インモラルなステディxステディ【完】   作:ノイラーテム

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ヨークシンで一番長い日。後編

「そう言う事か! つまり、最初からか!」

 

 脱出したシャルナークとその介助にあたっている旅団メンバー。

 

その二人を倒すため、可能であれば捕虜にする為に俺はマチ達がやって来た周囲を捜索した。そこにシャルナークであったモノは存在したが、介助していた者は居ない。仕方なくオークション会場に移動しながら俺は簡単に思案をまとめる。

 

「既に死んで居る……そしてこの針……最初からお前の仕業だったんだな……」

 

 洗礼を受けた初心者などは、オーラを全て絞り出すと死んでしまう。

 

その状態でシャルナークは死んでいた。それも微妙な場所であり、隠れようとしてその間に死んだのか、あるいは命令されたのか判らない。何故ならば、その死体にはイルミの針が刺さっていたからだ。

 

(という事はアンテナを破壊したのも奴の仕業か! 針に込めたオーラが尽きてシャルナークが正気に戻った時に報告しない様に、そしてマフィアも幻影旅団も同時に混乱させる為だ。ヒソカとクロロの依頼を同時にこなすために……)

 

 イルミ・ゾルディックという男はサイコパスである。

 

何がアレかというと、自分の尺度を全てに適用するマイペースな男なのだが、別にソシオパスではないから社会生活を送ろうと思えば、普通に送れる事である。つまり、後で問題があるかもしれないと判っていて、面倒だから楽な方法、確実な方法だからそれで良いでしょという考え方をする男なのだ。

 

(おそらくイルミがこの時点で請け負ったのは『マフィアを混乱させる』ついでに団員が捕まって居たら『可能だったら助けてやってくれ』という依頼に対し、シャルナークを脱出させて『運が良かったら生き残るでしょ』と判断したのだろう。そして双方の依頼を果たすためにアンテナなり基地局を潰した……)

 

 きっとイルミの中ではそれで問題無いと完結しているのだろう。

 

罠だと疑われたり説明は面倒だし、わざわざ小道具を回収して返してやる手間を行う必要がない。そしてシャルナークを囮にすればヒソカの依頼も果たせるのだから矛盾だとは思わないのだろう。子供にだって判る様にクロロがいちいち細かく指示すればシャルナークのプライドは潰れるし、説得を楽にするためにクロロがそこまで言った事を伝えるだろう。またイルミにとっては同時にこなせないならブッキングとして先約を優先するが、同時にこなせるならば問題無いとしてやってしまいそうなところがあった。

 

(俺にとっての問題はそこじゃない。問題はイルミがどこまで頼まれていて、どこまでやる気なのか、だ)

 

 クロロとイルミの依頼の仕方次第でこの件は幅が広がって行く。

 

判り易く言えば、クロロの場合は既に十老頭の暗殺依頼を頼んでいる可能性が高い。アンテナを潰して携帯を使え無くしたのは、暗殺を実行するのに丁度良いだろう。幻影旅団になすりつけるにはピッタリだし、疑われるのはお宝の奪取だからこそ、一見無関係に見える暗殺は成功させ易くなる。もちろんこの件は俺にとっても都合が良いので、放置するのがベストだ。どこかのエルフも言っていたが無関係な災いに対処しても利益は少ない。

 

(クラピカにはイルミが援軍として駆け付ける可能性があると言ったが、本当に近くに潜んでいるのか? 事前に可能な下準備だけはやるが、既に契約は果たしたとしてマフィアン・コミュニティの持ち家の何処かに潜んでいる可能性が高い。急がないとマズイな)

 

 此処に来てシャルナーク探索が完全にマイナスになっている。

 

お宝周りの激戦を避け、ボノレノフを倒してスコアを挙げることはできた。だが、それだけだ。より重要なクラピカは単独で戦いに関わり、既に危険な状態である可能性すらあった。旅団に勝利するだけなら既にフィンクスを正面から打ち破っているので、相性の良いボノレノフに余裕勝ちする意味はあまりなかったと言える。こんなことなら最初から、お宝襲撃中に二人で後方を突けば良かったのか!?

