出発
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(これは所謂、ネン=燃というやつかな?)
カチョウとフウゲツに念の基礎修業法を教えてから逢えなくなった。
頻繁に逢わせても縛り付けることは出来ないから、一度引き離してからご褒美効果として面会させてやろうという算段かもしれない。あるいは仮初の恋人との手ほどき期間が終わったとして、今の間に『他の候補』と親密にさせ、表社会の連中にコネクションを築かせているところかもしれない。
(俺も数に入れればいくら何でも特質系が多過ぎる。おそらく古代からカキンで同じことが行われてきて、近代に至るまでに詳細な知識が失われたんだろうな。だから念の知識をビヨンド・ネテロから聞いた段階で、改めて念ありきで血筋と経験則を再構築しようとしたってところだろう)
あれから発を形にしつつあったので、特質系で間違いはない。
念空間に組み込む放出系はあくまで広さや応用だから不要だとしても、群体操作に組み込む変化系は特質系の俺では、正攻法だと覚える事すら難しいだろう。それを考えれば俺は特質系であり、組み込んだ制約と誓約の影響で順調に覚えられていると思われた。そして、そこから来る特質系の多さを考えると、カキン帝国を名乗るまでに、強力な念能力者が経験則と制約ありきでやったことを、心源流が体系化した知識で再構築を目論んだのではなかろうか? 勿論証拠など無く、そう考えると納得がいくというだけであるが。
「ユキ兄さま。この料理、美味しいです」
「料理や掃除に凝り始めたってのは教えてもらったけど、何処の料理?」
「ジャポンじゃないかな? 仕入れてもらったレシピの中で再現性が高い物を選んだだけだから、詳しくは知らないんだ。カキンではあまり系統だった状態でレシピが集まらないらしくてさ」
ここ最近は自由時間が多かったので、料理を覚えておいた。
もちろん趣味ではなく、独自に行動することが許されてからの生活の為であり、自分の体と認識を正確にコントロールするための修行でもあった。無数のレシピの中からその状況に合わせてベターな物を選び、まずはレシピ通りに寸分狂いなく完成させることを意識する。それができたら配分量を崩して味わいや触感を変え、材料を別の物に入れ替えて、最終的には念能力で作成できるようにするのが理想だろう。
「そうなの? オムレツが載ったスパイシーなライスなんて珍しくもなさそうだけど」
「でもこの甘いライス自体もすごく美味しい……あれ?」
「同じ外見だけど別々の料理だよ。お行儀は悪いけど交換すると良い」
今回用意した料理は、天津飯とオムライスだ。
ともに日本食であり、元になった料理の基礎系である本国には存在しない料理である。修行の一環であり、また二人に楽しんでもらうために外見だけ同じになるように調整した。もちろん毒見役に対しては事前にネタ晴らしをしている。普通はこんな事をやったら顰蹙物だが、カキンが情報制限をしている事もあり(カタヅケンジャーが古く思われないくらいには遅い)、元になった複数のレシピを見せれば『新しい創作料理』としては問題は無い。
(さて、今のところは好評だけど……発で料理するとして問題は無いかな? 共通ルールに『武器を持たない事』を組み入れた場合は、包丁が武器扱いになるか次第で調整が必要だけど)
群体操作で操る物体は、色々試して水に決めた。
少しずつ操れる量を増やしたり、量を固定して速度や正確性を高めるには、重量が計測し易く何処にでもある水は修行用にピッタリだからだ。また、調味料や油を混ぜるなどの応用を行う事で、変化系をイメージし易いのが良い。他にも候補は砂鉄や水銀の操作もあったが、イザ操る時に水ならば何処でも調達できる。また普段から持ち歩いても不思議ではないのが良い。問題があるとしたら、精度や発生オーラ量を高めるために全ての発に『武器を持たない』『再調整するためには条件がある』という共通の制約と誓約を組み込むかどうかだろう。
