食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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今回は、結絆と美琴がディナーに行く話です。


美琴の気持ち

 結絆がレストランに予約を入れた数時間後、結絆と美琴は学園都市でも有数の高級レストランに足を踏み入れていた。

 

「......ほんとに、こんなとこ来ちゃっていいの?」

 

「いいんじゃないかなあ?せっかくのディナーだし、美琴にはいいもの食べてほしいからねえ」

 

結絆はそう言いながら、美琴をエスコートするように席へと導いた。

 

レストランの柔らかな照明が二人の姿を優しく照らし、ロマンチックな雰囲気を醸し出していた。

 

「......うぅ、なんか緊張する......」

 

「美琴、せっかくの食事なんだからリラックスしていいんだよお」

 

「そ、それは分かってるけど......」

 

落ち着かない様子の美琴を見て、結絆はくすっと笑う。

 

そして、メニューを開きながら、美琴に問いかけた。

 

「何か食べたいものはあるかい?俺がオススメを選んでもいいけど」

 

「うっ......そ、それじゃあ任せるね......」

 

こうして、二人の特別なディナーが静かに幕を開けたのだった。

 

 

 

 席についた結絆は、メニューを軽く眺めた後、すぐにウェイターを呼び寄せた。

 

美琴はまだ少し緊張した様子で、姿勢を正しながら結絆の様子を窺う。

 

「シェフのオススメのコースを二人分お願いできるかなあ?」

 

「かしこまりました。シェフ特製のフルコースをご用意いたします」

 

ウェイターが深々と一礼し、すぐに厨房へと向かう。

 

美琴は驚いたように結絆を見つめた。

 

「......なんか、すごい慣れてるわね」

 

「まあねえ。普段からこういう店にも来るし」

 

「ふーん......」

 

美琴は感心したように呟きながらも、どこか落ち着かない様子だった。

 

高級レストランの雰囲気に、まだ完全には馴染めていないのが分かる。

 

「美琴、そんなに緊張しなくていいんじゃない?」

 

「だ、だってこんな高級な店、普段来ないし......」

 

「ふふっ、美琴らしいねえ」

 

結絆が微笑むと、ほどなくしてシェフ自らが料理を運んできた。

 

「お待たせしました。本日は、旬の食材をふんだんに使った特別コースをご用意しました」

 

大きな銀のトレイの上に、美しく盛り付けられた料理が並んでいる。

 

前菜は新鮮なカルパッチョに彩り豊かな野菜のピクルス、スープは濃厚なジャガイモのポタージュだ。

 

「うわあ......見た目からしてすごいおいしそう」

 

「美琴、せっかくだし、ゆっくり味わおうよお」

 

「......う、うん」

 

 美琴は緊張しながらも、フォークを手に取り、カルパッチョを口に運んだ。

 

その瞬間、彼女の表情が一変する。

 

「......美味しい!」

 

「でしょお? ここの料理は本当に絶品なんだよねえ」

 

結絆も満足げに頷きながら、自分の料理を口に運ぶ。

 

美琴は最初こそぎこちなかったものの、食べ進めるうちに徐々にリラックスしていった。

 

「このスープもすごくクリーミーで美味しい......」

 

「美琴が喜んでくれると、俺も嬉しいよお」

 

「......なんか、今日はずっとあんたのペースに乗せられてる気がするわね」

 

美琴が少し頬を膨らませながらも微笑むと、結絆は愉快そうに笑った。

 

「まあまあ、たまには俺に任せて楽しんでくれたらいいんじゃない?」

 

「......ま、そうよねえ」

 

料理が進むにつれ、美琴の緊張もすっかり解け、二人の会話は弾んでいったのだった。

 

 

 

 食事が進むにつれ、美琴はすっかり緊張も解け、リラックスした様子で料理を楽しんでいた。

 

ぶどうジュースの入ったグラスを軽く傾けながら、彼女はふとため息をついた。

 

「......こうやってゆっくり食事するの、久しぶりかも」

 

「ふふ、良かったねえ」

 

結絆は優しく微笑みながら、美琴の表情をじっと見つめた。

 

