インモラルなステディxステディ【完】   作:ノイラーテム

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順風ビュウビュウ

「最初はドローンで行く? 随分と弱気じゃねえの」

 

「暗黒大陸が近い以上、水棲生物も巨大だと見るべきだろう。最初は放射状に探知圏を延ばし、そこから安全な一点を進むという航路を作る。その先触れが水中用ドローンだ」

 

 モラウがレポートを書き上げ、査読している間にこちらも新規案を用意した。

 

カキンの北側の海域を重点的に探索し、暗黒大陸の手前にある新大陸までの航路を正式(・・)に拓く。裏ではコッソリと何度も探索されている場所だが、来年にもカキンが動くのに合わせてその近辺を少しでも切り拓いて置く感じだな。

 

「表の理由としてはV5が納得する範囲ギリギリでの実績を積み上げ、もう少し先を解明する事。裏の理由はもっと簡単だ。カキンが進出するのは良いが、自殺に付き合って居られるか。ただ、その為の行動で、大型生物に食われたいとは思わんよ」

 

「ほーん。まっ、納得できる理由っちゃあそうだな」

 

 俺が用意した写真は鯨とかメガロドンの物だ。

 

恐ろしい事にこのサイズの水棲生物が、この世界には普通に存在する。気を抜いたら何kmか先からこっちを探知して、一直線に食らいつきに来るのだ。そんなのと付き合っては居られない。『モラウと無線連絡が付かなくなったら、二度と出逢う事は無かった。あのモラウでさえ……』なんてモノローグを俺はする気はない。ドローンで済むならば幾らでも消費すべきだろう。

 

「同様にパドキアからも小規模だが船を出す。航路の候補は複数あった方が良いからな。島があるなら太陽光発電で電波を繋げて、情報を送信できるポイントを幾つか設置出来れば御の字だろう。最悪、データだけ得られたら電池切れでも構わん」

 

「それならカキンから複数……。キルアの援護か。良いとこあるじゃないの」

 

「偶然だ。ゾルディック家の連中もそう判断するだろうよ」

 

 あれからNGLの依頼を受けて、蟻の死体を協会に提出した。

 

他にも幾つかの経路で送ったらしいが、まともに現物が届くのはうちくらいだろう。どこかでこの手のサンプルを欲しがってる奴がポッケナイナイするようにパリストンあたりが手配している筈だ。もちろん個人輸送で腕利きの……例えばノヴみたいなのがいたら、普通に届くだろうからあくまで時間稼ぎであろうけれど。そんな中でNGLと行き来してると、寄るたびにキルアが顔を出すのでバレバレではあったという訳だ。

 

「はいはい。そう言う事にしておきましょうかね。巨大怪魚どころか暗殺者に狙われたんじゃ、陸も海の中も地獄に成っちまうからな」

 

「暗殺者……ね。何を暗殺する為の一族なんだろうな」

 

「あん? 暗殺が仕事なんだろ? そりゃターゲットだろうよ」

 

「俺も最初はそう思ってたよ。信用できない供述者ってやつだな」

 

 モラウの茶化しに俺は肩をすくめながら考察をまとめた。

 

最初から変な話なのだが、どこの世界に居場所を公開して居る暗殺者など居るのだろう? 誰に公開しているのか? 狙うべき対象ではなく、狙わない対象に向けて。自分たちのメイン(・・・)ターゲットは決まっているので気にするな。金を貰ってやってるのは、時間潰しのターゲットというか、腕を鈍らせないための目標でしかない。そんな風に世界に証明しているのだ。俺たちゲーマーは昔からその存在を知って居たはずなのに、忘れてしまっていた。

 

「悪とか醜って言葉は、古代では強いという意味だった。無法なくらい強い連中がそこに居て、どこの王家も取り込みたいが恐ろしくもある。勝手に家に侵入し、必要な道具を勝手に漁って使用し、世界にとって邪魔なターゲットを始末する暗殺者。おそらくはそれがゾルディックだ」

 

 考えてみればゾルディック家の構成はおかしな事ばかりだ。

 

暗殺者としてはあれだけ優秀な長男が居て、他にも兄弟がいるのに、銀髪で才能が高いというだけでキルアが後継者筆頭である。また執事たちの異様な忠誠心は何処から来るのだろう? 特定の資質が出易いのがゾルディック家で、その後継者は他者に影響され難く自らを必要なだけ修練で変えていく存在。どんな者も取り込み、どんな者も使いこなす指揮者でもある。俺たちゲーマーは昔からソレを知って居た。

