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『投票前に聞いてもらいたいわ → 皆。相応しくない候補者が居る → 子』
(動いたか。もう……遅いがな)
第六回会議で投票率が変ったことを受けてチードルがようやく動いた。
今回に限って真っ先に会場入りするパリストンが遅れて後方に居るのを見て、重役出勤だと思っているのか苦虫を噛み潰したような顔をしている。だが、それが見当違いであることを俺は予想していた。服装と背格好が似てるだけの別人、あるいは能力で化けた偽者ではないだろうか?
「……その前に質問だが、本人に直接指摘しなかったのか?」
『組織運営健全化の為には周知も必要よ → 亥。誰かを吊るし上げる心算は無いけどね → 皆』
ここでジンが手を挙げて確認するがチードルは方針を変える気は無いようだ。
チードルの策が炸裂してパリストンが落ちれば有利になるだろうに、ジンもその流れを許容しては居ない。元から会長に成る気が無いのも影響しているだろうが、それにパリストンの行動をよく知り伝手の広い彼であれば、この後で何が起きるのかを予想している可能性がある。もっとも、『むしろ、あいつなら絶対何かやって来る』という直感だけでも押し通しかねない凄さもあるのだが。
(今のやり取りを黙っている事を考えれば、やはりパリストンは偽者の可能性が高くなるな。とはいえ俺がそれを指摘する理由も無ければ、確証も無い。そして指摘が正しくてもパリストンを刺激するだけだ)
本物だったらおそらく、今のやり取りを揶揄してからかっただろう。
例えば『つまり、チードルさんは自分流の運営のために、僕を利用したいんですね♪ ありがとうございます僕にそれだけの価値を認めてくれて。ぜひ、チードルさんの主観に寄る公共性を用意するという、私利私欲の為に使い潰してください』くらいの事は言う気がする。おそらくは第五回から第六回の会長選で拘束した場合は、そう主張してチードルとの勝負を愉しんだに違いない。
『私たちが用意した資料があるわ。可能な限りの証拠を添えてある。今から映像を出すから → 牛。見て欲しいの →皆』
(しかし、予想通りの情報が公開されるとして、本物は何処だ? せっかくの見世物だろうに。捕まる前に逃げ出したという事で良いのか? 確かに逃走時間はあればある程に良いと言う事になるが……)
チードルが自信満々に発表の準備をする中で違和感を抱いた。
果たしてパリストンはこんな見世物を見逃す男だっただろうか? おちょくるという意味でも、相手に敬意を払って馬鹿にし尽くすという意味でも、鉄火場に顔を出してチードルが間抜け面を晒すのを特等席で眺めないのか? 逆転裁判を用意するなり強力な弁護人を用意して、原作のビヨンドがあえて捕まったようなやり方をするのではないかと思うのだ。一目散に逃げ出すというなら、最初から会長選を囮にして逃げ出して居るだろう。
(待てよ。違和感と言えば、どうしてミザイストムは大人しくアシスタントをやってるんだ? それともパリストンが情報を消す可能性を考えて、データを保護している? いや、それだけなら手元に録画用を用意して、同時進行で撮影すれば……ミザイストム? あれは本当にミザイストムなのか?)