 

「逃走した旅団のメンバーを追っていたジェイ=ピ一家の者だ。そいつは第三勢力に殺害されたようだと上に伝えてくれ。他人のやったことを手柄にする気はない。ただ、余計な横槍が入るかもしれんとな」

 

「は、はい! ですがオークション会場では大変な事が起きてます!」

 

「それは予想できる。旅団が集団で襲い掛かって来たんだろう?」

 

 移動途中で何処かのマフィアの車を見つけた。大型なので無線もあるだろう。

 

そこで周波数を知ってるであろう旅団に聞かれても問題ない内容で説明しておくことにした。今の俺の役目がシャルナークを捕まえることであり、念能力者だから殺しても良いという判断が付きまとうのは当然だ。ゆえに殺すだけでも功績になるのだから、ここで誤魔化す意味はないと理解してくれるだろう。その意味で混乱を煽る為に、第三勢力という言葉を使ったのだ。

 

「いえ! 幻影旅団が仲間割れしたそうです! その場で大暴れする大男が足止めを行い、頭目を浚った何者かをピエロのような男が追っているとか!」

 

「待て。大男というのは指がマシンガンになった男だな? 仲間割れ?」

 

 一瞬、クラピカが鎖で回収したのかと思ったが少し違うようだ。

 

いや、それともイルミがクロロの傍にいる奴を倒すか昏倒させ、その隙を突いたのか? ノブナガ辺りに化けていれば体格の問題も誤魔化せるだろう。まさかバスタードのアビゲイルみたいに、フランクリンの体の中から出てきたわけでもあるまい。

 

「それが大男が突然暴れ出して、敵も味方も攻撃を始めたそうだんです。我々もそれだけしか聞いてなくて……」

 

(っ!? フランクリンにも針を刺していたのか!)

 

 話を聞くのに時間を使ってしまったが、ようやく状況がつかめて来た。

 

おそらくなのだがシャルナークが捕まった当初、フランクリンも助けに行ったのではないだろうか? 場合によっては十老頭の所に梟が戻って、様子を探っていたイルミがずっと見ていた可能性がある。そこで梟が首尾よく回収し、逃走するところでフランクリンに針を使ったのではないだろうか? フランクリンなら警戒しそうだが、『クロロの依頼でマフィアの混乱を誘うのと同時に、出来れば助けてやってくれと頼まれた』と説明したのかもしれない。電話で確認すると言われても、全く問題ないしな。

 

(しかしそんなに長時間の命令が可能なのか? それとも要所以外はクロロの言う事に従えとでも言ったのか? それなら理解できる。そしてマフィアとの戦闘に成ったら、後先考えずに暴れろと命じた?)

 

 確か原作で十老頭に針を刺した時、普通に会話していた。

 

複数の針を刺していたことから、弱めの拘束で命令したのではないだろうか? 要請型と強制型を組み合わせて、強制型で支配下に置き命令したという記憶を消した後で、要請型に寄る緩やかな命令を掛けたのではないだろうか? それが『クロロの言う事を指示して実行する』という要請だけなら、フランクリンの意思とはまったく矛盾しない。その事をヒソカに伝えて居れば、クロロの意見を全肯定する流れに誘導すれば良いのだ。そして今に至る……と。

 

(やってくれたなイルミ……俺たちも旅団のメンバーも全部お前の駒か……。そしてここまでの事をやって置いて、別の流れで出逢ったら平然と会話する気なのか? やはりあいつは超ド級のサイコパスだな)

 

 みんなの尊厳を足蹴にしておいて、平然と接するつもりなのだろう。

 

それでどんな目で見られても気にしないし、自分の都合にも依頼にもまったく矛盾しないから問題ないだろうという判断なのだろう。これがコンピューターに与えるプログラムなら確かに抵触はしないのだが、人間はそうはいかない。当然ながらイルミの事を軽蔑するし、勝てないまでも挑むかもしれない。それで殺されない自信があるから構わないのだろうが、ここで頭おかしい事が一つある。マイナスを感じる事はなくとも、おそらくプラスの感情は受け取っている寂しがりなのだ(だからヒソカに親近感がある)。

 

「あちらの方向です。我々ではどうにも近づけなくて……」

 

「後は俺たちでやる! できるだけ無線は使うな。会場方面が大きく動いた時のみ連絡をくれ!」

 

 もう盤面はグチャグチャだった。

 

その理由はヒソカやイルミに事態を収集する心算も目的も無いからだ。あくまでタイマンできればそれで良いという事なのだろう。クロロを連れ去ったのはクラピカが90%、混乱したマチの可能性が10%。どちらにせよオークション会場の方は戦力がどうなってるか判らないし、主戦場なのでマフィアの下っ端が放つ流れ弾ですら怖いので参加は止めておこう。そういう意味でクロロ側一択で移動を始めている。

 

「ユキ、追いついたか! 邪魔しているその子は……」

 

「キルアの弟さんかな? 巫女系の能力者で紙使いとは珍しい」

 

「っ……」

 

 やがて追いついてくるとようやく詳細が分かって来た。

 

クラピカを牽制する様にキルアの弟……カルト・ゾルディックがそこに居た。そういえば原作でヒソカに化けたイルミが外に出る為のフォローをしたはずだ。その事を考えれば、確かにここに居てもおかしくないだろう。つまり場を掻き乱す事は確定していても、タイマンになるとは限らないから、アシスト役に付けておいたという事だろうか?

