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「よう。あんたの予想はバッチリだったぜ。これでオレも長年の疑問がハッキリしてスッキリだ。肩の荷を降ろせるってもんだが、降りろとは言わねえよな?」
「勿論だ。魔境だとは思うが暗黒大陸ほどじゃない。皆で遊びに行こう」
それから暫く、三月末になってモラウ達が帰って来た。
もちろんカイトは同行しておらず、NGLで調査をしている筈だ(フェイタン・フィンクスを含む)。今ごろは女王蟻の痕跡を見つけて一喜一憂しているところだろう。モラウが何も言っていない事からも、まだ決定的な証拠は見つかって居ないのだと思われる。
「それってカイトが関わってるって話?」
「なんだ? こんなガキも行くのかよ」
「ジン・フリークスの息子で森暮らしが長い。単純な探索活動ならナックルたちより上だと思うよ。まあ、戦闘力に関しては修行中だがね。探索についてはカイトに任せれば育つだろうさ」
話を聞きつけたというか、見慣れないモラウを見てゴンが顔を出した。
俺の説明を聞いてモラウはニカっと笑い、『よろしくな』と大きな手でゴンの肩を叩く。やはり蟻編の後半戦と違って危険度が低いのと、探索力だけならナックルたち以上という点で『使えるハンター』だと見なしたのだろう。何しろ戦闘に関して言えば、大概のハンターは重視していないからな(モラウは圧倒的に戦えるタイプだが)。
「ゴンにも説明しておくと、外来種を持ち込んだ馬鹿が居る。問題なのは暗黒大陸からかなり離れている筈のヨルビアン大陸南部やバルサ諸島まで、どうやって連れて来たかどうかなんだ。一応は海流に添っている様に
「一応言っておくと、オレの知ってる念空間の第一人者でも無理だぞ」
「特に困難なのが、餌と体調の管理だな。俺だと殺すか殺されるだろう」
転移が出来る放出系はかなり限られ、しかも距離は短い。
例外はノヴのように念空間同士を接続し、途中で経由地を作る事だ。それでも暗黒大陸と行き来することは簡単ではないし、目撃例もあるのでオフの間にやろうと思っても無理だ。暗黒大陸の割りと安全なと言われている地域……上澄みのハンターでも即死しかねない場所から、人類領域の南端まで連れて来るのは至難の技なのである。
「もしかして何処かに隠れ家があるってこと? グリードアイランドみたいな」
「それが一番確実な方法だろうな。途中の移動は暗黒大陸に興味アリアリの連中にやらせるとして、重要なのは必要な時期まで『外来種を保存しておく場所』なんだ。もし成果
原作で女王蟻をどう運んだのか、パリストンが5000匹をどうしたのか?
それらの疑問に『謎の管理場所』があるのだとしたら至極納得が出来るという意味である。メビウス湖の西岸にも暗黒大陸があるなら話は別だが、そんな話は聞いたことはない(そこが危険なだけの場合は、女王蟻も生きてはいない)。海流が時計の針みたいに、北から南西に流れ、東に移動して北に戻るとか言う可能性もあったけどな。その辺を調べる為にも、海洋調査をしておきたかったのだ。
「そこで俺が注目したのは、海底にあるとされる遺跡の中でも、『形の無い島』と呼ばれる謎だな。神話の中で登場するが現代ではその痕跡はなく、噴出する泡で出来ているのだとか、海流に乗って移動するのではないかという説が存在していたんだ」
「そこでオレ達が時間を掛けて、海底にある海流の反射を調査したって訳よ」
ジャポンとカキンの中間に何も無い場所があるが無関係である。
その南にあるグリードアイランドには海流の関係で、島へたどり着けない様になっているそうなのだ。つまり、何も無い広大な海域には何も無く、事件も起きてはいない。なのにヨルビアン大陸の南から、人類生息圏の南端であるバルサ諸島に掛けて女王アリが流れ着くのはこの時点で不自然なんだよな。まあ、そこで海底の起伏で反射する流れを確認すれば、かなりその謎に近づける訳である。
「それでそれで? どうなったの?」
「そう慌てなさんなって。とはいえ、これまで大量の泡が海面に湧き出るとか、島自体が動いたって事はなかったぜ。地形が変化すりゃあ、そりゃ誰か気が付くものな」
続きをねだる子供の様なゴンに(本当に子供だが)モラウは茶目っ気を見せた。
煙で島の様な形を作った後で、これを手で払いのけて消し去ってしまう。そしてもう片方の手に持っている煙管をその辺りに置くと、その手で動かしている手を掴んでしまったのだ。
「戦没遺構扱いで引き揚げ不可になってるはずの戦艦がよ、なんでか浮き上がって移動しちまうんだな。コレが」