もう一人違和感を生じさせる人物がいた。クライムハンターのミザイストムだ。
彼ならば協会の闇を暴く為にチードルと手を組もうとしつつ、パリストンがもっと多方面の膨大な犯罪を暴くと主張すれば、そちらに付きかねない所はあると思う。原作ではクラピカを勧誘しつつ、同時に妙なところがあった人物だ。それゆえに考察勢からは、彼らも何らかの目的のために状況を利用しているのではないかと思われていた。もしこの件で俺に後悔があるとしたら、気が付けたのだから、自分だけの確信で状況を見守れば良かったという所だろうか。そう、俺はここでジンを見てしまったのだ。
「~。……」
(ジンの奴。呆れてやがる。ということはやはり……)
「準備が終わった。何時でも行けるぞ」
『見なさい → 画像。 これが奴の正体よ → 皆』
ここまでは喜劇だったが、三文芝居になり果てた。
俺は黙って状況を確認し、俺の目的のために放置すべきだったのだ。しかし、呆れているジンを見て答え合わせをしてしまい、ミザイストムにパリストンが化けている事を理解してしまった。おそらくは特等席でチードルの間抜け面を確認しつつ、それを記録してから後に利用する心算だろう。少なくともこの喜劇を最後までやり切る手腕が無い事をしてしまうし、それでも良いと割り切って清濁併せ呑む器が無いと晒してしまうのだ。そして自分だけの確証を抱かず、ジンの答えを覗き込んだ俺は、三下の観客になり果てたという訳だ。
「……そんな」
「あの犯罪がパリストンの……」
「嘘……だろ。あの国家的犯罪まで」
『ん? 国家犯罪? え? ちょっと何よこれ……私、知らない。こんな馬鹿みたいな量の犯罪……一人で出来るわけないでしょ……』
その昔、エイリアンの正体を暴く映画があった。
その時は薄皮一枚捲ると、中から化け物めいた正体を現したシーンだけはよく覚えて居る。だが、今回はそうではない。チードルが自信満々に公開した『パリストンの癒着』情報は、『この世の全ての犯罪を、パリストンが行った』という告発内容になっている。上から下までズラっと事件名が並び、所狭しと証拠画像が映し出される姿は壮観である。もしこの光景と共に自分を誇れたら、吸血鬼の出てくる漫画で出て来た少佐の演説にも匹敵できるだろう。
『こちらパリストンです。ここで渦中の容疑者である、真・パリストンさんにインタビューしてみたいと思います。どんな気分ですか?』
『はーい。僕は真・パリストン。いやー壮観ですねえ。流石、僕って感じです』
『待ってくださいよ~。いくらかはこの僕、パリストン二号の仕業ですからね』
『と言う訳で、このデータの幾らかは本当に僕の犯罪です。それは保証しますよ』
画像は途中からパリストンのパリストンによるパリストンの一人劇場になった。
例として直近では各国政府と癒着してシングルハンター推薦やら会長候補の推薦に始まり、NGLで外来種を連れて来たとか軍艦の戦没遺跡に外来種を隠していたとか、そこでは念能力者の脳みそを使って実験していたとか告白している。もちろん最後の一つは共犯者の国家がやったのであって、パリストンはそこまで暇では無いだろう。そして他の事件の告白として、流星街での誘拐であったりクルタ族虐殺とかヨークシンの十老頭暗殺であり、あるいはグリードアイランドでPKをやったりと様々な事件を自分がやったと言っている。もしパレが本当にシーラと同一人物であるならば、ちょっとした告白でドキドキしているだろうか?
『ど、どれだけ馬鹿にしているわけ!? 何の目的があって……』
『あ、もしかして『何の目的があってやってるの → 子』とか言ってらっしゃいます? もちろんおちょくるのが楽しいからですよ。僕が集められる限りの事件の情報を封入しておきましたので、愉しんでくださいね。僕も世界の闇を暴く事には貢献したいですからね。答え合わせはしませんので、特定できなかったら全部が僕のせいってことで構いません。まあ、その時は世界の魔王になって本気でおちょくりますので注意してください』
ネテロ会長がやった事も、知らなかった事も、押し付けられた事もあるだろう。
その全てをパリストンは背負っていく事にしたらしい。それがネテロ会長を追い込んだ事に対する罪滅ぼしではなく……もしネテロ会長が昏睡から目を覚まして、事件の収集にあたることになったら、自分と遊んで欲しいからではないだろうか。もちろん本物のミザイストムやボトバイも追い掛けるだろうし、ジンだって嫌々ながら協力するかもしれない(ジンならパリストンの方に協力しかねないが)。
『あ、そうそう。老婆心ながら会長選は最後までやった方が良いですよ。そういうルールでもあるからですが、各国政府が圧力掛けて来ると思うんで、対抗する意味でも新会長が矢面に立って交渉するべきでしょう。少なくとも、そこからならちゃんと勝負には応じますので。やらないならば、貴方たちは誰も僕の敵では無かった! とか勝利宣言しちゃいます』
最後まで嬉しそうに状況を語るx騙るパリストン。