 

「一騎打ちの邪魔させない為かな? まあいいけど」

 

「……なんで判ったの? ボクの目的じゃなくて……」

 

「いや、逆に聞くけどなんで判らないと思ったの? 七歳までは神の内、それを元に十四までは二歳と数える。男と女の特徴を消し、逆の性別を強調する。どちらも神を降ろす巫女ないし巫覡としての力だ。察するに同調能力を生かした操作系。紙の内ってことだよね」

 

 カルトの言葉に頬を隠す髪の毛や、独特の姿勢に視線を向ける。

 

頬の髪は骨格を隠し、その動き方は膝や肩のラインを隠している。もちろん女の子も同じ動きが出来るが、少しばかりワザとらしい。もしボーイッシュな女の子だったら、きっと色彩とか小物をもう少し整える気がするのだ。要するに、『女の子のような中性者』としての面が出過ぎて、女の子女の子した部分が消えてしまっている。もし成長期で喉ぼとけとか出てきたら、ハイネックのチャイナでも着るのではなかろうか? 判らない人は歌舞伎の女形を演じる男性が、女性以上の風雅な仕草をするが、衣装と扇子以外は持って居ない姿を思い出すと良い。

 

「能りょ……」

 

「これは若水と言ってね、朝一番に汲んだ水で、オーラを通し易いと思っているから持ち歩いている水さ。咄嗟の時用だけど、必要ならばもっと増やそうか? さっきも言ったけど、一騎打ちを邪魔する気はないんだ。むしろ、旅団のメンツが来れば協力しても良い」

 

「くっ~……」

 

 カルトの能力はボノレノフ以上に俺と相性が悪い。

 

自分の能力を隠しているのに、バレバレだったから口封じしようとしたのだろう。だが、俺が先んじて水使いであるとバラし、それ以上説明するのを邪魔すると悔しそうに黙ってしまった。何しろこちらを脅そうとしたら自分の能力をバラすしかないし、殺すのだったらさっさと実行するしかない。だが、速攻で殺すには水使いの俺と、紙使いのカルトでは決定的な相性の悪さなのだ。致命的だぜ♪ と言っても良い。

 

「ユキ、本当に介入し無い気か?」

 

「重要なのはあの二人が拮抗して誰も手が出せない状態なんだ。ヒソカは本気の戦いがしたいだけで、別に結末が死である必要を考えてはいない。本気の結果が殺人に成り易いだけでね。今のグダグダな状態は幻影旅団の名声を落すには、まあ十分なんじゃないか? あれだけの戦いを繰り広げてるなら、仮に双方無事で終わったとしても、暫くは盗賊活動とか無理なんじゃないかな」

 

 最低でも残り八人のメンバーが居る状態で手を出すべきではない。

 

その上で殺すならばクロロだが、今この状態で介入すると、間違いなくヒソカもカルトも一緒にこちらを狙って来る。つまり、タイマンに満足している今が一番良い状態なのだ。もちろんクラピカは不満だろうし、明日にでも十老頭が死ぬとしたら、その悪名はゾルディック家では無く幻影旅団が受け取るのだろうけれど。

 

「それより双方が納得しそうな約束でも決めて置いたらどうだ? 『盗賊としての活動を再開するのは、二年後にヒソカとタイマンで戦った後のみ』とか。それなら一時的な休戦には応じてもらえると思うけど」

 

「除念の可能性は? お前がその可能性を見逃すとは思えない」

 

「感知できるようにしてるんだろ? 憶えて半年のお前には時間は味方だぞ」

 

「っ!?」

 

 しれっと殺したくなる面を見せたクラピカをカルトは睨んだ。

 

ゾルディック家の感覚的に教える子には幼いころから教えていたんだろうな。おそらくは基礎だけ長年教えて来て、熟練度と応用的にカルトは一年くらいであると思われた。そりゃ半年で幻影旅団で最強の男を倒せるレベルにまで育っているとなれば嫉妬もするだろう。ククルーマウンテン編の頃は兄であるキルアと仲が良いというだけで嫉妬してたのだ。それが念の才能でも上回ったとなれば決定的だろう。

 

「それでも……それでもあの悪逆非道な連中が野放しにされていると言うのは許せん。今後ものうのうとのさばるのを黙って見て居ろというのかお前は!」

 

「そこまで言うなら手札を切るか。俺の事情を調べはしたんだろう?」

 

「……悪いとは思っている」

 

