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「ニッケスのところで地味に働くのも悪くないと思ってたんだが……俺に何をさせたいんだ?」
「君に頼むのは勿論、新薬の開発さ。ジャイロ」
NGLでキメラアントが暴れ回り始めた事もあり、ジャイロたちは外に出た。
裏の薬草栽培を奪われないように戻ることも考えていただろうが、カモフラージュとして働いていた開発団のところへ連絡を送ったのだ。理由としては単純で、パリストンがらみで行動をコントロールする為である。どう考えても開拓団で大人しくしてはくれないだろう、だから分散されて屋台骨を乗っ取られるよりは、意図的に動かして行動を把握しておくべきだろう。
「もし君が開拓団のリーダーになりたいなら、別グループで一から十まで差配できる立場を用意するが? もちろん俺の紐付きじゃなく君のモノにして良い」
「止せよ。今更まともな生活は肌に合わないさ」
そんな生き方も悪くない。そう思いつつもヒリついた心を殺せない男が居た。
ギラギラと野心と承認欲求に満ち、それ以上に危険な破壊衝動を押さえつける男。それは自分の人生に大きな目標を掲げ、その道を歩くことで満足させている男の顔であった。間違いなく何処かで満足できなくなるか、ちょっとした裏切りに腹を立てて元の木阿弥に戻るだろう。
「で、どんな薬が欲しいんだ? D²じゃないんだろ」
「そいつが消えてくれるなら放置しても良かったんだがな……。単価こそ違えど増えていくなら、粗悪品には消えてもらわないとな」
ジャイロが作って居た呑む麻薬D²は危険な薬だ。
お手軽な麻薬であり、NGLを隠れ蓑にして安価に大量生産していた為に他の麻薬を駆逐していた。問題なのは国家単位の栽培畑があったから安いだけで、他の組織でも真似しようと思えばできることだ。なんでそんなに安くしていたかと言うと、ジャイロが世界に蔓延させてから、次のステップに移るつもりだったからだろう。薬の常習性と利益を餌に、戦争を起こさせるなり薔薇を購入してテロるなり考えていたと思われる。
「催眠導入剤を頼む。常習性と副作用に関しては幅広くやってくれ、強くても弱くても構わない。使い方を変えるだけだからな」
「催眠術をかけ易く? そんなものが売れるのか? 警戒されるだけだろう」
「売るのは夢さ。コイツを使って望み通りの夢を見れる薬を作る」
ジャイロに対し俺はゴーグルとイヤホンを一体化させた機材と共に説明した。
いわゆる仮想現実を体験する玩具である。現時点では3Dプロジェクターを覗き込める特殊なビデオグラムに過ぎないが、そこで麻薬の出番だ。意識をトリップさせてより没入感を高めて楽しませるという訳である。
「今はこんなゴツイ玩具が必要だが、いずれもっと小型化されるし、ヘビーに嵌ってる奴なら自由に見たい夢を見れるようになる。ホームドラマが始まると一から新しい人生を初めて、結婚して大人になり子供が大成すると語り、やがて孫が生まれて年老いて死ぬ。そんな楽しい夢を見終わると、現実に戻って稼ぎに行くわけさ」
「そしてあんたの所にせっせと金を落としに来るわけだ。実に悪どい仕組みだ」
「どうせ嘘なら最後まで楽しく騙して欲しいと思った事はないか?」
「ああ……本当にそう思うよ」
ドラマ性のある話だったりスローライフなり、望み通りの人生を送れる麻薬。
そう説明するとジャイロは重々しく頷いた。ねじ曲がった人生を送って来たからこそ、最初の夢はロクでもなくとも現実であって欲しかったのだろう。彼が勘違いしていた間違った事実が、本当の出来事だったら鬱積していてもここまで曲がっては居なかっただろう。俺だってカキンに生まれた程度では、ここまで曲がっては居なかった。まあ前世の記憶やら、双子と兄妹と言う時点で歪んでいるわけだがな。
(仮にカキン全土が没落しても、楽しい夢くらいは見れるようになるさ。そしてもし同じような儀式を続けることになったとしても、生贄は仮想現実で消費してしまえば良い。念では本人の認識が重要だからな。臨場感を持った人生ならば、魂以外は十分なエネルギーを得られるだろう)
この麻薬関連の話は、継承戦阻止に関する最後の保険だった。
阻止に成功しても国が没落したり大災害が起きる可能性がある。おそらくだがカキンの治水率が低いのは、生贄問題を覆い隠す為であり、大災害が起きた時に治水問題のある場所に限定できるように誘導する為だろう。それなら洪水での死亡と、そこから蔓延した疫病で収まるからだ。もちろん生贄の隠蔽はもっと簡単である。そして阻止に失敗したとしても、仮想現実の人間を捧げる事にしたわけだ。
「薬でのトリップ時間は精々が30分だが、こいつは何時間でも愉しめる。あんたの狙いは確かに当るだろうよ。常習性とは別の依存度がありそうだけどな? で、名前はどうする? 単にヤクってのも面白くないだろ」
「副作用が強い物を『イザナミ』、低い物を『聖者の涙』とでもしておくよ」
衣食住に加えて、もうひとつ常態化させるプラン。
そう言うとジャイロは肩をすくめて笑った。壮大すぎる話だと思ったのか、フィクションがモデルだと気が付いたのかしらないが、ジョークは最後まで楽しもうと思ったのかもしれない。
「報酬としてこの後の待遇を期待しても良いんだろうな? NGLにガサ入れが入るなら拠点を変えなきゃならん」
「パリストンなら外来種を育てつつ、既にやってそうだからな。判ってる新大陸に拠点を用意するとして、君は安全だと判ってからでも構わない」
疑問に思うのだがNGLに蟻が来たのは、情報封鎖だけだろうか?
