食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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黒子が再び結絆に組み手を申し出る話です。


黒子の日常

 白井黒子は、深く息を吸い込み、そして静かに吐き出した。

 

目の前に立つのは、食蜂結絆――学園都市でも指折りの実力者であり、己の実力を遥かに凌駕する存在。

 

その立ち居振る舞いには隙がなく、まるで一本の鋼のように揺るぎない。

 

黒子は無意識のうちに拳を握りしめた。

 

「......もう一度、お願いできますの?」

 

彼の強さを目の当たりにしたのは、つい最近のこと。

 

結絆との組手で、黒子は一切の攻撃を通すことができず、まるで幼子が大人に挑むかのように完敗した。

 

だが、それでも諦めるわけにはいかない。

 

結絆は軽く微笑むと、ゆっくりと手を上げた。

 

「いいよお。でも、前と同じじゃ面白くないよねえ。今回は黒子の好きにしていいよお」

 

その言葉に、黒子はわずかに目を細めた。

 

(舐められていますの......?)

 

いや、違う。

 

彼は本気だ。

 

だからこそ、好きにしていいと言ったのだ。

 

ならば!

 

「では、遠慮なくいかせていただきますの!」

 

黒子は空間移動を発動し、一気に間合いを詰める。

 

狙うは側面。

 

結絆の視界から外れる形で拳を打ち込む。

 

しかし、

 

「ふふっ」

 

まるで最初から読まれていたかのように、結絆は軽やかに身をかわした。

 

その動きは無駄がなく、まるで水の流れのようにしなやかだった。

 

(これくらい、想定内ですの!)

 

黒子は空間移動を繰り返しながら、あらゆる角度から攻撃を仕掛ける。

 

右、左、上、後ろ――

 

だが、どれだけ角度を変えようとも、結絆はすべてを見切るように躱し続ける。

 

「うん、いい動きだねえ。でも......」

 

次の瞬間、結絆が軽く足を踏み出した。

 

その瞬間、黒子の体が固まる。

 

気圧されている。

 

視線を合わせた瞬間、まるで自身が巨大な生き物の前に立たされたような感覚に陥る。

 

結絆の動きはまるで格の違いを示すように、彼女の攻撃を完全に制圧していた。

 

「......っ、まだですの!」

 

黒子は意地でも食らいつく。

 

足技を織り交ぜながら、空中からの攻撃も試みるが、それでも届かない。

 

逆に、結絆は一歩も動かず、ただ手だけで攻撃を受け流していた。

 

やがて、黒子は息を切らし、その場に膝をついた。

 

「......完敗、ですの」

 

何が違うのか、そして、何がここまでの差を生んでいるのか。

 

黒子は息を整えながら、素直に問いを投げかけた。

 

「結絆さん、どうして、そこまで強くなれましたの?」

 

結絆はしばし沈黙した後、ふっと笑った。

 

「んー......そうだねえ」

 

彼の視線は遠く、何かを懐かしむように宙を泳ぐ。

 

「俺にはね、守りたい仲間がいるんだよお。どんな敵が来ても、どんな理不尽が襲ってきても、もう二度と仲間を失わないために、俺は強くならなきゃいけなかったんだよお」

 

黒子は驚いたように目を見開いた。

 

結絆は強者としての誇りではなく、ただ「守るため」にここまでの実力を培ったのだ。

 

「......だからこそ、貴方は揺るがないのですのね」

 

「そういうことかなあ。黒子も、大事な人を守りたいっていう思いを持っていれば、もっと強くなれると思うよお」

 

その言葉に、黒子は何かを悟るように瞳を伏せた。

 

(わたくしが、本当に強くなりたい理由......)

 

それは、御坂美琴の帰る場所を守るため。

 

だが、今のままでは到底届かない。

 

もっともっと強くならなければ。

 

黒子は震える膝を押さえつけ、静かに立ち上がった。

 

「何か掴めた気がしますわ、結絆さん」

 

「うんうん、それなら付き合った甲斐があるねえ」

 

結絆は微笑みながら、黒子の姿を見送る。

 

その背中には、次なる決意を秘めた光が宿っていた。

 

 

 

 午後のカフェテラス。

 

黒子は、目の前に並べられたケーキを眺めながら、満足げに頬を緩めた。

 

「やはり、美味しそうですの!」

 

隣では美琴が、かわいらしい小動物が描かれたケーキを前に、フォークを手にしていた。

 

だが、手をつける前に、ちらりと周囲を見回している。

 

