法の書編と時系列が被っちゃってるので、結絆が学園都市にいない間は、一方通行が事件解決に動いていたと考えてもらえると助かります。
夜の学園都市は、昼間とは違った顔を見せていた。
静寂に包まれた街を歩く食蜂結絆は、手にしたスマートフォンの画面を見つめながらため息をついた。
『頼むじゃんよ、結絆。私の知り合いがエスコフィエ号に監禁されてるらしいんだけど、船籍が海外のものだから警備員は動けないじゃん』
数時間前、結絆のもとに届いたのは黄泉川愛穂からの連絡だった。
彼女は結絆の通う高校の教師であり、風紀委員や警備員とも関わりのある人物だ。
小萌先生とも仲がいいらしく、結絆が小萌先生と喋っている時は、よく彼女の名前が話題に上がる。
『知り合いってのは、風紀委員か警備員のかい?』
『いや、私の教え子って感じじゃん。』
『わかったよお......まあ、俺としても、そろそろ犯人を突き止めたいからねえ』
結絆の目的とも絡んでいる以上、引き受けるしかない。
「さて、エスコフィエ号ってのはどんな船かねえ」
結絆は、エスコフィエ号が停泊している学園都市沖の特別区域へと向かう。
エスコフィエ号は、世界的な富裕層をターゲットにした超高級豪華客船であり、一般人が簡単に乗り込めるような場所ではない。
しかし、裏の情報網を持つ結絆にとっては、その程度の障害は問題ではなかった。
「さーて、忍び込むとするかねえ」
ドリームの情報部門と自己制御(セルフマスター)を駆使し、結絆はエスコフィエ号の乗客リストに偽の身分を登録。
さらに、船内の警備の死角を見極めながら、難なく船内へと潜入することに成功した。
エスコフィエ号の内部は、まさに贅の限りを尽くした空間だった。
煌びやかなシャンデリア、赤絨毯が敷かれた廊下、そして一流シェフによる最高級の料理が並ぶレストラン。
しかし、結絆はすぐに異様な雰囲気を察した。
「......ん?」
レストランのテーブルに目を向けると、乗客達が何かに酔いしれたような表情で料理を口にしていた。
中には、恍惚とした笑みを浮かべながらスプーンを握る者、興奮気味に周囲と語り合う者もいる。
「......ちょっと、ヤバそうじゃないかねえ」
料理のプレートを注意深く見ると、そこには『ネクター』という調味料を使用したと記されたメニューカードが添えられていた。
「ネクター......精神を高揚させるってやつだったかねえ?」
裏の世界の情報を知る結絆にとって、それは聞き覚えのある名前だった。
適量ならば幸福感をもたらすが、過剰摂取すると精神が侵される危険性があるとも噂されていた。
ネクターを精製すれば、体晶と呼ばれるものになる。
ちなみに結絆は、過去の実験で体晶を投与されたことがあり、一度死にかけたことがあったりする。
「......黄泉川先生の知り合いも、まさかこれにハマっちゃったのかねえ?」
嫌な予感が脳裏をよぎる。
ここには何かがある。
結絆は、慎重にレストランの奥へと足を進めるのだった。
レストランの異様な空気を感じながら、食蜂結絆は奥へと歩を進めていた。
船内の豪奢な雰囲気とは裏腹に、どこか嫌な予感がまとわりつく。
「ネクターの正体を突き止める前に、まずは黄泉川先生の知り合いを見つけないとねえ......」
そう呟いた瞬間——。
ドォォォン!!!
