学園都市の夜は、ネオンの明かりが星のように瞬き、静寂と喧騒が入り混じる独特の雰囲気を醸し出していた。
マジックシアターの一室で、食蜂結絆はワイングラスを揺らしながら、目の前の男を見つめる。
「......で、結絆。お前は、一体何を企んでいるんだ?」
土御門元春が腕を組み、探るような視線を向けてきた。
彼の口調は軽いが、目の奥には警戒心が見え隠れしている。
元春は結絆の友人であると同時に、暗部組織『グループ』のリーダーでもある。
元々、ドリームもアイテムもかなりの影響力を持っていたが、二つが同盟を組むとなると影響力はさらに増す。
元春は、結絆の考えを聞きに、一人でマジックシアターを訪れたのである。
「ドリームとアイテムの同盟が話題になっているからねえ。それで、気になってるってわけかい?」
結絆は微笑を浮かべたまま、グラスの中の液体を軽く回す。
「当たり前だ。元々影響力がかなりある二つの暗部組織が手を組んだら、そりゃ学園都市内の勢力図が変わる可能性がある。俺としても無視はできないぞ」
土御門は椅子に腰を下ろし、鋭い眼差しを向ける。
「率直に聞くが......何を狙っている?」
結絆は静かにグラスを置き、肩をすくめた。
「簡単な話だよお。俺達が魔術サイドの事件に巻き込まれているときに、科学サイドの事件に対処できる存在が必要だったってこと。そして、もう一つは学園都市の食糧事情の改善、かなあ?」
「......は?」
土御門は、意表を突かれたように結絆を見る。
「学園都市は基本的に物資の供給が外部に依存している。でも、それがどれだけ不安定なことか、元春も知ってるだろう?」
「まあな。学園都市は科学技術には長けているが、農業においては万能とは言えない。外部からの輸入が止まれば、あっという間に物資不足に陥る」
「そう。そこでアイテムのリーダーである麦野と交渉して、小麦の流通量を増やす取引をしたんだよお。ドリームとアイテムが組めば、学園都市内の流通を安定させることができる。そうすれば、余計な争いも減るし、皆が潤うってわけだねえ」
結絆はにこりと笑う。
「だから、別に怪しいことを企んでるわけじゃないよお。むしろ、学園都市の平和のために動いてるって言えるんじゃないかなあ?」
ここ数日で、食料品の値段が安くなっているのは事実である。
結絆は、学園都市に住む人々のことを考えているのだろう。
土御門はしばらく黙っていたが、やがて苦笑しながら肩をすくめた。
「......そこまで考えていたとはな。やっぱり結絆は、お人好しすぎるぜよ」
「俺も色々と考えて動いてるんだよお?何も考えずに暗部と手を組むほど、俺はバカじゃないからねえ。」
「ははっ、確かにお前さんは抜け目ないやつだからな。でも、アイテムと組むことで新たな敵も増えるかもしれないぜ?」
「それなら、それで迎え撃つまでさあ。実際、先日の襲撃も完全に防ぎ切ったからねえ」
結絆の余裕の表情を見て、土御門は深くため息をついた。
「......やれやれ、お前さんが考えることはスケールが違うにゃー。でも、一理ある。俺も、今後の暗部の連中の動きには注意しとくぜよ」
「元春がそう言ってくれるなら心強いねえ」
結絆は満足そうに微笑み、再びワイングラスを傾けた。
学園都市の片隅にある「マジックシアター」。
昼は華やかなマジックショーが行われ、夜は暗部組織「ドリーム」の拠点となる場所。
その施設の一角には、一般には知られていない巨大なプールが存在していた。
今日は、ドリームとアイテムのメンバーが合同でくつろぐ日だった。
「へーっ、マジックシアターにこんな広いプールがあるなんてねえ」
麦野沈利はデッキチェアに寝そべりながら、サングラス越しに水面を眺めていた。
近くでは滝壺理后がプールの端に座り、ゆったりと水に足を浸している。
「結絆、アンタよくこんなもん作ったよね」
麦野が隣に座る食蜂結絆に目を向ける。
彼はプールサイドでリラックスしながら、カクテルグラスを軽く揺らしていた。
「まあ、うちにはお客さんも多いからねえ。こういう娯楽施設があるのは当然じゃないかなあ?」
「暗部組織の拠点にしては豪華すぎるんだっての」
麦野が呆れたように笑う。その間にも、プールではフレンダが絹旗最愛に水をかけながら騒いでいた。
「ちょっとフレンダ! わたくしの髪を濡らすのは超やめるべきです!」
「いいじゃんいいじゃん! こういうのがプールの醍醐味ってやつでしょ!」
フレンダはけらけらと笑いながら、水をばしゃばしゃと飛ばす。
その後ろでは千夜が静かに泳ぎ、蜜蟻はプールサイドで優雅に日傘を広げていた。
「結絆さん、このプールって他にも仕掛けがありますよね?」
入鹿が興味津々に結絆へと身を寄せる。
「んー、まあねえ。ボタン一つで波を発生させたり、温泉に変えたりもできるからねえ」
「え、まじで? 温泉プールとか最高じゃん!」
フレンダが目を輝かせる。
「そういうのはまた今度ねえ。今日は普通のプールを楽しんでよお」
「ちぇー」
そんな中、帆風潤子はプールサイドに立ち、やや緊張した面持ちだった。
「おやおや、帆風は泳ぐのが苦手かい?」
結絆の言葉に、帆風は顔を赤くしながら首を横に振る。
「い、いえ!ただ、こういった皆で水遊びをするというのが久しぶりで......」
「じゃあ、思い切って飛び込んじゃえば?」
帆風が躊躇していると、麦野がにやりと笑いながら背後から近づき——
「ほらっ!」
帆風の背中を押した。
「えっ、ちょっ——」
どぼん!