「おそらくは大陸の何処かにある地底洞穴から空気が送られて、一定量が溜まると浮くんだろう。普段はそこに誰も近づけないのだから気が付く筈もないし、調査する時は洞穴の方を岩か何かで塞いでしまえば良いだけだ。大規模調査で周辺ごと調べる場合は、ハンター協会経由だから職員でも抱き込んでしまえば良いだけさ」
考えてみれば良くある話だ。普通は帆船の残骸が浮かぶんだけどな。
そういった異常を確認し管理している筈の国家やハンター協会が誤魔化しているのだから見つかるはずがない。戦艦の移動も神秘なのだから放置して置けと言われたら、気が付いた奴が居ても触らないだろう。なんだったら『許可が出たから行ってみるか?』と言えば都合の良い証拠を積み上げてくれるだけだしな。もしかしたら、戦艦の位置を海流の影響が出る場所に移動させたのも、黒幕が居るかもしれない。
「という訳で、NGLで活動しているカイトの援護の為にも、そこに居るかもしれない後続を絶つ。外来種の子供が生まれて持ち帰る場合も、確認できるようにしておく必要があるからな」
「ねえねえ! それってオレたちも行っていいの?」
「後でモラウ師の弟子たちと練習戦闘してからな。その辺の特訓が終われば構わないよ。もちろん、危険となれば俺たち全員が即座に引き上げるという前提になるが。」
カイトに会いたがってたゴンだが、そもそも会えるから会いたいレベルだ。
新しい冒険の旅があると聞いて、既にそちらの方に夢中になっている。とりあえず特訓の残りを見てから判断するとしよう。
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「ゴンは緩急をつけて、戦う時と周囲を把握する時を使い分けるんだ。それだけでだいぶやり易くなる」
「押忍!」
あれから港町で訓練しながら計画を練ったり補給を実行。
ゴンはかなり仕上がって来て、ひたすら戦闘と周辺探知を繰り返すだけでも良い段階まで来ていた。もちろん緊張感ある戦闘は出来てないので、勝負勘はそれほど経験が詰めてないのが残念な所だ。
「強化系に発は要らないという表現を聞いたことがあるだろう? 今の発を育てて、後は凝で色々な基礎能力を高めることを意識しておけば良いさ。絶や隠は状況に寄るな」
「目を強化して遠くを見たり、隠れた物を見たりだね。もちろん目以外も」
強化系は戦闘以外でも活躍出来るのがズルイと思えるほどだ。
走る能力や耳を澄ませる能力なども上昇するので、ちゃんと心がけるだけでハンターとして大成できる。最大の弱点は一本気で熱中し易く、直ぐに背中がおろそかになるところだろうか? まあ特殊性は全くないし、集中的な強化をやると、強化系の良い部分を打ち消しかねないのが微妙な所だと言える。しかし、振り返ってみて野生児のゴンは良い環境で育ったと言えるだろう。
「キルアの考えた発の案は問題無いと思う。後は長時間使えるように鍛えるのと、長期戦になると判ったら補充の準備をしておくくらいかな。行動補助にも戦闘にも使えるから、良い能力だと思うよ」
「へへっ。当然っ! 我ながらナイスアイデアだと思ったんだぜ」
こちらも訓練は順調で、原作でやったことはもう殆ど出来る。
特にスタンガンをオーラバッテリーにする発想と、プログラミングでの高速移動は秀逸だろう。何しろ電極さえあれば幾らでもオーラを補充できるし、相手が行動する前に行動しきれるのは反則である。
「二人のオーラは中堅ハンターの入り口で、このまま育てば中堅と言って差し支えないレベルに達するだろう。あえて欠点を上げるならば、ゴンは火力不足。キルアは予想されたら終わりなところかな」
「あ? それって逆じゃねえの? オレが火力ねえなら判るけど」
「う~ん。オレの方は何となく判るかも。グー以外は心もとないし」
先ほどのまでの言葉はあくまで、前回話したことの焼き直しだった。
以前に行ったことを二人が鍛え直して何とかした形になる。だから二人も自信を持っていたし、この言葉にキルアは首を傾げているのだろう。そう言う意味でゴンは判り易く欠点が見えているし、キルアは表面上は凄い能力だけに見え難いのだろう。
「判ってるみたいだし、まずゴンから。パーとチーは論外。グーは凄いが、攻防力で防御を重視できる状況なら、放出系や変化系でもガードできるだろう。ヒソカあたりならまずフェイントにも引っかからないしな。判っていても防げない強さが中堅以上の強化系だとしたら、その域に無いわけだ」
「オレもそう思う。やっぱり壁は厚いね」
「ヒソカを例に出すのもどうかと思うけどな」
ゴンもヒソカを意識しているのか、例えとして納得していた。
