インモラルなステディxステディ【完】   作:ノイラーテム

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戦いは月光の下で

「佳い月夜だな。何してるんだ?」

 

「念を鍛えるための瞑想さ。それと、さっきの表現は勘弁してくれ。ジャポン系では愛の告白に近いと言った識者も居る」

 

 夜になると修行を兼ねて瞑想や纏を行う事が多かった。

 

これは昼間にカードの情報集めや、現実との行き来に消費することが多かった反動でも(・・)ある。洞窟や建物の中でやる事も多かったが、月夜の晩となれば野原や花々の近くで行う事もあった。()が俺に会いに来たのも、それを知って居たからだろう。誰に聞いて知ったかを問いただす必要はない

 

「それで何の用だゲンスルー」

 

「ニッケスの奴がツェズゲラのサポートに回ろうと言い出したんだ。今なら半分は貰えるってな。あんたも止めてくれないか?」

 

 彼()周囲を見渡して状況を確認しているようだ。

 

俺が貴重なカードを持っていないと想像しているだろう。だから狙われていると過信していないと推測しているが、それでも念能力者が他者を警戒するのは当然なので迂闊に間合いを詰めては来ない。『カードを奪う気はないが、警戒するのは当然だから、こうしてバインダーを出してないよ』というポーズをしながら徐々に接近しているわけだ。

 

「……察するに百枚目の条件に気が付いたかな? それともゲームマスターを本気にでもさせて、これは無理だと折れたか……」

 

「本気にさせた方だ。あいつ、いきなりあんな強さを見せやがって……」

 

 察するにキルアを経由してゴンとビスケを連れて行ったな?

 

俺を誘う前にキルアに『交信』を飛ばして、チームに加える代わりの条件を聞いたのではないだろうか? 『一坪の海岸線』の複製だけならまだ交渉の余地はあるからな。その上で奇運アレキサンドライトとSカード複数枚の交換を提示すれば良い。キルアと同じ程度のゴンと、それ以上のビスケが加入するのだ。俺に『大天使の息吹』も渡すよりはよほど安い買い物と言える。

 

「しかし、その口ぶりだと百枚目の条件は九十九枚コンプだけじゃないのか?」

 

「おそらく……という但し書きが付くが、そこから謎解き(リドル)かクイズ大会が始まると思うぞ。プレイヤーから強奪しまくったら絶対に解けないが、このゲームを楽しんでいたらクリアは難しくない条件になるだろう。そうなると彼ら(・・)には難しいんじゃないかな。その上で、九十九枚コンプと百枚目の所有者が別人だったらそこまで、カードはもらえないとかいうルールになっていると思う。つまり三段階の勝負全てに勝つ可能性を諦めたんだろう」

 

 何気ないフリをして尋ねつつ、俺に近づくゲンスルーがポカーンとした。

 

まあ驚くというか呆れるだろう。ここまで散々にプレイヤー同士の対立を煽り、ゲームクリアというよりは勝負をさせておいて、最後の最後で『君はゲームではなく勝負を楽しんだんだろう? 優勝おめでとう』で済まされるとは思っても見なかったに違いない。ちなみに百枚目を強奪した場合、支配者に招待される……ゲームマスター複数名によるフルボッコが待っているというクソ仕様である。

 

「お、驚いたな。いくら何でもそこまで……」

 

「先日、浮遊石を取って来た。往年の名作映画を踏襲し、少女シリーズを揃えてある場所に行くと、空から落下して来る少女というイベントが起きるんだ。これを上手く受け止めたら浮遊石に変わるというイベントでね、プラキングで作った飛行マシーンがなくても受け止める方は問題無かったが、生憎と複製の手持ちが一枚しか無くてツェズゲラに残りを持って行かれてしまったんだ。さて、俺が推測を外しているという可能性はどれくらいあると思う?」

 

 ゲンスルーがげんなりするのも当然と言えるだろう。

 

彼は俺を殺し、その後でハメ組を脅して皆殺しにして、ツェズゲラからカードを奪って行かなければならない。そこまでやった上でゲームを楽しんでないとクリアできないようなクイズが待っているのだ。たまたま正解してしまう様な連中が居ればそいつらも倒さないと無理だというオチである。何年もハメ組に潜んで居られたゲンスルーでなければ心折れても仕方がないだろう。

 

「ったく、やってられねえなあ。ツェズゲラとお話(・・)するだけじゃなく……あ? 障害は二つじゃないか? お前さんはカードを交換してくれるんだろう?」

 

「彼らにはそもそも、グループをまとめ直してカードを回収する問題があるさ」

 