豪快な水しぶきを上げて帆風がプールに飛び込む。
「ぶはっ......! む、麦野さん!」
「二人がいい雰囲気だったもんで、ついね?」
麦野は肩をすくめながら、楽しそうに笑う。
その様子に結絆もくすくすと笑った。
「こうやってみんなで過ごすのも悪くないねえ」
「しかし、アイテムとドリームがこんなに超仲良くなるとは思いませんでした」
「それだけ、俺たちはいい関係を築けてるってことだねえ」
結絆は満足げに微笑む。
ドリームとアイテム、これまで敵対することこそなかったがお互いに警戒しあっていた2つの暗部組織。
しかし、こうしてプールで過ごす時間が、互いの距離を縮めていた。
「さーて、そろそろ俺も泳ごうかなあ」
結絆が立ち上がると、フレンダが笑顔で水をかけてきた。
「じゃあ、泳ぐ前にまずは歓迎の水浴びね!」
「こらこら、そんなことすると——」
結絆は指を鳴らすと、次の瞬間フレンダの足元から水が飛び出して、彼女の顔を濡らす。
「うわっ!? やり返すの早すぎるんだけど!?」
そんな和やかなやり取りが続く中、夜のマジックシアターにはいつもとは違う、楽しげな時間が流れていた。
マジックシアターの一角にあるラウンジでは、ドリームとアイテムのメンバーたちが和気あいあいと談笑していた。
本日は合同の焼肉パーティーが予定されており、その準備として買い出しに行く役を決めるためのじゃんけんが行われた。
「うそでしょ!? 負けたんだけど!」
フレンダが頭を抱えながら叫んだ。
彼女の隣では、絹旗最愛も腕を組み、頬を膨らませている。
「......超納得いかないです。こういうのは企画した麦野が超行くべきじゃないですか?」
「運だから仕方ないわね、ほら、さっさと買ってきなさい」
麦野沈利は肩をすくめながら言い放つ。
彼女自身はじゃんけんに勝ち、のんびりと座っていた。
「くぅ......じゃんけん弱い私が悪いってこと......?」
「そーいうことね」
フレンダはがっくりと肩を落とし、仕方なく立ち上がる。絹旗も不機嫌そうにため息をついた。
「んー、じゃあ俺も行こっかあ」
そんな二人の様子を見ていた結絆が、軽く手を挙げながら言った。
ちなみに、結絆はじゃんけんを一抜けしている。
結絆の運の良さはかなりのものである。
「え? 結絆も?」
「別に俺はどっちでもいいけど、落ち込んでる二人をそのまま行かせるのもねえ。荷物持ちくらいは手伝うよお」
「......それなら、超助かります!」
「おお!結絆が一緒なら心強いかも!」
フレンダと絹旗は、多少気を取り直したように顔を上げた。
「じゃ、適当に買い物してくるねえ。何か欲しいものあれば連絡してよお」
「じゃあ、鮭弁も買ってきて~」
「わかったよお」
結絆は麦野達に軽く手を振ると、フレンダと絹旗を連れて食材の買い出しへと向かった。
学園都市内の大型スーパー。
「まずは肉ね。焼肉なんだから、これは絶対に外せないわけよ」
「それは超当然です。問題は何の肉を買うかですね」
「予算はいくらでもあるし、いい肉買っちゃおっかあ?」
結絆の言葉に、フレンダと絹旗の顔が輝いた。
「流石は学園都市のトップの一員!いい肉選んでいくわよ!」
「超賛成です!」
こうして三人は、焼肉に最適な肉を次々とカートに放り込んでいく。
霜降りの牛肉、ジューシーな豚バラ、味付け済みのラム肉......。
「鶏肉も超欲しいです。ヘルシーですし」
「了解~。じゃあ、ついでに焼き野菜も揃えよっかあ」
「お、いいね。玉ねぎとかカボチャとか?」
「エリンギとかも超いいですね」
三人は楽しげに食材を選び、どんどんカートに詰め込んでいく。