「......誰も見てないわよね?」

 

「誰も見てませんの。さあ、遠慮なく召し上がってくださいな」

 

「う、うるさい!」

 

美琴は頬を膨らませながら、フォークでケーキをすくい、一口食べる。

 

ふわりと甘酸っぱい香りが鼻をくすぐり、口の中でスポンジとクリームが溶けるように広がった。

 

「うん、やっぱりここのケーキは美味しいわね」

 

「ですわね」

 

二人はしばらくケーキを楽しんでいたが、黒子はふと別の話題を思い浮かべた。

 

結絆との組手のこと、そして彼の強さや、その根源について。

 

(結絆さんの強さの理由......それは、守りたい人がいるから、でしたわね)

 

その言葉を思い出すと、自然と、ある疑問が浮かぶ。

 

「そういえば......お姉様?」

 

「ん?」

 

「お姉様は、結絆さんのことをどう思ってますの?」

 

その瞬間。

 

「ぶふっ!」

 

美琴は飲んでいた紅茶を吹き出しそうになり、慌ててナプキンを手に取った。

 

「ちょ、ちょっと黒子! いきなり何言ってんのよ!」

 

「いえ、特に深い意味はありませんのよ? ただ、気になりまして」

 

「気にする必要ないでしょ!」

 

美琴は顔を真っ赤にしながら、慌てた様子でフォークを持ち直す。

 

しかし、その手元は微かに震えていた。

 

(まさか......こ、この反応......怪しいですの!)

 

黒子はニヤリと笑い、さらに踏み込む。

 

「そんなに動揺するということは、何か特別な感情をお持ちなのではなくて?」

 

「そ、そんなわけないでしょ! ただ、ほら、あいつは......なんていうか、その......」

 

美琴は視線を泳がせながら、言葉を探しているようだった。

 

「......ほら、結絆って、なんか妙に世話焼きというか、距離感が近いというか......それがちょっとムカつくっていうか......!」

 

「まあ、確かに結絆さんは親しみやすい方ですわねえ。でも、それだけですの?」

 

「そ、そうよ!ただの知り合いよ!」

 

美琴は何度も首を振りながら、全力で否定する。

 

しかし、その顔はますます赤くなり、焦りの色が隠せていない。

 

(これは......ますます怪しいですの)

 

黒子は腕を組みながら、じっと美琴を見つめた。

 

「お姉様、本当にそれだけですの?」

 

「確かに、あいつにはいつも助けてもらってるけど、本当にそれだけ!」

 

「好き、だったりはしませんの?」

 

「なっ、そんなわけないでしょ!!!」

 

美琴は勢いよく叫び、テーブルをバンッと叩いた。

 

周囲の客たちが一斉にこちらを振り向く。

 

美琴はそれに気づき、顔を覆うようにして小さくなった。

 

「......だから、そういう話は外でしないでってば......」

 

「ふふっ、失礼しましたわ」

 

黒子はくすくすと笑いながら、美琴の様子を観察する。

 

やはり、どこか挙動不審だ。

 

(これはもう、確定ですの......お姉様、絶対に結絆さんのことを意識してますのね)

 

だが、ここでこれ以上追及すると、美琴の機嫌が本格的に悪くなりそうだ。

 

黒子はほどほどのところで話を切り上げ、残りのケーキを口に運んだ。

 

「それにしても、美味しいですわねえ」

 

「......もう、黒子のせいで味がわかんなくなっちゃったじゃない......」

 

美琴は不満げに言いながらも、少しだけ残ったケーキをフォークですくい、口に運んだ。

 

(結絆さん......お姉様を誑し込んでしまうとは、やはり、すごいお方ですわね)

 

黒子は美琴の横顔を見ながら、そんなことを考えていた。

 

 

 

 黒子は、広々とした能力検査場の中央に立っていた。

 

学園都市において、年に何度か行われる『システムスキャン』。

 

この検査は、生徒の能力レベルや特性を数値化し、適切な評価を与えるためのものである。

 

黒子にとっては、自身の成長を確かめる絶好の機会だ。

 

(今回は、どこまで伸びているのでしょうね......?)

 

そう思いながら、黒子は静かに深呼吸をした。

 

「では、白井さん。準備ができたら、開始してください」

 

試験官の指示に従い、黒子は足元のマークに立つ。

 

能力検査は複数の項目に分かれており、主に空間移動の『重量』『距離』『正確性』が測定される。

 

(結絆さんから教わったことを思い出して......)

