インモラルなステディxステディ【完】   作:ノイラーテム

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予測行動

「今回の偽装幽霊船に関して、いずれかの国家のモノであると思われる。その前提に立つのであれば、逆算的に黒幕を特定することが可能に成った。あくまで仮定に仮定を重ねた、論理の飛躍でしかないという前提だと思ってくれ」

 

「まずはユキ先生の予想を聞かせてもらおうじゃないの」

 

「了解した。質問は適宜に判断してくれ」

 

 俺の言葉をモラウが肯定し、話を促す形で会議が始まった。

 

その場にはナックルとシュート、ゴンとキルア、そして学者や冒険家の中で信用のおける者だけを集めてある。もちろんグリードアイランドで出逢った念能力者は信用の面で参加できる者は居ない。ビスケとゴレイヌなんかは例外だが、ツェズゲラももう少し後から合流する可能性がある程度だからな。

 

「主犯はビヨンド・ネテロとパリストン・ヒルの二人。この二人が別々の目的で手を組み、目先の目的はハンター協会のネテロ会長をどうにかすることだ。ビヨンドの最終目的は暗黒大陸へ冒険しに行くため、パリストンは愉快犯だから状況を愉しむために困難な目的を設定している」

 

「あー。言われてみりゃ思い当たるな」

 

「そんなにクソなんすか師匠?」

 

「おう。どっちも超ド級のクソだ」

 

 俺は軍艦に『フライング・ビヨンド号』と名前を付けておいた。

 

もちろん地球のフライング・ダッジマン号をモデルにしているが、暗黒大陸へ行くために暗躍するあの男を知って居れば、特に反対する者は居ないだろう。その名前が動き回るという意味では無く、血気に逸るという意味になってしまっているが。

 

「質問。爺ちゃんですら避ける、鬼みたいに強い会長をどうにか出来んの?」

 

「ネテロ会長は人間の極致だが、人間には閾値が存在する。会長でも倒せるのは戦車くらいだ。元から分厚い外骨格を纏った外来種、それも戦闘タイプならオーラを使うだけで攻撃が通じなくなるだろうな。しかも会長は絡め手が嫌いだから、真正面から突入するだろう。ゲームでいえば1ドットしかダメージを与えられず、会長の回避がファンブルするか、相手の攻撃がクリティカル命中したら終わりという勝負になるな」

 

 質問して来たキルアが嫌そうな顔をした。

 

ネテロ会長で駄目だという事は、ゼノ・ゾルディックでは論外と言う事になってしまう。自分の祖父がそんな扱いをされて嬉しいはずもないし、俺の様子から嘘を言っていないとも判るのだろう。イルミと違って祖父は尊敬しているようだし、その気持ちも分からんでもない。

 

「調べてみたらNGLに協専ハンターやハンター崩れの能力者が山ほど送り込まれている。もちろん正規のルートだから武器無し、態の良い餌扱いだな。おそらくはそいつらを食わせて、外来種の子孫を増やす気だった(・・・)んだろう」

 

「そこでカイトが既に調査してるって事だよね!」

 

「そうだ。NGLの敷居は高いが、俺のツテで入国できたからな」

 

 今度はゴンが質問して来たので頷いて置く。

 

実際には幻影旅団二人も居るのだが馬鹿正直に戦力として報告する必要はない。『本当に大丈夫なのか? 引き上げさせるべきなのでは?』とか『オレも行く!』なんて言い出したら止める材料にするくらいだ。この場に居る人間は信用できる奴ばかりだが、『今ならパリストンたちを止められるかも』と善意(・・)で説得に行く可能性はあるからな。

 

「背景はそんなところだが、これ以上の説明は止めておく。俺たちの行動に必要はないからな」

 

「オレら別に正義の味方じゃないもんな」

 

 証拠を見つけることはできるが、それをやると相手に見つかってしまう。

 

現場から撤収されてしまう上に、場合によっては証拠隠滅の為に周辺一帯に手が入ってしまう可能性があるだろう。それは軍によって遺構がされるだけではなく、場合によっては空気を送り込んでいる海底洞穴の類も含めて、無かったことにされてしまう可能性というやつだ。どこかのダークエルフもどきの言葉ではないが、陰謀を止めても得るモノが無い。

 

「キルアの言う通り正義はかなり下の優先度になる。第一に身内が困らないようにする事、第二に海洋の神秘を体験しつつ保全する事、第三にスッキリしない部分を解決する事。NGLの一般人を助けるとか、外来種が無害だったら保護するとか、真相を暴くなんてのはこの第三の内に含まれる。みんながやりたいなら止めないが、優先順位を忘れないでくれ。みんなも身内だからな」

 

「オレらが犠牲になってやる事じゃねーって事だな。判ってんのかナックル?」

 

「判ってますよ師匠。なあゴン?」

 

「うん!」

 

 もやもやしてるメンバーも、優先順位を説明するとスッキリした顔をする。

 