呑む麻薬の原産国はNGLで、表向きにそんな事をやってると認めないどころか、情報封鎖しているから指摘し様がない。交流のある他の国経由で売り捌いているのだろうから、もう国家ぐるみの隠蔽と言えるだろう。そして東ゴルドーは独裁的な軍事国家である。麻薬を国家産業にしていてもおかしくはないだろう。そう言う意味で、一石二鳥を狙ったんじゃないかと勘ぐってしまうのだ。
「もちろん表の役職が欲しいなら、王子のいずれかの護衛兼側近候補と言う事にして入り込めるようにチケットを用意しよう。薬好きな王子たちも居るし、継承権を争う可能性があるから危険だが、それだけに護衛として勤め上げれば入り込むのは容易いだろうな」
「あんたの組はどうするんだ? 対立しないか? あんたと戦う気は無いぞ」
「逃げを打つから問題ない。無理な場合はそっちに協力しよう」
誠意としてクソな継承戦も提示した上で、死んだバショウの代わりを用意した。
ジャイロならばルズールスを取り込んでくれるだろう。もしかしたらツベッパも行けるかもしれないと思うのは期待のし過ぎだろうか? いずれにせよ協力者になってくれるなら、その後に麻薬が流行ろうが戦力の方が重要だ。逆に継承戦で死んでくれるなら、世界から危険が減るだけの話である。重要なのはBW号に乗らない安全な選択肢を先に提示して、利益を求めるなら自分の考えで船に乗る流れを用意する事であろう。それがせめても誠意では無いかと思うのだ。
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「その様子だと護衛軍と戦って勝利したのか? 流石だな」
「よう。あんな化け物どもとよくも戦わせてくれやがったな。おかげで腕がこの有様だ。フェイの奴に至ってはズタボロだしな」
暫くしてフィンクスとフェイタンがやって来た。
フィンクスは右腕が無くなって居て、フェイタンに至ってはボロ雑巾になって居た。最初は背中に背負われていたから気が付かなかったよ。
「……治療用の部屋を用意する。ベッドを設置するからフェイタンはそこにおいて置いとけば少しずつ治るはずだ。その上で右腕に関しては完治する方法を後で教えよう。ゲーム好きなら突破できるだろうし、グリードアイランドがアップデートされたら行って来ると良い。もちろんその方法に関しては教えるし、方法が変って居たら解明に全力を尽くす」
「そんな事が可能なのかソレ? つーかお前そんな能力あんの?」
「あの後で調整したんだ。色々と面倒な調整を余儀なくされたがな」
「……クロロみたいなことを言いやがるなお前」
俺が念空間を用意するとフィンクスは気味が悪そうな顔をした。
簡単にルール説明から初めて共通ルールとか聞く段階で嫌そうな顔をしたのは、隙あらば奪ってやろうかと思ったのに、やったら逆にクロロの能力が使えなくなると気が付いたのだろう。馬鹿め、このルールはクロロを参考にしたのだ! と言ってやりたかった。
「ともあれ不躾なお願いを聞いてくれて助かった。王に関してはネテロ会長が倒すだろうが、おかけでNGL他の地域が無事でよかったよ。カキンのクソ共がくたばったらあの辺に逃げ込む気だったから、本当に助かる」
「そうかよ。報酬は貰って良いか? この半年ほど田舎暮らしで屈辱だったぜ」
「構わないが戦うなら完治後にしてくれ。借りは全部返さないと気分が悪い」
「そう言えばオレが手加減するとでも? つか、フェイの奴も参加すっぞ」
フィンクスが左腕一本で戦おうとするので止めて置いた。
意地を張っているのかもしれないが、その状態でイキられてもマジで困る。幻影旅団には継承戦で
