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『もしかして、電磁波じゃないか?』
『そういえばそんな気もするな。ただ広範囲にやるなら薬の方が早いと思うが。いや、薬は溶けるし海流で流されるか』
シーハンターであるモラウの言葉に俺は頷いた。
鮫を含む大型の魚類対策に、電磁波やら薬をばらまくというものがあるのだ。色彩や画像でも驚かせることが可能だが、忌避剤を用意したり電磁波で神経を撹乱するという手は判り易く機能する。ただ、それぞれ一長一短があるので、どちらが良いとも言えないし、長距離攻撃する奴には効く前に移動して来るから必ずしも有効な手段があるという訳でもないのだ。幾つも用意した上で、どうしようもないなら泳ぐことそのものを割けるのが一番と言える。
『健康も害するし記録装置の類が駄目になる場合もあるから、電磁波を強めに使うのは止めた方が良いんだが、今回は別だぜ。その上で、電磁波は同じ場所から周辺を威圧できる』
『なら、やり様に寄って逆探することも、見つけてスルーすることも可能だな』
迷惑を顧みずに、なんでそんな事をするかというと、『食われない』為だ。
確保して居る外来種のサンプルのみならず、それを管理しに来る職員の類が大型魚類に襲われては何の意味もない。その二つを守る事が出来れば、海底に眠る沈没船は絶好の隠し場所だろう。計測器に対する妨害装置にもなっているならば、やって置いて損はない対策と言えた。
『キルア。この周囲に電磁波が出ているか判るか? 電気だけでも良い』
『んなの流石に判らねえよ。せめてこのびっちりした水着が無きゃな』
『仮にこの周囲を一時的に、沿岸部並みの水圧にしたら探知可能か?』
『やって見ねえと判らねえけど出来るんじゃねえ? また着るの面倒そうだけど』
現在はダイバースーツが必要だが、耐圧服というほどではない。
ダイビングで行う様な深度ではないからだこそだが、それでも本来ならばダイバースーツを脱ぐべきではない場所だ。我々が電磁波を浴びて無事なのもゴム製のスーツを着ているからこそだろうが、キルアにとっては邪魔な存在なのだろう。
『その辺はキルア一人に絞って付きっきりのサポ-トをするとか、戻って練習するなり……どうした? 何か発見したのか?』
『違う……違うんだけど、脱ごうとしたら……なんか体が……震えてるのかも』
『すまん。イルミの針を忘れてた』
普通は脱がない場所で脱げとか我ながら無茶を言ったかと思った。
そのくらいキルアは震えていたし、もし海で無ければ即座に飛びのいて居たかと思うくらいには不調そうだった。彼が今そうしていないのは、飛びのいたからと言って危険が無くならないからだ。海の底とはそう言うものだし、仮に全速力で浮上しても、かえって誰かに見つかる危険性・大型魚類に食われる危険性があるのだから、一直線に上を目指せないのだろう。
『くそっ! ここでもイルミかよ! あいついつもオレの邪魔をしやがる!』
『キルア。気持ちは判るけどスピーカー。みんな責めてないしさ』
『ゴンの言う通りだ。他の方法を探そう。電磁波はあっても良い』
キルアの怒りがスピーカーを通して俺たちの骨に響く。
骨伝導無線機を使っているからだが、キルアが動けない事よりも、煩い方が迷惑だった。だが、俺の迂闊な言い方のせいでこうなったのだから、あまんじて受けるべきだろう。その上で重要なのは、強烈な電磁波をどう考えるかだ。ようするに軍艦の行動半径の中で、職員が移動できる場所を中心に流して居るだろう。念能力者の中にも学者は居るし、鍛えてあれば行き来は難しくないからな。
『ワリィ。ちょっとキレてた。ただ……この環境は気に入ってるぜ。何しろ、闘技場やビスケとの修行んときみたいに、情けなく飛び出したりしてねえからな』
『キルア……』
ただ、何が何の影響を与えるか判らない物で、キルアにはプラスだったようだ。
己の恐怖心と向き合い、抜き差しならぬ状態で我が身のコントロールを取り戻すには良い環境だと思ったのだろう。これは良い兆候だ。彼が得られなかった死地の一つくらいは補ってくれるかもしれない。
『なあユキ。イルミの針ってどんなものか判るか?』
『おそらくだが奴の一部を使った物だな。気功で髪の毛を針の様に尖らせるってのは、民間伝承でも伝わってるくらいだ。周と共に工夫をすれば針になるなら、あの長い髪をしている理由にもなる。その上で、より質の高い呪詛には爪とか、骨を削り取るとかやりそうな気がするぞ』
イルミは様々な制約と、幾つかの基礎能力を組み合わせている筈だ。
自分の体に突き立てている針もその一つで、オーラと共に血肉を吸い上げているのではないだろうか? 針一つが満タンになったら吸い上げるのを止めるようにして居れば、その時点では自分に害がない様に見える。だが、他人に殴られてボディーブローを喰らったら大変だろう。いかに血管や内臓を避けて突き刺していても、殴られたらヤバイ場所に刺さるはずだからだ。だが、髪の毛で作った針ならそんな事もない。