 ゲンスルーはハメ組としてのやんわりとした口調ではなくなっている。

 

ストレスが溜まって居るのと、今夜で偽りの仮面を脱ぎ捨てるから、もういいやという判断だろう。まあ気持ちは判らんでもない。俺も陛下とか他のお偉いさんの前で畏まってるときは緊張するからな。マフィア連中はいけ好かない奴らは多いが、タメ口で会話できることだけはありがたいくらいだ(故十老頭は除く)。

 

「それと俺の発には条件があってね。普段は使わない念空間越しの奇襲をしてはいけないとか、それを回避するためには相手の前で説明しないといけないとか、沢山の制約があるから気が付いたことがあるんだ。最低でもルールが五つ、裏ルールも二つはあるってね」

 

「……何のルールだ?」

 

 お互いに肩をすくめ合い、愚痴を言い合っている状態が終わった。

 

ゲンスルーはピタリと足を止め、こちらに飛び掛かるタイミングを計っている。それでも口を開くのは、サブとバラの二人が回り込む時間を稼ぐためだろう。あるいは、挫折の弓と見せかけた普通のクロスボウでも用意しているかもしれない。まそこまでやるなら消音機(サプレッサー)付きの拳銃でも持ち込んだ方が早いと思うけどな。

 

「触りながら自分の異名を告げることで、制約がある代わりに剝ぎ取れない場所に設置できる。時間調整は心音や発汗など相手任せな代わりに、追い詰めることで時間を加速できる。それらを踏まえて使いたい相手の前で自分の正体をばらさないといけない。その時に解除条件も説明した方が良いかな。ただし、もう一つ近接専用の発があることは伏せておく方が良い。名前はそうだな、アンタッチャブルまたはカウントダウンというところか。訂正はあるかい?」

 

「……無えよ。オレがボマーだ」

 

 ゲンスルーは短く息をして緊張を無理やり呑み込んだ。

 

これまでの話し合いで何度か顔を合わせたわけだが、ボマーと疑われているかも程度だろう。俺は彼に不用意に近づかなかったし、成功した事業主が在野の念能力者に注意するのは当然の事だから確信はなかったと思う。だが、まさか制約と誓約まで見抜かれているとは思わなかったのだろう。

 

「そうか。オレかどうかはともかく、ボマーが中に居るとバラしやがったな?」

 

「ああ。派閥ごとに与える情報を分けることで、共有をしてない情報を他者が知って居たら裏切り者であると特定するテクニックがある。その辺りを教えて置いた上で、ボマーが内側に居て共犯者にバラしてないと成立しないような事があると予め説明しておいたんだ。例えば俺が戻って来た時に、ピンポイントで闇のヒスイ狙いの強盗がやって来るとかね。ジスパを最初の交渉役に選んだのは、彼が外回りの人間で接触機会が多いからだ」

 

 ゲンスルーは俺だけではなく、俯瞰する様に周囲を見渡している。

 

そうすることでサブとバラの介入に気が付かれない様にしつつ、共同作戦を取り易くしているのだろう。ストレートに掴み掛かっても良し、三人で襲い掛かかっても良しというところか。共犯者が居ると俺が予想していたとしても、人数差というのはそれだけで戦力となるからな。俺()それは否定しない。

 

「方針変更だ! てめえをブチ殺して、連中も皆殺しにしてやるぜ! 他の連中もカードを寄こさなきゃ片っ端から血祭だ! その為に時間をかけて準備して来たんだからな!」

 

「シンプルで良いね。暴力で解決するというのは判り易くて良い」

 

 ゲンスルーが声を上げると左右から人の気配がする。

 

一人は黒髪、もう一人は茶髪というところか? 月明りでは分かり難いが同時にこちらへと走って来た。作戦が上手く行っているか判らないので緊張するが、やはりこういうクライマックスというのは気分が乗るものだ。捧げよ策謀、今宵は争いの宴なり!!

 

「ずっと困っていたんだ。ボマーが誰か早い段階で特定していたんだが、彼らを説得するのが一番の難点でね。さあ、戦うとしようか一対一で!」

 

「はっ! 何言ってやがんだ! てめえはなぶり殺し……っ!?」

 

 左右からやって来た男たちはスレ違って互いに争い始めた。

 

片方はゲンスルーの仲間ではないので当然だろう。もう一人は俺が用意していた隠し玉であり、ゲームの情報集めや隠れてあちこちに情報を届けていた男になる。

 

「紹介しよう。彼は贖罪中の殺人犯でビノールトと言う。格闘家であることを信条としているから君の仲間は捕縛していると思うが、急いだほうが良いかもしれないな? もし大天使を預かって来ていたら出血が多い日でも安心出来たかもしれないが」