突如、甲板の方からけたたましい衝撃音が響き渡った。
「......おいおい、豪華客船のパーティーにしちゃ派手すぎやしないかねえ?」
結絆は眉をひそめながら音のした方へと向かう。
船内の廊下を進むと、そこには——。
「チッ......こんなクソみてェな場所にまで呼び出しやがって......!」
白い髪に赤い瞳、学園都市第一位の超能力者である一方通行が、船の壁をぶち抜いて豪快に侵入してきていた。
「......これはまた、とんでもないお客さんのご来訪だねえ」
結絆が呆れたように呟くと、一方通行は彼に目を向け、舌打ちをした。
「なンだァ?結絆、こんなところで何してやがる?」
「それは、こっちのセリフだよお、とはいえ、君がこんな優雅な豪華客船でバカンスってタイプじゃないのは、さすがの俺も分かってるけどねえ」
「黄泉川のやつ、説明端折りやがったなァ......。姫戯茉離(ひめぎ まつり)っつうガキがここにいるらしい。そいつを回収しに来たンだよ」
その名を聞いて、結絆は一瞬だけ目を細めた。
「姫戯茉離......あの少し偉そうなお嬢様みたいな子だよねえ?」
「そういうこった。で、テメェもここにいるってことは......同じ目的か?」
「そうだよお。ってことで、案内は任せたよお」
結絆は、笑いながら一方通行の肩を軽く叩く。
「ハッ、チンタラしてンじゃねェぞ。さっさと行くぞ」
一方通行はそう言い放つと、結絆を置いて廊下の奥へと進んでいく。
「......それはそれとして、エステルとは仲良くやっているのかい?」
「その話を蒸し返してンじゃねェ!!!!」
こうして、結絆と一方通行の最強コンビは動き出すのだった。
轟音とともに扉が吹き飛んだ。
厨房へと足を踏み入れた結絆と一方通行の目の前には、シェフ達が数人、異様な雰囲気をまとって立っていた。
「......腕が立つシェフがこんなに並んでるなんてねえ。さすがは一流のレストランってところか」
結絆が肩をすくめると、シェフの一人が結絆達を指さし文句を言い始めた。
「お客様、厨房に入るなんて常識がなってないじゃない!」
ジャキッ——!
刃物の音が響く。
「ま、マナーがなってないのは間違いねェな」
一方通行が不敵に嗤う。
その瞬間、シェフ達の動きが一変した。
素早い動きで結絆と一方通行に襲いかかる彼らは、ただの料理人ではない。
明らかに戦闘訓練を受けた殺し屋の動きだった。
「ったく、客に包丁振りかざすとか、ここの接客は最悪だねえ」
結絆は軽くステップを踏むと、シェフの一人が振り下ろした包丁の軌道を見極め、寸前で回避する。
「遅いねえ」
次の瞬間、結絆の拳がシェフの鳩尾にめり込んだ。
ゴシャッ——!
「ッ......!!」
腹を突き破る一撃に、シェフは目を見開いたまま倒れる。
「危険なのは、俺だけじゃないからねえ」
結絆は、鼻歌を歌いながら一方通行の方を見る。
「ガギャアアアア!!!」
悲鳴が響く。
その視線の先では、一方通行が床に転がったシェフの頭を踏み潰していた。
「ハッ、テメェら、包丁で俺を切れるとでも思ったのかァ?」
刃物を持った残りのシェフ達が一斉に飛びかかる。
「チッ......!」
彼らは驚異的な速度で動き、包丁の切っ先が白い軌跡を描く。
しかし、
「雑魚がよォ!」
一方通行はベクトルを反転させることで、シェフ達の腕をへし折る。
「ギャッ......!」
「な、なに......!?」
そして、無防備になったシェフの頭を掴み、床に叩きつける。
「こんなトコで俺様相手に刃物遊びしてる場合じゃねェんだよ、クソ共が」
ゴキリッ——!
