●
「あれれ。なんだか変な気分だよ」
「そうだな。もしかしたら変な電波でも出てるのかな?」
『我々J=M探検隊は地下から噴出する大泡の調査中、謎の怪電波を観測した』
川口浩探検隊・藤岡弘探検隊のノリで撮影を開始した。
はじめて訪れたはずなのに、サクサクと移動し、妙に手慣れた態度で移動や観測を繰り返しているのはご愛敬である。何しろ元ネタの探検隊だってカメラや音響さん照明さんが普通に先行し、現地のガイドも勿論知って居るような場所に移動しているからね。それでもなお、日本人には不思議であることが重要だったわけだが。
「大変だ! 電磁波がこの辺りから出ているぞ。この辺には基地もないのに!」
「なんだって!? まるでこの辺に何かがあるみたいじゃないか。不思議だなあ」
『我々J=M探検隊の調査では、この辺りの漁師でも知らないという……』
実に白々しい感じの撮影だが、もちろん学術的レポートは真面目にやってる。
普通の方法だと学術的な探求では予算が下りないので、ドキュメンタリーとして撮影してテレビ局に売り込むとか、資源調査団と学者が提携して周囲を観測しているという事にしているからだ。もちろんスポンサーはうちの資源調査会社である。カキンとは完全に離れた場所なので、シノギの一部を吸われることもない。
「みんな大根役者だな。だが、それが良い」
「こっちを学会に出したら噴飯物だな。ただ、見返してみるとこれが実に面白いんだよなあ。ま、そう言う風に編集しているからだがよ」
モラウに声を掛けると肩をすくめて大笑いしていた。
厳ついオッサンだが茶目っ気はあるし、学術的で真面目なシーハントとは別に、こういう娯楽が若者を惹き付けることも理解している。そして大衆のバックアップと理解無くしては、現象の観察も保存も難しい事を理解しているのだろう。だからこそ、この撮影とは別に、周囲の環境保存への同意もしてくれたわけだが。
「このまま撮影して資料一式を提出すれば、あそこを管理する連中自身でも迂闊に手を出せなくなるわな。問題は政治工作でなかったことにされることなんだが、その辺はどうなってる?」
「問題無い。うちの国は
継承戦が始まる予兆があり、BW号の建造も始まっている。
暗黒大陸への進出できるかはともかくとして、手前の島までの進出・確保自体は既に計画されているわけだ。ネテロ会長を排除できなければビヨンドは動けないが、それでもこういう大規模な事は一朝一夕には出来ない。特にBW号は巨大過ぎて、一年で建造できる物ではないからな。一応は『たまたま会長が死んでから建造が間に合ったけど、不思議だな~』という態を取るが、建造自体は既に着手しているわけだ。
「俺がやってる事業が基本的にGOサインが降り易いのも、カキンという国自体が既に限界なんだ。あちこちへの移民と開拓も着手したし、もし許されるなら暗黒大陸の手前までくらいは目指すと思うぞ。まあ、それはV5次第だが……大学とかその辺の学者にはアプローチを始めている。うちもその余波に乗って、中立から敵対している学派やなんかにも声を掛けた」
「手抜かりが無い事は良い事だぜ。ま、暗黒大陸はどうかと思うけどな」
戦没遺構の利用は国家がやってる事なので、途中で邪魔される可能性はある。
だが、先述の理由でカキンという国自体は既に動き出しているのだ。今更止れないので、こちらが話を持って行けば、時流に乗って行動し易くするために世論を煽りたいから乗ってくれる。ここで重要なのはパイプを利用して情報をポシャらせないこと、あり得ない事だと学会での提出を無視されないようにする事だ。だから俺は色々な物をフルに活用しているという事になる。