普段は強気で負けず嫌いな彼女も、今はどこかほっとしたような表情を浮かべている。

 

「......ねえ、結絆」

 

ふいに、美琴の声のトーンが少しだけ変わった。

 

視線を落としながら、彼女はゆっくりと言葉を選ぶように続ける。

 

「......普段、周りの人ってさ、私のことを“レベル5の御坂美琴”として見ることが多いのよね」

 

結絆は黙って美琴の言葉を待つ。

 

彼女は手元のフォークをくるくると回しながら、少しだけ口元を歪めた。

 

「確かに、レベル5っていう肩書きのおかげで便利なことも多いわ。でも、そのせいで私自身を見てくれる人って、意外と少ないのよね。みんな“レベル5の御坂美琴”に期待するばかりで、私が何を考えてるかなんて、あまり気にしないっていうか......」

 

「......わかるよお、それ」

 

結絆は静かに頷いた。

 

彼もまた、レベル5という括りとして扱われることの多い存在だ。

 

周囲からの期待や先入観、時には勝手な決めつけに晒されることも少なくない。

 

「俺も、結構似たようなもんだよお。統括理事会の一員だとか、マジックシアターのトップだとか、色々な肩書きで見られることが多いけど......俺自身をちゃんと見てくれる人って、そんなに多くないんだよねえ」

 

「......そっか、やっぱり結絆もそういうの、あるんだ」

 

美琴は少し驚いたような顔をした後、苦笑する。

 

「......なんかさ、そういうのに慣れちゃった自分がいるのも嫌になる時があるのよね。期待されるのが当然みたいになっちゃってて、気を抜くのが怖いっていうか......」

 

「うんうん、それもすっごくわかるよお」

 

結絆は優しく微笑みながら、美琴の肩の力を抜くように語りかける。

 

「そうだねえ、美琴。それって、ちゃんと周りが美琴を信頼してるからだと思うよお。皆、無意識に美琴に頼ってる。......でもね、美琴だって、誰かに頼っていいんじゃないかい?」

 

「......頼る、かあ」

 

美琴は小さく呟く。

 

「俺は、美琴のことを“超電磁砲”とか“レベル5”とかじゃなくて、一人の女の子として見てるつもりだよお」

 

「......っ!」

 

美琴の顔が、ふっと赤く染まる。

 

「だからさ、今くらいは肩の力を抜いて、好きなだけ甘えていいんじゃない?」

 

「......べ、別に甘えるとか、そんなんじゃ......」

 

美琴はそっぽを向くが、その表情はどこか安心したように見えた。

 

結絆はそんな彼女を見て、ふわりと微笑む。

 

「ま、これからも、俺がちゃんと美琴の話、聞いてあげるからねえ」

 

「......うん、ありがと」

 

美琴は小さく微笑みながら、静かにグラスを傾けた。

 

その瞳には、どこか晴れやかな光が宿っていた。

 

 

 

 食事も終盤に差し掛かった頃、結絆はシェフに視線を送った。

 

シェフは微笑みながら頷き、奥の厨房へと消えていく。

 

「......? 何か頼んでたの?」

 

美琴が不思議そうに結絆を見ると、彼はニヤリと笑う。

 

「ふふ、まあまあ、楽しみにしててねえ」

 

しばらくすると、店の奥からシェフが戻ってきた。

 

彼の手には、丸い銀のトレイが乗せられている。その上に置かれているのは......

 

「えっ......!!?」

 

美琴の目が驚きに見開かれた。

 

そこにあったのは、見事なまでにゲコ太の姿を模した可愛らしいケーキだった。

 

「うわっ......すごい!これ、全部食べられるの!?」

 

「もちろんだよお。特注で作ってもらったんだあ」

 

美琴は目を輝かせながら、ケーキをじっくりと観察する。

 

ゲコ太の大きな目や、ぽってりとした丸いフォルムが絶妙に再現されている。

 

まるで本物のゲコ太がそこにいるかのようだった。

 

「すごい......! これ、食べるのがもったいないくらい可愛い......!」

 

美琴は感動したように呟くが、その後、はたと手を止める。

 