鈍い音が響く。
「おいおい、ちょっとやりすぎじゃないかねえ?」
結絆は呆れたように言ったが、一方通行は床に転がった死体を見下ろしながら嗤った。
「......生かしておいてもロクなことにならねェだろ?」
「まあ、それも一理あるねえ」
「シェフ!皆やられちゃいましたよ!」
「こうなったら私達が出るしかないわね」
小太りな男と、しゃべり方が特徴的な男が、結絆達の前に立ちはだかる。
「君達が料理長と副料理長って感じかなあ?情報は死んだ後でも引っこ抜けるから、さっさと楽になるといいよお」
「相変わらずテメエはエグイ能力をもってやがンなァ」
結絆達が警戒せずに話していると、小太りな男は突如水を体に纏って結絆に突撃してくる。
「水を使うのは悪手なんだよねえ」
結絆はそう言いながら、水の魔術を使って小太りな男が纏っている水を渦潮のようにした。
男は悲鳴を上げながら肉片になる。
「くっ、こうなったら、姫戯のネクターを使うしかないようね」
オカマっぽい話し方をするシェフは、姫戯のネクターを飲み込むと、巨大な怪物に姿を変えた。
「デカくなったから勝てると思ってンのか?救えねェなァ」
一方通行は、憐みの目を向ける。
「黙りなさい!あなた達なんて、一撃で......」
「一撃で、どうするんだい?」
シェフのパンチを、結絆は片手で軽々と受け止める。
「パンチってのはこうやるんだよお」
結絆は跳躍し、呆気に取られているシェフの顔面に拳を叩きこんだのだった。
結絆はシェフ達の死体を横目に見ながら、奥の扉へと目を向けた。
その奥に——彼女はいた。
厨房の隅に、猿ぐつわを咥えさせらながら十字架にはりつけにされた少女がいて、助けを求めているのがわかる。
「姫戯茉離、だねえ?」
結絆はそう言いながら近づき、彼女の拘束を解除する。
ガチャリ——。
拘束が解けると、少女は目を見開いて結絆と一方通行を見る。
「......っ、助けに来てくれたの......?」
「そうだよお、俺達は助けに来たんだよ。大丈夫、もう安全だからねえ」
結絆は優しく微笑み、彼女に手を差し伸べる。
姫戯茉離はしばらく戸惑った後、ゆっくりとその手を取った。
「さて、そろそろここを出るとしようかねえ」
「クソみてェな船だ......こんなモン、さっさとブッ壊しちまった方がいいンじゃねェか?」
一方通行が忌々しげに周囲を見渡しながら言う。
「ま、それはまた後で考えようかねえ」
結絆達は、静かに厨房を後にした。
「......亡本裏蔵(なきもとりぞう)、だったよねえ?」
結絆は、エスコフィエ号の暗い通路の中で一方通行を見つめた。
「統括理事会の一人が関わってるってのは、どこまで本当の話なのかねえ?」
一方通行はため息をつきながら、無造作にポケットに手を突っ込む。
「チッ......確証はねェがな、俺の情報網でもコイツの影がチラついてる。学園都市の研究機関が“ネクター”ってクソみてェなモンを実験してるって話は聞いてたが......まさか直接関与してやがったとはなァ」
「統括理事会の一人が、ねえ......」
結絆は視線を横に流し、静かに寝息を立てる姫戯茉離を見る。
「ネクターは、単なる“調味料”なんかじゃない......脳を強制的にハイにして、戦闘能力や思考能力を向上させるヤバい代物......そして、それを作るために子供を攫って人体実験してるって話は、さすがに笑えないねえ」
「......笑えねェどころか、ブッ殺してェレベルだろォがよォ」
一方通行が舌打ちをしながら言う。
「......まぁ、どっちにしろ、こっから先は後始末の時間ってわけだねえ」
結絆は小さく笑い、拳を握る。
「まずは、他に捕らえられてる子供達を助けてから......この船ごと海に沈めるとしようかねえ」
結絆達はエスコフィエ号の下層部へと足を踏み入れた。
そこには、培養器に入った十数人の子供達がいた。
子供達は意識がなく、結絆は冥土返しの病院に連絡を入れた後に、子供達をそこへ送った。
子供達を冥土返しの病院へ送った後、結絆と一方通行は船を見上げた。
「さて......このクソみてェな船、どうやってブッ壊してやろうか?」
一方通行が悪い笑みを浮かべる。
「簡単な話だよお。俺の持つ水の原典の力を使えばいい」
「はァ......美味しいところを持ってかれそうだなァ。結絆、今度ラーメン奢れよ」
「うまいラーメン屋に連れてってやるから、今回は俺に任せてほしいねえ」
そして、結絆はゆっくりと手を掲げる。
「洪水よ、船を飲み込め!」
瞬間、空気が震えた。
ザァァァァァァァッ!!
まるで海が怒り狂ったかのように、巨大な水流が船を襲う。
「おいおい、やりすぎじゃねェのかァ?」
一方通行が苦笑する中、エスコフィエ号は水の奔流に飲み込まれ、ひしゃげるように沈んでいった。
「......これで、この事件は終わりだねえ」
結絆は静かに呟いた。
結構あっさりですが、一方通行編のメインの話はおしまいです。
次回は、いよいよ結絆が事件の黒幕を粛清する話です。