継承者は(i)を解く
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「ねえ、オレのこと判る?」
「ゴンか! 見違えたな!」
モラウのレポート待ちの間、ヒンリギに入れ知恵したりNGLへ行ったり。
原作では五月にカイトとゴンたちはNGL入りしている。その手前で一カ月ほどカイト自らゴンたちにフィールドワークを中心として鍛えていた。それが戦闘面ではナックルやシュート込みで鍛えられ、野外活動の方はそこそこという状態で出逢っている。原作からして見違えたのに、ここまで鍛えてあればその違いは大きいだろう。
「お疲れ様、カイト。ジャイロの方は何て言ってる?」
「オレやフェイタン達より遥かに強い奴がいる可能性を告げたら渋々頷いていたよ。おそらく今月中には表を動かすだろう」
原作では既に食われて居るはずのNGL組だが色々あって生き残っている。
何人かがマフィアの弱体化に伴って外にシノギを作りに行ったり、カイトと幻影旅団の二人組が居るお陰で被害が少ない内に蟻の脅威を理解したのだ。ジャイロの手駒があっさり殺され、逆にカイトたちが師団長クラスを苦労しながら葬ったことで態度を変えたのだろう。だが、原作より遅いとはいえ、忠告を即座に聞かなかったことで被害が出た。特にパリストンが送り込んでる念能力者たちは結構やられているはずだ。
「カイト。ゴンとキルアを暫く野外で鍛えてやってくれ。戦いに関しては可能な範囲で仕込んでるが、流石にフィールドワークの教授は無理だ。ただし、蟻の巣に関しては特定したとしても半径10kmには接近しない事。女王と護衛軍が出て来たら危険だぞ。総数と位置の把握を確実にしてくれた方がありがたい」
「その辺りは弁えているとも。それに偵察屋が増えて来たからな」
想定する最大戦力は、メルエム独立後から護衛軍を一人除いた程度。
まだ五月だし護衛軍は全員生まれてないだろう。師団長を倒せる存在を確認したことで、女王は育成を切り上げて護衛軍を充足するためのエネルギーを王に注ぐのではないかと思われた。ピトー・プフ・ユピーの能力と性格は、おそらく王候補から護衛軍として確立した段階である程度決まっていると思われる。念を覚えて居るかはともかく、可能な限り人間性と言う余分を排除し、かつ必要な能力に充てているからだ。
「ゴンとキルアに忠告しておく。食われて相手を強化する事と、念の洗礼を与えて生かしておくことは出来るだけ避けろ。カイトやモラウは格上の強化系に勝てるタイプだが、上には上がいる。あくまで雑魚とは思えない強者との経験を積む場として、確実にトドメを刺すことを覚えるんだ。最も注意すべきは『弁える』事。地面に潜ったり、空を飛ぶ相手は二対一なりカイトに任せても良いくらいだ」
「うん! 判ったよ! オレも死にたくないしね!」
「わーってるってば。そういや、話があるけど良い?」
「構わないが、ゴンもカイトと積もる話があるだろう。向こうで話そう」
とりあえず忠告としては、カイトの死に繋がる要因や敵の強化だけだ。
それ以上は余分で余計であろう。ゴンとキルアには人格があるのだし、AIじゃないからあれこれ言われても困るだろう。また海の中で様々な経験をしたり、モラウ達のような搦手が得意なメンバーと模擬戦を出来たことは大きいはずだ。念を覚えた生かして返したり、護衛軍が跳んで来れる距離まで近づかなければ良い。もし無茶をして兵隊長複数や師団長に戦いを挑んで死んだら、それはそれはそれで彼らの選択であろう。
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「確認するが模擬戦と、蟻を片付けた後の話のどっちだ?」
「どっちもだけどまずは今後の話かな。あんた、どこまで知ってるんだ?」
「前も言った通り、俺が知ってるのは知っている事だけさ。ただし、予測がつく範囲の事は想像できる」
キルアの話はおそらくアルカ/ナニカに関しての話だろう。
蟻に対する話をしてた後であり、その状況で個別に蟻の相談をするはずがない。海洋冒険に関してもそこそこ愉しんでいたがそれだけだ。面白い内容があればまた誘ってくれ程度だろう。それよりも、記憶を取り戻したことの方が大きいと思われる。今は蟻編の途中でもないし、『ゴンさん』という特級呪物もないからな。あくまで未来の話として平静を保っているようだ。
「察するに、忘れていたお前さんの弟だか妹の話だろ? 当時はひとまず、ただ便利な特質系だと思ってはいたが……キルアの態度で少し想定を変えた。最初はアベンガネの念獣みたいに、成立状況で能力が違う精霊の類かと思っていたがそうじゃない、その程度には収まらない」
「ああ。妹……アルカはちょっと強過ぎる能力なんだ。あんたの想像より」
キルアは平静を保っているが、それは『今はその時ではない』からだろう。
