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「すまないがオレたちはここまでにさせてもらう」
「連中の頭が能力を奪う発を持っているからか?」
「そうだ。誰が持ち主かも内容も言えんがな」
気が付けば開戦前に戦力が半減することになった。
どうやら旅団のNo.0ことクロロの能力が発を奪うという事を勘案した結果らしい。このまま行くとネオンを連れて街から去る事も検討しているだろう。しかしまさか、旅団では無くノストラード一家の方が撤退を考えるとは思わなかった。これも変に介入してしまった結果であろう。
「……仮に、の話だがノストラードが大男を捕縛した事は下っ端を尋問すれば直ぐに判る。迂闊に動けばどんな能力を有しているか悟られるぞ。それに他組織との手前もある、クラピカの手腕と索敵役が居るならそいつを貸してくれ。それで十老頭以外にも面目が立つはずだ」
「そうだな。任せたぞ。クラピカ、センリツ」
「了解した。望むところだ」
「判ったわ」
ヒソカを真似たわけではないが、適当に理由をでっちあげておく。
その上で硬軟混ぜてノストラード一家を説得しよう。少なくともクラピカとセンリツさえ居れば何とかなるはずだ。ウヴォーギンは性格的に放っておいても勝手に一騎打ちを挑むだろうが、パクノダに関しては微妙な所である。だが、原作通りに行くとは限らないと思い知ったばかりではないか。ここは落ち着いていこう。
「それとホテルは直ぐに場所を移せ。ハンターライセンスがあれば組員の名前は調べられると言っただろう? もし説得……撤退までの検討に時間が掛かるなら、俺の所が抑えてるスイートを使え。ワンフロアを貸し切ってるから満足はしてくれるだろう。うちも怪しいが、尋問の場でお前たちが名前を出してなければなんとかなるはずだ」
「……すまん。恩に着る」
ダル……ツォーネだっけか? 向こうの護衛頭の説得に成功した。
これで最悪の事態は避けられるはずだ。トラブル続きだが、上手く行けばネオンの発を奪われずに済むだろう。その結果で旅団が撤退したり、あるいは被害が増えるとかはあまり気にすべきではないだろう。いや、ヒソカを自由にさせるために動いているイルミが、旅団では無くマフィアの方を妨害に来る可能性もあるかもな。
「旧交を温める前に確認するが、ユキ。この戦力で行けるのか?」
「問題無いさ。元から撤退戦のつもりだった。説得の手間が省けて助かったと思っておこう。少しでも被害を抑えつつ、相手に出血を強いる作戦だ。幸いにもノストラード一家や他のマフィアも手を引き始めているからな。囮になってくれるだろう」
戦力が減ったのは痛いが、陰獣でも駄目なのに烏合の衆では意味がない。
ここは説得やら腹の探り合いをしなくても良くなったことを喜ぼう。それにクラピカと能力に関して話し合えるというのは大きなメリットだ。メモ用紙に公開できる能力を記して交換、その後に焼却処分することで合意した。
「呆れた奴だ。妙に気を使っていると思ったらその為か」
「お互い様だろう? それに重要なのは彼らでは無くお姫様だろうしな」
偽善かもしれないが、被害を出すかもしれない人間に手を貸しただけだ。
どうせ今から撤退しても、目を付けられている場合はどうしようもない。あえて言うならば早めに逃げ出したことで、原作より死者が出ない可能性があるのだから勘弁して欲しい所である。
「クラピカは大男の相手で良いのか?」
「それで構わない。色々と試したいことがあるからな」
「なら残りの足止めは俺がやって置こう。陰獣に関しては壊滅しているそうだ。生き残りはお宝を置いてからということで、合流が遅れるらしい」
今回の件で唯一良かったことは、指揮権が一本化されることである。
他の連中が手を引いている事もあり、俺の指示で全部動くし、戦力的な問題からこの場を意地でも守ろうという奴は居なかった。
「概要を説明するが、この建物に爆発物や発煙筒を仕掛けて旅団を分断する。その前後で大男は車に乗せて運ぶが、囮というセンも考えてそのまま中を探る者も居るだろう。崩れる建物の下敷きにするのが、あの男を倒す判り易い最適解だからな。二人は煙に紛れて脱出してくれ」
「了解した。こちらはあの男に伝言を残していく」
強敵を何とかするのに一番楽なのは足場崩しだ。
某ルルーシュでは多用する上に印象深いシーンを擁尾するから、アシバーストと綽名が頂戴されるくらいである。ここはその有用性を使わせてもらおう。もちろん古い建物とはいえマフィアの持ち物だろうから、ふっ飛ばすというよりは驚かす為の舞台装置でしかないけどな。
「センリツは最初の段階でクラピカの案内。その後は安全圏まで下がって、全体の誘導を頼む。不要かもしれんが建物内には無線を用意しておく」
「判ったわ。二人とも気を付けてね」