 

「なんだよそいつは。まるでゆう(・・)……まさか、そう言う事なのか?」

 

「おそらくはな。ゲームの中ではいつだって世界最強の暗殺者さ。魔王を狩り、邪神を狩る者。世界の意を()る。ゾルディック家は勇者の末裔、そして今もなお勇者の後継者を育てているという訳さ。その方がらしい、と言う程度の想像だがね」

 

 己を売った勇者の血、ネオ・クライム。暗殺者と名乗る存在。

 

それがゾルディック家であると考えればひどくシックリ来るというだけの妄想でしかない。だが、そう仮定すると色々符号するのだ。暗殺しに来た連中も、武名を挙げに来た連中も、その強さに叩きのめされ諭されれば何故か忠誠を誓う存在。欲望の共依存者であるアイに侵されても揺らぐことのない意志、その行動原理。暗殺は職業であって趣味では無いと語る当主たち。そこに一本の流れが出来てしまうというわけだ。

 

(ついでに言うと、キルアの母親は別の目的を持った一族だから嫌われてるというか……そもそも一つになってないと見なされてるんじゃないだろうか? キキョウさんという、花の名前を持つ女性だと思ったんだが……『キキョウの方』、中世の言い回しで『キキョウの里から奥方』だとするなら、あの一族の中に入ってないと見なされない理由も判る。中世では嫁は同盟勢力であって一族じゃないからな)

 

 原作ではいくら何でもキルアの母親が嫌われ過ぎである。

 

あの極端な性格とやり方を好まれてないだけという可能性もあるが、旦那とラブラブで長いのに、奥さん派閥が存在せずに権限だけで振り回している。流星街出身者だから信じられてないとか言うにしては、執事の中にだって流星街出身者は居るのだ。だが、流星街に逃れたジャポンの呪術師の家系みたいな特殊な家系で、ゾルディック家に同盟みたいな感じで嫁いでいるとしたらどうだろうか? あるいはその里から旦那が勝手に連れて帰ってるだけで、周囲から見ればお客さん扱いとかな。

 

「ともあれ、ドローンとその母船に関する組み立て工場をカキンとパドキアに作る。有り物を組み合わせた改造になると思うが、水中スクーターとかも作って置けば便利なんじゃないかな」

 

「そう言う事にしときますかね。どのみちオレ達にはあんま関係ないからな」

 

 キルアには必要以上の協力しないとは言った。

 

だが、それは他愛ない協力ならばするという事だ。俺にとってはどうでも良いレベルの内容で、俺の目的に合致するならば問題ない。海洋探索に使える技術でキルアの為になる装備を作ったり、その施設をククルーマウンテンから脱出するルートに立てていけない理由は無いのだ。カキンの上層部に『うちの組はこれだけ貢献してます』というカモフラージュで、BW号が沈没した時の保険を作るだけ。その延長上にキルアとアルカ/ナニカが居るだけなのだから。

 

「シングル認定? このタイミングでか?」

 

「不満なのか? 十分に早いと思うがね」

 

「いや、逆だ。早過ぎる。海洋冒険だって俺とあんたで共同だろ? 俺があんたの弟子なのか、それともただの協力者なのか、とかそう言う問い合わせが一切ないんだぞ? しかもネテロ会長が蟻退治に向かったばかりのこのタイミングで?」

 

 意外なスピードでシングル認定の打診が来た。

 

かねてからその為に行動しているし、総合的には達成できるように努力はしている。だが、数カ月ほど早い。俺の予定としては、ネテロ会長がメルエムなりピトーと戦って負傷退場した後で、そしてビヨンドと組んだパリストンが話題を変えるためにシングルの話を俺やその他の人物に振ると思っていたのだ。その際にモラウは俺を弟子扱いするか、シュートをシングルにしてダブルへの打診が来るかどうかという流れである。

 

「前々から注目されてたんじゃないのか? 沈没船とか海底潮流の話とか話題は出てただろ」

 

「それは海洋系の学会での話さ。カキンは開拓団を出す予定だからな。本国への貢献も兼ねて色々せざるを得なかった。それに認定の話をするにしても、ネテロ会長が出払った直後にか?」

 