ここでククルーマウンテンに鬼凸してもアルカを救い出すどころかキルア自身が捕まってしまいかねない。だから蟻たちを踏み台にして強く、そして念の使い方に長じて脱出できるだけの存在に成長しないとならないことを自覚しているのだろう。下手に焦っているよりは良い事だ。
「普通なら行使する能力に対して消耗が激し過ぎるというところだが……。個人の範囲なら個人の責任で済ませる筈、察するに強制徴収型じゃないか? ジョイントで作る強力な念で偶に見られるタイプだ」
「まー。そんなところかな。ただ、出る被害はその範囲に収まらねえぜ」
キルアが言い難そうなので、俺はひとまず想像できる範囲から進めた。
体力やらオーラの総力をぶち込むくらいは日常のゴンだってやってる。その後の人生を捨てる『ゴンさん』級の決断は流石にないが、そのくらいの例ならば即座に思いついてもおかしくはない。そして普通の制約ならクラピカみたいに『旅団以外に使ったら死ぬ』くらいだが、みんなで使う相互協力型の念であるジョイント型なら、そこそこの問題を引き起こせる。
「……この手の力は、行使する側の能力にも影響する。ゾルディック家の総力で可能な範囲、飛行機をテロで落したり、国家の要人と共に官邸が吹っ飛ぶとか、ダムが破壊されて町が死滅するくらいの範囲かな? ただ、それを覚悟する様な場合は代価が『暗殺だけ』では少な過ぎる。かなり便利でなければ使わない……例えば、グリードアイランドの報酬を何時でも欲しい時に手に入れられるくらいじゃないと使わない」
「うちの家族が総出でやったらそんな所だろうけど、総意で作ってはねえよ」
「要するに、妹さんがソレを勝手にやってしまうから拘束されてると」
「お願いするにもルールってもんがあるけどな。ま、そんなとこ」
今度はゾルディック家が無法をやったら出来る範囲を例にしてみた。
それと引き替えに記憶に新しいグリードアイランドの報酬を例に挙げてみる。大天使の息吹でどんな傷でも一瞬にして治り、老人たちが若いカップルになってその後を過ごせる。大富豪バッテラがその能力を知ったら、恋人には教えないようにして叶えただろう。一千億を越え二千億はあったと言われる最盛期の彼ならば、知って居たらゾルディック家にお願いしたはずだ。もちろん自分の才覚で蓄財しろと言われたら、平然と金庫番に名乗りを上げただろう。
「キルア。今のは失言だぞ。ソレは知って居る者特有の言い回しだ。俺以外に聞いている奴が居るかもしれないっていう意味じゃない。
「え? あ? あ……ああ。そうか、そうだよな。判っちまうのか」
この指摘にキルアがギョっとしたような顔して、次いで顔を青くする。
俺だって散々能力のルール説明でやったが、表ルールを説明する時は裏ルールを隠すためにやっているとも言える。俺の場合はルールを説明してしまえば、奇襲には当たらないから、念空間を挟んで攻撃して良いとかな。アルカの場合は犠牲を抑えるなり、調整して別の人物=殺したいターゲットに振り変えられるという話に持って行けるだろう。実際には『命令するとリスク無し』というルールだが、イルミあたりが考えそうな事(まんざらでもない風評被害)なら何でも良い。
「イルミはお前を『理想の次期当主』として見てるから洗脳まではやってない。だが、今の話を聞けば洗脳してもお釣りがくるし、思想を誘導できるなら自分が死んで遺言を残すくらいは平然とやるぞ。それと協力してくれと言うなら片手間か、同じレベルの相互協力を要求する。俺もあの二人をこれから始まる殺し合いから助けたいからな」
「……そっか。お前にも事情あるよな。それで、色々やってんだ」
「そう言う事だ。カキン王族には身内の殺し合いという馬鹿な制約がある」
ここで原作のイルミの判断と、俺の行動に関してクロスさせておいた。
継承戦と言う馬鹿馬鹿しい前提があれば、俺が簡単にキルアの背景を悟れたことに理屈が通るからと言うのもある。同時に命を懸けて協力まではしないが、継承戦で助けてくれるならこちらも相応の覚悟で助けるという判り易いハードルになるのだ。だからキルアもまずは自分の手で片付けることを前提にして、準備が整ってから行動に出るだろう。今はそれを覚悟させるだけで良い。
「なんか納得できたようなできないような……ほんと、何でこんなこと可能なのかね。いや、オレは目の前で見たから信じられるんだけどよ」
「それなら心当たりがあるぞ。五大災厄のアイと言ってまるで……アイの正体か」
「ユキ? 五大災厄がなんだって?」
「いや、すまない。人を強化する禍の話さ」
俺は考察の一つである、ナニカ=アイ説を話そうとした。
その説の一部として、アイが願いを叶えたとか、叶える代わりに強烈な代価を支払ったという話である。要するにナニカはアイであり、アルカに宿ることでその能力を過剰強化したもの。強制徴収の範囲も、叶える願いの範囲も拡大どころか莫大と言って良いレベルまで強化されている。そしてアイの正体が何であるかの説に想像が及んだのだ。