『小指の骨とか……。そうだな、肋骨の余分なのとか、その辺を取り出して加工するんだ。誓約だと思えば質の向上も見込めるし、除念しても即座に補充される。制約と誓約はバネ、激しく覚悟が重い程に伸びしろが大きい』
『チッ。オレの頭ん中にそんなのが入ってんのかよ』
『おい。いきなり脱ぐな。せめて宣言してからやれ』
キルアが突然ゴーグルに手を当てたので、慌てて圧力を操作した。
服を脱いだり着たりするよりも、ゴーグル外して頭の部分だけ脱ぐ方が早いからだろう。同時に頭に突き刺さった針を抜くための準備だと思われた。
『キルア。爪だの骨は電気に反応しない。お前の中に溶け込んだ、イルミの気配を感じるんだ。この海と同じ、闇や森の中に潜むのではなく、原初の海に溶ける様なイメージになる』
『……』
骨伝導無線機は首に付けているのでゴーグルやら色々とっても伝わった様だ。
キルアは頷いて集中すると、やがて額に指を這わせて、とある場所を抉る様に摘まんだ。それだけの光景に見えたが、おそらくはゾルディック家の肉体改造や技術も使ったのだろう。何かを抜いて、スッキリした表情で笑い始めた。
『イルミのやつ。こんなの埋めてやがった。スッキリしたついでに、さっきの電磁なんとかも見つけてやるよ』
『任せるが無理はするな。ソレが終わったら一度浮上しよう』
キルアは猫が宙を睨むように周囲を探し始めた。
どうやら電磁波を見るために凝を始めたのだろう。オレは邪魔しない様にキルアを守るための圧力操作以外を切り、フィルターも一時的に解除して周辺を見張った。海の中だと見え難いはずだが、相手からも見え易くなっているかもしれないからだ。
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「電磁波の発生装置を特定できたんで、大体の警戒半径が判ったぞ」
「キルアはお手柄だったな。後で大人の玩具を贈ると約束しよう」
「マジで? それも気になるけど、スイーツ屋のチケットくれよ」
「両方約束しよう」
複数の探知方法があるだろうし、念獣あたりも怪しいだろう。
だが、肝心の遺構の位置が分かっており、また電磁波の発生装置の場所が分かったことで、相手の探知圏が特定できた。こういうモノは既に『技術の限界』だとか『得意分野の差』などが判っており、組み合わせても限界があるからだ。なので、『こういう時に、もっとも効率的な場所はどこか』を想定すると、おおよそ把握できてしまうわけだ。もちろん、碁で言う『紛れ』のような普通はしない行動を混ぜることもあるだろうが、そこまでしてないと思われる。
「後は目的地の周囲に陣取って、軍艦が浮くのを待って観察だな。もし管理者が来たら、そいつらがどこから侵入しているかも確認する。ただし、こっちに襲い掛からない限りは無視する様に」
「「了解」」
軍艦に空気が溜まって浮き上がるまでは基本的に何もしない。
監視だけに留めて、もし外来種が出てきたら始末するか捕獲するかで悩む程度だ。管理者が行き来したら、ありがたく出入り口を把握させてもらうとしよう。NGLの方でも蟻の被害が出始めたところで、ジャイロからのSOSとかまだないからな。まあ、無くてもカイトが連絡を寄こしたら即座に向かう訳だが。
「玩具ってさ。どんな道具なんだ? 海の中で使えるバイクとか?」
「それも考えたが、キルアの能力なら空飛ぶ方が面白いだろ? イオノクラフトって知ってるか? 電気を使って空を飛ぶ玩具さ」
こうして準備を終わらせた俺たちは、軍艦の観察とそこからの侵入に向けて最後の調整を終えた。
という訳で今回は準備の終了です。
あと、ついでにキルアの呪縛が解放されました。
原作で言うと、ラモット戦より前の段階だけど、針は抜いた感じ。
今回は繋ぎが悪いので、短く終わってます。
次回は浮き上がった船の観察から、ちょっと侵入して見た後って感じですね。
●大人の玩具
イオノクラフトを初めて見たのは、ガイバーという漫画でウナギの改造人間が使った時ですね。その時から、何処かで二次小説なりTRPGで使ってみたいとは思いました。あとはキルア専用のオーラバッテリーとか、オーラコンバーターを容易出来れば、アルカ編で介入しなくとも、彼はアルカ/ナニカを連れて逃げられるのではないでしょうか?(空飛ぶハンターは貴重だし)
そういえば他愛ない妄想ですが、イルミ → ミルナ というナニカに何切れてない存在とか偽装人格があれば、そこからナニカに繋がるかな~とか妄想をしたこともあります。まあミルキに女の子人格とか無いだろうし、キルアに完全分離した別存在とか居ないでしょうしね。