食蜂操祈のお兄様   作:とんこつスープ

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今回も、前回の続きとなっています。


分身の魔術、その3

 校舎裏のベンチで、結絆、黒子、美琴の三人が談笑していた。

 

美琴は先ほど作られた自分そっくりの分身体をちらりと見て、まだ違和感が拭えない様子だった。

 

「しかしまあ、何度見てもすごいですの。まるで本物のお姉様みたいですわ」

 

「でしょお? せっかくだから、もうちょっと遊んでみようかあ」

 

結絆が不敵な笑みを浮かべると、美琴そっくりの分身体が一歩前に出た。

 

「えっと......いつもありがとね。あんたには助けられてばっかりで......その......感謝してるわ」

 

「......は?」

 

美琴の顔が一瞬で赤くなる。

 

黒子は驚き、次の瞬間に口元を押さえて笑い始めた。

 

「ちょっ、何言わせてんのよ!?///」

 

美琴は結絆を指差して抗議するが、結絆は肩をすくめてとぼけてみせる。

 

「ええー?俺が考えたんじゃなくて、美琴が俺の分身体に向かって言ってたことをそのまま言わせただけだよお?」

 

「そ、そんなこと言った覚えない!!」

 

「ふふ、では次のセリフいってみよーう」

 

結絆が合図をすると、美琴そっくりの分身体が再び口を開く。

 

「今日は......一緒に寝てくれない?」

 

「なっ......!?!?///」

 

美琴の顔が一瞬で真っ赤になり、耳まで染まる。

 

「お、お前ぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

美琴は結絆に飛びかかろうとするが、黒子がその前に美琴の肩をぽんぽんと叩いた。

 

「お姉様、あの時はとてもデレデレでしたねぇ」

 

「ちが......!あれはっ......!」

 

言い訳しようとするが、うまく言葉が出てこない。

 

黒子は満足げに頷く。

 

「まあまあ、お姉様。そんなに照れなくても、あの時のデレデレっぷりは、私の記憶にしっかりと刻まれていますから」

 

「黒子ぉぉぉぉ!!!」

 

美琴が怒りの形相で黒子に迫るが、その間にも結絆は楽しげに笑っていた。

 

「いやあ、デレてる美琴が見れてよかったよお。まさかこんな可愛いセリフを言うとはねえ」

 

「うわぁぁぁぁ!もうやめろぉぉぉ!!///」

 

顔を真っ赤にした美琴の叫びが、校舎裏に響き渡った。

 

美琴はベンチに座ったまま、頬を膨らませて結絆から視線をそらしていた。

 

「......もう、最低......」

 

からかわれたことがよほど恥ずかしかったのか、美琴は完全に拗ねてしまっていた。

 

黒子はそんな美琴の様子を見てクスクスと笑っていたが、結絆は少し困ったような表情を浮かべながら、隣に腰を下ろす。

 

「美琴、そんなに怒らないでよお。悪かったねえ、ちょっとやりすぎたかも」

 

「......ちょっとどころじゃないわよ......」

 

美琴はぼそっと呟くが、その表情はまだ赤みを帯びていて、怒りというよりは恥ずかしさが勝っているようだった。

 

「でもさあ、それだけ美琴のこと、好きだからやっちゃったんだよお」

 

「......っ!」

 

美琴の肩がぴくりと震える。

 

結絆は微笑みながら、美琴の頬にそっと手を添えた。

 

「ほんとに、大好きだからさあ。からかったりもするけど、ちゃんと気持ちは伝えたかったんだよねえ」

 

そう言って、結絆は美琴の顔をゆっくりと引き寄せる。

 

そして、唇を優しく重ねた。

 

「......ん......///」

 

美琴は驚きながらも、拒むことなく結絆のキスを受け入れた。

 

数秒間、二人の間に甘い空気が漂う。

 

「......」

 

黒子はそんな二人の姿をじっと見つめていた。

 

そして、結絆が美琴から唇を離した瞬間、黒子は不満げに唇を尖らせた。

 

「......結絆さん、私にもキスしてほしいですの」

 

「黒子は、そんなに俺とキスしたかったのかい?」

 

「そうですわよ!こうなったら私にも愛を示してもらいますわ!」

 

黒子は勢いよく結絆の方に向き直ると、そのまま結絆の襟元を掴み、自ら唇を奪った。

 

「んっ......」

 

結絆は驚きつつも、黒子の意外な行動に少しだけ笑みを浮かべた。

 

美琴はその様子を見て、すぐに顔を真っ赤にしながら黒子を睨みつける。

 

