●
「普段なら人様に文句を付ける気はない。だが、約束した以上は確実に合わせるべきだし、かといってそれでカイトが危険になっても本末転倒だ。ここまでは良いか?」
「もしかしてヤバイ話に関わってんのか?」
「流石にキルアは鋭いな。運悪く予想通りだ」
俺はこれから始まるかもしれない蟻編の説明を出来るだけ静かに始めた。
フィンクスとフェイタンを送り込んでいる為、割りと安全に終わるかもしれない。それこそ女王を討ち取るなり、餌となる能力者が少ない時点で王が生まれて、ネテロ会長が倒せるかもしれないからだ。だから焦りを見せることも無かったので、カンの鋭いゴンが文句を言う事はなかった。
「現段階ではという前提だが、どちらかと言えば怪しい組織に目を付けられる方が問題かな。ヨークシンでは旅団の情報に手を出そうとしてたんだろ? あの時は俺とクラピカで数人倒したが本当にギリギリだった。お前たちの協力があったら半分倒せていたかもしれない代わりに、こっちがやられていた可能性もあった。そのくらいにゴンとキルアは盤外戦では有能だが、戦闘では目の前にこだわり過ぎる」
「うっ。それを言われると……ねえ?」
「悔しいけど言い返せねえな。さっきのもあるし」
先ほど述べた総掛かりの戦い。二人とも戦闘になると周囲を見れて居ない。
おそらくは圧倒的強者との戦いに慣れていないのだろう。まあ旅団に捕まった経験も無ければ、ゲンスルーと命懸けの戦いをしてないものな。イルミと睨み合い、ヒソカと試合をしたくらいか? ああ、レイザー戦は原作よりハードルが少し高かったかもしれない(ヒソカ居なかったし)。だが、これから蟻編が無くなるなら、集団戦闘も格上との戦いも存在しなくなるのだ。
「俺は試練を課すとか死ぬほど嫌いなので、問題を段階的に片付けることにする。例えばゴン、君はハンター試験で釣り竿を武器に、慎重さと集中力のみで潜り抜けたはずだ。確かに集中力と思い切りの良さは以前のままだ。しかし、あの慎重さは何処に行った? 島生まれだから自分が死なないとは思ってないとは思うが、仲間が死ぬ事を計算に入れてるか? 仲間は君を守って死ぬぞ?」
「あー確かにそういうところあるよな。結構ヒヤヒヤすることある」
「……そっか、念を覚えてから調子に乗ってたのかもね」
ヒソカすら騙し切った潜伏技術とか、戦闘を重視しないスタイルが消えている。
劇的に強く成った反動なのだろうが、必要ならば何日でも隠れて見守る様な静かな部分がなくなっているのだ。『目の前の事なんて、大抵の事はどうでも良い』という部分が悪い面で作用し、『必要だと思った事に全てを注ぎ込む集中力』のみが突出してしまったと言えるだろう。
「ただ、集中力そのものが悪いと言ってるわけじゃない。自分の使い道を決めて、そこにリソースを全部注ぐスタイルならば先にやる事がある。全体を見通す目を見て、優先度を決めたら仲間と相談しろ。そして仲間の忠告は素直に聞け。『仲間こそが最強の武器』というが、仲間は道具という意味じゃない。互いに支え合うから人間というんだ。まあそれさえ覚えておけば、後は格上との戦闘経験で何とかなる」
「うん! まずはゲンスルーとオレも戦ってみるかな」
「いや、その辺の相談もしろって言ってたろ? 止めねえけどよ」
「ビスケ師も交えて『ボマー組が凶行を始めた』前提で話し合うと良い」
今のゲンスルーは毒が抜けてるのでそこまで脅威ではないだろう。
良くも悪くも稽古の一部でしかない。それこそ地雷を踏まない限りは大怪我すら追わない筈だ。稽古だから戦闘経験を詰めるにせよ、どうにかしてプレッシャーを与える環境が必要なんだよな。このままアルカ編が始まらないなら放置一択なんだが……。
「ひとまずボマー組が終わったら、段階的に人を紹介しよう。カイトがヤバイ案件に顔を突っ込んでるのに協力できない。ネン=燃、そしてテン=点の部分をもう一度見つめ直すんだ。途中で負けても紹介するのが遅れるだけだから、まずは焦りを乗りこなすんだな」
