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「てめえ、何時から……」
「最初からだよ。君自身が陰の未熟を指摘しただろう? あれは迎撃した後で陰を掛け直したからだ。それとも各個撃破を狙った事かな? 糸によく凝をすれば見える程度の陰が掛けられた理由に気が付いた時点からだ。スピード差のあるメンバーで来ると思ってね。でなければ陰を掛ける理由がない、何しろみんなで囲めば済む」
フィンクスは転がったフェイタンの方を見ずに睨みつけて来る。
俺が奇襲することを警戒したのだろうが、二重の意味で不用意だ。一つ目はフェイタンに蘇生の可能性がある事。今過ぐ水を吐き出させてマッサージでもすれば、念能力者ならば助かる可能性はある。二つ目は言うまでもなく、俺が水使いであると把握してない事だ。もちろん念空間を解放した時にも予備が溢れたから、詳細なんか知らなくても良いという事だろうか。しかし、クロロなら即座に距離を取って情報を得ただろう。つまり、それをしないという事は、理由がある。
「あるいは死にかけのメンバーを返したことかな? それも最初からだよ。言っただろう、もし流星街の住人なら面倒なことになる。そこの少年ほどの強さが俺には無いし、二人以上とは相性が良くても戦えない。うちの国の連中を食い物にする上層部の連中に一泡吹かしてくれて気分が良いと。そしてそんな連中に尻尾を振る、別系列のうちの組織の連中をブチ殺してくれて感謝してるんだ。同国人だから殺す訳にはいかなくてね」
「要するに、オレを舐めてたってことだな? 殺してやる……」
「……君、仲間を助けないの? まだ間に合うと思うけど」
フィンクスは腕を回すのではなく、闘牛の様に軽く足を踏み鳴らした。
地団太を踏んだというよりは、気合を入れるような姿。もし先ほど軽く回した腕のチャージも解かれて居ないならば、足の方は別の能力だろうか? それとも俺が水を操る分岐に、言葉・音・印と使い分けたり、あるいは再調整を掛けて、指の印だけではなく足でも印を用意したりするような物かもしれない。
「てめえを今すぐブチ殺してからそうするよ!」
「なら仕方ないな……間接キスだ」
「遅せえ……っ!?」
どうやら足を踏み鳴らすと高速移動らしい。
飛んでくるわけだが、フェイタンと違ってフェイントを入れない直線なので水を使ったガードがきる。もちろんさっきの動作を発の為の制約と誓約であると思って居なければ、咄嗟にコマンドの印など結べないが。ちなみに、『関節キス』というのは単純に、足元の水よりフィンクスに近い水……フェイタンに呑み込ませている水を使っただけの事である。もし彼を心配して見て居たら、体内から外に待機させておいたのが確認できただろう。
「操作系の癖してなんてパワーだ。強化系の俺をここまで抑え込むたあ……」
「条件があってね。さっきそこの少年を入れていた場所とは違って、その周辺は圧力が掛かる。他にも念空間越しに奇襲攻撃してはならないとか、武器や具現化系で作った装備を持ってはならないとか……まあ、そういう感じでガチガチに固めているんだ。ちなみに俺は念空間越しの奇襲を108通りは思いつけるから、こういう縛りが成立する感じだね」
もちろんハッタリであるが、驚かせることに意味はあるのでやっておく。
そもそもクラピカとウヴォーギンの一騎打ちを成立させるための時間稼ぎだしな。フィンクスが強情を張ったおかげでフェイタンに入れていた水を使う羽目になったものの、このまま行ければ二人目の旅団メンバーも倒せるのも大きい。
「そんなに発の使い道を思いついてどうしやがるってんだ。ハッタリ野郎!」
「打点鐘。記録を刻み、一定のリズムで時間が経過するという概念の事だ。君の場合は腕を回転させてパワーを、足を踏み鳴らして脚力を。察するに歯を噛み鳴らして咆哮をするとか、伝言とかじゃないか? もちろんそれぞれに応用が出来る。変化系のオーラを混ぜて手刀の鋭さを増し、裏拳なり扇いで風や衝撃波を作り出す放出系のオーラを混ぜる」
本当にそうなのかは別として、簡単に能力を推測しておく。
強化系なので単純に自分の能力を強くする発があれば良い。ゴンみたいに制約ではないが、無意識の誓約として放てるオーラが増えて居る例もあるけどな。それを考えたら『繰り返せばその部分が強くなる』というのがフィンクスが持つ廻天の本質ではないかと思われた。普段は腕を回すという仕草に絞る事で、攻撃力を高めつつ、他の強化も出来るという事を隠しているのだろう。手刀とかスイングでの衝撃とか、そういう発があるのか、単純強化なのかは分からないが。
「てめえ……俺の能力をベラベラと……死にたいようだな」