グリードアイランド編であれだけ重視した攻防力も、蟻編では最大オーラと顕在オーラという言葉に上書きされてしまっている。重視するだけなら互いに出来るし、延々と戦い続けるならオーラ量の高い方が勝つのは当然だからだ。発で強化したダメージは最終計算みたいなものなので、ガードしきれる限り、そうそうダメージは通らないのである。
「キルアの方は説明が難しいから、見せてしまった方が早いかな。俺は特質系だから一瞬しか出来ないけど、あの時計で秒針が十二を示したところで、俺に触れてみてくれ。出来たら今度作るスイーツショップの無料チケット一か月分をやるよ」
「マジで!? やるやる! 見てろよ」
キルアをその気にさせる為、俺は無料券を提示して見た。
彼は甘い物好きで天空闘技場のファイトマネーもお菓子に溶かしたほどだという。ともあれ素直に勝負してくれるなら、まず触れられることはない。もしこれで裏の裏を呼んで、ジックリ時間を掛けるとか、ゴンに助力を頼むとか、俺が禁止してないことを良い事に色々やって来るなら少し困っただろう(その時は俺も発を使うけど)。
「それじゃ、行くぜ! チケットもらった!」
(……体勢からして肢曲を使わない気か。まあ、そういう風に誘導したんだが)
キルアは時計に軽く目をやって、態勢を低くして突撃態勢を取った。
その姿から横っ飛びでこちらの視線を振り切り、フェイントを掛けて突入して来ると判断できた。目に見えた突撃体勢自体がフェイントなのは良いのだが、馬鹿正直に高速移動で勝負してどうするのだと言いたい。さっきの俺のコメントから、対策していると思わなかったのだろう。それとも少年特有の負けん気で、勝負に来たのかな。
「も~らいっ!?」
「はい、終わり。判って居ればこうなるって事だな」
「嘘だ……オレの方が速かったはず。いや、実際にオレの方がはえええ!」
俺はキルアの動きに合わせず、斜めにゆっくり動いて手を伸ばした。
その間にキルアは二度のフェイントをかけ、俺が動き出した瞬間に反対側に回り込もうとしたわけだな。死角に潜むのは暗殺者として正しい動きなのだが、こちらが真っ直ぐ動くと思って、『キルアから見た俺の死角』へプログラムされた動きで移動してしまっているのだ。結果、俺は斜めに動いているから想定から外れるし、むしろキルアの方から旋回中の居る俺の手に突っ込んでいる形になった。
「ゴン。いま、何が起きた!?」
「んーとねえ。キルアが凄い速さでS字に動いたと思ったら、ユキの手に突っ込んでた。むしろ頭突きをするつもりかなって思ったくらい」
キルアの電光石火の動きは、フェイントを入れたことでむしろ遅くなった。
コンマ数秒で動き出し、気が付いた時には直進できる速度だったはずだ。しかし、フェイントを入れるという事は、その動きを余分に行うという事。確かに俺が攻撃するまでに離れられるほどの速度かもしれない。だが、二回も移動したら遅れて当然である。左右どちらかに二回移動する様な円形の動きは俺が動かないと間抜けなので、最高率を求めてS字に動いたのもマズかったと言えるだろう。俺は半歩動いて上半身の旋回だけで済むからな。
「な、何をやったんだ?」
「さっきのは無駄を極限まで減らしつつ、レスポンスだけを可能な限り早めた
蠅や蚊のゆっくりとした動きに、人間が付いていけないという現象が起きる。
これは虫の思考回路と命令伝達が人間より早いから起きる事である。人間が我が手を動かして行動を始めた時、虫の側は既に別方向へと動いているのだ。コレに体重の軽い虫が、腕の動きで生じた風に巻き込まれる形で軌道を変えると、まず人間では追いつけないという感じだな。後は相手の行動の直前、手であったり頭に対して攻撃を掛ければ、もっと行動時間は減らせるだろう。
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「キルアの動きが100だとしても、対応側はその70%くらいで間に合ってしまうんだ。さっきみたいにフェイントを入れるとかすれば猶更。もしキルアの動きに慣れた人なら、半分くらいのスピードでも何とかなるだろうね」
「つまり……もしオレとイルミが戦ったら、操られて負けるってことか?」
「間違いなく。戦い慣れて手に負えなくなれば、戦わずに脅すだろうけどね」
正直な話、キルアが強くなったとしてイルミに勝てる光景が思い浮かばない。
刺したら終わりのイルミにとって、キルアの思考の間を突けば済むだけの事だ。馬鹿正直に正面から戦う必要はないし、何処かで隙を見出して刺してしまえば良いのだ。もし勝てなくなったら人質を取るなり、原作の選挙編でやったみたいに一般人を駒にして数を増やすだけだろう。その中に紛れて、雑魚だと思わせて突き刺してしまえば良いのだ。というか、あからさまな針以外にも、キルアの頭に刺してる針みたいなのもあるしな。