 

彼との組手で学んだのは、単なる能力の使用ではなく、それをどう最大限に活かすかということだった。

 

黒子は自然と口元に微笑みを浮かべる。

 

「始めてください!」

 

瞬間、目の前に標的が出現した。

 

黒子は一切の迷いなく、空間移動(テレポート)を発動。

 

指先で触れた金属製の物体が、一瞬で別の座標へと移動する。

 

正確無比な座標指定。

 

次々と標的を瞬時に転移させていく。

 

(速さだけではなく......一つ一つ、確実にやっていきますの!)

 

試験官たちが画面に表示される数値を見つめる中、黒子はさらなる課題に挑んだ。

 

次は『移動対象の複数化』。

 

「ふっ......!」

 

黒子は右手と左手で別々の標的を触れ、それらを異なる場所に連続して同時転移させる。

 

以前の黒子は、連続で空間移動を行う際に1秒弱のタイムラグが生じていた。

 

しかし、黒子は結絆のアドバイスを活かし、タイムラグを減らすことに成功したのである。

 

試験官たちが驚きの表情を浮かべる。

 

「驚異的な処理速度ですね......」

 

「白井さんの能力、以前よりも向上しています」

 

だが、黒子はまだ終わらない。

 

(ここからが本番ですの!)

 

最後は、以前自身が転移することができなかった重量の物体の転移。

 

空間移動は、重量が重くなればなるほど転移させることが難しくなる。

 

しかし、黒子は自らの手に触れた物体を、空間移動で投げるように飛ばした。

 

空間の座標を意識し、対象物の運動エネルギーを加味して転移させる。

 

これも結絆との訓練の成果だった。

 

「......試験終了です!」

 

場内が静まり返る。

 

試験官がデータを確認し、驚きの声を上げた。

 

「これは......」

 

「白井さん、能力測定スコア、自己最高記録を更新してます!」

 

瞬間、黒子の胸に達成感が広がった。

 

(やりましたの......!)

 

試験官から結果を受け取ると、黒子は静かにそれを見つめる。

 

(結絆さんのアドバイスのおかげ......やはり、あの方の助言は的確ですの)

 

黒子は試験場を後にしながら、遠くを見つめる。

 

(でも、これで満足するわけにはいきませんのよ)

 

今よりもさらに上へ――結絆のように、どんな攻撃も受け止め、仲間を守ることができる強さを手に入れるために。

 

黒子は静かに決意を新たにした。

 

 

 

 白井黒子は、風紀委員(ジャッジメント)の支部で書類整理をしていた。

 

日々の巡回や報告書作成には慣れているものの、やはり実際の事件対応が一番性に合っている。

 

「白井さん、大変です!」

 

突然、支部の奥から初春飾利の声が響いた。

 

黒子は顔を上げ、彼女のもとへ向かう。

 

「初春、一体どうしましたの?」

 

初春はモニターに映る複数のカメラ映像を指しながら、焦った様子で説明を始めた。

 

「駅前で強盗が発生しました!それも、監視カメラに細工をしていて、場所の特定に時間がかかっちゃったんです......」

 

「カメラに細工? なかなか手慣れた犯人のようですわね」

 

黒子は腕を組みながら考える。

 

通常、学園都市の監視システムは高度であり、犯罪が発生してもすぐに特定できる。

 

しかし、それを回避する手段を講じているということは、計画的な犯行の可能性が高い。

 

「ええ......でも、なんとか犯人の位置を割り出しました! 今、駅前の商業ビルの裏通りに逃げ込んでいます」

 

「さすが初春。では、私が向かいますの!」

 

黒子は迷うことなく立ち上がり、支部を飛び出した。

 

 

 

 初春の案内を受けながら、黒子は携帯端末に送られた地図データを確認する。

 

「現在地から南東の路地を抜けた先です! そこにある倉庫街の近くで足を止めたみたいです!」

 

「ふむ......何か理由がありそうですわね」

 

黒子は考えながらも、足を止めることはなかった。

 

目的地へ一直線に向かいながら、頭の中で最適な対応策を練る。

 

(まずは犯人の確認、次に状況把握......必要ならば即制圧ですの!)

 

ビルの間を駆け抜け、目的地まであと少し。

 

黒子は目を鋭く光らせながら、風紀委員としての使命を果たすべく、全速力で駆けていった。




原作八巻っぽいストーリーになっていますが、原作と違い、絶対能力進化計画が行われていないことと樹形図の設計者が無事であることにより、話の流れを変えて書いていくつもりです。
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