「ちょ、黒子!?何してんのよ!!」

 

「お姉様ばかりずるいですわ!私も結絆さんに愛される権利がございますの!」

 

「な、何言って......!」

 

美琴は言葉に詰まりながらも、結絆をじとっと睨む。

 

「......結絆、後で覚えてなさいよ......」

 

「はは、怖いなあ。でも、二人とも可愛かったよお?」

 

「~~~っ!!///」

 

美琴はさらに顔を赤らめながら、ベンチの端に顔を背けた。

 

黒子は満足げに微笑み、結絆はそんな二人の反応を楽しむように微笑んでいた。

 

 

 

 美琴の頬はまだわずかに膨らんでいた。

 

先ほどのやり取りでからかわれたことを思い出しているのだろう。

 

結絆はそんな彼女を見つめ、何か機嫌を直す手立てはないかと考えた。

 

「美琴、ちょっとこっち見ててよ」

 

そう言うと、彼はゆっくりと手を掲げた。

 

そして、その場に水の粒子が集まり始める。

 

次の瞬間、ぷるんとした弾力のある緑色の物体が形成され、やがて見覚えのある丸い目と大きな口が浮かび上がった。

 

「げ、ゲコ太!?」

 

美琴の目がぱっと輝く。

 

だが、それだけでは終わらなかった。

 

結絆はさらに手を動かし、次々と同じ形の分身体を生み出していく。

 

最終的に、五体のゲコ太が周囲に並び、美琴を囲むように跳ね回り始めた。

 

「うわっ、なにこれ! すごい!」

 

美琴は驚きと喜びの入り混じった声を上げながら、目の前のゲコ太たちをまじまじと見つめる。

 

彼女は慎重に一歩踏み出し、そっと手を伸ばしてみた。

 

すると、ゲコ太の一体がふるふると揺れながら美琴の手のひらに乗る。

 

「......やわらかい」

 

驚いたように呟く美琴。

 

ゲコ太の形をした分身体はぷにぷにとした感触で、触れると少しだけ水のように揺れる。

 

結絆は得意げに笑いながら、さらにゲコ太たちを動かした。

 

「こいつら、ちゃんと動くよお?」

 

そう言うと、ゲコ太の分身体たちは一斉にピョンピョンと跳ね始める。

 

あるものはくるりと回転し、またあるものは地面を転がりながら美琴の足元にまとわりつく。

 

まるで生きているかのように、自由自在に動くそれらを見て、美琴の表情は完全に緩んでいた。

 

「ふふっ、可愛い......」

 

彼女はしゃがみこみ、ゲコ太の一体を抱きしめるようにして頬ずりする。

 

黒子が驚いた顔でそれを眺めていた。

 

「お、お姉様があんなにデレデレと......!」

 

「美琴がゲコ太好きなの、知ってたからねえ」

 

結絆は肩をすくめながら言った。

 

すると、美琴がふと顔を上げた。

 

「ねえ、この子達って、何か喋ったりは......」

 

「できるよ」

 

結絆は軽く指を鳴らした。

 

すると、ゲコ太の分身体の一体が口を開き、少し機械的な声で言った。

 

『ぼ、僕はゲコ太!みんなの人気者だよ!』

 

「う、うそ......!ほんとに喋った!」

 

美琴は驚愕したようにゲコ太を見つめ、その後、堪えきれずに笑い出した。

 

「ははっ、なにこれ、面白すぎる!」

 

結絆は満足げに美琴の様子を見守る。

 

先ほどまでの拗ねた表情はもうどこにもない。

 

彼女は完全に楽しんでいた。

 

「やっぱり、これ作って正解だったねえ」

 

結絆の言葉に、美琴は満面の笑みを浮かべた。

 

「うん、すっごく楽しい!」

 

黒子はその様子を見ながら、「お姉様、随分と単純ですのね......」と呟いたが、結絆は苦笑しながらも美琴の笑顔を眺め続けていた。

 

美琴は目の前にいるゲコ太の分身体をじっと見つめていた。

 

ふわふわとした動き、愛くるしい顔つき、そして何よりもゲコ太そのものの姿形。

 

結絆が作ったこの分身体は、まさに彼女の理想を具現化した存在だった。

 

「ねえ、結絆」

 

美琴はそっと結絆の袖を引っ張り、上目遣いで彼を見る。

 

「このゲコ太......持って帰ってもいい?」

 

その言葉に、結絆は少し驚いた表情を見せるが、すぐにくすっと笑った。

 