「さっきから君、それだけだな。だけど理解はできる。流星街とマフィアは持ちつ持たれつ? 馬鹿なことを言うなってやつだよな。住人を浚ったり騙して食い物にする奴を身内だと思えるもんか。まあ、そう言う意味で君が俺を殺したいのも理解できる。好き好んでマフィアの家系に生まれたわけじゃないが、生きるに十分な食い物をくれた分だけは感謝しているからな」
俺の言葉をフィンクスは否定しなかった。
腕以外にも強化できるとして、足踏みではないかもしれないが、それを肯定する理由はない。また『流星街とマフィアは持ちつ持たれつ』なんて思ってるのは、おめでたい連中のみである。実際には報復処置でビビらせているだけだし、それでも馬鹿が拉致ったり騙して来るから犠牲者は出る一方だ。だから今回みたいなことがあれば平然と殺すし、ウヴォーギンなんか待ちかねたと言ってたではないか。俺もカチョウとフウゲツ以外のカキン王族に身内意識はない。
「解せねえなあ。お前が色々関心を引いてんのは、俺より弱いくせに時間稼ぎするためだろ。鎖使いの為にそこまでする理由があんのか?」
「報復の対象じゃなく『喧嘩を売るなら買う』に抑えてるだけさ。ただ……」
今度はフィンクスが話をしながらフェイタンの方を確認している。
そこから出ている水の量を見て、放っておいても蘇生可能かそれとも彼が助けないと駄目なのか、あるいはもう死んでいるのかを確認。さらに言えば、押さえつけている水の量に関する事を簡単に計算しているのだろう。
「復讐の為に命懸けで身に着けた念が通じるか、一騎打ちで挑んでみたいと言ったんだ。大男の方も受けて立つって顔をしてた。だったら男としては見守るしかないってもんだろ? それに興味があるじゃないか、何処まで工夫を積み上げたらあのレベルの能力者に勝てる自信があるのかと」
「なるほどねえ。判る様な判らんような。とりあえず、てめえは死んどけ!」
「お前がな!」
水の圧力と水量を計り終えたのか、フィンクスが襲い掛かって来た。
ついでに言うと離れた所で爆発が起きたのが判る。おそらくは携帯か何かで『もう直ぐ追いつく』とでも連絡が入っていたのだろう。どうやって音を切ったまま知ったのか分からないが、ひとまず此処は受信振動の回数くらいだろうと辺りを付け、手元に水を集めて戦闘に移行することにした。
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「アクア! エル……アクア!」
「弱ええ! うっらあ!」
俺の放った水圧砲を弾き、続けて放つ大水圧砲を拳で破壊。
フィンクスは大雑把ながら俺の力を把握しているようだ。この辺りは純粋に戦闘目的で発を作っている彼ら戦闘員と、汎用性重視でマジックハンドやウォターカッター程度の俺との差であろう。
「死ね、よ!」
「そうはいかないさ!」
軽く腕を回してストレート! 回数は少なめの速攻だ。
おそらくは俺が操作系と言う話を信じて、素の威力強めで十分と判断し、廻天を囮にした簡易フェイントを掛けて来たのだろう。『馬鹿め俺は特質系だ。もっと防御力は低いぞと』でも言ってやらなければなるまい。とりあえず、水を使って自分の体を持ち上げたので無事だったけどな。
「拘束する力を移動に使ったのか。便利だな」
「元から作業用だからな。自分を操作することも出来るし、汎用性重視なんだ。まあ、だからこそ火力が低いだけだが……こういう使い方も出来る」
浮遊状態ではジャンプからの一発で殴り殺されるので、着地して纏った。
大量の水を圧縮して魔術師のローブの様に着込み、半端な攻撃では通じない鎧に変えてしまう。強化系なら攻防力次第で貫通できるだろうが、こちらはスーパーアーマーと攻防力の二段回なので、複数回巡らせた状態の廻天以外では突破できまい。
「水の拳に水の触手? 気色のワリィ!」
「水さえあれば何でもできる。まあ、それでも世界じゃ二番目だがね」
水のローブを維持したまま散発的に殴り合う。
これを鎧代わりに纏わないとフィンクスの攻撃を防御出来ないし、一定のルール内でしかダメージを与えることが出来ない。こんなものは読み易くて向こうの方が有利なのだが、フィンクスには余裕を残してはいても、攻めきれない理由がある。俺がフェイタンを巻き込まないかを確認するだけではなく、顔を覆って窒息攻撃を狙わないかどうかだ。もちろん関節技ならそれも行けるのだが、その時は窒息する前に廻天で殴って来るだろう。
「見切ったぜ! お前の拳が威力を高めるのに通る必要のある場所、そして触手が俺を凍らせるのに必要な場所! 調子に乗って能力を喋り過ぎたな!」
「仕方ないだろ? そういう制約なんだ。君の上や下に扉を開いて水没させたり出来ない決まりなんだよ。もちろん、基本的には説明しなきゃ圧力室や凍結室を通すことも出来ない。まあ、その分だけ便利に使える様には成ったがね。ああ、ついでに言うと、毎回場所が変わる可能性があるから、次に戦う時は過信しない方がいい」