(もっとも、今回の関与はそれだけでは留めないけどな。思わぬところで、大学関連に手を出すことが出来た。後は
ネテロ排除目的の陰謀と暗黒大陸行き計画はカキンでも別系統である。
大元の源流にビヨンドが関わっていても、その全てを関与できている訳でもないし、関与していないからこそ今まで隠れて居られたのだ。だが、奴は今回関係ない。邪魔しに来てもその前に公表できるし、そもそもビヨンドからすればパリストンに任せた嫌がらせの一つでしかないのだ。本人は本人で別の陰謀を巡らしているだろう。俺にとってはこの件を利用して、とある大学の関係者に接触が持てれば問題無かったのだ。
(ハルケンブルグ……奴に情報を流すことが可能に成れば継承戦で致命的な流れを避けられる。できればツェリードニヒへの不信感を植え付けたいところだ。問題は二兎を追わせると成果が怪しくなることかな。ならば『ツェリードニヒを生き残らせる戦術』の排除だけで良い。それで十分だ)
大学からハルケンブルグへ情報が流れれば、あちらから接触もあり得る。
もちろん継承戦に参加する気の無かった男であるがゆえに、まったく関与してこない可能性もあった。ただ、それならそれで現地での行動の指針として何らかの利用をする為にこちらに接触してくる可能性はあるだろう。何しろカチョウは降嫁予定、フウゲツも王籍離脱の方向を模索しようとしているのだ。少なくとも排除対象ではあるまい。その上で彼女たちを守るという前提で、向こうが持ちかけた取引に乗るという形なら関与は出来ると思われる。ただ彼の行動力は一本気なところがあるので、『敵対者を全員倒して、ツェリードニヒを王に据える』という選択肢を捨てさせる事が出来れば御の字だろう。
(いずれにせよ、今回の冒険は多岐に渡って影響を与える布石に過ぎん。蟻編を確実に収束させ、そしてハンター協会内でもカキンでも存在力を増す。その上で出来るだけ清濁併せ呑むスタイルを保つ。それで十分だ。ハルケンブルグに関してはオマケでしかない)
目的と布石は意味も用途も違うのが当然だ。
目的は一つに絞って確実に叶えるべきだが、布石は多岐に渡って打つべき事になる。余計な波及効果で敵対者が増えたり、本命の目的であるカチョウとフウゲツの生存が揺らぐことはあってはならない。だが、ハルケンブルグに多少の影響を与える可能性なら少し考慮しても良いだろう。やってはいけないのは無理に接触しようとしたり、上位の王子を一人も殺せずに悪い影響を出すことくらいだろうか。
●
『湧き出る泡が増えて来た。そろそろだぞ』
『でも、なんでこんなに空気が出るんだろ。洞窟ってのは判るんだけど』
観測から数日して、目に見えて空気の泡が増えて来た。
そろそろではないかという所で毎日潜り、途中で隠付きのフィルターをかけて泳ぐ日々にも慣れてきたところだ。キルアとゴンはかなり体力が付いてきており、重苦しい水にも慣れてフィジカルだけなら蟻編後半にも匹敵するだろう。
『おそらくだが何処かに土砂が寸詰まっているんだ。大元の地下洞穴から空気と一緒に吹き込み、一定量が溜まる事で吹き飛ばす。要するに、あの軍艦の手前にも同じような
『ジュース飲んでる時にストローの中に入った氷を吹き出すようなもんだな』
『キルアは飲み方が汚いよ。沢山あるんだからゆっくり飲めば良いのに』
システム的にはそう複雑な事ではない。
風の通り道にある穴が偶々海底に繋がってるだけだとも言うし、造山活動の一環で出来た穴が大陸側にも海底にも繋がってるだけだ。偶然なのは風が強い場所に洞穴がある事くらいだろうし、怪しいと言えば蓋になってる軍艦の方だろう。誰かが移動させたとか、出口側の穴を堀り進めた可能性はあった。
