「よし、試作エンジン起動!」
加速度的に大きくなっていく音。エネルギーの発散先として用意したピストンも同じく、みるみるうちにその運動速度を速めていく
良い、実に良い。このエンジンならより速く、より効率的に宇宙を探索できるだろう。自分の才能が恐ろしい。ほら、今もなおエンジンは加速を続け───────
「あっ」
あかん、これ吹っ飛ぶやつや
「────あぶなーい!」
爆発を開始した試作エンジンと俺の間に割り込む大きな影────つまり、俺を庇った人間がいる
「びっくりしたー、ありがとアスナ。いつも悪いな」
「全然大丈夫!アポロは怪我してない?」
我が星空開拓部の────部員ではなく、メイドさん。それが一之瀬アスナである
「ゴホッ、煙煙すぎる……アスナ、窓開けて掃除して吹っ飛んだエンジンの破片回収しといて」
「オッケー!」
いつも通りアスナに全てをぶん投げ、煙が晴れて多少クリアになった視界で周囲を見渡す。壁の至る所には爆ぜたエンジンの破片が突き刺さっている。刺されば痛そうだ、流血は免れないだろう───にも関わらず、それを間近で受けたはずのアスナの身体に傷はない
「………………」
床に落ちていた、恐らく俺たちの方角へ飛んできたであろう破片を拾って眺める。壁に突き刺さったそれよりも激しい歪み、破損が示すのはただ一つの事象だ
僕らの方へ飛んできた破片は、奇跡的に破片同士がぶつかり合って全く別の方角へ弾かれた
そして、これは偶然でなく必然。一ノ瀬アスナという人間が星空開拓部にとって無くてはならない人材である所以だ
「うーん、出力はいいんだけどな…………」
考察の片手間、思い浮かべるのはアスナとの出会いのことだった
──────────────────
「金がねーっ!」
金欠。とにかく金が無かったのをよく覚えている。俺の研究にはとにかく金が掛かる。部活に下りる予算だけでは到底足りず、その予算を使って作り出した物も、何かを間違えれば丸ごと水の泡と消える
「あ、空き缶………誰だよポイ捨てしたやつ」
どうしたものかと適当に辺りを散歩する中、ふと空き缶が目に入る。一瞬これを集めて売ろうかとも考えたが、必要な資金の量を考えると一生かけても無理だと判断して却下した
すぐ近くにあるゴミ箱に投げ入れる。それが空き缶に下された判決だった
「そら」
綺麗な放物線を描いて飛んでいったそれは、ゴミ箱の蓋に当たって跳ね、さらに自販機の本体に当たって跳ね、当初目的とした着地点とは全く違う場所へと飛んでいく
「───やべっ」
空き缶の軌跡を目で追っていると、ちょうど着地地点にメイド服の女子生徒が通りがかった。このまま行けばまず間違いなくその頭に空き缶が直撃するだろう
しかし、空き缶が少女の頭に当たる事はなかった。偶然突風が吹いたおかげで僅かに軌道がずれ、空き缶が直撃するはずだった少女は何事もなく歩いている
「────────」
その一連の現象が、俺にはどうしても偶然に見えなかった。携帯しているタブレットで即座に一つのプログラムを組んだ。内容自体はなんでもない、ただ1から5億までの間で一つ数を選び、出力するだけのプログラム
「そこの君」
「………?私?」
「そう君だ」
空き缶を避けた少女───一之瀬アスナに話しかけ、ある試験を持ちかけた
「好きな数字を選んで、このプログラムを実行してくれ。君が選んだ数字一つ、5億分の1を当てられれば合格だ。何にする?」
「うーん、よくわかんないけど……じゃあ1!」
アスナがプログラムを起動する。結果が出力されるまで一秒もかからない。俺とアスナの間に、刹那の間の無が走り─────
「───やった!大当たり!」
────プログラムは、1を出力した
疑念は確信へと変わる。空き缶も、プログラムも、全ては偶然でなく必然だ。たった2回、それだけで確信へ至れるほど、少女の豪運は鮮烈な輝きを放っていた。
「おめでとう!君は合格だ!」
「えぇ?わ、私何かに合格したの?」
これが、俺と一之瀬アスナの出会いである。この後は俺とアスナの大騒ぎロケット実験だったり、ブラックマーケットでのカジノ一掃事件だったり、彼女は今現在に至るまで星空開拓部の資金調達担当兼メイドとしてよく働いてくれているのだ
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「────結論として、素材がエンジンの出力に耐えきれてない。新たな素材の開発が急務だ」
「素材、ですか……また難儀な問題に当たりましたね」
合流したノアも交え、爆発で汚れる前よりも綺麗になった星空開拓部研究室にて。作成予定のスペースシャトル───ノア2号に組み込むエンジン開発である。難航してるけど、それはまあいつものことなので仕方ないと割りきろう
