温泉でゆったりと疲れを癒した後、結絆と帆風は再び火山地帯の岩陰に戻ってきた。
夜の帳が下り、空には無数の星々が瞬いている。
火山の熱が残る岩肌はほんのりと暖かく、夜の冷え込みを和らげていた。
「......今日は色々ありましたね」
帆風がぽつりと呟く。
結絆は横になりながら、穏やかに笑った。
「そうだねえ。体調、もう大丈夫かい?」
「はい。結絆さんのおかげで、もう平気です」
帆風は優しく微笑むと、そっと結絆の隣に身を寄せた。
温泉に入った後の余韻がまだ残っているのか、彼女の肌からほのかに温もりが伝わってくる。
二人はしばらく星空を眺めながら、静かな夜の時間を過ごした。
時折、遠くの火山がごうっと低く唸る音が聞こえるが、それはまるで大地の鼓動のように穏やかだった。
やがて、帆風がためらいがちに口を開いた。
「......結絆さん」
「ん?」
「もう一度......キス、してもらえませんか?」
結絆は驚いたように帆風の方を向いた。
彼女は少し頬を染めながら、結絆のことをじっと見つめる。
「......ほんとに?」
「はい......さっきのキスで、何だかすごく安心したんです。ですから......」
帆風の声は夜の静寂に溶け込むように優しく響いた。
結絆は少し照れながら微笑んだが、彼女の願いを無下にするつもりはなかった。
「......わかったよお」
結絆はそっと帆風の頬に手を添え、彼女の顔を引き寄せる。
そして、ゆっくりと唇を重ねた。
帆風は目を閉じ、結絆の温もりを感じながら、その瞬間を噛みしめるように受け入れた。
長すぎず、しかし短すぎもしない、ちょうどいい時間の後、二人は唇を離した。
「......ありがとうございます、結絆さん。なんだか、とても幸せな気分です。」
「そうだねえ、俺も心が温かくなる感じがするよお」
二人は微笑み合い、再び寄り添いながら横になった。
帆風は安心したように結絆の腕に顔を埋め、そのままゆっくりと眠りについた。
結絆は彼女の寝顔を見ながら、小さく息をついた。
「......おやすみ、帆風」
そう呟くと、結絆もまた、穏やかな眠りへと落ちていった。
火山地帯の夜空には、まるで二人を祝福するかのように、満天の星が輝いていた。
火山地帯の朝は、空に薄く広がる雲が赤く染まり、穏やかでありながらも力強い光景を見せていた。
結絆はそっと帆風の顔を覗き込んだ。
彼女の顔色は昨日よりも明るく、安らかに眠る表情が見えた。
「......結絆さん?」
帆風が目を覚まし、ゆっくりと上体を起こした。
結絆は微笑みながら頷く。
「おはよう、帆風。体調はどうかなあ?」
帆風は一瞬考え込んでから、笑みを浮かべて答えた。
「大丈夫です。もうほとんど良くなりました。」
「そっか、それならよかったあ。」
結絆は安心したように息を吐く。
「じゃあ、今日は頂上まで行ってみよっか。せっかくここまで来たし、何か手がかりがあるかもしれないからねえ。」
「はい。結絆さんとなら、どこまでも行ける気がします。」
二人は火山地帯の頂上を目指し、歩き始めた。
道中、火山岩がむき出しになった急な斜面を慎重に進む。
周囲には蒸気が立ち上り、地面の割れ目から時折炎が吹き出す場所もあった。
「気をつけてねえ。ここの地形はちょっと危なそうだから。」
「はい......っ!」
帆風は足元の岩が崩れかけたのを見て、素早くバランスを取り直した。
「おっと、ナイス対応だねえ。」
結絆は微笑みながら帆風に手を差し伸べ、彼女の手を引いて歩を進める。
だが、そんな穏やかな時間は長く続かなかった。
突如、頭上から鋭い鳴き声が響き渡る。
二人が空を見上げると、炎を纏った巨大な鳥が翼を広げて降下してきた。
「なんだい、こいつは!?」
鳥の体は赤とオレンジの炎に包まれ、眼光は鋭く燃え盛っている。
まるで火山の化身のような存在だった。
「結絆さん、避けましょう!」
帆風が叫ぶが、鳥は二人を狙って急降下し、巨体を利用して攻撃を仕掛けてくる。
結絆は帆風の腕を引き、すんでのところでかわした。