「......でも、これ食べちゃったら、ゲコ太が崩れちゃうんだよね......」

 

「うんうん、悩むところだねえ」

 

結絆は美琴の様子を面白そうに見守る。

 

美琴はナイフとフォークを手に取り、どうしたものかとしばらく悩んでいたが、意を決したように頷いた。

 

「......ごめんね、ゲコ太。いただきます!」

 

そっとナイフを入れると、しっとりとしたスポンジが顔をのぞかせた。

 

チョコレートクリームの甘い香りがふんわりと漂い、美琴の食欲をそそる。

 

「......うんっ、おいしい!」

 

ひとくち食べると、その美味しさに思わず顔が綻ぶ。

 

「良かったねえ。特別な日のデザートにはぴったりでしょお?」

 

「うん......ありがとう、結絆!」

 

美琴は満面の笑みを浮かべ、またひとくち、そしてもうひとくちとケーキを味わった。

 

その姿を見て、結絆も満足そうに微笑む。

 

「ふふ、そんなに喜んでもらえると、俺も嬉しいよお」

 

こうして、美琴はゲコ太ケーキを最後まで楽しみながら、甘い余韻に浸るのだった。

 

 

 

 レストランを出て、夜の涼しい風が二人を包む。

 

美琴は、心臓の鼓動を抑えられないまま、結絆の隣を歩いていた。

 

「......ねえ、結絆」

 

美琴が立ち止まる。結絆もそれに気づき、優しく微笑みながら振り返った。

 

「どうしたんだい、美琴?」

 

美琴は一度深呼吸をして、結絆の瞳を真っ直ぐに見つめた。

 

「......私、結絆のことが好き」

 

一瞬の静寂

 

夜の街の喧騒が遠く感じる。

 

「こうやって一緒にいて、結絆と話してると楽しくて......でも、それだけじゃないの。もっと......もっと近くにいたいって思う。だから......私と付き合ってほしい」

 

美琴の声は震えていたが、それ以上に真剣だった。

 

結絆はそんな彼女をじっと見つめ、穏やかに息をついた。

 

「......美琴、ありがとう。そう言ってもらえるのは、すごく嬉しいよお」

 

そう前置きした上で、結絆は少し申し訳なさそうに言葉を続けた。

 

「でもねえ......俺には、もう付き合ってる人がいるんだあ。それも、ひとりじゃなくてねえ」

 

美琴は、その言葉が出ることを、心のどこかで予想していた。

 

それでも、胸がきゅっと締め付けられる。

 

「......うん、知ってる。噂とか、聞いたことあるし......」

 

美琴は目を伏せながらも、静かに続ける。

 

「......それでも、私は結絆が好き。こんな気持ち、どうしようもないの。だから......私のことも、見てほしい」

 

結絆は、美琴の揺れる瞳を見つめた。

 

そこにあるのは、本物の想いだった。

 

「......そっかあ」

 

結絆は目を細め、少しだけ沈黙した。

 

そして、ふっと笑う。

 

「美琴は、自分の気持ちに本当に素直だねえ。......そういうところ、嫌いじゃないよお」

 

そう言うと、結絆は優しく美琴の髪を撫でた。

 

「俺でよければ、美琴のこともちゃんと大切にするよお」

 

その言葉に、美琴の目が大きく見開かれる。

 

「......本当に?」

 

「もちろん。美琴がそれでもいいって言うならねえ」

 

美琴の頬がじわりと赤く染まる。

 

「......ありがと」

 

小さく呟いたその声は、夜風にそっと溶けていった。

 

 

 

 常盤台中学の寮の部屋に戻ると、黒子は美琴を出迎えた。

 

美琴はどこか上機嫌で、足取りも軽い。

 

「お帰りなさいませ、お姉様。随分とご機嫌のようですのね?」

 

黒子がじっと美琴を見つめる。

 

美琴は「え?」と一瞬驚いたが、すぐに照れ臭そうに頬をかいた。

 

「......まあね。ちょっといいことがあったんだ」

 

「いいこと? 何かありましたの?」

 