「ガス状生命体アイ。欲望の共依存とも称され、『こんなことが出来たら良いな』ということを、その者を変異させて願いを叶える。空を飛びたいと思ったら、ヘリコプターの羽や鳥の翼みたいなのが生えるとか、あの人が自分を好きになって欲しいと思えば体が融合してしまうとかな。俺が最初に思ったのは、お前の祖父なり曾祖父が暗黒大陸に行って、その人自身はまるで何の変化もないキャリアーになったという想像だ」
「そんなやつが……でも、それでもアルカが出来ることはそんなもんじゃ……」
「だから念能力だ。特質系であってもおかしくないし、徴収範囲も広くて当然」
「そのアイってのがナニカで、アルカに能力を与えて……そういうことか」
考察としては単純だ。アイ自身が出来ることは無くとも、アルカには可能。
それは念能力と言うモノが存在するからであり、アルカとナニカは相互に協力し合っている。ナニカそのものはあくまでアルカの能力を介して出来ることをするだけだが、アルカの能力を超強力にしているのだ。ガス状生命体アイが本体ならば、周囲に広がって人々を強制ジョントすることが出来てしまう。最初はゾルディック家の素質だけだったとしても、お願いをキッカケにした強制ジョイントならば可能だろう。もちろん、アイの生態に関してはナニカから逆算しただけで、でっちあげだけどな。
「アイを切り離すことは可能なのか?」
「知らん。だが、今まで無事だったことを考えれば再調整は可能だろう。ただし別の問題が発生する。仮に裏ルールがアイが持つ存在エネルギーを消耗させることだとしよう。おそらく条件はアイが理想とする主人……己を愛してくれる、己の為になってくれる、余計な欲望を担わない存在を求めている可能性がある。哀れなAIじみたそいつに、自殺しろと言ってお前はお前で居られるのか?」
おそらくだがジグ・ゾルディックは何も願わなかったのではないだろうか?
好きな場所に行って好きな食い物を食い、好きな人が居れば口説いてモノにする。そこに他者が入り込む余地はなく、『アイを必要としないが、アイが居ても良い』と言えるだけの気風の良い性格。アウトローだが風来坊であって、暗殺者としての才能と技術だけで世界を渡っていける。どこかの世界の海賊王みたいな性格だったとしたら……きっとアイは理想の主人だと思うだろう。そしてキルアも似た所があり、アイが自分を思ってくれるなら愛を返すから命令を聞くのかもしれない。
「古代ジャポンでは発音こそに意味があり、文字を後から当て嵌めて意味を作るという。愛であり哀、合い。そして数学に置ける虚数の(i)、iを解くのにアイ自身は願えないんだ。だから他者の願いを叶えることで自分も叶えて欲しい。そして最も強い感情は愛と言う。愛し合いたいという存在に、お前は消えろと言えるのか?」
「そんなこと……そんなの……出来る訳わけ、ねーだろ」
数学の(i)は解くことが出来れば四乗のパワーを有する。
虚数iが解かれて二乗のオーラとなり、目に見えないオーラが更に二乗の物理現象になる。おおよそそんな数式であるとすれば、ガス状生命体アイとナニカの力に理屈が通ってしまう。その膨大な力をアイは自在に振えず、キルアが命令してくれることで愛が返って来て、喜んで愛を還すのではないだろうか。まあ、そんなロマンチックな設定とは限らないけどな。
「とりあえずキルア専用のバッテリーとコンバーターを搭載したスケボーくらいは用意してやるさ。家に行く時、そいつを判らない様に隠しとけ。それ以上を望むなら、こっちも何かを要求する。さっき言った事があって居る、あってないに関わらずな」
「判った。今は……考えさせてくれ。模擬戦は今はいいや」
ひとまず、将来的にキルアが思いつく範囲の事を説明するだけにしておく。
NGLでの行動をゴンたちの自主性に任せるのもそうだが、自分の行動は自分で決めるべきだからだ。情報を用意し、選択肢を用意し、それ以上は自分で考えてもらおう。こちらも継承戦に向けて準備しないといけないからな。
と言う訳で新章突入。あまり関係なかった海洋冒険は蟻編の代わりで。
●蟻編終了のお知らせ
ヒンリギに話す内容を変えて、誰が怪しいかを特定する手段を教えたり
ゴンとキルアをカイトに預け、NGLをどうにかする話をした感じ。
カイト・フィンクス・エインタンが居たら、まあ師団長は倒せるかと。
よって原作よりもNGLをうろつける兵隊が居らず、ジャイロたちも避難。
これらにより、蟻編は布石を打っている間に終了します。
(ゴンキルはともかく、主人公へ経験値は入らず)
●ナニカに関するあれこれ
カキンの継承戦とか、制約と誓約に関することを混ぜることで
主人公が想像できる範囲を広げてみました。能力に関してはキルアを見て
「キルアがこういった以上は、おそらくこういうことじゃないか?」と
揚げ足取りながら誘導しています。確信はないので前後させ、キルアに肯定させる。
なお、アイが協力者を変異させるという設定は無いですが
このくらいの事は出来そうなので、信憑性を持たせるために言ってます。
ブリオンの方がそれらしいかもしれませんけどね。