(念空間に武器を格納するという利を捨てるわけだから、基本系だけでもそこそこ縛れるはず。念空間を併用した奇襲攻撃も封印すれば、それぞれの発には難しい制約をかけなくて済むと思うんだけどな。ただ、日常に応用する時にどうかだな。こればかりは試してみないと)
群体操作自体はカルトがやってるので心配してない。
漫画を始めとして様々なフィクションの知識を用いれば、水を利用した攻撃や防御は幾らでも思いつくことが出来る。現時点で『水操作』以外に『圧力変化』を組み込む予定だが(出来れば強化系の特性強化も?)、これだけに絞って一定量の水を操れば最低限の戦闘能力と様々な応用は効くだろう。原作登場人物であるモラウほどの汎用性はなくとも、成長するたびに強く便利になるのはある程度保証されると確信を抱いていた。
「そういえばですね。ユキ兄さまの為にプレゼントを用意したんですよ」
「ハンター試験に行くんでしょ? 浮気防止用も兼ねてだけど殆ど趣味ね」
「スカート……というかメイド用の服じゃないか。そりゃこの顔だからそこそこ似合うとは思うけどな」
二人がくれた服は所謂メイド服であった。
カチョウとフウゲツにそれなりに似ている事もあり、中性的な顔立ちだから女装できなくもない。しかし、そこまでして人の恋愛を防止したいのかという気もするが、これはある種の悪戯心だろうか? 股間というかスカートの内側を念空間に格納すれば隠し通すことも出来なくもないが、カルトほど女装して色気があるとも思えないのだが……いや、二人の目的は女の色気を出す事では無くて、女性を惹きつけないだけだから良いのか。
「二人が望むなら着てみせるよ。ただ外では必要性の方が重要。戦えなくなると困るし、これでも男だから成長に合わせて似合わなくなる可能性の方が高いしな」
「いやいや謙遜しなくても似合うって♪」
「ぜひ着てみてください!」
こういう時に迷うのは禁物なので、着る理由と着ない理由を述べた。
二人のプレゼントならば着ない訳にはいかない。ただスカートに足をもつれさせて動き難いとか論外だ。それこそ強敵の前だと動き難いというのはそれだけで致命傷足り得る。もちろん性別も性自認も男なので、無理に女装したくないというのもあるだろう。
「そういえばで言うと、ナイフの訓練も兼ねてゲームを作って来たんだ。後で遊ぼうか」
「いいわよ。負けないからね!」
「ふふ。その時だけでも着ていてくださいね」
暫く会えなくなることもあり、もう一つの訓練も見せておく。
生前は電源系ゲームよりTRPGやボードゲームが好きだったのと、一からルールを構築したりカスタムルールを考えるのも好きだったのだ。サークルの友人たちとコンベンションを開いたり、卓移動型ゲーム(パーティを結成し直すTRPG)も作ったりしたものである。この日は集められるボードゲームと覚えて居る生前の知識を組み合わせて、サイコロ二つ振りながら宇宙資源を集めていく、ガノタの開拓者というボードゲームで遊び倒したのであった。
(原作で見た念能力の中に、属人性が高いから凄い発もあった。フィジカルの高い奴がシンプルな能力を使い回したり、難しい条件をそいつならばクリアできるという理由で踏み倒すパターン。俺の場合は多分、これが一番能力を活かせる気がするんだよな)
念空間を作るのに参考にしたのは、原作のノヴとモラウである。
念空間と言えばノヴだしどう考えても広過ぎる念空間だが、特殊性は一切なく広さのみを放出系で追及し、更に属人性の高い制約と誓約があれば不可能ではないだろう。例えばマンションの設計を毎回一から十まで自分で行い、その全容を記憶しておかねばならない……とかだ。あの切れ者っぽいノヴなら、リアルでも建築士の資格があっても不思議ではない。逆のモラウの方はシンプルに仕上げて肺活量で何とかしているタイプだった。応用が効き易いが弱めと見せておいて、それを数十・数百倍の肺活量で何とかするとかある種の詐欺である。