 

「てめえ! 死にやがれ!」

 

 挑発に乗って飛び掛かって来るゲンスルーに水の壁で応じる。

 

予め隠して置いたもので、自動制御のまま待機状態にしていたから地面に吸い込まれることもない。さっきから俺が動かなかったのはゲンスルーの意図が不明で警戒していたわけじゃなく、何時でも使えるように待機するための印を保持していただけの事だ。

 

「水の壁だと! こんなもの!」

 

「ははは! 凄いな。水の壁を吹き飛ばすとは大した火力だ。いや、水の中だからこそ掌を守らなくて良いからかな? しかし水蒸気爆発とかしないのは、やはり自然現象では無いからか、それとも俺が圧力を加えた為か」

 

 水の壁は粉砕されるが再集結してしまえば問題ない。

 

ゲンスルーが持つリトルフラワーの事を考えて予備は用意しているからな。流石に無限に水が湧く壺のカードなんか用意してはいないが、どうせ短期決戦だから問題はない。今の攻防はゲンスルーに水を浴びせる為だけにやったと言っても良いしな。

 

「ゲンスルー。君の間違いは触って発動なんて条件にしたからだ。自分にも掛かる代わりに、周囲の人間へ無差別に仕掛ける能力なら特定のしようが無かった。第一、その方が爆弾からの脱出という趣旨に叶っている」

 

「黙れ! 他人がオレたちの事に口を出すんじゃねえ!」

 

 爆弾を作り火遊びする能力を考えれば戦場帰りの兵士か、戦地の住民だ。

 

訓練で日常的に扱わされた特務兵士でなければ、町のあちこちにブービートラップがあり、耕作地にすら地雷が埋まっている生活だっただろう。だがゲンスルーはその経験を他人に押し付け、しかも格下を嬲りつつ、格上殺しもワンチャン行ける程度にしてしまった。もし無差別発動する接触型だったり、範囲型だったら対処し様が無かっただろう。クラピカが自分に埋め込んだチェーンの事を考えれば、もっと強力に成った可能性もある。

 

「そうか。じゃあコレは要らないな」

 

「はっ! そんな紙切れに何の意味があるってんだ!」

 

「地雷処理用重機の設計図さ。こいつを開発した上で大金持ちに成れば、お前は人生の勝利者に成れただろにな」

 

「うるせえ!」

 

 俺が懐から取り出したのはロータリーカッターの設計図だ。

 

それは狭い場所にも入り込むことができ、肉厚なアームで安全に地雷を処理するマシーンである。ゲンスルーは激昂しながら俺の手から設計図を叩き落とし、そのまま掴みかかって来る。だが、攻撃では無く設計図を燃やしても良かったはずだ。別に故郷を救いたいという思いなど無くとも、爆弾から逃げるのではなく、自分は全てに勝利したというトロフィーは欲しいのかもしれない。

 

「だいたい、てめえの攻撃は温りぃんだよ! こんな水鉄砲で能力者が死ぬか!」

 

「そうだろうな。俺の能力の大半はバッテラを助けるために使っている。例えば周囲を浮遊させる力もあったんだが、今はそれを選べない。水に掛けて居る圧力だって多寡がしれている。だが! それでも貴様を倒すには十分だ!」

 

 ゲンスルーの攻撃が熊の様な両掌なら、俺は白鳥の翼だった。

 

肘・下腕・拳を的確に使って、相手の掌ないし肘を弾きながら攻防一体の動きを実現して、人知れず水を放つという流れだ。攻撃力不足なのを水を飛ばすことで補っているわけだが、掌での接触と言うルールのあるリトルフラワーよりは扱い易かった。せめて何も無い場所で爆発させて、急加速とか回転するなら話は変わって来るのだが。

 

「今からお前を葬る技の名前を教えてやろう。ホーロドニースメルチ、冷たい竜巻と言う意味だ!」

 

「なんだ……急激に寒く……」

 

 念空間の特殊性はシーズン中固定なので、冷凍室か治癒部屋だけだ。

 

能力を選び易くした弊害なのだが、それでも人間相手なら問題無いように調整している。ずぶ濡れにしたゲンスルーに、第三の発である乱れ雪月花の力で冷凍室の効果を与えて行った。

 

「現在の気温は摂氏マイナス-20度! 暖かいグリードアイランドでは味わった事が無い気温だろう? だがその温度はあくまで保存用に設定した初期気温でしかない。まだまだ温度は下がるぞ? ホーロドニー! スメールチ!!」

 