最も『判って居る不正を暴くのを見逃すのか?』と思う人間でも、身内を犠牲にしてまで真実を追い掛けたい奴は居ない。あくまで知ってるのに知らないフリをすることが気になっただけだ。偶々見える範囲で顔を突っ込む事は止めてないので、外来種に民衆が襲われたら助けても良いし、原作に出て来たコルトみたいな話し合える蟻がいれば保護するのはありだ(見逃すのは無理があるが)。真実を暴くのは、それ以下になるだろう。

 

「さて、本命の探索に関して概要を説明するが、風呂に入って唇から下が湯に浸かってると思ってくれ。鼻で息をして、偶に口から息を吐くことで泡が出る。顔が大陸だとしたら、鼻から下が大陸棚と海ってことだな。このメカニズムを確認し、その上で軍艦が浮かび上がる姿を見て愉しむまでがワンセンテンスだ」

 

「師匠、実験してみます? ボートとかで」

 

「出来なくはねえが、判ってる事をやってもなあ」

 

 俺の説明で全員がモラウを凝視し、ナックルが代弁した。

 

人間の中でも随一の肺活量を誇る彼ならば、時間は掛かるが鼻で息をして、煙で作ったチューブの先にあるボートを浮かせることは可能だろう。バランスとかは調整が必要だろうが、今回の一件ではそれらを調整する役が居るか、水面には出ない程度に浮くだけで終了する可能性が高い。実験して確かめるのも良いが、軍艦の状態が分からないので、それほど確かめる意味はあるまい。

 

「現地は逆さまに成ったお椀の様になった窪地で、おそらくはこの窪地の最も深い部分に洞穴があり、重さで降りて来た軍艦がそこで空気を貯める。浮かんで暫くして空気が抜けて元の位置にズレ落ちていくというサイクルだろう。ここで真っ先に対策するべきは、センサーと証拠隠滅用の爆薬。次にガードモンスター」

 

「そのパワポ古くね?」

 

「当時は最新だったんだよ」

 

 パワーポイントで作った簡単な光景を見せながらメカニズムを説明。

 

海底の地図の上に軍艦らしき絵を置き、これがずりずりと底に移動。少しずつ出ている泡で空気を溜め、浮かび上がって海流に乗って漂い、空気が抜けるとまた窪地に戻ってくるというサイクルになる。女王はこの一番上あたりで逃げ出すように仕組まれて居るのではないだろうか? まあ昏睡から覚醒したみたいだし、眠らせて保管してるだけかもしれないけどな。

 

「ガードモンスターの中で魚類は俺の能力で何とか出来る。同様にセンサー類も半分くらいは誤魔化せるだろう。問題なのはみんなが行動半径を絞ってくれるかどうかになる」

 

「お前、本当に水の中だと無法だなあ」

 

「出来なくなることもあるけどな」

 

 俺はコップの中にある水を持ち上げ、フィルターを作った。

 

その向こう側を写さないように画像をオフにしたり、逆に一部だけをカットして見る。このフィルターで映像探知を誤魔化し、ついでに熱源反応も何とかなるだろう。音波に関しては反響に反響を重ねた物までは防げないし、完璧な迷彩が出来るわけでもない。ただモラウからしてみれば自分と似たような事をする人間が、明らかに水中の方が得意だと見えたので、そんな感想になったのだろう。

 

「ひとまず俺からは、拡げられる範囲で広げて見せるから、それに慣れてくれ。実際には圧力操作やなんかもやるから、もっと狭くなると思うが」

 

「……なら、みんなが慣れた後でオレに特訓時間をくれないか?」

 

「シュートの能力なら遠くのセンサーを潰せるか。やって損は無いな」

 

 これまで黙って居たシュートがおずおずと提案して来た。

 

彼の()ならば、攻撃した対象を封印できる。相手が巨大だと効果は発揮し難いのだが、それでもヒレや尻尾を消すことが出来れば大きいだろう。また触手を持つモノもセンサー的な場所を消すことができれば、何とかなる可能性は高かった。それと何気に重要なのが、証拠隠滅用の爆薬だろう。薔薇の様に小さいモノもあるので、一瞬の判断が間に合えば封印できる彼の能力は有用だった。

 

「とはいえ、最初は何もせずに遠くから眺めてメカニズムを学ばせてもらい、ついでにセンサーがあるかどうかを確認するだけだ。保険として水中生物の移動手段を奪う事を念頭に置いて欲しい」

 

「それで良い」

 

 海洋探索は一度で成果を求めたりはしない。

 

資源なんかは資料として色々持ち帰ることになるが、『どんな不思議な事が起きて居るのか』を確認することが冒険の醍醐味の一つだからだ。困難な状況もメカニズムを解明してしまえば対処可能だし、それこそ今回なら漏れ出る空気が新鮮なものか、それとも危険な成分が混じって居るか知るだけでも十分に意味がある内容だろう。

 

「ユキ兄様。そろそろ帰国するのでご挨拶に伺いました」

 

「会えなくなるのは寂しいけどね」

 

 特訓をやってるとフウゲツとカチョウがやって来た。

 

カキンに戻って残している課題の提出に向かう予定になって居た。殆ど通信教育で簡単に授業をこなし、大きなイベントだけ顔を出す形だから、そろそろ戻る必要があったのだが……少しばかり違和感があった。