尋問用のアジトは何かあっても良い様に古い建物を使っているそうだ。
微妙に原作とは違う気がするが、どうやら幾つか建物があるらしい。ノストラードが借りてるアジトなのか、それともマフィアの持ち物なのかは知らないが、今はどうでも良い上に転生前の記憶なので確かめようがない。
「センリツ。確認するが相手の動きを把握するのに、攪乱は無い方が良いか? ダメもとの足止めになるからな。あんたの索敵力次第では止めておく」
「そうね。大きな音や断続的な音は止めておいてもらえると助かるわ」
「なら最初と最後の足止め以外に爆薬は使わないことにしておく」
この段階で旅団は三つ以上に分断できる。
最初の撤退組を探る者、建物に残る者、そして車を追い駆ける者である。そしてメンバーの能力と役割を考えれば、おのずと居場所が推測できた。撤退組を探るのは情報収集と数の対処が出来るシャルナークとフランクリン。建物に残るのは煙や瓦礫を対処できるシズクに心配性のノブナガ。おそらくだが車を追うのは糸使いのマチに機動力の高いフェイタンになるだろう。フィンクスとボノレノフは車と建物のどちらかと思われる(団長の所に居る可能性もある)。
「可能性論だが『余剰戦力』はおそらくこんな感じでバラけるだろう。大男は動けるようになり次第に酒を求めるとは思うが、直線的にクラピカを追う可能性もある気を付けてくれ」
「……確かに私もこの流れがあり得ると思う。ならば問題は不要だ」
俺は説明しながら襲撃組ではないヒソカの名前を指さす。
戦闘員ではないパクノダとコルトピの二人と共にクロロの居るアジトに残っているのではないかと思う。もちろん、試験編でクラピカと話していた事を覚えて居るからであり、原作を覚えて居るからである。おそらくは取引はこの世界でも行っているのだろう。もしクロロがアジトを捨てて自らも動く場合、ヒソカが仕掛ける可能性が高くなる。もちろん遊びに行くと言ってイルミと交代するために出ている可能性もあるのだが。
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『アジトに旅団らしき人たちが入り込んで来たわ』
「こちらでも監視カメラが潰されたのを確認した。五分後に仕掛けるが、そちらの健闘を祈る」
ご丁寧に尋問室で待つ必要はないのでサッサと行動する。
五分後に屋上で一つ目の爆薬が起動し、七分後・十分後・十五分後に別々のスモークが焚かれる様にしていた。もちろん俺は別の建物に隠してある車から連絡を入れていた。本当のことを言えば俺たち三人とも、さっさと逃げ出した方が良いんだけどな。出来ない理由があるのがもどかしい。
「俺は途中で降りて追っ手を誘き寄せる。お前は三十分ほど走らせたら車から降りて逃げて良いぞ。だが早めに降りるなよ、あいつらは徒歩でも速い」
「は、はい。判りました」
何が面倒かといって、マフィアの下っ端が居る事だ。
ゲストであるリンチやNGL組は既に逃がしてあるが、尋問用のアジトの周囲にはまだまだ人が居た。何処かの組織の連中だろうが、力関係で彼らも素直に逃げれないのが哀れである。俺らも似た様な物ではあるが、望んで踏み留まった馬鹿なのでつける薬は無いと評されるだろう。
「ミッション、スタート!」
『『了解!』』
屋上を爆破して色々な物をふっ飛ばす。
それを合図に車のエンジンを掛けて移動準備を行い、最初のスモークに紛れて俺の搭乗した車が逃げ始める。暫くしてスモークをシズクが吸い込んだのだろう、連中が判断を切り替えた所で二つ目のスモークと同時にクラピカたちが移動する算段になっていた。
『すいません。足止めに失敗しました。そちらへ何人か向かいます!』
「構わん。適当に撃ったら、三つ目のスモークに隠れて撤退しろ。お前たちの活躍は報告するよ」
当然だが旅団の動きは早く、既に数名がこちらを追っている模様である。
そこで俺はバックミラー越しに姿を確認しつつ、地図で確認しておいた場所で窓を開けて飛び降りることにした。タイミングを合わせて車は左折し、可能な限り逃げ続けてくれるだろう。ウヴォーギンが途中で目覚めたら、クラピカが指示した決闘場所に向かうであろうと思われた。
(念糸が車に付いているな。予定通りだ、性格的にもマチはウヴォーギンを救助に向かう。ならば俺は残りを何とかすれば良い)
凝を使うと簡単に陰で施された糸が見える。
僅か一瞬で車にオーラの糸を延ばすとか相当な離れ業だが、今はそれが致命打になり得た。位置はウヴォーギンのオーラを感知して延ばしたとか、左折の為に減速した瞬間を狙ったのだとは理解できる。しかし、こちらは『旅団ならばそのくらいできる』という計算で作戦を組んだのだ。むしろ、そのくらい出来なければ困るというものである。
(よし、このまま貯水池をAプラン。駄目ならその辺の給水塔でBプランと行こう。カキン念法、逃げ水の術!)
