「とりあえずこんなもんかな……?」
安定稼働を成し遂げたワープ君3号の制作と、それに伴う計算や理論をできる限りわかりやすく論文にまとめる。やってることがやってることだ、小学生にも伝わるように……では足りない。新生児にもわかるように書くぐらいの気概じゃないと誰にも伝わらない古代論文が完成してしまう
「暗!?」
窓から見た空はあまりに暗い。気付けば夜も遅くなっていた。ノアもアスナもシロコも帰ってる。チーちゃんは……あれ?確かヴェリタスのアレコレで長引くって言ってたし、まだいるのかな。泊まるかも的な話もあったような?
「……何でも良いけど、今からノアの家帰るのはアレだなぁ」
暗い道は危ない。誰でも知ってる常識だ
「んー………ん?」
ノアに泣きついた甲斐もあり、最近やっとエンジニア部みたいなデカい工房を手にした我ら星空開拓部。あらゆることをその工房で済ませるようになった結果、元々の研究室ことこの部屋は憩いの場的な扱いになりつつある
つまりは、この部屋はもうほぼ俺の生活スペース的なアレになってて
「チーちゃん、泊まる的なこと言ってたような……?」
それはつまり、この学園内で寝泊まりすることは許されているという事で
「───つまり、この研究室を改造しちゃってもいいのでは?」
そうすれば、ノアに無理言って住まわせてもらう必要もなくなるのでは!?
俺は無料で使える住まいをゲット、ノアは無理矢理押しかけてきた男を家に住まわせなくて良くなる、互いにウィンウィンの素晴らしいアイデアだ!
「そうと決まれば早速やっちゃおう!ええっと、電気とトイレはいいとして、ガスと水道、風呂…は流石にスペースが厳しいか、シャワーは欲しいな……うーん、ワープで繋げてパクるか…………」
「でーきたっ!」
実験過程で生まれたゴミやら何やらを良い感じに加工し、ガチャガチャ機械を弄ったり壁をくり抜いたり色々した。二時間ぐらいで済んだな。キッチンあり、水道あり、シャワーあり……何か俺の前の家より豪華じゃない?
「流石にノアの家よりはアレだけど……これでミレニアムから動かなくて良くなるし、研究が捗る捗る…」
とはいえ、流石にお腹すいた。何か食材でもあれば料理しても良いけど……買いに行く?今から?無理だな、コンビニでカップ麺ぐらいが関の山か
「ま、充分でしょ」
ちゃんとした食材はまた今度買いに行けば良い。そうと決まれば最寄りのコンビニに走ろう。善は急げ善は急げ
「何のやつ買お………う?」
重い扉を力いっぱい押して開き、いざコンビニへ───と、その時。扉の目の前に、誰かいる
「………チーちゃん?」
「本当にいた」
──────────────────
「夜の校舎って趣があるというか、良くないことしてる感覚になるよね」
「アポロは良くない事結構やってるでしょ。銀行強盗の件、黙ってあげてるの忘れた?」
「あれは別に悪いことじゃないし」
「倫理観どうなってるの……?」
夜間の訪問者、その正体はチーちゃんであった。俺と同じく夜遅くまで学校居残り組、帰ろうと思って外に出たところ未だ電気のついた星空開拓部研究室に気付き、まさかとは思いつつも見にきてみれば………というのがチーちゃんの背景だった
「電気の消し忘れぐらいに思ってたら……まさか部室を改造してたなんて」
「無料の住まいゲットだぜ!」
「ノアの家はどうするの?」
「家は二つもいらないでしょ」
「そう……はい、ドライヤーお終い。綺麗な髪してるんだね」
ソファを背もたれに床に座り、俺の上にあたる位置に座ったチーちゃんに全てを託す。コンビニ行ってカップ麺食べて、シャワーも浴びてドライヤーもかけてもらった。しれっとチーちゃんも泊まる流れになってる?