「うおお……ああああ!!!!」

 

 何の事はない、温暖な気候から一気に寒冷地の気温へ変更しただけだ。

 

だが、それだけでゲンスルーの格闘能力は急激に衰えた。人間は低体温症に耐えられるように出来てはいないからな。破れかぶれで襲い掛かってきたところを、カウンターのアッパーカットを食らわせて戦いは終わったという訳である。

 

「楽勝だったんじゃないか、ボス?」

 

「いや、見た目ほどに実力は変わらなかったさ。こいつが少々迂闊だっただけだ」

 

 ゲンスルーの敗因は自分を見て他人を見なかったことである。

 

自分が弱者のフリをして時間を掛けて努力をして、相手は自分より弱いのだから確実に勝てると思い込んだことだ。相手が自分と同じように弱者のフリをしているとか、念を他の用事に使っているとか考えもしていない。もし俺がフリーハンドで完全な状態だったらもっと警戒していただろうし、そこから急にオーラが今の状態に成ったら、『何か仕掛けたのでは?』と警戒していただろう。

 

「少し前に幻影旅団の一人を倒したが、それは俺と相性が良かったからだ。もしそいつがこいつと戦えば、そいつの圧勝だっただろう。念能力には相性差もあるからな。そう言った事をまったく考慮しなかったという点でも、かなり迂闊だったと言える」

 

「なるほど。そういえば援軍に関しても考えてなかったからな」

 

 ボノレノフなら近距離攻撃でも遠距離攻撃でも勝てただろう。

 

制約と誓約は緩いようで厳しいから、『ボマーと言いながら触る』というルールはかなり厳しく適用される筈だ。どこかの奇妙な冒険譚みたいに『ボマボマボマボマ!』とか言って鉄拳ラッシュしても条件をクリアなど出来ない。警戒する相手にボマーと言いながら触るなど難しいので、同格以上に戦うための発を持っていないというのも問題だった。もしカウントダウンを自分に仕掛ける覚悟があれば、リトルフラワーに使う火力も増えてたとは思うが。

 

「そう言う事だ。ゴレイヌに任せているもう一人も気になる。さっさと回収してハメ組の元へ行くぞ。今ならば身の安全と引き替えに大人しく降りてくれるだろう」

 

「どうかな? それでも降りるために金を要求しそうな気もするが」

 

 人数の勝負にした方が楽なので、ビノールト経由でゴレイヌに頼んでいた。

 

彼の能力はレイザーとの試合に重要だし、ボマー組を抑えるのにも三人分へ成れるのが大きい。ビノールトと一緒に一人を速攻で抑え、手が空いた方がもう一人を抑えるという手はずだったわけだ。これなら戦闘向きの発を持って居なくとも、確実に勝てるからな(原作の様に一対一を三つでは負ける可能性がある)。

 

こうしてボマー組とハメ組を攻略した俺たちは、ツェズゲラ組やゴンキル組と合流して『一坪の海岸線』を手に入れたのだ。




 という訳で長かったGI編もあと一話です。
今回はゲンスルーと戦い、その後にレイザーがナレ敗して終了。

●佳い月ですね
「夏目先生。I love youってどう訳すべきでしょう?」
「月が綺麗ですね。とでもしておきなさい」

 隙(好き)を伺う常套句だったということですね。

●ハメ組は折れた
 彼らからすると主人公を利用するだけ利用して、ゴンキル呼ぶ方がまだマシなので自爆した感じです。あと、このころになると、渡した情報を信じる様になってます。

●ゲンスルーたちの経歴
 特務兵士か戦場になった町の生まれ。その上でカウントダウンは生物のみです。それって要するに、地面には埋まっていて欲しくないって裏返しじゃないですかね?

●隠し玉はビノールト
 当局に出頭すると言った。警察に突き出すとも言った。
バッテラが医療に転用可能であることに関心を持っているとも言った。
しかし彼が贖罪にグリードアイランドに帰って来ないとは言ってない。
まあ、ナックルやクラピカを呼ぶよりスマートだから選んだだけですね。
彼が主人公の代わりに連絡役を担う事で、交信や直接交渉が出来た感じです。また、「今は警察からの貸し出しで、バッテラに雇われているので嘘は吐けない」とか説明できるのも良し。

●白鳥音頭とホーロドニースメルチ
 どこかのキグナス氷河さんのオマージュです。

フィンクスとフェイタンはどうなる?

  • クラピカが殺した
  • ユキが約束通り殺した
  • 迷ってる間に自殺した
  • 渋々、約束を受け入れてNGLへ
  • 除念待ちしながらNGLへ
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