俺は走りながら印を組み、手持ちの水でスクリーンを張った。
俺に単純な映像を映し出して移動する自動制御で、ヒソカのドッキリテクスチャーほど再現度は高くない。しかも光源などで歪んで見える為、逃走しながら距離を稼ぐとか、夜などの視認性が低い時にしか役に立たないというレベルだ。もちろん特質系から放出系は遠いので、込めたオーラが尽きたら移動すらしなくなるし、それなりの量の水を使ってしまうという欠点があった(テストに出ます的な)。
「おい! てめえ程度の陰でオレを撒けると思うなよ!」
(三人目はフィンクスか。フェイタンやマチに追いつけるとか、なかなかのフィジカルだな)
それから色々と時間を費やした後、次の追っ手が見えて来た。
どうやら人数配分と体力の問題で彼がこちらに来たのだろう。おそらくは単体火力のある二人の内、装甲も作り出せるボノレノフが建物へ、フィンクスが車を追ったのだと思われる。まあ咄嗟の判断でも仲の良いというか、他と仲の良くないフェイタンと一緒に居ることが多いからな。
「随分と逃げ回ってくれたじゃねえか。てめえには色々と話がある」
「構わんよ。時間稼ぎをさせられただけだ。ただで一つ、交換で良ければもう少し話そう」
仲間の合流を目指しているのか余裕なのか質問を浴びせて来た。
実にありがたいことで、もう少し時間を稼ぎたかったところだ。俺の功績でなく、勝利と生存問題の為に時間が必要なのである。彼が到着するまでの数分が活かされるかどうかが、この時間で果たせるだろう。
「素直じゃねえか。信用できねえなあ」
「無理なら答えられないと言うさ。それに……力関係で逆らえないだけで、むしろスっとした。まあ、君らからすればマフィアというだけで上層部も系列組織も変わらないんだろうがね」
ここで嘘を吐く理由がない、時間稼ぎが重要だと告げておく。
嘘でもないが本当でもない。カキン・マフィアは十老頭に逆らえないからな。あの手この手で押さえつけられているし、今回は自主的に協力しているからある程度の判断権が残されているが、放って置いたら強制的な命令が下っていただろう。
「それとも先に幾つか質問を並べるから、そこからこちらを判断してみるか? 例えばそうだな……君たちは流星街出身か? もしそうなら早く言ってくれ。敵対しない様に言われてるから俺はさっさと逃げることにする。もちろん君は構わずに俺を殺しに来そうだけどね」
「ちっ……。その問いに答える理由はねえな。だが言いたいことは判った」
推測込みで尋ねてみた様に装う。だが、あながち間違いではない確認だ。
流星街とマフィアン・コミュニティは持ちつ持たれつという事になっている。また、街の人間が害されると報復するので、マフィアは人材を得ていると同時に報復を恐れて、あの街の出身者には手を出すなと言われるわけだ。もちろん系列によってはそんな事を無視して、死人に口なしと隠蔽に掛かることもあるけどな。
「あの車にウヴォーの奴は居るか?」
「大男の事なら間違いないぞ。番号を照会して反応が無かったからな。流星街の上に是非を尋ねる為に動かす所だった。もちろん『そんな奴は知らん』と言われたら始末する事になるから、君らがこちらを殺そうとする理由も判るさ。だから、それ以上は近づかないでくれ。警戒して全力を出しそうになる」
当たり障りのない会話を行いながら数分の時間を稼ぐ。
この世界の人間はただでさえスペックが並外れているし、念能力者は更に凄いからな。普通の人間ならば倒せている時間でも、ピンピンしている可能性があり得た。
「けっ。臆病者なのかずる賢いのかどっちかにしろよ。読み難くて叶わねえ」
「どちらかと言えば臆病者で間違いは無いな。あの少年といい君らの実力には届いてない。相性が良くないと二人以上は無理だな。あの大男ならば奇襲さえされなきゃ何とかなるんだが、バランス型はどうしようもないな。実力差で叩き潰されそうになる」