「なんにせよ、帰らないなら連絡ぐらいしておきなよ」
「あー!忘れてた!」
これは良くない。すぐさま電話をかけよう───としたその瞬間
「そっちから来るんだ」
ノアから電話がかかってきた。気づかなかったけどメッセージとか不在着信自体は結構来てる……うーん、この時間だと部屋の改造中かな
『───やっと繋がりました!』
「お、おおう。悪かったよノア。色々やってて気づかなくて……ん?どうしたのチーちゃん」
『チーちゃんって……チヒロ先輩が一緒なんですか!?』
「そだよー」
大層驚いているノアの声が、機械越しで耳に響く。相当デカい声だ、お隣さんに声漏れてたりしてないかな
「伝えるの遅くなって申し訳ないんだけど、今日はチーちゃんと泊まってくから!」
『…………そう、ですか』
ノアのテンションが急に落ちた。何か問題あったかな、連絡忘れてたから怒ってたのかな────
「っひゃん!?」
『─────??????え?ど、どうしました?』
「変な声出さないでよ、肩揉んだだけじゃん」
「ちょっ、これ……んっ、チーちゃんっ、やめっ、ぁっ♡」
『アポロ君??アポロ君?????』
「あ、え、と、なんでもっ、ない。なんでもっ…♡な、ぁ♡いっ♡からっ♡」
『アポロ君!?!?!?!?』
「あ"っ♡やめ、つよくしなっ♡い"っ♡♡」
「………はぁ、しょうがないか」
ひょいと、手元から離れていくスマートフォン。反射的に取り返そうと動いた体は、ぐり、と肩を押されれば即座に沈静化
「あー、そういうわけだから。今晩は私が面倒見る。じゃあね」
『────はっ!?ま、待ってくださいチヒロせんぱ─────』
無慈悲にも通話は切られ、スマートフォンはチーちゃんの手の中のまま、遠くの机へと置かれた。それをただ見上げるのがやっとだった
「アポロ、体凝りすぎ」
「えぇ、そんなにぃ?」
「そんなに。……何日かかけてほぐしてあげるから、これからは放課後ここに残って」
「ここ住むつもりだからそれは良いんだけど………チーちゃん、マッサージ上手なんだね」
「ありがと」
話している間にも、チーちゃんの指が首やら肩やらに触れてくる。時折押すような圧迫感を感じるあたり、確認中と言ったところだろうか
「……ねぇ、もしかしてまだやるの?さっき散々したじゃん」
「ぜんっぜん足りないから」
「欲張りめ」
「私がやりたがってるみたいに言わないで」
「あ、ちょ、強くしちゃ、んっ♡やぁっ♡」
「だから変な声出さないでって」
「だ、ってっ♡あっ♡んっ♡やだーっ!はなせーっ!」
「大人しくして」
暴れようとも抵抗虚しく。数十分の間、俺の体は好き放題に弄られ続けたのであった。
──────────────────
アポロ君と、連絡がつかない
夜遅くまで帰ってこない──それ自体は、特に珍しい事でもなんでもない。今回の事態が異常であるのは、アポロ君からなんの連絡も無く、私の連絡への反応も同じく無いからに他ならない
「……………」
脳裏をよぎるのは、色彩の一件。星空アポロの命が、死に最も近づいたあの瞬間。あれからもう随分経って、同じ屋根の下で、同じ時を重ねて、どこへ行こうとも、最後には私のところに帰ってくる───だなんて、確信めいた繋がりすら感じるようになって
それでも、あの恐怖は未だに脳裏にこびりついて離れない
「探しに行きましょう」
他の星空開拓部にも協力を仰いで───その前に、ダメ元でもう一度連絡を取ってみるべきか───
「───やっと繋がりました!」
安堵が、その場にため息として吐き出された。ひとまず最悪の事態は避けられた安心──となると、今のアポロ君の居場所が問題だ
『伝えるの遅くなって申し訳ないんだけど、今日はチーちゃんと泊まってくから!』
「…………そう、ですか」
連絡が繋がったのなら、疑問は次々と解消されて行く。チヒロ先輩と一緒に、ミレニアムに泊まる。………理解は、した。色々と思うところはあるけれど、何か危険なことに巻き込まれたわけでもないのなら────
『っひゃん!?』
「─────??????え?ど、どうしました?」
妙に艶めかしい声が、電話越しに聞こえてきた。未知の感覚に襲われたようにも思えたその声、余計に疑問が膨れ上がり
『ちょっ、これ……んっ、チーちゃんっ、やめっ、ぁっ♡』
「アポロ君??アポロ君?????」
『あ、え、と、なんでもっ、ない。なんでもっ…♡な、ぁ♡いっ♡からっ♡』
「アポロ君!?!?!?!?」
『あ"っ♡やめ、つよくしなっ♡い"っ♡♡』
だめなやつです。これはだめなやつです
『あー、そういうわけだから。今晩は私が面倒見る。じゃあね』
「────はっ!?ま、待ってくださいチヒロせんぱ─────」
ぶつり
「……………とら、れた????」