(こんな感じで毎回ボードゲームを作って設置しろと言うなら、そのたびに特殊能力を持たせた念空間を用意できる。だけど、それじゃあ移動することの多い仕事をやると難しいだろう。だから逆にシンプルに収めることも可能にしておいて、小さくても良い場合は即座に作れるようにしておくべきだ。そうすれば状況に合わせて何とでもなる)
双子と遊びながら、ある種の確信を抱いた。
生前の経験もあり、そこそこ面白いルールのゲームを作ることも、その裏ルールを用意するのも難しくはない。だから後は検討を重ねて、ジックリ腰を据えたい場合や、特殊性が欲しい場合、小さい箱レベルで良いから即座に欲しい場合に備えられるようにするつもりだった。判り易く言えば、特殊能力が欲しい場合は拡張エキスパンションを入れ、そうでなければシンプル版でゲームを実行する。そして、スコア1の早上がりなら小さい空間、逆にスコアを稼げば大きくなる代わりに、とても難しくなるというルールを用意しようと思ったのである。
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「お前さんはどうしてハンターになりたい?」
「大切な人を守り、幸せにする為です。ハンターならばその力も得られますし、好きな子の夢を叶えるだけのお金も手に入りますからね。みんなで幸せになる事が夢なんですよ」
という訳でハンター試験編に突入した。
念を覚えてから挑むのだから、実力的な心配は全くない。どちらかと言えば、道中で行う『問い』の方が恐ろしかったまである。だって本戦はヒソカに注目されなきゃ、それほど困らないからね。
「次の状況に際して、二つから君たちが正しいと思う方を選びなさい」
ちなみに一番ビビったのは二択クイズである。
おババではないどころか、そもそも質問が違う。原作と同じ時間である事を確認していたし、最初の問いがほぼ同じだったから物凄くビビった。後の戦いで突破できる実力があるとしても、ここで『お前は不合格だ、帰れ』と決めつけられたら戦う以前の話である。
「ある町で重い疫病が流行ったが、手元には少数のワクチンしか存在しておらず、十分な護衛の数も居ない。君たちはその薬を少数に届けるかね? それとも、もっと大量のワクチンが完成してから届けるかね?」
「少人数を助けるのは不平等だわ。沢山のワクチンが必要でしょう」
「いや、全員を助ける必要なんかないね。社会に重要な奴を確実にだ」
「大前提が間違っている可能性がありますし、現地に情報がある可能性があります。少数を届けて現地で看護に当たった方に使うべきでしょう」
俺は少数を選びつつ、この場に居ないトンパを信じることにした。
試験編に登場する彼はなんと三十回以上もチャレンジし続けているという、凄いんだか駄目なのだかいまいち分からない人間である。だが、彼が予選で落ちまくったという話は聞かない。つまり、この二択クイズは『良く考えたら分かる問題』なのだ。少なくともこの設問で沈黙=答えないというのは論外だ。ならば大量にワクチンが出来るのを待ってから、『実は●●で駄目でした』なんて状況である可能性すらあり得た。
「少数になるね。だが、その先の考えが重要であるのを忘れてはいけないよ」
(だろうな。疫病に掛かった奴や輸送メンバー中に病に強いハンターであるとか、移動速度や護衛力の高い奴も居る可能性があるからな。受け入れ態勢を作る必要も考えれば、ここは少数で先に数人だけでも助けてから、判断するべきだろう。それに、こういっちゃなんだが、治せない大疫病の場合は住民ごと町を焼き払う必要もある)
色々考えると、この問いで最もやってはいけないのは時間の浪費だろう。
それこそ一人だけ助けてその血や体液を持って帰れば、『最も新しい型のワクチン』を作ることも可能かもしれない。場合によっては輸送メンバーに使って罹り難くしてから、死体を持ち帰るという手段も使えるだろう。幸い俺はそれに使える発を完成させた事や、カキンの様に平然と村を焼き払いそうな国に生まれたこともあり、こういう考えになったのもあるだろう。