「素材………これ以上は難しくありませんか?」
「アポロ、最高傑作だーっ!って喜んでたもんね!」
過去にも素材問題にぶち当たった事は当然ある。その時に開発したのが現在使用している───さっき吹っ飛んだあれ。コスト、性能、どれを取っても一級品だ
正直に言えば、耐久性だけならもう少し金をかければエンジン出力に耐え切れるものが手に入るだろう。しかし、あまり金をかけすぎるのは良くない。コストはできるだけ最小限に、ゆくゆくは電車に乗るみたいな感覚で宇宙に行けるようになると良い。それが開拓である
「素材、素材なぁ……だーめだ、さっぱり思いつかねー。とにかく色々試してみるしかねーな…………あれ、金あったっけ」
「資金ですか?ええっと……あら、底をついて────待って、ちょっと待ってください。研究者にとって資金不足は深刻な問題でして、確かに簡単に解決できるとしても、その方法は少し不健全な気が────」
「行くぞアスナ!ブラックマーケットに囚われた善良な市民の資産を解放してやるのだーっ!」
「おー!」
「早いんですよ色々と!もう……!」
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「いやぁ、金稼ぎって簡単だね」
「これで当分は大丈夫だね!」
「結局止められませんでした………いいんでしょうかこれで…」
ブラックマーケット────その名の通り、非合法な兵器やら何やらが集まる場所だ。当然のように治安は悪く、普通の人はまず立ち入らない事を薦める。お兄さんとの約束だぞ
で、俺たちの狙いはそこにある違法カジノである。違法であるが故に賭けられる金は多く、アスナならギャンブルに勝つなんて事は楽勝も楽勝。イカサマだろうが確率操作だろうが全て豪運でねじ伏せて有り金全部を巻き上げる
こういうところに流れてくる金は所謂黒い金だ。詐欺だったり、非合法の兵器売買だったり。そういうお金が解放され、宇宙開拓の為に使われるのだ。お金も本望だろうし、倫理的には全く無問題である
「でもなんだかんだ連れてってくれるノア好きだよ」
「私も!」
「…………もういいです、色々と」
大量のスーツケースが積まれた車を運転するノア、後ろで座るアスナ、アスナの膝の上で寝る俺。これもいつも通りの星空開拓部である。ノアが渋る時は全力で泣きつけば何とかなるぞ
「………とりあえず金はどうにかなったとして、結局素材どうしようなぁ」
金はあるから色々試す事はできるが、それはそれとして打開策が全く思い浮かばない。今まで使ってた素材が完成されすぎててこれ以上どうにかできるとも考えづらい
「もっかい良いの作るしかない?」
「そうだけども…」
「ここで躓くのは予想外でしたからね……」
この姿勢、所謂膝枕だけども。アスナは胸がデカいから車の天井がろくに見えない。アスナの体は柔らかいし好きだけど、こういうのは室内だけで良いかな。外でやると空が見えなくなってしまう
「………………空か」
頭を少しずらして、車の窓から空を見上げる。今日は晴天で、相変わらず空は綺麗だ。前の真っ赤な空も物珍しくてよかったけど、俺はやっぱりいつものが────
「あれだ───!むぐ」
「わっ」
「……………………………………」
いきなり上体を起こしたせいで顔がアスナの胸に埋まる。どういう訳かそのままガッチリとホールドされ、脱出は不可だと早々に諦めた
「…………何か、思いついたんですか?」
「なんでそんなに怖い顔してるか知らないけど、思いついたよ!戻ったら早速準備だ!」
「なにするの?」
一気に喋ったせいで少し息が苦しくなってぷはっと顔を上げる。アスナの腕はガッチリと俺を抱き止めたままだけども。ノアはと言うと珍しく驚いたようだけども、すぐいつもの表情に戻った
「────第二回、宇宙探索だ!お前らも行くぞ!」
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金を稼いでから数日。消し飛んだノア1号のデータを元に、今回の宇宙探索用に改良を加えたスペースシャトルノア2号に乗り、俺は再び宇宙へと飛び立った
そして───今回はなんと、一人ではない
「あははっ、ふわふわー!」
「こ、これが無重力………」
スペースシャトルノアが問題なく宇宙探索が可能である事は証明された。であれば我が星空開拓部のメンバーも連れて行く他ないのである
「────実はな、俺が初めて宇宙に行ったあの時、古代のオーパーツを使って宇宙へと飛び立った人類の戦士たちと、敵対的な宇宙人が争っていたんだよ」
「そうだったの!?」
(話が拗れるので黙っておきましょうか)