 原作と違ってモラウが忙しく、蟻の戦力が低いので会長の補佐が違う。

 

侵入やら長期行動にノヴが同行しているのは間違いないとして、モラウ以外の誰かを連れて行っているというところだろう。もしかしたらビスケを連れて行くことで、戦力というよりコンディション調整でもしているのかと思うレベルだ。ただ戦力的には過剰かつピトーやメルエムには及ばないので、やはり便利系の能力者を連れて行っていると思われた。

 

(注目……注目か。それはされてるだろう。後に利用する為にな。だが、それ以上ではない筈だ。ちょっとした話題造り、会長選が起きる場合に、掻き乱す候補程度の扱いの筈……なのに、今ここで持ち上げる? むしろ二階に上げて階段を外す気じゃないのか?)

 

 パリストンが鍵を握っているとしたら、信用するべきだとは思えない。

 

ましてや直接交渉でもぎ取った勝利でも何でもない。予定を前後させただけな上、ビー玉を弾くなりビリヤードの玉が上手く跳ね返ったレベルの躍進である。何が後に影響しているのか判らないのが不気味だ。『実力でもぎ取る自信はある。厳正な審査を望む』という方針を表向きだけでも出しておくとして、何が目的なのか不気味であった。地雷原に飛び込むように指示される寸前としか思えない。

 

(しかし、シングルの称号はカチョウの降嫁に弾みを付けるのは確かだ、どうしたものか)

 

 一方で、カチョウとの婚約が目の前に迫っている。

 

それこそ俺がシングルハンターになり、稼ぎだけでなく名声も手に入れたら一足飛びに婚姻と言う可能性もあるだろう。この話を全体的に蹴るのはありえないのだ、何しろ流れ自体は前から計算していたのだから。ゆえに焦点は、どこで妥協の線引きをするかであった。

 

「……俺だ」

 

『へい、若。なんでしょう?』

 

「ハンター協会に疑義の連絡を入れてくれ、正式な文面の他に幹部会である十二支んの耳に入る様にな。それとは別に、ジャポンのハンゾーに依頼を頼む。指定した方法で依頼書を送ってくれ、それで返答が来るはずだ」

 

 疑義は悩んだが、学会ではないのでお偉方が対応する訳ではない。

 

有識者会議なら『国王の頼みで選んでやったのに、若造が生意気な』と言われかねないが、ハンター協会なら幹部たちの元に持ち込まれる互選だろう。ならばここは倫理観を見せておく方が、後に猿回しの猿にならないで済むのでやっておくにしよう。功績的に問題無ければ普通に通るし、少し足りないくらいなら将来に期待で通るだろう。

 

「ハンゾー?」

 

「ジャポンの忍者さ。陰謀やらなにやらの調査を得意としている。俺のカンが外れてた場合は……そうだな、キルアの援護にでも充てるさ」

 

 総じてキナ臭い物を感じたから対応しておくことにした。

 

誰かの推薦で俺がシングル候補になったのだとしたら、いずれ何処かでシングルには成れるだろう。急いで列に並んだ結果、パリストンの陰謀で『あれは金を積んで得た名声だ』と言われる方が困る。それこそカチョウとの婚約も吹き飛びかねないスキャンダルになるだろう。その事を考えたら、多少遠回りでも疑義を呈しておいた方が良いと判断したのである。もちろんハンゾーに依頼するのは、この件の裏取りになる。




 と言う訳で蟻編の裏側での話になります。

●地道に機械で調査
 鯨とかメガロドンに襲われて『こんな死に方は嫌だ!』と叫びたくはない。そこで北側の海域を少しずつ、地道に調べて置く感じですね。最終的にはアンテナを設置し、食料やら水を送るルートを確保、高速船とか用意して置く感じになります(V5が怒こらない程度に)。つでにキルアが脱出するためのバッテリーを、ククルーマウンテンの近くにちょっとずつ配置しておきます(多分電気自動車とかも流行らせる感じで)。

●キルアの両親に関するあれこれ
 妄想です。考察的には微妙ですが、そう考えると結構合いそうだな~とか言うレベルの話。「たまたまアイに取り付かれたけど無事でした、tまたまアルカの段階で取り付かれました」よりもシックリ来るだけの話ですね。

●シングル問題
 色々やったけど、まだ早いだろ。つまり何か罠がある。
そう考えての行動です。まあ少し先で色々起きる布石というかフラグですね。
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