「やあ。君は新人かい? 今年は有望な子が多いねぇ。どうだい、お近づきのしるしに……」
「申し訳ありません。外では自分で管理できない物を口にするなと主人に命じられております」
そして試験会場に辿り着くと、トンパの顔を見てホっとした。
これこそハンターの試験編であるという代名詞である。俺はそこまで繰り返して読んでいるわけではないが、前世の中には親の顔よりも見た奴だっているだろう。ただ、俺に関して言えば二択クイズで正解を導き出せたのはこの男の存在を思い出したからである。神様仏様と比較する気はないが、今だけは胡散臭い笑顔に大してトンパ様と崇めても良いと思った。
(原作メンバーは……居るな。とりあえずヒソカに気を付けるとして、本当に原作と同じ流れとは限らんし、差異には気を付けないと)
転生して原作と同じ時間という事は、何かの因果であろう。
だから原作メンバーが居ることは確信していたが、ハンターとよく似た別世界である可能性も高いので何とも言えない。少なくとも二択ババアであるとか、他にも細かい所で違っていたので警戒するのは当然だ。そもそもカキン帝国にマフィアの追加があったという時点で、パラレルワールドである可能性は高いのだ。
(これで条件はクリアした。レベルアップに備えて考察しておくか)
原作でクロロがスキルハンターの調整やら進化を狙っていた。
俺はそれを参考に、共通ルールに進歩条件と進化条件を付け加えたのだ。あえてもっと幼い時に最年少狙いで行かなかったのは、ジックリ念を覚えたかったのと、進歩条件=『念の再調整』や『派生系への分岐』に関して原作に関連するエピソードを条件の一つに加えたからである。また、どうせハンター試験に挑むのであれば、原作登場人物に関わり伝手を狙う方がファンとして当然の心理であろう。
という訳で発を作りながら試験編に突入です。
まあ念を覚えて居るので勝率自体は気にしなくて良いという感じですね。
●共通の制約と誓約
『デュエリストの流儀』
以下のルールを全ての発に適用し、新しく覚える発にも適用する。
・手に武器や具現化系で作った物品を持ってはいけない
・念空間を挟んだ奇襲攻撃を行ってはならない(ゲート・オブ・バビロンや空間居合い禁止
・能力の再調整や分岐能力は、進歩条件を満たさないといけない
・能力の大幅向上は、進化条件を満たさないといけない
(進歩は倒す敵や得た成果でのレベルアップ、進化は偉大な業績によるトロフィー獲得による)
●1つ目の発
『
四畳半の念空間でカードゲーム行う事で拡張ないし、制限が掛かる。
・基本的な制約と誓約
一度のドローでランダムに数枚ずつ配られるカードを並べる。
部屋のミニチュアを制限時間内に完成させる必要がある。
全て使い切れば一段階目のスコアを達成し、より大きな建物にチャレンジできる(そこで終わっても良い)。
・制限時間内に使い切れない場合、バーストしたとして一段階レベルが下がった状態でシーズン中固定される。
・別の場所で再構築する場合、シーズン中はまったく同じカードが同じ順番で再配布され、制限時間内に再び完成させなければならない。
・特殊能力のある部屋を入れたい場合、基本セットにエキスパンションを追加することで、手習いで設定することが難しくなる。
・上記の特殊能力の為にエキスパンションを追加した場合でも、状況によって組み入れられずにリムーブされた状態でゲームを行わなければならない。
これらのルールを再調整できるのは、共通制約に則って、進歩条件を満たした時のみである。
一つ目の発はこんな感じの能力とルールです。
特質系なのに特殊能力を組み入れ難く、速攻で起動が難しい。
だからこそ今の段階でも一応は完成しているが、共通ルールで再調整も難しい感じ。まあ主人公の得意分野なので、ペナルティをある程度は踏み倒せますし、裏ルールで悪さも出来るのですが、それはまた今度。