あれの光景は鮮烈だった。ノアのように絶対記憶を持っているわけではないけれど、多分生涯忘れる事はないだろう。それくらい印象的なものだった
「んで、結局どっちの船も崩壊しちゃったんだ。でもね、跡形も無くなったわけじゃないから、宇宙にはあの二つの船の残骸が漂ってるはずなんだ」
「それがアポロの言う、新しい素材?」
「サンプルが欲しいだけだよ」
星の自転と公転を考慮すれば、残骸が現在どの辺を漂っているのかの目星はついている。今回の宇宙探索のミッションは単純、宇宙船の残骸を確保して即帰還である
残骸を確保して材質を詳しく調べ、再現もしくは改良を加える。これが上手く行く保証はないけど、現状思いつくのがこれしか無いから仕方ない。試して、無理ならまた別の手を考える。いつも通りである
「そういうわけなんだけど………ノア、ずっと外見てどうしたの?」
「……いえ、その、本当に来てしまったんだな、と」
─────宇宙への到達は、俺たち星空開拓部の悲願でもあった。もちろん目的は開拓であり、それが達成される事はない。その第一歩として掲げられたのが宇宙への到達だ
アポロ6号、ノア1号、そしてノア2号。ノアとアスナにとっては初の宇宙空間であり、俺にとっては二人を宇宙まで連れて行くことができた。そう考えると、中々記念性の高い宇宙探索である
「ここが、地上から見ていた星空の中だなんて……何だか、今でも実感が湧きません」
「こんなことで感動してたらキリないぞ。もっと遠くに行くんだから」
「───そう、ですね」
そんなこんなしてたら宇宙船の残骸ポイントに到着だ
「メカニカルアーム起動!」
残骸回収用に作ってノア2号につけた二本の腕だ。形状としてはまんま人の腕、掴んだものは自動的にノア2号の中に格納されるようになっているぞ!
「ヒビが入ったりして脆くなったものはノア1号の体当たりで壊せるぐらいの硬度だったから、できるだけ無傷なものが望ましい。材質解析は回してるけど………アスナ、どれが良いと思う?」
「あれとあれとあれ!」
「おっけー」
アスナが指を指した残骸をアームで掴み、回収。念の為材質解析も回してみたが、本当に傷や破損の少ない限りなく理想的なものだった
「古代のオーパーツ船と、宇宙船の残骸両方、回収確認。……よーし、素材は揃った!帰るぞ────アスナ?何で外見てるの?」
「─────あの隕石、キヴォトスに落ちてってない?」
「上等だかかってこいやクソガキ!」
「待って、正面からぶつかるんですか!?ちょっと、待っ─────」
「い、意外とどうにかなるんですね……」
「俺たち最強!燃料無いYO……」
「予備持ってきてるよ!」
──────────────────
「ふふーん、ノア3号の制作も順調だぜ。3回目の宇宙は思ったよりも早くなるかも」
あの後は普通にキヴォトスに戻り、回収したサンプルを元にいい感じに再現し、古代のオーパーツ船+宇宙船のハイブリッド合金をばーっと作った。そこからの耐久性テストも無事クリアし、3度目の宇宙探索も秒読みとなった
「そういえばアポロ君。今回のミレニアムプライス、星空開拓部の応募が無いようですが…………」
「あー……その、使ってる金の量が違いすぎるからさ、応募やめたんだよ。もう廃部の危機になることもないだろうし、俺が突っ込んでくのはちょっとアンフェアかなって」
他の部活は生徒会から下りた予算で研究を進めているのに対し、俺たちは9割アスナのギャンブルで研究してる。文字通り他の部活とは桁が違いすぎるのだ。良いものができるのが当然である以上、星空開拓部が出るべきじゃない
「なるほど、一理ありますね。生徒の皆さん的には……アポロ君の活動を見る手段の一つでしたので、残念がる人もいると思いますよ」
「何か機会があれば皆に見せてあげたいけど……んー…」
「……まぁ、それはおいおい考えましょうか。ちょうど今受賞式の最中ですが、見ます?」
「見る!」
他の部活の頑張りも気になるし、それに受賞式と来たら大盛り上がりだろう。ノアの側に寄り、二人で小さなディスプレイを眺める。あっという間に受賞作品の発表は終わっていき─────
『────続いて、星空開拓部特別賞の発表です!このミレニアムプライスまでに星空開拓部が発明したものはこちら───仮称、新素材です!軽く、硬く、衝撃に強く、加工次第では柔軟性すら獲得し、それでいて制作コストも安価!まさに世紀の大発明!星空開拓部の躍進が止まりません!』
「知らない間に殿堂入りしてるーっ!」
「…………その、どうやって作ったんです?」
「ばーっとやってがーだよ!特に説明することなんてないって!」
普通の発表枠とは別に枠が取られていた。俺の与り知らぬところで俺の部活に関する企画が進んでやがる。別にいいけどね!