「言ってなかったか? 俺の能力は条件をクリアすると進歩と進化するんだ。君たちのお陰でグリードアイランド編をクリアし、今また蟻編を成功裏に終えようとしている。このまま行けば進化と進歩が出来るのに、アヤつけたくないだろ? だから本心で言ってるのさ」
「ちっ。マジでクロロみたいな事を言う奴だな。性格は似てねえのに」
お前のところの団長は能力の影響で性格歪んでるぞと言ってやりたい。
しかし、その証拠はない上に俺の勝手な考察でしかない。マチが信じ掛けたのは、単純に彼女がそう思いたいという情報だったからだ。幻影旅団の結成理由と、その後のクロロの性格変遷的に筋の通るストーリーだったからな。ついでに前衛組の角が丸くなっても困るので、当面はこのままの付き合いで行くべきだろう。
「んじゃあ別の報酬を寄こせ。今回の件の黒幕はどこのどいつだ? そいつにこの腕のお礼参りをしねえとなあ」
「主犯はビヨンド・ネテロ。自分を邪魔する父親のネテロ会長を殺して、カキンを巻き込んで暗黒大陸に行こうとしている。こいつに関しては協力も出来るし、カキンの秘宝を君らが奪う気なら協力する予定だよ。問題は協力者の方かな。出来れば聞かないでくれるとありがたいんだが」
話がそれたので説明を始めるが、また面倒くさい処で交わった物だ。
まさか今回の件がここで影響するとは思わなかった。出来れば継承戦編まで待って欲しい所である。選挙編はスルーして、アルカ/ナニカ編は外から眺めるだけで済ましたいのだが……。ここに来て、眠ってるもう一人が目を覚ました。
「……ワタシの分の報酬を要求するネ。貸し借りは大事ヨ」
「パリストン・ヒル。愉快犯で目的と手段が入れ違った存在、性の不一致ないし性同一性障害の疑惑がある。好みのオブジェはネズミで、趣味嗜好は好きな物ほど壊したい・殺したい。ビヨンドに協力しているのはネテロ会長が大好きだから、彼が数十年味わった事のない死と隣り合わせの戦いを演出する為。場所に関しては蟻を育て易く、麻薬撲滅の疑惑がある」
フェイタンが起きてしまったのでは仕方がない。
これも運命と言うものだろう。もしかしたら無関係なのかもしれないが、この話を推し進めろと
「解せねえなあ。厄介そうな奴だが、別に隠す必要はねえだろ?」
「パリストンと名乗る人物が真実、プロフィール通りならな。彼の容姿と性癖的に近しい少女がいる。そいつはクラピカ……クルタ族がまだ滅びてなかった時期に仲が良かった。そして……流星街出身者で、ある事件までは良く笑って居たそうだよ。この推測が間違っているなら別に構わないんだが……君たち心当たりはないかい?」
フィンクスは何とも言えない顔をして、質問権にレイズした当のフェイタンは再び気絶していた。もしかしなくても、緋の目問題もサラサの事件も何もかもが、関わって居るのではないだろうか?
と言う訳でストーリーが収束していく話です。
●ジャイロ
原作と違って死んで生まれ変わってないので継承戦に参加。
ヨークシンで巻き添えになったバショウの代わりに護衛になるでしょう。
その為の布石として新型麻薬を作ってもらい、夢見ながら死に至るお薬を作ってもらいます。カキンが滅びたら内戦投入だもんね。そうなる気力がなくなる準備はしておきましょうって話。あと、念の仕組み的に本気で死んだとか、痛ましいと思えれば、仮想現実でも生贄はOKそうなので。王子と蟲中卵の儀式は無理そうですが(あれは魂回収してるポイので)
●旅団
無事にピトーを倒してくれたようです。
カイトやゴンさんの代わりにフィンクスの腕が千切れて、フェイタン殿がまたボロ雑巾になって居られるぞ! って感じ。あとは余計な事を聞かれたので、教えたくなかったけど、パリストン=シーラ説を説明しておきました。緋の目問題は次回に話す予定。