行はため息をつきながら、忌々しげに呟く。
「クソが......また厄介な連中を相手にしなきゃならねェみてェだな」
「まあ、これでDAも本格的に潰しにかかってくるだろうねえ」
結絆は夜空を見上げながら、ふっと笑った。
「さあ、次はどんな“闇”が待ってるのかねえ?」
学園都市、第七学区の廃墟地帯。
DAの拠点を粉々に破壊した結絆は、その場を後にしようとしていた。
「フン、これでまたクソみてェな組織が一つ減ったな」
一方通行が吐き捨てるように言い、瓦礫の上を踏みしめる。
「まあ、まだ根っこは残ってるけどねえ。さて、次はどこを潰そうか」
結絆がニヤリと笑ったその瞬間
――ズバァンッ!!
突如として、爆発が起こった。
「......ッ!? あァ?」
一方通行が即座に身構え、結絆も相手の動きに警戒する。
爆煙の向こうから現れたのは、四つの影。
「やれやれ、“学園都市の闇”ってやつは、君達みたいな厄介者ばっかりなんだね」
先頭に立つ、赤髪の少女が、軽口を叩きながら姿を現した。
「学園都市暗部組織“屍喰部隊(スカベンジャー)”か」
結絆が目を細めて言うと、司令塔らしき少女はニヤリと笑う。
「僕達のことを知ってるんだね。......まあ、今回は君達のことを始末しに来たんだけど」
スカベンジャーの四人が構える。
新たなる戦いの火蓋が、今、切られようとしていた。
「はあ......折角の仕事なのに相手はたった二人かよ」
スカベンジャーの一人、黒髪の少女(?)が、ため息をつく。
「でも、やるしかないよね? さっさと終わらせるよん!」
紫髪の少女が、紙を纏って武装する。
「悪いけど、おとなしく死んでね?」
容姿端麗な少女が、謎の薬品を取り出す。
「じゃあ、行くよ!!」
赤髪の少女が号令をかけ、四人が一斉に襲いかかる。
――が、その瞬間、彼女達の動きがピタリと止まった。
「......ッ!?」
「動けない!?」
「なっ......何が......!?」
彼女達は理解する間もなく、強制的にその場に固定されていた。
「まあ、なかなかいい動きしてたけどねえ」
結絆が、冷たい笑みを浮かべながら指を鳴らす。
「俺の前じゃ、キミ達の作戦も何の意味もないねえ」
「......ッ!? こ、こいつ......僕達の脳に干渉して......!?」
司令塔の少女が苦しげに言葉を絞り出す。
「フン、そいつだけじゃねェ」
一方通行がゆっくりと前に出ると、周囲の瓦礫が一瞬で浮かび上がった。
――ゴゴゴゴゴ......!!
「悪ィな、お前ら程度が俺らに勝てるわけねェだろ?」
瞬間、無数の瓦礫がスカベンジャーの四人に向かって振り下ろされる。
――ドゴォォォォォン!!
爆発音とともに、四人は地面に叩きつけられた。
「ぐっ......こ、こいつら、強すぎじゃねえか......!!」
黒髪の少女(?)が呻きながら立ち上がる。
「......これは、降参、するしかないね......」
司令塔の少女が冷静に状況を分析し、静かに言った。
結絆はニヤリと笑う。
「まあ、俺達は君達を殺すつもりはないんだけどねえ」
「......は?」
スカベンジャーの四人が戸惑う中、結絆は続ける。
「君達は統括理事会直属の暗部組織になりたいんだよねえ?」
「......なんでそれを知ってるんだい?」
「原典の力と自己制御の合わせ技なんだけどお、今は置いておこうかあ。どうだい?俺の下につかないかい?俺は、近々統括理事会の一人を落とすつもりでねえ。」
「えぇ......」
四人は驚いたような表情を浮かべた。
「ちょっと待って......あなた、私達のことを仲間にしようとしてるの?」
紫髪の少女が信じられないという顔をする。
「ふふ、俺の組織“ドリーム”に入れば、今よりいい仕事ができるよお?」
結絆は悪戯っぽく微笑んだ。
すると司令塔らしき少女が思い出したかのようにつぶやく。
「まさか、君はドリームのリーダーである食蜂結絆!?僕達はなんて相手にケンカを売ってしまったんだ......」
「よく知ってるねえ、じゃあ俺の隣にいるのが一方通行ってこともわかってるよねえ?」
スカベンジャーの4人の表情が絶望に染まる。
どうやら、気付かずに戦っていたらしい。
「選択肢は二つ。仲間になるか、ここで八つ裂きにされるか......どっちがいいかい?」
「............」
四人は視線を交わし、司令塔の少女が静かに頷く。
「......わかった。君の下につくよ」
「リーダー!? マジで!?」
「......生き延びるためには、それが最適解だよ」
スカベンジャーの四人は、悔しそうにしながらも結絆の申し出を受け入れた。
「ふふ、いい返事だねえ。今日からキミ達は“ドリーム”の一員だよお」
結絆は満足げに笑い、手を差し出す。
こうして、スカベンジャーの四人は、結絆の仲間となった。
「まさか、こんな展開になるとはなァ......」
一方通行が呆れたように言う。
「まあ、彼女達の能力は便利だからねえ。利用価値は十分にあるよお」
結絆は悪戯っぽく笑い、夜空を見上げた。
学園都市の“闇”を支配する者。
彼の手の中に、新たな駒が加わった。
そして、次なる戦いの幕が、静かに上がろうとしていた。
ドリームの拠点の一室。
モニターには学園都市の様々な情報が流れており、壁にはホワイトボードが設置されている。
その中心に座る食蜂結絆は、ドリームの構成員からの報告を静かに聞いていた。
「......木原相似が死亡しました。殺したのは、垣根帝督です」
その言葉を聞いた瞬間、結絆は少しだけ目を細めた。
だが、それ以上の動揺を見せることはない。
「因果応報だねえ」
淡々とした口調でそう告げる。
木原一族――学園都市の闇に巣食う科学者集団。
木原相似は木原一族の中では脅威度はそこまで高くはないが、DAをサイボーグ化させたり洗脳するなど、非人道的な実験を繰り返していたのだった。
「......ですが、垣根帝督がここまで動くとは意外でした。何か裏があるのでしょうか?」
「ま、そうだろうねえ。アイツは自分の利益にならないことはしない。ってことは、木原相似が何かを握ってたって考えるのが自然かねえ」
結絆は腕を組み、考えを巡らせる。
木原相似の死は単なる私怨によるものなのか、それとも学園都市の裏側で大きな動きが起きているのか。
「木原相似が研究してたもののデータ、回収できるかい?」
「既に動いていますが、何者かによって抹消されている可能性が高いです。痕跡をたどるのは難しくなりそうですね」
「そうだろうねえ......まあ、それでも調べる価値はあるか。学園都市がこれをどう扱うかも気になるし、俺達が動く理由は十分にあるねえ」
結絆は椅子から立ち上がる。
「しばらくは慎重に動こう。学園都市の動向を探るよお。......もしかしたら、面白いことが分かるかもしれないからねえ」
結絆の言葉に、ドリームの構成員達は静かに頷いた。
学園都市の裏側で渦巻く闇。
その深淵へと、結絆はまた一歩踏み込むことになるのだった。
今回は、いろんな話を一纏めにしてみました。
屍喰部隊を仲間にしたのは、今後の話で原作からの乖離を減らすためです。