『来たぞ。ここからは可能な限り目を閉じないくらいのつもりでいやがれよガキども。後悔したくなきゃ目を離すんじゃねえぞ』
『わーったわーった。大げさだなモラウのおっさ……え?』
『わっ!? とんでもない泡の量だね!』
目に見える泡という表現では生易しい。まるで金魚鉢のエアーだ。
ブクブクと大きな泡が幾つも上がり、もしあの上に居たら一緒に水面へ押し上げられて行きそうな雰囲気があった。こまっしゃくれたキルアですらポカーンとしており、どうなるか想像出来ていた俺やモラウですらそこから何も言えなくなったほどだ。
『見てよ! あそこ! 何か浮かんで来た!』
『来た来た。クジラじゃねえぞ。ありゃ確かに軍艦だな』
『可能な範囲でクリアにしてみるぞ。キルア、合わせられるか?』
『まっ。何とかやってみっかな』
大量の空気に押し上げられて、何かが浮かんでくる。
おおよその形状を理解しているモラウの言葉に、俺が画像をクリアにしてキルアが可能な範囲で電磁波を吸収した。テレビで見る南国の海……というにはいささか汚れているが、砂や泥が気にならない程度に、ソレは巨大だった。
『ひゅーっ。こりゃ交代で来てる学者連中には残念だったな』
『こればかりは念能力者の特権だ。精々、可能な範囲で画像を録画してやるとしよう』
海洋学者や冒険家も潜ってはいるが、流石に念能力者と同じペースでは無理だ。
冒険家の方は出来るだけ日参しているが、海洋学者の方は体力が回復してからまた潜るというサイクルになって居た。まるでクジラが泳ぐように浮かぶ沈没船の航行。それは水中空母と言うべきか、それとも動き回る遺跡と言うべきか悩む処だった。
『もう少し様子を見て問題が無ければ侵入してみるかい?』
『ガードモンスターが居るだろうな。大怪魚の類なら何とかなるだろうが……まあ、穴の開いた装甲から覗くくらいはやっておくか』
モラウの提案に、俺は手元の検知器やシンプルな計測器具を確認して見た。
電磁波の影響を受けたので何処まで正常か怪しいが、今のところは問題はないようだ。フィルターの応用で可能な限り不純物を除去しながら進み、可能な範囲で探ることになるだろう。となればオーラの節約が重要なので、詳細な作戦が決まるまでは一度窪みに隠れて絶をすることにしよう。
『44分間か……ま、これだけ写せりゃ十分だな。帰還チームは今撮影した画像を持ち帰ってくれ。オレとシュートが前衛、ユキとキルアとゴンが後衛を務める。キルアとゴンは死んでもユキと離れんなよ。そいつが居りゃあ、潜水病なんてなんのそのってペースで逃げられるからな』
『『『了解』』』
暫くしてモラウが全員の酸素の予備やらバッテリーを確認して配分を決めた。
他にも居る念能力者は冒険家その他を率いて帰ってもらう事にした。代わりに余剰装備は俺たちが管理し、海に慣れたモラウたちが前衛を務める。まだ使ってない記録装置は俺が携帯型の念空間にしまっておいて、近づいている時や、中に入った後で余裕がある範囲で撮影する事になるだろう。ちなみに酸素を使い切ったお古はモラウが回収し、煙を作る時に再利用することになる。流石にあの泡は信じられないからな。
『あれ? なんか出て来たよ』
『骨か。そりゃ移動する墓地みたいなもんだからな。人様の骨で念人形たあ、つまんねえことしやがって』
第一陣のガードモンスターはスケルトンだった。
考えてみれば海の中の温度はあまり高くなく一定である。軍艦がある時代の骨ならばそれほど朽ちても居ないだろう。また、粗末な作りでも人間を脅すくらいは出来るというのも十分だった。何しろ普通の人間はアンデッドなんぞに慣れてないからな。
『シュート眠らせてやんな』
『はい。師匠』
(適切な判断だ。しかし……こいつらはどうやってこちらを見つけた?)