「いいよお。美琴がそんなに気に入ったんなら、持って帰っても全然構わないよお」

 

美琴の顔がぱっと明るくなった。

 

「やった!ありがとう、結絆!」

 

彼女はさっそくゲコ太の分身体を抱きしめる。

 

ゲコ太の姿をしているとはいえ、結絆の能力で作られた分身体なのだから、適度な弾力があり、ひんやりとした水の感触もある。

 

それでも美琴にとっては何の問題もなかった。

 

「ふふ、今日からこの子は私の新しい相棒ね」

 

美琴は上機嫌でゲコ太の分身体を撫でたり、持ち上げたりしていた。

 

それを見ていた黒子は若干呆れた表情を浮かべる。

 

「お姉様......それほどまでにゲコ太がお好きでしたの?」

 

「うるさいわね、いいでしょ別に!」

 

美琴は黒子の言葉を軽く流しつつ、ゲコ太分身体を抱えたままニコニコしていた。

 

その姿を見て、結絆は心の中で小さく笑う。

 

(美琴、完全に忘れてるねえ。この分身体からの情報、俺にフィードバックされるってこと)

 

彼の作る分身体は、基本的に本体と情報共有が可能だ。

 

つまり、このゲコ太の分身体を通じて、美琴が何をしているのか、何を話しているのか、結絆はすべて把握することができる。

 

だが、それを美琴にわざわざ言う必要はない。

 

(ま、しばらく黙っておこうかなあ。美琴がどんな風にゲコ太と過ごすのか、ちょっと楽しみだからねえ)

 

結絆は美琴の無邪気な笑顔を眺めながら、心の中で密かに面白がっていた。

 

 

 

 美琴は自室のベッドの上で、抱きしめているゲコ太の分身体を撫でながら、満足そうに目を細めた。

 

「やっぱり、ゲコ太は最高ね......」

 

ぬいぐるみと変わらない柔らかさながら、微かに水の流れを感じさせる感触、この手触りは心地よかった。

 

ベッドの端でそんな美琴の様子を見ていた黒子は、少し呆れたような顔をしながら言った。

 

「お姉様、ご満悦のようですが......よくお考えになってくださいまし。ゲコ太の分身体を持ち帰るのはよろしいとして、それは結絆さんの分身体なのですよ?」

 

「んー?」

 

「つまり、結絆さんにすべての情報がフィードバックされるということですの。お姉様がどんな風にゲコ太に甘えているか、全部筒抜けですわよ?」

 

「......あっ」

 

一瞬、動きが止まる美琴。

 

黒子の言葉でようやくその事実を思い出した。

 

「ってことは......もしかして、今の私の顔とか、声とか......全部?」

 

「ええ、もちろん細部に至るまで結絆さんに伝わっているはずですわ。むしろ今頃、向こうでクスクス笑っているかもしれませんのよ?」

 

美琴の顔が一気に赤く染まった。

 

「な、なによそれ!そんなのずるいじゃない!」

 

「最初からそういう仕組みでしたのに、お姉様が忘れていただけですわよ?」

 

「うぅ......」

 

美琴はゲコ太の分身体をぎゅっと抱きしめ、しばらくの間もじもじと悩んだ。

 

しかし、やがて決心したように顔を上げる。

 

「......でも、いいの」

 

「はい?」

 

「恥ずかしいところを見られても、ゲコ太を抱きしめられるならそれでいいわ」

 

黒子は一瞬ぽかんとした後、微妙な表情になった。

 

「......それはそれで問題がある気がしますの」

 

「うるさい!」

 

そう言って、美琴はゲコ太の分身体をさらに強く抱きしめ、満足そうに布団に潜り込んだ。

 

黒子はため息をつきながらも、結局何も言わずに部屋の明かりを消した。

 

その頃、別の場所で結絆は、楽しそうにクスクスと笑っていた——。

 

 

 

 一方、帆風潤子は学園都市の昼下がり、いつものように結絆との待ち合わせ場所へ向かっていた。

 

彼と過ごす時間は、彼女にとって何よりも大切なひとときである。

 

だが最近は、結絆も暗部の仕事や統括理事会の業務で忙しく、なかなか二人きりの時間が取れないことも多かった。

 

「すまないねえ、帆風。最近、なかなか時間が作れなくてさあ」

 

待ち合わせ場所に着いた帆風を見つけると、結絆は申し訳なさそうに頭をかいた。

 

帆風はにこやかに首を横に振る。

 

「いえ、結絆さんにはお忙しい事情があるのですから、気にしないでください」

 

そうは言っても、やはり彼と過ごせる時間が限られているのは寂しい。

 