「判ったよ。もどかしいけどカイトの足手まといになっても仕方ないしね」
自力で辿り着いてないからか、ゴンは意外にアッサリと納得した。
自力でクリアしてたら直ぐに会えた筈が一カ月先、負け続けても二カ月先くらいの問題なので、大して焦る必要が無いとも言える。まあ数カ月あったらダイが大魔王を討伐できるほどなので、少年期の成長を考えたら緊張感のない数カ月が惜しいとは思うけどな。
「次にキルア。判ってると思うが、君の場合は家の教育方針が悪い面を出している。英才教育が成功し、ゴンというタイプの違うライバルがいるから外に出ることを許されて、しかもビスケ師という教育者としては最高レベルの環境だ。しかし、戦闘面ではそれが災いし、無難に勝ちを拾いに行ってしまっている。君の場合は逆に、味方を見殺しにするだろう」
「……ビスケにも言われたよ。今回も、返す言葉がねえ」
キルアは悔しそうに顔を俯かせた。
原作でもビスケに言われて、その時は『そんな筈はねえ』とか言ったのではないかと思う。そしてビスケが正体を表した筈だが、今回は俺と再会した時に見てるからな。それほど驚いていないが……改めて対峙でもしたんだろう。
「間接的な原因はソレとして、直接的な原因が特定できる。キルアの環境で念を知らないのはおかしい。ヨークシンで弟のカルトに出会ったが、便利に能力を使っていたぞ」
「あ、そういえばそうだよね。知ってなきゃおかしいもん」
「記憶を封じられてたんだと思う。しかし、カルトまで……」
俺はメモに四兄弟の名前と教育方針を簡単に書いて行った。
ガチガチに手を掛けたら効率主義者の人でなしになってしまったイルミ。伸び伸びと放任して育てたら外に出なくなったミルキ(能力を奪われた説もある)。そして記憶を封鎖した状態で、下地だけを理想的に育て切ったキルア。四人目をすっ飛ばして、五人目が何にでも染まる中性的なカルトと言う訳だ。
「そう言う訳で、植え付けられた記憶を解放できれば解決できる。おそらくはその時に『暗殺者として大成するまでは一歩引け』みたいな縛りを掛けられてるんだろう。要するに、ハンター試験の時にやった行為の強化版だな」
「っ!? マジかよ! あいつ、そんなことまで……」
「そういえば、そんな気もするね。お兄ちゃんなのにさ」
「兄だからさ。サイコパスにも大事なモノくらいはあるってことだろ」
そう言いながらイルミとキルアの間に矢印を二つ描いた。
太くて短く家族愛と描き、その隣に長くて細い効率重視と描いた。イルミから見れば強烈な家族愛が下地にあるが、その精神は効率主義で動いているという訳だ。後にナニカへキルアが命令できると知った時に豹変するのは、効率でしか自分を表現できないからだろう。ゾルディック家の繁栄を上に置いて、下にキルアを守れるからと判断してるわけだ。それでキルアに嫌われても自分の愛を貫けると思うあたり、やはりサイコパスである。
「あ、そう言えば四人目の兄弟って? 他は書いてあるから気になっちゃって」
「名前は法則性があるから直ぐに判るぞ。だが、今はその時ではない。おそらくは生まれながらの特質系念能力者で便利過ぎる能力だから、頼って色々出来ない様に存在も忘れさせられてるんだろ。だが、それも封印を解けるほどに強く成ったら解決する」
ゴンが余計な事を言い始めたので、先に制して置いた。
今の段階でありがちな想像を交えて真実を欠片のみ入れておいた。これ以上は話す必要はないし、今の時点で気が付かれてトンボ返りしたら、間違いなく洗脳されて二度と出て来れないだろう。少なくとも原作の様にイルミを出し抜ける強さを有するか、少なくとも環境の方をどうにかするしかないだろう。
「言いたい事はあるけど正論だから仕方ねえ。オレも戦えば良いのか?」
「いや、キルアの場合は格上との戦闘を真正直にやっても逃げるだけだな。自分で戦うつもりでも操作されてたらどうしようもない。だから資料でインプットして発想を増やし、電気系の機材を導入して何とかする。レベルを上げて物理で殴るという奴だな。そうすれば戦える格上が増えるし、能力の幅も広がる」