──────────────────
シロコ*テラーは考えていた
執拗な勧誘に折れる形……ではあったが、あの日の星空アポロに心を揺さぶられた結果として星空開拓部にいるのもまた事実。部員を含め、シロコ*テラーにとっての星空開拓部は、居心地の良い場所だと確信が持てる居場所になっていた
だからこそ、シロコ*テラーは考える
(私の世界のアポロは、どうなったんだろう)
先生すら完璧に治して見せた回復ポッド──シロコ*テラーのキヴォトスではついぞ使われることのなかったそれ。作られなかったのか、何らかの理由で使えなかったのか、存在を知られなかったのか
どうにも、星空アポロに迫る危機を想像できない
(……できない、けど。碌な末路は辿らなかったはず)
自らで下した考察に、刺されるような痛みを覚えた。シロコ*テラーにとって、星空アポロが大きな存在であることは言うまでもない。傷つく、或いは───考えるだけで、激しい嫌悪感が胸中に満ちていく
(だから、守らないと)
思考に沈んでいる間に、部室の前へと辿り着く。重い扉の向こうには、星空アポロ以外の気配は感じられない。部室にいる、という事は、休んでいるか論文を書いているかのどちらかだ
今回は休んでいる方、と予測を立てて扉を開き
自分の耳の上部に、ナイフを当てている星空アポロの姿を────
「───アポロ!」
「うわっひゃい!?」
それを視認すると同時に、放たれた銃弾がナイフを弾き飛ばす。突然の衝撃に驚いたのか、素っ頓狂な声を上げて崩れた体制で床にへたり込んだアポロに詰め寄った
「何!?何!?シロコ!?」
「何!しようとしてたの!?」
「………実験の一環?」
「そゆこと」
とてつもない剣幕で問い詰められ、星空アポロはあっさりと行動の意味を白状した
「ちゃんと上手くいったか判断する為には、どっか欠損してるぐらいがわかりやすいの。で、どこを切ろうかってなって」
「………それで、耳?」
「今回が上手くいかなかったら、成功するまで体そのままなわけだしさ。目はアレだし、足も歩くの大変そうだし、手はもっとダメじゃん?」
言わんとしていることは、まあ理解できた。どこか、自分の体の一部を失わなくてはいけない時、最大限生活に影響の少ない部位を想像するだろうが……
「何で、切らなきゃいけなかったの?」
大前提である。自分の体を切らなければいけない実験とは何だ──当然の疑問が、シロコ*テラーの口をついて出る
「……んー…ま、こうなった以上はしょうがないか」
眉を顰め、答えあぐねた様子を見せた後。アポロは観念したように──けれど誇らしげに笑って、その口を開いた
「若返りの研究」
「───若、返り?」
口から出てきたのは、あまりにも非科学的な、ファンタジーのような単語だった
「そ、若返り。時を戻せる技術を研究中なんだ。……その、流石にヤバい技術だからさ、皆にも隠して一人でやってたんだ」
もし、本当にそれが実現したなら──世界を揺るがす大発明になる。人は死の運命から解放され、永遠に若いまま生き永らえることが叶う
「俺という存在そのものの時を戻すから、耳の欠損した俺から、耳を欠損する前の俺に戻る、なんてこともできるはずだ」
「はずって、確証はなかったの?」
「それは、流石にね。当たり前だけど俺が一番乗りだからなぁ、全てが手探りで大変な事この上ない。ダメなら、うまくいくまで試すまでだよ」
「アポロは……若返りたいの?」
「え、うん」
あっけらかんと、アポロは当然のように答える。それが、あまりにも強く『宇宙を目指す』と語っていたのと同じ顔で
「───そっか、全部、見たいんだ」
「───そ、時間が足りないからね。諦めるなんて論外だ」
真意を察するのは、シロコ*テラーにとってはあまりに簡単な事だった。アポロの、その目を見て、彼の『夢』を見てきたシロコには
「……わかった、けど、体を切るのはやめて。切らなきゃいけないなら、私が切るから」
おかしな事を言っている自覚は、あった。けれど、アポロが傷つくぐらいなら、迷わず自分が傷つく事を選ぶ──それが今のシロコ*テラーの、揺るぎない答えだった
「───ええ!?駄目駄目駄目駄目何言ってるの自分の体切るなんて!将来的に治ったとしてもそれまではそのままなんだから、もっと自分の体大事にしなきゃ駄目だって!」
(…………この男、本当に)
シロコ*テラーは星空アポロが好きだ。
それはそれとして、すごく腹が立つ時もある
星空アポロ
研究のためなら何でもやる。マッサージに弱い
砂狼シロコ
ヤバいとこを見た。ヤバいことを知った。以前にもましてアポロに引っ付くようになった
各務チヒロ
もーらい
生塩ノア
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