念能力者の戦いは実力以外のファクターが大きく影響する。
強化系を中心として変化系・放出系の一部はバランス良くて苦労する。スピードも火力も高く、油断すると一瞬で殺される上に、色々な搦手を用意されたらもうどうしようもないだろう。最も、ウヴォーギンみたいに火力特化で待つことも多いタイプは、操作系や具現化系の嵌め手で倒せるので何とかなるというのも嘘では無かった。
「少年……鎖野郎はガキなのか? そんな奴にウヴォーが?」
「どうだろうな。青年という程ではないが……ただ復讐のために念を身に着けたと言っていたよ。その話を聞いた大男が妙にスッキリしていたのを覚えて居る。だから若く見えるだけか、若くして身に着けてもおかしくない恨みだったんだろう」
言いながら俺は時計を眺めた。クラピカと車の移動時間確認のために。
そろそろ逃げ出すかフィンクスを倒すための努力をするべきだろう。まかり間違ってウヴォーギンがこちらに来ては困るし、建物へ突入した連中がフェイクに気が付いて移動してる可能性も高いからな。
「そうか……。最後の確認だ。鎖野郎の詳細な能力を知ってるか? 教えてくれたら生かしてやっても良いぜ」
「残念ながら答えられないな。それに君、マフィアという時点で容赦する気ないだろう? 俺でも同じ立場ならそうする。うちの国の連中がかなり食い物にされてるからな。何処の世界に上納と称して生きている人間を要求する組織があるって言うんだ。そういう意味では、あんたらはこっちのマフィアにとっちゃ英雄ではあるよ。戦う気ならば容赦はしないがね」
最初の交戦から十分。もう問題ないだろう。
そう判断して話を切り上げることにした。どうもフィンクスも同じことを思ったみたいで、獰猛な笑みを浮かべながら歩み寄って来た。何気ないフリして腕を回そうとしやがったので牽制をしておこう。戦場における心得の二、負傷兵を返すことで敵の全力を削ぐべしというやつである。
「そうか。悪いな、死んでくれ。英雄に殺されるなら本望だろう?」
「良いね。幻影旅団はそうじゃないといけない。一ファンとしては生で三人も見えて気分が良いよ。だから今のうちに返して置こう」
「は?」
俺は携帯式の念空間を解放して、窒息させておいたフェイタンを解放する。
先ほどの逃げ水の術を覚えて居るだろうか? 相当量の水を後方に投げ捨てるように使わなければならないのだ。ただ、その水を再利用してはならないという理屈はないし、コントロール距離ではないと機能しないから、追加の印による自動操作で問題無く操れる。今回は逃げ水を貫く様に追って来たフェイタンの顔を覆って窒息状態に追い込んだ後、一番大きな部屋に回収して移動しながら、完全に窒息するのを待っていたのである。
こうして一人目を脱落させる為に時間稼ぎは終わった。そう、ウヴォーギンを乗せた車が逃げ去る時間を稼ぐのでは無かったのだ。
という訳で、ノストラード一家の人々は去って行きました!
ネオンを守る戦力は維持しないと駄目だし、囮も要るから仕方ないよね。
まあ、クロロの能力をパパや護衛団が知ったらこうなるのは当然でしょう。
●初手逃げからのアシバースト
相手は最低でも八人の凄腕。こっちはセンリツ含めて三人。
まともな方法では勝てないので、仕方がない所ですよね。
今回は偶然ではなく、人数を能力と思考を絡めて分断しました。
もちろん冷静ならば簡単に見破るでしょうがウヴォーが掴まってるので。
●フィンクスとの会話
全力で時間稼ぎです。ただでさえ不利なのに二対一じゃ無理ですから。
ただし、念能力者は相性が重要なので倒せなくはないとしました。
もちろんフェイタンに行った奇襲も、ノブナガとかシャルナークには通用しないし、フランクリンやウヴォーの場合は水の量が足りないでしょうけどね。
なおクロロの場合は、途中で交えた『嘘ではないが本当でもない会話』を見抜くと思います。ヒンリギもボノの嘘を見抜いてましたし、軽いかと。