「───アポローっ!ミレニアムプライス見た?見たよね!」
「んぎにっ」
突如現れ、背後から飛びかかってきたアスナのせいで地面にうつ伏せで押し倒される。ノアは驚いたように身を引いてアスナを回避しやがった、許せない
「特別賞だって!やったね!」
「んぐぐぐぐ」
「………アスナ先輩、アポロ君が潰れてしまいますよ」
「わわっ、ごめんね!」
すぐさま俺の上から退いてくれたおかげで何とか窒息せずに済んだ。アスナの体は柔らかいから好きだけど、流石に窒息はしたくないや
「殿堂入り、ねぇ………」
まず事実として───俺一人では無理だった。ノアがいて、アスナがいて、初めて手が届く場所に俺はいる。金だったり、私生活だったり、研究開発以外のことをやらなかった俺を支えてくれたのは二人だ
その献身に対し、俺ができるのは一つだけだ
──────────────────
「───着陸完了、外界環境安定しています。いつでも外に出られますよ」
紆余曲折を経て完成されたスペースシャトルノア3号。星空アポロ、一之瀬アスナ、生塩ノアを乗せたそれは────現在、月にいた
「…………行こう」
彼らに普段の騒がしさは無かった。仰々しい宇宙服に身を包み、ただ黙って、ノア3号から外に出る為の手順を踏んだ
一歩足を踏み出せば、月面へと降り立てるその一歩を───万感の思いと共に、踏み出した
「───────」
ざ、と。足元から伝わる振動だけが、星空開拓部が月へ辿り着いた事を告げている。そのまま、少しだけ歩いて、もう一度歩く。少しずつ、少しずつ、前へ進んでいく
『青い、ですね』
空気の存在しない宇宙空間では、声は伝わらない。故に、宇宙服に搭載された通信機からの音声──後ろを向いた、ノアの声が届いていた
『本当、青いね』
アスナも、同じく後ろを向いている。二人の視線の先にあるのは、青い星───キヴォトス、彼女達の故郷がある命の星だ
『………見えますか、アポロ君。あなたは、私たちは、こんなところまで来て────』
同じ方向を見ているであろう星空アポロの姿が見たくて、生塩ノアは振り向き────自分たちとは、全く逆の方向を見ている少年の姿を見た
『………暗い道は進めないから、誰かがそこを照らしてあげないといけないんだ』
『────遠いなあ』
視線の先には、何も無かった。ただ、暗黒の星空が無限に広がっていて。その、果てしなく遠い星々の輝きを、彼はただ眺めていた
『旗、立てよう』
持ち込んだ旗───ロケットが描かれた、決して上手いとは言えない旗を、彼は月面に突き立てた。消えない証だった。星空開拓部は、月面へと辿り着いたのだという、消えない証を
『………酸素残量が少なくなってきました。そろそろ戻りましょう』
数十分。それが月面───無重力空間での活動限界だった。道理だ、戻らなければならない。だとしても────
『もうちょっとだけ、居ていい?』
その言葉を拒める人間は、星空開拓部にはいなかった
星空アポロ
側から見てれば面白ボーイ。少しでも有用性を見込まれると滅茶苦茶頼ってくる。掛けられる迷惑はとんでもないが、世話した分だけ相応の成果と感謝を返してくれる。基本的に後先を考えないので、頑張って守ってあげよう。最近家を追い出されたのでノアの家に転がり込んだ
「ノアーっ!泊めてーっ!?家?追い出された!家賃払えなくて………ん?生活費研究に使うのは当たり前じゃん金足りないんだから。………ねぇ、何で怒ってるの?待って、やめて!ちょっ─────」
生塩ノア
月に連れて行ってもらった。アホを家に泊める羽目になった
「生活費は研究費じゃありません!」
一之瀬アスナ
定期的にアホに金を渡すようになった
プレナパテス
お礼言いに行ったら何一つ話通じなくて泣いた
シロコ*テラー
戦闘力を見込まれて星空開拓部に勧誘されそう。星空アポロからは逃げられない