帆風の表情を見て、結絆は何かを思いついたように微笑んだ。

 

「それでさあ、今日は帆風にプレゼントがあるんだけど......ほいっ」

 

結絆が手をかざすと、空間の中からふわりと現れたのは、緑色の丸いフォルムをした可愛らしいぬいぐるみ――いや、よく見ればそれはぬいぐるみではなかった。

 

「ゲコ太......? いえ、違う......これは......」

 

帆風は驚きつつも、そっとその存在に触れてみる。

 

ゲコ太の形をしてはいるが、触感がどこか生き物のように柔らかく、それでいてひんやりとしていた。

 

「結絆さん、まさか......」

 

「うん、俺の分身体だよお。ほら、前に美琴にゲコ太の形の分身体をあげたらすごく喜ばれてねえ。帆風もこういうの、好きかなあと思って」

 

帆風は目を見開き、驚きと感動の表情を浮かべた。

 

「そ、それは......とても嬉しいです! 本当にありがとうございます!」

 

結絆の分身体として、ゲコ太がそばにいてくれるのは、帆風にとって最高の贈り物だった。

 

彼の存在を少しでも感じられるのだから。

 

「結絆さんがそばにいないときは、この子を隣に置いておきます!」

 

帆風はゲコ太型の分身体を大事そうに抱きしめながら、幸せそうに微笑んだ。

 

その様子を見て、結絆もまた満足げに微笑む。

 

「そっかあ、それならプレゼントした甲斐があったねえ。まあ、分身体だから、俺にもフィードバックが来るんだけどねえ」

 

「え?」

 

帆風は一瞬動きを止めたが、すぐに微笑みを崩さなかった。

 

「それなら、結絆さんも私がゲコ太がどれだけ好きか伝わりますね」

 

「うんうん、そうだねえ」

 

そんなやり取りをしながら、結絆と帆風は共に穏やかな時間を過ごした。

 

帆風にとって、この小さなゲコ太型の分身体は、ただの人形ではなく、結絆の愛情そのものだった。

 

 

 

 食蜂結絆は、自身の魔術をさらに洗練させるため、水脈を活用した分身体の制御に特化した特訓を開始した。

 

彼の作る分身体は、従来のものよりも強度が上がっており、損傷を受けても水脈からエネルギーを引き出して即座に修復することができる。

 

しかし、まだ課題は多く、特に一度に大量の分身体を作り、それらを個別に動かすという点では、完全には習熟していなかった。

 

「よし、まずは数を増やしてみようかねえ」

 

結絆は静かに目を閉じると、周囲の水脈を感知し、自身の魔術回路を通じてそれを分身体の形成に利用した。

 

次の瞬間、彼の周囲に十体の分身体が出現する。

 

どの分身体も結絆と同じ外見をしており、一見すると区別がつかない。

 

「ふむ......制御できるかどうか、試してみよう」

 

彼は意識を集中させ、それぞれの分身体に異なる動作を命じる。

 

一体は前方へ走り出し、一体は跳躍し、別の一体は攻撃の動作を試みる。

 

しかし、制御が追いつかず、一部の分身体がぎこちない動きを見せる。

 

「まだまだ、ってとこかなあ」

 

結絆は苦笑しながらも、失敗を分析し、すぐに修正を試みる。

 

次に、分身体同士の情報共有をさらにスムーズにするための訓練に入った。

 

通常の分身体は、本体からの命令を待つ必要があるが、彼の目標は「自律稼働」する分身体を作ることだった。

 

「命令を待つだけじゃなくて、独自に状況を判断して動けるように......そうだな、まずは単純な指示から試してみるか」

 

結絆は分身体に「周囲の状況を把握し、適切な行動をとる」ように命じた。

 

そして、自ら少し離れた位置に立ち、無作為に魔力弾を放ってみる。

 

すると、一部の分身体は即座に回避行動を取り、一部はカウンターを狙うような動きを見せた。

 

しかし、全ての分身体が適切に反応したわけではなく、中には動作が遅れたり、逆に不適切な行動をとるものもいた。

 

「うーん、まだまだ調整が必要かなあ」

 

それでも、確実に進歩はしている。

 

結絆は微笑みながら、さらに細かい調整を重ねていった。

 

「まあ、焦ることはないよねえ。じっくりやっていけば、そのうち完璧な分身体ができるようになるだろうし」

 

そう呟くと、彼は再び集中し、新たな試行を開始したのだった。




今回で、番外編は終わりです。

次回からは、アイテム編です。
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