黒子が首を傾げると、美琴は少し躊躇いながらも、意を決したように口を開いた。

 

「実はね......私、結絆と付き合うことになったんだ」

 

瞬間、黒子の表情が固まった。

 

「......はい?」

 

今の言葉が信じられないとでも言うように、黒子は瞬きを繰り返す。

 

「お、お姉様......今、何とおっしゃいましたの?」

 

「だから......結絆と付き合うことになったって言ったの」

 

美琴は少し照れくさそうに言いながらも、どこか幸せそうな表情を浮かべている。

 

黒子はその顔を見て、胸の奥がズキリと痛むのを感じた。

 

美琴が結絆と親しくしているのは知っていた。

 

だが、まさか本当に付き合うことになるとは思っていなかった。

 

胸の内で様々な感情が渦巻く。

 

「......お、お姉様......本気で言ってますの?」

 

「本気よ。私から告白して、結絆が受け入れてくれたのよ」

 

美琴が幸せそうに微笑む。

 

その笑顔が、黒子の心を更にざわつかせた。

 

お姉様を取られた......。そんな嫉妬心がふつふつと湧き上がる。

 

だが、それと同時に胸の奥に別の感情も生まれていた。

 

(私......結絆さんに対して......?)

 

黒子は目を伏せ、唇を噛んだ。

 

お姉様を取られたことへの悔しさと、結絆への複雑な感情が交錯する。

 

「......黒子?」

 

美琴が心配そうに顔を覗き込む。その視線に、黒子は慌てて笑顔を作った。

 

「そ、そうですの......お姉様が幸せなら、それが一番大事ですわ......」

 

何とか言葉を絞り出すが、自分でもその声が震えているのが分かった。

 

「黒子......」

 

「お姉様、結絆さんとは......幸せになってくださいまし」

 

そう言いながらも、黒子の胸の奥はざわついたままだった。

 

美琴は黒子の様子をじっと見つめた。

 

先ほどから表情が曇っているのが気になっていた。

 

「黒子、あんたさ......結絆のこと、好きなんじゃない?」

 

その言葉に、黒子の肩がピクリと震えた。

 

「な、何を言ってますの、お姉様? 私はただ、お姉様を取られたのが少し寂しかっただけで——」

 

「違うわよね。黒子は今まで私に執着してたけど、それって本当に恋愛感情だったの?」

 

「えっ......」

 

黒子は絶句した。

 

これまで自分が美琴に向けてきた想いが、本当に恋愛感情だったのか。

 

結絆のことを考えた時の気持ちと比べると、微妙な違いがあることに気付き始める。

 

美琴は優しく微笑みながら続けた。

 

「結絆ってさ、からかってくることも多いけど、ちゃんと相手を大事にしてくれるわよ。私も告白した時、不安だったけど、受け入れてくれて......すごく嬉しかった。黒子も、本当はあいつのこと、そういう風に見てるんじゃない?」

 

黒子は視線を逸らし、ぎゅっと拳を握った。

 

「......そんなこと、私には......」

 

「黒子、あんた強いじゃん。私がいつも無茶言っても支えてくれたし、結絆相手でも、自分の気持ちくらい伝えられるでしょ?」

 

「で、ですが......」

 

「黒子が本気なら、結絆だってちゃんと向き合ってくれるはず。黒子のこと、軽く扱うようなやつじゃないわよ」

 

美琴の言葉は真剣だった。

 

黒子の胸の奥に、少しずつ勇気が灯る。

 

「......本当に、私が......」

 

「早くしないと、他の子に先越されちゃうかもよ?」

 

美琴が冗談めかして言うと、黒子は驚いたように顔を上げた。

 

「それは困りますの......」

 

思わず口にした言葉に、自分自身で驚く。

 

確かに、結絆が手の届かない存在になるのは、耐えられない気がした。

 

黒子は一度深呼吸をし、決意を固めるように頷いた。

 

「......お姉様、私......結絆さんに気持ちを伝えますわ」

 

その表情には、迷いはなかった。




結絆が美琴とも付き合うことになりました。

美琴は、キャラとして動かしやすいのでいいですよね。
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