 

「……ユキ兄さま?」

 

「フウゲツ。カチョウに伝えてくれないか? 偽物を用意する時はもう少し状況を見た方が良い。それと能力おめでとうってね」

 

「……」

 

 違和感の正体はカチョウの口数が少なかったことだ。

 

抑揚も少なく最低限の言葉しか使ってない。大人しめのフウゲツなら判るが、自己主張が強いカチョウならばもう少し色々説明するなり、降嫁するまで後どのくらい掛かるのかを聞いてくると告げただろう。

 

「むしろワザとらしく偽物っぽくして、カチョウ本人だったら悩んだかもね」

 

「やっぱり良く知る人には難しかったですね。かーちんもそう言ってたし、なんか悔しいなあ。とりあえず、そこに隠れてるから本人に言ってあげてくださいね」

 

 フウゲツは驚いた表情を浮かべていたが、事前に覚悟はしていたのだろう。

 

何しろ服装や化粧がカチョウ本人のコーディネイトなのだが、やはり念で作り上げた人形には違和感がある。帰国の挨拶という節目を選んだのは良かったが、それなら二人が戻りながら人形だけ別の誰かと会話させ、遠目には『カチョウは戻ったはずでは?』と疑問を抱かせる方が良かっただろう。彼女の性格ならこっそり抜け出すとかしそうだし、王族なので予算は潤沢にあり、飛行機をキャンセルせずとも、もう一便後ので帰国しても良いのだから。

 

「えへへ。ユキにい驚いた? 頑張ったんだからっ!」

 

「驚いたよ。フウゲツに似せるって話だったからね。でも言われてみれば、自分をもう一人出して場を乱すのもアリか」

 

 そして少し離れた場所からカチョウが現れるとダイビング。

 

俺は彼女を受け止めながら優しくその場に降ろした。柔らかく気の強い俺のお姫様の一人。カキンで……いや、この世界で大切な二人のうちの一人だ。早々間違えるつもりはなかった。

 

「んとね。ビスケ先生とゴレイヌ先生が最初は自分からやった方が覚えるって」

 

「確かに。戦闘力持たせるんじゃなくて影武者なんだし、早めに慣れた方が良いと言えばそうだね」

 

 今回の件で重要なのは、カチョウとフウゲツは双子だということだ。

 

まったくの他人が影武者能力を覚えるなら話は変わるのだろうが、双子でしかもフウゲツの方が入れ替わり能力を覚える気ならば、総合的に見ても早めに作り上げた方が良い。ただ俺としてはいつも一緒に居る訳だし、四六時中見ているフウゲツの方を早く認識し易いと思ったのだが……やはり念獣の専門家からみれば別の見方があるということなのだろう。

 

「戻ったら流石に特訓を他人に見せるわけにはいかないけど、アレ持って行って良いんだよね?」

 

「構わないけどグリードアイランドはアップデートすると思うよ」

 

「良いんですよ。そういう手段があれば、私たちも励みになりますし」

 

 バッテラから複数のグリードアイランドを得たので一つは彼女らに持たせる。

 

いずれカチョウが降嫁し、俺の屋敷に住むことに成ったらフウゲツの所有として確保する事になるだろう。もちろん俺の屋敷にも一つ置いておくし、非常時の移動手段になるだろう。

 

「そーだ。せっかくだし、あの子も一緒に色々やっちゃう?」

 

「それは魅力的だけど少し倒錯的じゃないか?」

 

「入学前の私たちに手を出した変態さんなのに? HENTAIになっちゃえ」

 

「かーちん……あんまり人前でそう言うのは……」

 

 悪戯好きで好奇心旺盛なのはカチョウの方でこんな提案もする。

 

ただ、実際に本気になってのめり込むのはフウゲツだったりもする。以前に百合百合した女子高生ジョークでカチョウがスキンシップをしたら、フウゲツの方は途中から本気でベッドに行こうとしたからな。とりあえず、他の連中が気を利かせて離れてくれて良かったと思っておこう。

 

「ああ、そうだ。王宮に戻るならこのデータを持って帰ってくれるかい? 陛下だけと出逢う時じゃなきゃ渡さなくていい」

 

「極秘って事? そんなにヤバイの?」

 

「データそのものは普通さ。カキンじゃなければね」

 

「水流の反射予測プログラム……ですか? 判りました」

 

 二人を経由してこれまでまとめたデータを送ることにした。

 

それは海流・潮流・その他の影響で、近くの地形・海の底がどうなっているかを簡単に調査するための物である。漁船が使うために色々やってるプログラムを少し豪華にしたものと言えるだろう。コレがあれば仮にBW号みたいな船で暗黒大陸を目指すのであれば、『今どのへんでどういう地形が近くにあるか』が想像し易くなるだろう。その程度のものだが、カキンの方針に逆らうつもりはないというデータであった。




 という訳で新章が少しずつ進んでいきます。
まずは水中に潜って、何をするべきかの把握。
あとはカチョウの念獣が一応の完成に至ったくらいですね。

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