その様子は、まるで気の合う友人同士の買い物のようだった。
買い物を終え、レジを通過すると、カートには大量の食材が詰まっていた。
「いやー、結構買ったわね」
「超楽しみですね。早く焼肉食べたいです」
「まあまあ、まずは戻って準備しないとねえ」
三人は笑いながら店を後にし、マジックシアターへと戻っていった。
楽しい焼肉パーティーの準備は、こうして順調に進んでいったのだった。
買い出しを終えた結絆、フレンダ、絹旗は、大量の食材を両手に抱えながらマジックシアターへと戻ってきた。
「超重いんですけど!」
絹旗が文句を言いながら袋を抱える。
フレンダもまた、腕いっぱいに荷物を持っていた。
「いやいや、これ全部食べるんだからしょうがないでしょ!しかし、こうして見ると、調子に乗って買いすぎた感があるってわけよ!」
「まあまあ、みんなで食べるんだから、これくらいあってもいいんじゃないかなあ」
結絆は笑いながら二人の後ろを歩き、マジックシアターの厨房へと向かった。
なお、結絆は余裕そうにしているが、三人の中で一番荷物を持っているのは結絆である。
シアターの中庭にはすでに大きな鉄板がセットされ、テーブルや椅子が並べられていた。
炭火の準備もできており、あとは肉を焼くだけの状態だった。
「おお! ついに焼肉パーティーの開始ってわけね!」
フレンダが声を上げ、テンションが上がる。
「せっかくの焼肉なんですから、超楽しみたいですね」
絹旗も期待に目を輝かせた。
ドリームとアイテムのメンバーが次々と集まり、それぞれが飲み物を手に持って歓談している。
「それじゃあ、さっそく焼いていくよお」
結絆が鉄板にサシの入った上質な肉を乗せると、ジューッという食欲をそそる音が響いた。
すぐに香ばしい匂いが漂い、皆の食欲を刺激する。
「うおお、うまそう!」
「早く食べたいわけよ!」
麦野が腕を組んで焼けるのを待っていると、フレンダが慌てて箸を手に取った。
「うおおおお、肉が焼ける前に取らないと、麦野に食われちゃう!」
「お前、私をどんな肉食獣だと思ってるんだ?」
麦野はニヤリと笑いながら、フレンダが取ろうとしていた肉をひょいと取り、滝壺の皿に乗せた。
「いやぁ~、私の育てていたお肉がぁ~」
「お前が余計なことを言うのが悪い」
「おいしい!」
最初に口にした滝壺が、感情のこもらない声でぽつりと呟く。
「超柔らかいですね。やっぱり良い肉は違います」
絹旗も頬張りながら満足げに言う。
「野菜も忘れちゃダメだよお」
結絆がピーマンやナス、エリンギなどを鉄板の隅に並べていく。
フレンダがそれを見て、微妙な顔をした。
「ピーマンとか、別にいらないってわけよ......」
「ダメダメ、バランスよく食べないとダメだよお」
「うう、じゃあ、少しだけ......」
食事は進み、酒も入り始めると、場の雰囲気はさらに賑やかになった。
酒とはいっても、結絆の水の原典の力によって飲み物をお酒っぽい風味にしているだけなので問題はない。
「こうして、皆で飯を食うのも悪くないわね」
麦野がビールを片手に満足そうに言う。
結絆はそんな様子を見渡しながら、静かに微笑んでいた。
「こういうのもいいよねえ。みんなで一緒にご飯を食べるのって」
「超同意です」
絹旗が頷く。
「ま、せっかくの焼肉パーティーなんだし、楽しみましょう」
麦野の掛け声に、全員が歓声を上げた。
こうして、ドリームとアイテムの合同焼肉パーティーは、夜遅くまで続くのだった。
焼肉パーティーいいですよね。
安いお肉でも、皆で食べるとおいしく感じるのは不思議です。