アルカの事を思い出しているのかモヤモヤしてるようだ。
だが先ほど言った通り今思い出させる訳にもいかない。その上で何も考えずに特訓したとして、原作以上にシュートから逃げまくるだけだろう。ナックルの場合は相性が良過ぎるので特訓にならずにボコボコにする未来しか見えないからな。
「いや、お前それ! 特訓って言うより改造じゃねえか! オレは悪の怪人に成る気はねえぞ!」
「安心してくれ、俺はカタヅケンジャーのファンだ」
「何も保証されてねえよ!」
「安心しろ、備品の漫画を読むだけさ」
何を誤解したのかキルアは俺を悪の総統にしたいらしい。
だが現金なもので、俺が漫画だというと猫のような目でゴロゴロし始めた。もちろん読書感想文付きでないという前提であるが、読むのは能力者物漫画ばかりである。ウォーズマン理論に無駄に熱くなり、封神演義の聞仲無双やCLAMPのXあたりにゾクっとする未来が見える。なお、ナックルの愛読書は特攻の択ではなく、ほのぼの系のペット漫画であろう。
「元から漫画と電気系の機材は海洋探索での追加なんだよ。キルアは漫画を読んで想像の幅を広げ、自分の能力でどう立ち向かうかを考えてみるんだ。もちろん発を増やしても構わないが、リストを作って絞ってからにしろよ。それと並行して、今できることが10だとするならば、11・12と限界を上げる修練と共に、9・8と小さい力で間に合わせる修練を積む。言いたいことは判るな?」
「わーってるよ。自分を越えるってことだろ」
最大値と最小値を更新すればおのずと許容限界も高くなる。
今だとゲンスルーが殺意を持ったら逃げかねないが、許容値が上がれば戦えるようになる。あるいは原作の蟻編で覚えた神速とか身に付ければ、カウントダウンとリトルフラワーの欠点を理解するだけで、もっと低い能力でも戦えるようになるだろう。その次はナックルとシュートであり、モラウという『勝つことが出来ても、試合で勝てない相手』と勝負すれば、『念能力者にとって重要なのは戦闘ではない、目的を達成する事だ』と理解できるに違いあるまい。
「そういえばさ。ユキの能力ってどんなの?」
「そーそー。オレも気になってたんだよな。そっちばっかりズリィぜ」
「見せても構わんがもう少し待ってくれ。バッテラの恋人を治療するのに展開してるからな。逆に言えば常時能力を使い続けて、今のオーラってことだ」
ふとしたゴンの言葉に、俺は水を操り同時にオーラ自体も移動させた。
手の平の上に水で立方体を作り、その中にオーラだけでもう一つの箱を作り上げる。最初は水だけを見せて分かり難く、次に水を薄い膜で作る事で判り易く。最後には隠を使って、交互に箱を用意して行った。
「わっ。スゴーイ。五重……ううん、七重かな?」
「それだけじゃねえ。これだけやってオーラが揺らいでもねえぞ」
「どっちも正解。水操作は俺の一つ目の能力だが、二つ目が念空間になってるので空間把握の訓練を山ほどやった。特に発でもないのに、こういうのを作れるようにね。逆に巨大な箱を作るとか、操り切れない程の水を用意するとかは無理かな。出来るとしてもやる気が無いというところまで欠点とも言えるね」
そこまで解説したところで、単純動作を繰り返すための分岐技で固定。
箱の形を三角形と三角形で作った六芒星に変更し、グルグルと回転させ始めた。途中でハンカチを置いて姿を隠したり、コーヒーカップを水の分の上に置いてコーヒーを用意して行く。俺の分岐技を知らない彼らは莫大なメモリを割いて、集中力を維持しているのだと誤解したかもしれない。
●
(さて、俺の方の用事もやっておくか。再調整は面倒だからな)
ゴンとキルアに修行をさせながら、念の進化について考察し始めた。
勘違いでなければ、グリードアイランド編を完全攻略したことで、俺の念能力は進化する可能性があるからだ。とはいえ三つ全てがパワーアップするとは思えないし、そもそも念の進化に関してはクロロの内心と、結果としておかしなレベルを発揮する熟達者たちから思い描くしかないのだ。