「ちょっと手荒い歓迎だねえ......仕方ない、少し大人しくしてもらおうかあ。」
結絆は目を閉じ、すぐさま水の原典の力を解放する。
手をかざすと、周囲の水蒸気が凝縮され、一瞬で青白い波動が広がった。
「大海の波よ、炎を鎮めよ!」
青い魔法陣が結絆の足元に現れ、そこから大きな水の奔流が巻き起こる。
その水流は一気に炎の鳥へと襲いかかり、その身を包み込んだ。
「ギャアアアッ!」
鳥は悲鳴を上げ、火が徐々に弱まっていく。
やがて、炎は完全に消え、鳥は力なく飛び去っていった。
「ふう、なんとかなったねえ。」
「結絆さん、すごいです......!」
帆風は感嘆の声を漏らしながら、結絆を見つめた。
「いやあ、ちょっと焦ったけどねえ。」
結絆は軽く肩をすくめて笑った。
「よし、それじゃあ改めて頂上を目指そっかあ。」
「はい!」
こうして、結絆と帆風は火山の頂上へと向かって再び歩き出したのだった。
火山の頂上にたどり着いた結絆と帆風は、眼下に広がる壮大な景色に一瞬見とれていた。
だが、その平穏なひとときは突如として破られる。
「結絆さん、あれを......!」
帆風が指さした先、空に渦巻く雲の中に巨大な目がゆっくりと開かれた。
その目は爛々と光を放ち、異様な威圧感を放っている。
やがて雲が形を変え、巨大な怪物へと変貌した。
「なんか、嫌な感じだねえ......」
結絆は直感的に分かった。
この怪物は正気を失っている。
まともな話し合いができる状態ではない。
「気をつけて、来るよ!」
雲の怪物が咆哮し、雷のようなエネルギーを四方へ放った。
結絆はすぐに帆風の腕を引き、二人は素早く回避する。
「まずは動きを封じる!」
結絆は水の原典の魔術を発動し、大量の水を生み出す。
それを瞬時に氷へと変え、怪物の一部を包み込んだ。
だが、雲の怪物は形を自在に変えるため、すぐに氷を破って再び襲いかかってくる。
「帆風、正気を取り戻させるにはどうすれば......?」
「おそらく、あの目を狙えば!」
帆風の推測に頷いた結絆は、素早く魔術を再構築する。
そして、蒸気を利用して高温の水流を作り出し、一直線に怪物の目へと撃ち込んだ。
「これで......!」
高温の水が怪物の目を直撃すると、怪物は苦しげにうめき声を上げた。
その身体が揺らぎ、瘴気が次第に薄れていく。
そして、やがて巨大な目の光が穏やかになり、怪物はゆっくりと地面に降り立った。
「......助けてくれたのか?」
怪物は低く静かな声で呟いた。
その言葉から、先ほどまでの狂気が消えていることが分かる。
「正気に戻ったみたいだねえ。良かったよお」
結絆が安堵の笑みを浮かべると、帆風もほっと息をついた。
「私は......何かに操られていたのかもしれない。お前たちには感謝する」
怪物はそう言い残すと、空へと溶け込むように姿を消していった。
「結絆さん、これって......やっぱり、鏡の国で何かが起きている証拠ですね」
「だねえ。もう少し調べてみる必要がありそうだよお」
結絆と帆風は、改めて火山の頂上から周囲を見渡しながら、この世界に潜む異変の核心へと迫る決意を新たにするのだった。
火山の頂上での激戦を終えた結絆と帆風は、正気を取り戻した巨大な雲の怪物を見上げた。
その一つ目がゆっくりと瞬きし、柔らかな光を放つ。
「改めて、助けてくれて感謝する。」
雲の怪物は深く低い声で言った。
「お礼に、お前たちを次の場所へ運ぼう。」
結絆は帆風と視線を交わし、頷く。
「助かるよお。じゃあ、お願いしようかなあ。」
雲の怪物はその巨大な体を膨らませ、結絆と帆風を包み込むように持ち上げた。
ふわりとした感触とともに、二人は空へと舞い上がる。
下を見れば、火山地帯がゆっくりと遠ざかっていく。
「すごい......!こんな風に空を飛ぶなんて、なんだか夢みたいですね。」
帆風は驚きと興奮を抑えきれない様子で、しっかりと結絆の腕を掴んでいた。
「ふふ、いい景色だねえ。」