「ねえねえ。もしキルアが堅で思いっ切り防御したらどうなるの? 一緒に戦うならオレでも良いけどさ」
「おそらくだが、イルミにはオーラを吸い出す二つ目の発があると思う」
「そっか~。じゃあ駄目だね」
放出系のバリエーションにエネルギー吸収がある。
喰ったらオーラが成長するメルエムの能力もこの一種だが、操作系の隣に放出系がある為に相性が良いのだ。防御に固めたオーラを吸い出してしまえば、後は一撃必殺の操作能力で操ってしまえば良いのだから基本の延長で出来る。そのための制約として『貯めておいた分のオーラしか吸い出せない』とかしておけば、二本・三本と針を使えば良い。
「なあ、あんたもイルミがいつかオレを操りに来ると思ってるわけ?」
「あの試験を見てれば誰だってそう思うさ。イルミがやってないのは単純に、『外に出しておいた方が修行になる』とか、そうだな……家長の決定なり家族会議が止めない方向でまとまったくらいだろう? なら同じレベルでキルアの思考を制御することも放置されてるんだろうさ。成長するまでは危険から遠ざかって居た方が良いのは確かだ。つまり、『キルアがこのままなら何もしない』というくらいかな」
アルカの事は言えないが、イルミには過去例があるので誤魔化せる。
巻き添えになりたくないから手助けしているとも言えないので、適当にあり得そうな未来を告げておいた。キルアの方も思考制御されている為か、アルカの可能性には思い至らず納得はしている様だ。俺が普段から能力に関する考察をしているので、イルミの能力を推測している事に不自然さがないのもあるだろう。
「
「だが今の話を聞いて何とかなる芽が出て来たぞ。そう言うルールがあるなら、おそらく脱出ゲームになる。目的地までキルアないし連れが辿り着ければキルアの勝ち。連れを殺されるか、囲まれて脱出不能に成ったらイルミの勝ちで外には出さないってとこか。だから最終系の勝負で勝てる様に布石を打っておけば何とかなる」
そんな感じで情報交換しながら未来予想を描いてみた。
キルアは連れに関してゴンだと思っており、ハンター試験の様にイルミの行動範囲内に二人が入った場合を想定しているだろう。もちろん俺は別件でアルカとナニカの力が必要になって、連れ出すことを想定している。ただ、それを今言う訳にはいかないし、その時に力を貸せないだろうから、あまり口を出すべきではないだろう。
「勝負の最終系?」
「キルアがこのまま育てば高速で移動して脱出できるだろ? それを抑えるなら一般人だろうが身内だろうが利用して『これ以上逃げるなら容赦はしないよ』と脅すってところだな。キルアが一人ならまず捕まらないだろうが、そういう状況でゾルディックに戻るとは思えん」
「なる」
ともあれ、これで最低限の入知恵はしておいた。
後は記憶を取り戻した時点のキルアが考えるべき事だ。おそらくは『あの時の話とは状況が違うが……』と適当にアレンジして何とかしてくれるだろうと期待しておく。
「という訳でキルアはその時を想定して、長時間活動するための訓練をしつつ、経験を積む感じだな。今回の件は長丁場になりそうだし、良い経験になると思うぞ」
「そうなると良いけどな」
こうしてゴンとキルアに訓練の指針を与え、後は状況に合わせて冒険の旅をするとしよう。
という訳で説明回です。
モラウが何をしていたか、これからみんなで何をするかになります。
(ゴンキルの訓練方針もありますが、前回と変わらないので)
●モラウたちの反応
蟻編とまったく想定が違うのでこうなってます。
命懸けではないし、人数制限も無いので。
●蟻は何処に居たのか? どこへ行ったのか?
原作では特に書かれて居ませんでしたが、適当に理由を付けてみました。
戦艦なり空母が沈んでるなら、まあスペース的には十分でしょう。
●キルアは対策されると終わる
ファイブスター物語的な練習戦闘でしたが、予測位置に予測方向から突っ込むだけ。これでは対策できても仕方ないという感じですね。むしろ肢曲を使った方が対策し難いというか、あれは高速でやっても通用する良い技かと。
この話はハンターの中で、キルア以外はあんまり高速移動を持ってないので、「おそらくカウンター出来る奴は、割りと対策できるんだろうな」と思ったためです。(ユピーは戦闘経験ないので、カウンターとか得意ではなかったのもある)
●家族内指令
最低限の入知恵は終わったので、後は放置。
冒険の旅で一緒に強く成ったら何とかなるかな? というところですね。