モラウの指示でシュートがスケルトンの胸骨や背骨を抜いて行った。
彼の手が魚のように泳ぎ回り、一時的に封印するとスケルトンはまともに動けなくなる。あくまで骨の構造を利用し、簡単に人形化しているのだろう。だから中心部の骨を抜くとバラバラになってしまっているのだ。もしそれで駄目でも、三つある手が要所を全て引き抜いたら終わりだろう。
『モラウ。おそらく中に無敵型の念獣か何かが居る。条件的に向こうの方が有利だから、俺のフィルターと隠じゃ誤魔化しきれてない。当然だが、向こうの隠もそれなりの物だぞ』
『そいつは旨くねえな。じゃ、予定通り入り口付近を軽く浚ったら一度戻るか』
無敵型の念獣は条件に当てはまった物を寄せ付けない。
条件を厳しくしているから成立しているし、術者のレベルよりも条件付けの方が重要だった。そのままでは対処できないし、向こうの通報装置に引っかかる可能性は大きかった。ここは簡単に周囲の装甲の穴を確認し、偶然見つけた漁民だのハンターを装って撤退。次回に可能な限りの準備を施してから対処すべきだろう。
『なあ。このまま向こうはこっちを逃がしてくれんのか?』
『無敵型の念ならな。あれは侵入者にしか対応しないし、場合によっては条件次第で簡単に無効化できる。例えばその軍艦と戦没遺構の持ち主である国家の証明書があれば、まったく何もしないとかな。そういう条件がある限りは外には出て来れないさ。そして国家も一枚岩じゃない。証拠を用意すれば、こっちに付く奴も出る』
キルアの質問に答えながら、俺は念空間から機材を取り出した。
主に使用するのはカメラだが、これで穴の様子やら位置を確認していく。もちろん国籍マークなども重要だろう。そこまで揃えたら隠している持ち主である国家もどうしようもない。それに、国家自体は特に陰謀を企んではいないから、おそらく遺憾の意を示しつつ、こちらが『誰かが勝手に利用している』と説明したら、その究明に乗り出すだろう。おそらくだが、パリストンは弱みを握っている中堅幹部か、賄賂次第で動く高官を利用しているだけなのだから。
『ん……アレは第二のガードモンスターか? てか、スライムかよ。厄介な奴が出やがったな』
『モラウ。一度下がってくれ。俺が何とかする』
『何とかって……ああ、凍らせんのか頼んだぜ』
俺は念空間の凍結室を最大限に利用することにした。
器用に泳ぎ回りながら漂って来るスライム状の魔物を凍結室のある部分で受け止める様に水を動かす。そうすることで相手の動きは拘束できるし、凍結室に閉じ込めれば氷漬けに出来るだろう。
『スライムなんかが隠れてるとなると厄介だな。可能な限りの角度で穴を確認しといてくれ。撮影が終わったら撤退すっぞ』
『『『了解』』』
モラウの指示で仲間達は軍艦周囲を回った。
決して中には入らず、カメラやライトを使用して見れる範囲で計測して行く。俺も画像伝達のモードである程度の水を操り、可能な範囲で中の様子を確認していった。その中に、怪しい組織片やら爪やらがあったことで、簡単な証拠集めを終わった。女王蟻のパーツかはともかくとして、何らかの外来種らしきものを飼っていた可能性はあるだろう(魔物に食われてるなら大したレベルではないだろうが)。
という訳で、軍艦が浮かび上がる不思議な現象を見て終わり。
面倒くさいので次回踏み込んで『形のない島編』は終わりになります。
●某探検隊風xMMR
まあネタ枠です。
一般受けする画像と、学術的なデータを用意して検証。
その情報を出して冒険の成果とし、泡が出たり軍艦が浮くとか情報集め。
『誰かがこんなところで陰謀をしているぞ? 不思議だなあ』という感じで、現地政府に妥協と踏み込む許可を求める感じですね。
●大学経由でハルケンブルグと繋がる
出来たら良いな。というレベルで、実際には対して影響はないかと。
でも、窓口が出来るのと出来ないのでは大きな差があるのでやった感じ。
どうせあちこちの大学とか研究機関に情報回して、証拠隠滅されない様にしないといけないので。
●ガードモンスター弱くない?
あくまで入り口のは、何かあっても誤魔化せるレベルなので。
本命は中に入ってからになる感じですね。
無敵型の念獣+@で魔獣も要る感じ。
●中の証拠は回収しないの?
消されるかもしれませんが、重要なのはNGLに追加で持っていかれない事なので。むしろ証拠隠滅で消してくれるなら御の字ですね。