(絞る必要があるとして、まず三つ目は無しだな。カチョウやフウゲツとの絆でもある、これを弄る気はない)
雪月花の条件を緩くするのが単純強化だがやる気はなかった。
月か花のどちらかだけで良いなら確かに便利にはなるだろう。だが、それでは何の苦労も無く、制約と誓約における誓約部分がかなり弱まるだろう。あえて言うならば、『使えないことになっている特殊能力を使えるようになる』というものだが、そこを弄るのも少し違う気がするのだ。やはり制約と誓約はルールありきの補正であろう。
(考え方は二つ。水操作に組み込んでる伝達能力を、画像以外にも適用する事。もう一つは念空間を作る際に、選んで部屋を設定できるようにするか、さもなければノヴのような能力を組み合わせることだ。水の操作を精巧にしたり、圧力強化は修行で何とでもできる)
おそらく微妙な部分を強みに変える方が有利に働くだろう。
前者の画像伝達はいまいち意味が難しく、空間にアートを描くような使い方とか、望遠鏡みたいな使い方しか出来ていない。これがファンネルのように遠距離まで命令を伝達できるとか、オーラを保存しておいて長時間の命令を与えられるなら効果は大きいだろう。もちろん操る水を用意して、大量の水を操るというのもアリではある。重量で押し潰すことも出来るし、氷の船とかも可能かもしれない。
(やはり念空間も好きに選べるのは違う気がするな。やるとしても中間型……いや、それなら新しいエキスパンションを用意した方が早い。それに盗賊の極意の能力を考えれば、順当に元の能力が強化されて行ったと考えるべきだ)
なんというか最初に能力計画を完成させたので弄り難い。
それならとクロロの『盗賊の極意』が辿った変遷を考えると、『本の手形に相手の手を合わせることで、強制ジョイントにする』=100%というのが一回目、『幻影旅団の仲間から借りた場合は、オーラを融通できる疑似ジョイント型である』=オーラ供給可能という二回目の強化があったのではないだろうか? 共に盗賊の極意を順当強化している存在だと思われた。
(ここは伝達の強化を優先するべきだろう。念空間に成った場合も、疑似ジョイントで多人数ゲームをした時に効果やサイズが強化されるくらいだろう)
念の進化に関して正解は分からないが、どれでも有用化するだろう。
その上で、自分の中で折り合いをつけて納得することに成功した。もし想像した通りの強化であっても使ってみないと分からないが、ひとまずの満足を得たのである。
という訳でグリードアイランド編が終わって、オリジナル新章突入です。
●リザルト
ゴンとキルアが探索チームのメンバー加入。
カイトに合わせる前に強化イベを挟む感じですね。
原作と比べて経験値が微妙、これから圧倒的に足りなくなるので補正。
ゴンは戦闘センスを磨き、センスで先に行ってるキルアは発想と拡張。
ちなみに現在は三月十日ごろなので、原作よりも遥かに早い段階でナックルたちと修行です(一年ちょっとで中堅ハンターにもう少しの処)
●蟻編とアルカ編
前者はなくなりました。代わりにアルカ編の難易度がハードモードに。
イルミが悪いよイルミが。それさえなければ放置しても良いのですが。
まあ、記憶を取り戻して解放に行かなければ、発動しないだけマシではあります。
●念の進化
とりあえず原作の進化が分からないので、出来ることが圧倒的便利に
そのくらいになるくらいだと思われます。強くなるのは修行ですしね。
その上で雪月花の能力を緩くするのは間違ってるので、伝達能力がUPしていくんじゃないでしょうか? 今のままだと、ドッキリテクスチャの下位互換機能を、無理に水操作に組み込んでるだけですしね。
●新章
前からチラっと書いている、海中にある沈んだ島の遺跡とか探して
そこで探検するオリジナルの話になります。もちろん整合性は付けてますけどね。