風が心地よく吹き抜ける中、結絆の視線がふと空中に漂う光のきらめきを捉えた。
「あれ......?」
よく見ると、そこには小さな鏡の破片が浮かんでいた。
まるで何かに引き寄せられるかのように、ゆっくりと流れている。
「結絆さん、あれ......!」
帆風もすぐに気づき、結絆がそっと手を伸ばす。
指先が破片に触れた瞬間、それは静かに光を放ち、結絆の手のひらに収まった。
「また鏡の破片......。これも異変に関係してるのかなあ。」
結絆は慎重に破片を懐にしまい、再び視線を前に向けた。
遠くに見えてきたのは、重厚な造りの城だった。
「到着だ。」
雲の怪物がゆっくりと下降し、城の前の広場に二人を降ろした。
巨大な石造りの門がそびえ立ち、威圧感すら感じさせる。
「ここが......次の目的地、ですか。」
帆風は少し緊張した様子で城を見上げた。
「どうやらそうみたいだねえ。」
結絆は軽く肩を回しながら、城門へと歩を進める。
その背後で、雲の怪物がゆっくりと浮かび上がり、去っていこうとしていた。
「ここまで送ってくれてありがとうねえ。」
「礼を言うのは私の方だ。また会えるといいな。」
そう言い残し、雲の怪物は遠くの空へと飛び去っていった。
結絆と帆風は改めて城を見上げる。
これまでとはまた違った雰囲気の場所。
ここには一体何が待ち受けているのか。
「行こうかあ。」
「はい、結絆さん。」
二人は並んで、城の中へと足を踏み入れた。
重厚な城の巨大な門をくぐると、結絆と帆風の目の前には荘厳な回廊が広がっていた。
高い天井には豪華なシャンデリアが吊るされ、赤い絨毯が奥へと続いている。
だが、その荘厳な雰囲気とは裏腹に、この城がただの美しい建物ではないことはすぐに明らかになった。
「結絆さん、何か......いるみたいです」
帆風が警戒するように周囲を見回す。
結絆も感じていた。
城内の空気には異様な気配が漂い、まるで二人の侵入を察知した何者かが待ち構えているようだった。
次の瞬間、突如として甲冑をまとった兵士たちが影から現れ、二人の行く手を阻んだ。
剣を構え、無言のまま襲いかかってくる。
「歓迎の挨拶にしちゃあ、手荒だねえ!」
結絆は素早く反応し、接近してきた兵士の一人を蹴り飛ばす。
帆風もまた、持ち前の力で兵士を薙ぎ払う。
だが、倒したと思った兵士たちは、次の瞬間、影のように消え去った。
「......幻影?」
結絆は兵士たちの消えた場所を見つめながらつぶやく。
しかし、それだけでは終わらなかった。
今度は壁に飾られた絵画が歪み、中から巨大な目を持つ怪物が姿を現した。
さらに、床に並ぶ装飾品がひとりでに動き出し、まるで生き物のように二人へと襲いかかる。
「くっ、モンスターまで......!」
帆風は素早く後ろへ飛び退き、結絆と共に体勢を立て直す。
「いいねえ、試練って感じがしてきたよお!」
結絆は楽しげに笑いながら、両手を掲げる。
すると、その掌から青白い光が溢れ出し、波のように押し寄せた。
水の原典の力が解き放たれ、襲いくるモンスターたちを一掃する。
帆風もまた、天衣装着を発動し、俊敏な動きで次々と敵を倒していく。
やがて、最後の敵が消え去ると、城内は再び静寂を取り戻した。
「どうやら、ここの城主は俺たちを歓迎する気はないみたいだねえ」
「ええ、でも......負けるわけにはいきません」
帆風は決意に満ちた表情で頷いた。
二人は慎重に先へと進む。
まだこの城には、彼らを待ち受ける試練があるに違いなかった。
城の奥へと進んでいく結絆と帆風の前に、煌めく鏡の破片が転がっているのが見えた。
破片は淡い光を放ち、まるで手に取るように誘っているかのようだった。
「結絆さん、あれ......」
帆風が破片を指さしながら声を上げた。その瞬間、城内の空気が一変した。
ゴゴゴゴ......。
鈍い振動とともに天井がわずかに揺れる。
そして、破片のすぐそばに、突如として巨大な鎧をまとったガーディアンが現れた。
全長は三メートルほどあり、重厚な金属の塊のような胴体には、足がなく、宙に浮いている。