「なら良いさ。お互い様だ」

 

 ノストラード一家がカキン・マフィアの事を調べられないとは思わない。

 

俺が接触して時間があったのだし、付き合いのあるマフィアだって居るだろう。ネオンの力を宛てにした連中の事を考えれば、その辺りの情報を集めることは難しくないだろう。

 

「君。済まないがあの二人にオリガミか何かを張り付けてるんじゃないか? もし邪魔が入りそうだったら伝言を頼む。カキンの三大国宝に挑む気はないかとね。それで調停案を受けてくれると思う」

 

「……そんなの紙切れ一枚で出来る。でも、判った」

 

 日本語は発音の方が重要なので、『おり』は、降り・織に通じる。

 

様々な使い方が出来る、オーラをたっぷり練り込んだお札を渡しているのではないか? そう暗に尋ねるとカルトはプイっとそっぽを向いた。このままダラダラ時間が経過すると、旅団メンバーがこちらにやって来る公算が高い。一騎打ちのフォローという案件を、イルミはともかくカルトは真面目そうだから最後まで熟したいのだと思われた。実に可愛い性格だが、ハーレムする気はないし、男という時点でNTRされそうだから嫌だ。

 

「ユキ! 見損なったぞ! 貴様言うに事欠いて、自分の国の秘宝を……。愛国心という物はないのか!」

 

「俺にとっても虐殺前提のあの秘宝は邪魔だからさ」

 

「虐殺……だと」

 

 蟲中卵の儀に使う為に、謝肉祭をやってる可能性があった。

 

その派生形で、もしかしたらクルタ族の虐殺もその一環ではないかという説もある。エロイことするのは国内だから血筋を増やしたいからであって、近隣の部族を征服するならば、外でも問題ないという説があるのだ。そしてエイ=イ一家が緋の目を回収するために、下処理(拷問)をしたのではないかという派生形のネタである。

 

「俺は兄妹を掛け合わされて作られた実験体でね。話を聞いた時にはこの血を全部抜きたかったくらいなんだが……唯一、好きに成れそうだったお姫様が俺の嫁さん候補なんだと。その子以外は好きに成れそうにないのが終わってるが……。なあ、俺がカキンに滅びて欲しいと思うのは、そんなにおかしい事か?」

 

「すまん」

 

 俺が力なく呟いた時、クラピカも同じようなものだった。

 

他人の事情に嘴を突っ込むのは気分が良い物ではない。それが超ド級の肥溜めだったら猶更であろう。その上で、もしかしたらクラピカ程の頭脳ならば、虐殺前提という言葉でクルタ族もその対象にされたのではないかという説に辿り着いたのだろう。何しろ、当時にあの一族が居たエリアはカキンからそれほど離れてなかったからな(世界地図の上では、という意味)。

 

「話は付いたよ。向こうも外野は嫌ってたみたい」

 

「ありがとう。また縁があれば逢おう」

 

 こうしてグダグダしたヨークシンの一日が終わった。

 

原作よりも一日早く十老頭が暗殺されたというオマケ付きで。俺としては幻影旅団に付きまとわれる可能性も増えたが、継承戦で介入できそうだという時点で収穫ではあった。

 




 長かったヨークシン編もようやく終わりです。
締めであるはずの最後が、一番グダグダしてすみません。

●全部ヒソイルのせい
 昨日の『問題は誰がアンテナを潰したか』は此処に掛かってます。
クロロの作戦以前にイルミが介入しており、行動後にやった感じですね。
あと、ヒソカが此処でタイマンできて、かつできるだけ原作に近い形で終わらせる為ですかね。

なおシャルナークは死亡。フランクリンは死亡確認……くらいの可能性。
フランクリンの頭に二本くらい釘を刺したかったのですが、
それがアイデアソースになってます。

●カルトの能力
 紙に影響を与える、紙から影響を受ける、それを別の紙に与え直す。
そういう感じのの能力で、その為の恰好なんじゃないかなーと。
いわゆるガチガチの古神道系ですね。男の娘設定はむしろフェイク。
地の文でも書きましたが、ハーレム展開にはしません。
気が付いたらカルトがカチョウやフウゲツを寝取ってたら笑えませんからね。
(ただでさえ、ビヨンドが幻覚とかでやってる可能性もあるのに)

ともあれヨークシン編は終り、ようやくグリードアイランド編です。
主人公は純粋強化される予定になります。

フィンクスとフェイタンはどうなる?

  • クラピカが殺した
  • ユキが約束通り殺した
  • 迷ってる間に自殺した
  • 渋々、約束を受け入れてNGLへ
  • 除念待ちしながらNGLへ
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