「ほざけ!」
どうやらフィンクスは何発かの攻撃を受け流す際に理解したらしい。
こちらが全力で捕まえに行けばそんな余裕はないが、彼の方が強い上に強化系だからそれもできない。まあ具現化系のシズクあたりなら可能だろうが、その場合はデメちゃんで水を吸われて一環の終わりなので、相性差というのは非情である。だからこそ、俺も相性の良い相手には有利に戦えるわけだ、愚痴っても仕方がない所であろう。
「終わりだ。てめえの限界は見切った。十分な火力でブンなぐりゃあ、水なんぞ意味はねえよ」
「なら使わないことにしよう。さて、質問だ。月は出ているか?」
「あ?」
夜であり、今夜は月のある夜なので勿論出ている。
ハッタリもあり凍結室がある場所を経由して、操り切れない水の一部を天へと打ち上げた。俺がやる場合は雪が降らなくても良いのだが、冷えた水が散布されて雪が降ったら御の字だろう。そして最後に笛を取り出して、濡れてなければとある系統の曲を吹き始めることで準備は整うことになる。
「……冷めてえ。九月に雪だと? 本当にてめえ何でもありだな。で、それがどうしたよ! その笛も自分で死に際を飾んのか!?」
「条件はクリアされた。雪、月、花が揃った範囲でのみ使える第三の能力」
「花なんてどこにも……ちっ!」
それはカチョウとフウゲツを守るべきエリアの創造。
ゆえに二人が居た時に強くなるジョイント型ではなく、二人を守るための能力の起動。雪月花を象徴できるモノがなければ発動できず、かつ、その象徴する範囲でしか機能しない。また、効果も俺が身に着けた能力を及ぼすだけの代物だ。『我が征くは夢の大海』による水操作は最初から使える範囲なので、誓約で底上げになってる以外に意味はない。ゆえに念空間の効果をエリアに及ぼすための存在である。
「つまり! その曲が花か! くそったれ!」
(御名答。候補は幾つかあるが、制約と合わせて千本桜を聞かせてやろう)
フィンクスはフェイタンを拾って逃走を始める。
当たり前だが鼓膜を破って無力化を試みたりはしない。制約と誓約は己を縛るものであり、聞いた人間に幻覚を与えるような能力で無い限りは意味がないのだ。そして能力の特性は念空間の能力を与える以上、圧力室・凍結室・浮遊室などの効果を与えることが出来る。まあ、選んで与える為には、曲であったり画像であったりの制限が厳しくなるのだが。
「なんだ、体が宙に……がっごほ、がは、ちく……しょう、が」
(二人目。問題は笛の音なんて鳴り響いたら他の連中が寄って来るだろうな。迎えの車が間に合えば良いが……最悪、またフェイタンだけ回収するか)
浮遊室の効果を適用すると、俺もフィンクスも浮かび上がる。
欠点として全体に及んでしまうのと、自分なり味方を適用から外すにはまた新しい制約が必要だろう。三つ目の発である『雪月花』は作り立てであり、まだ全体効果しかないのだ。ここから再調整して、敵味方を選べる『乱れ雪月花』へと完成させる必要があった。水を操ってフィンクスを窒息させながら俺は迎えが来るのと、敵の増援が現れるのを秤にかけたのである。
そしてセンリツがこちらに居ることが、命運を分けた。
という訳で二人の幻影旅団を倒しました。
策に嵌めてガチガチの罠に落としてるのですが、こっちの方が弱いので。
フェイタンがさっさと倒されているのは、せっかちで罠に掛かり易いのと
あの謎言語を再現するのが難しいからです。
●フィンクスの能力
リッパーサイクロトロン以外に、同じ感じで応用技があるとしました。
「繰り返せば繰り返すほど強くなる!」というのは何でもできそうだし
手刀とか衝撃波を強化とか、そういうのは発なしでも行けそうです。
もちろん、そう言う感じの証拠があるわけではないので妄想です。
●『雪月花』 → 『乱れ雪月花』
暫定的な三つ目の能力。
念空間の力を全体へと及ぼす能力を有している。
現時点では発動に条件があるのに加えて、自分や味方にも効果を及ぼす。
当然ながら圧力が掛かるし、浮遊するし、とても寒い。
ユキは水の中で作業するダイバーでもあるので、慣れているだけ。
(仮に治療室を作った場合は敵味方全員が治療される)
・曲で補えるとして、なんで千本桜なの?
主人公は『雪月花』を覚えて居ません。え? 沢山あるの? 状態。
また、公園に誘導できなかったので花がありません。襖絵とかも空間に入れてません。
という訳で第三の発お披露目と旅団メンバーへのプチ勝利回です。
書き溜めて分割・修正して書いてるので、今思えば迂遠な事をしてるなあと思います。
また、書き溜めはヨークシン編までなので、土日に執筆するとしても、そのうちどこかで一話に三日~五日くらいかかる様になるかと。