そして四本の巨大な腕が、それぞれ独立して動いていた。
「侵入者、排除スル......」
機械的な低い声が響く。
「こりゃ、また厄介そうなのが出てきたねぇ」
結絆は苦笑しながらも、すぐに構えを取る。
突然、ガーディアンの腕が勢いよく結絆達へ飛んできた。
「くっ......!」
帆風が素早く後方へ跳び退る。
結絆も同様に身を翻し、攻撃をかわす。
だが、ガーディアンの攻撃は止まらない。
飛ばされた腕が再び胴体に戻ると、次々と異なる角度から襲い掛かってくる。
「コイツ、なかなかタフそうだねえ......!」
結絆は間合いを測りながら水の原典の力を解放し、鋭い水流を放つ。
しかし、ガーディアンの装甲は頑丈で、攻撃が弾かれてしまう。
「これじゃ決定打にはなりませんね......!」
帆風も天衣装着の力を駆使し、素早い動きで反撃するが、ガーディアンは浮遊しながら巧みに攻撃を避ける。
「なら、こっちの手で......!」
結絆は素早く地面を蹴り、ガーディアンの側面へと回り込む。
しかし、それを察知したガーディアンの腕がすぐに反応し、猛スピードで打ち込まれる。
「ちっ......!」
結絆は咄嗟に腕を交差させて防御するも、衝撃で吹き飛ばされ、帆風の近くへと転がる。
「大丈夫ですか、結絆さん!」
「まあ......なんとかねぇ。でも、コイツ、手強いよお......」
結絆は息を整えながら、ガーディアンの動きを改めて観察する。
攻撃を弾かれ、決定打を見つけられず、結絆達は攻めあぐねていた。
「どうしますか......? このままでは、埒があかないかもしれません......」
帆風が真剣な表情で問いかける。
結絆はしばし考え込んだ後、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「突破口は、必ずあるはずだよお......。見極めてみるとしようかねえ!」
次の瞬間、ガーディアンの腕が再び勢いよく飛んできた。
結絆と帆風は、ガーディアンの猛攻に耐えながら、次々と攻撃を繰り出していた。
直接殴りに行ったり、発火能力で鎧を炙り、氷の魔術で動きを鈍らせ、風力使いで体勢を崩そうと試みたが、ガーディアンの装甲は予想以上に頑丈でなかなかダメージを与えられなかった。
「くそ、どれも決定打にならないねえ......!」
結絆は息を整えながらガーディアンの動きを見極める。
すると、その時、帆風が放った雷撃を纏った蹴りがガーディアンの胴体に直撃し、わずかに動きが鈍るのを目撃した。
「帆風、今の攻撃、効いてたよお!」
「本当ですか!? じゃあ......!」
帆風は再び蹴りを放ち、結絆もそれに合わせて電撃で攻撃する。
すると、ガーディアンの装甲に亀裂が入り、内部の魔力回路が露出し始めた。
「これで終わりだよお!」
結絆が最大の雷撃を放つと、ガーディアンの身体が痙攣し、ついに崩れ落ちた。
その場には、倒れたガーディアンの残骸と、光を放つ鏡の破片が残されていた。
「やりましたね、結絆さん!」
「うんうん、やっと突破口が見つかったねえ......さて、この破片も回収しておこうかあ」
結絆は慎重に鏡の破片を拾い上げる。
そして、城の最奥へと進むと、そこにはまた新たな鏡が浮かんでいた。
「これも......ワープするためのもの、かなあ?」
「ええ、たぶん......行きましょう、結絆さん」
二人は手を取り合い、鏡の中へと飛び込んだ。
次の瞬間、結絆と帆風は熱帯の空気を感じた。
目の前に広がるのは青く輝く海、白い砂浜、そして色鮮やかな花々が咲き誇る南国の島だった。
「ここは......すごく綺麗な場所ですね......!」
「うんうん、なんだかのんびりできそうな雰囲気だねえ......」
結絆と帆風はしばらく周囲を見渡しながら、次なる冒険に思いを馳せるのだった。
結絆と帆風のコンビネーションは、かなりのものです。
原作に絡んでこない番外編を書いている時は、矛盾とかを気にしなくていいので気が楽ですね。