その姿は完全に愉快犯の様相を示しており、協会の為に必要悪を代行していたという暗さを感じさせない。誰かがやらなければならないからではなく、ネテロ会長への嫌がらせとして、必要な手段としてやって居ただけなのだろう。だから悲劇のヒロインなど気取らないし、最後まで状況を愉しんで行くつもりであると伺えた。
『……』
「記録は終わったようだな。すまないが私はパリストンを追う仕事と、同時に今回の情報をまとめる仕事がある。その両方をやらなけれならないのがつらいところだ。よって以後、私の投票は君へ入れ、君が降りるならばその推薦に従おう。どうしても本人投票が必要ならば資料室に来たまえ」
「「……」」
映像はそこで途切れ、ミザイストムを演じているパリストンは去っていった。
チードルは完全に放心しているし、ジンを始めとして裏で何が起きているかを理解した者たちは、パリストンを追うのではなく盛大に苦笑していた。どう考えてもここで介入してもよろしくない方向に進むからだ。少なくとも同じ資料がV5にも届けられているだろう。追い駆ければパリストンの逆転裁判が始まり、追い駆けなければ会長選がグダグダのまま進行。どちらを取っても十二支んもネテロ会長も大変であるということだ。
『ぱ、パリストンの奴。なんだってこんなものを……ていうか、何処にいったのよあいつ……』
「そりゃ会長選って一大イベントを誰も楽しんでないからだろ。会長はいつも言ってたじゃねえか。今を楽しめってな。そういう意味で、会長の意志を一番継いでたのはあいつってことだろうよ」
この頃には判るのだが、後方に居たのは服が似てる別人であった。
近くまで移動すれば簡単に判ったのだろうが、視野に端に入れて罠に嵌めるべく待機していたのが仇に成ったという訳だ。らしくない行動をしたことで、らしくない失敗をしたとも言える。
『はあ!? 自分は安全圏でビデオレターだけ送って楽しむですって? それで会長の意志を継いでる!?』
「素が出てんぞ。だからブレてるって言われてんだ。つか、爺さま頼む」
「ワシが? ……ワシの役目か」
激昂することで自分を取り戻したチードルであるがジンは苦笑して宥める。
原作の流れを形を変えて再現しているのは、きっとパリストンがやらかしてジンが解説して収めるという役回りが同じだからだろう。ひとまずパリストンが何処に居て、何をしていたのかの解説はボトバイに譲って居るが、それはあまりにも馬鹿馬鹿しいからやる気が無いだけだろう。
「パリストンはさっきまで近くにおったぞ」
「はああ!? 何処に居たって言うんですか!」
「目の前じゃ。それともこう言わんと判らんかの? あれだけの犯罪記録を見て最後まで何もせぬミザイストムに違和感を覚えんかったか? バカモ~ン! あれがパリストンじゃ!」
実に三門芝居である。馬鹿馬鹿しい上に介入する理由までない。
この状況に口を挟むなどあり得ず、適当に会長選を終わらせるという方法もありえない。何が馬鹿馬鹿しいかと言って、俺は自分で気が付くことが出来たのに、ジンの反応と言う答えを見て確信してしまったのだ。原作を思い出しながら指針にしているのを情けないというか、それとも重過ぎるというかは分からない。だが、どうでも良い事で答えを見ながら行動してしまうチキン行為をしたことは、割りとショックであった。あるいは、俺自身がこの状況をどうにかして楽しもうとしているからこそ、つまらない行動でショックを受けてしまったのかもしれない。
『ば……ば……馬鹿にして!? あのクソやろ……お……』
「あ、気絶した。生理かよ」
「よりエレガントに卒倒したと言ってやれ」
「同じ事だろ」
ちなみに第七回でチードルは大きく票を下げた。
それでも候補者切りに合わなかったのは、彼女が努力を重ねている事が伺えた事と、今なら絶対的なトップになったであろうパリストンが抜けた事、……こういうと申し訳ないが十二支んの犬枠として相応しい行動をしてしまったからだろう。かませ犬と見るべきか、それとも秩序に忠実なワンコとして愛玩犬枠に収まったのかは分からない。ただ、本人だけはそのキャラ性を絶対に認めないだろう。
『何が誘拐犯だ! クソ兄貴に虐待されてた
それからキルアが無事に到着し、最後の候補として踊り出た。
今まで参加して無かったのに、しかも犯罪者扱いだったのに構わないのかお前ら? という風情で一躍トップ候補である。まあ、本人の行動からしても背景からしても、参加したくても参加出来なかった、また監禁された弟/妹を救い出し、しかもお姫様抱っこで現れるというセンセーショナルなスタイルがハンターたちの人気になったのだろう。
『オレが会長? そんなの就任するわきゃねーだろ。仮にそうなったとしても、直ぐに次の候補に丸投げで引退すっぜ。あとオレは暗殺者の一家で暗殺なんかジメジメ暗いのは嫌いだけどよ、稼業なら仕方ねえよな。それでも投票すんのか? ま、オレがやるとしたら魔王だけを暗殺する勇者サマだけどな! それでも良いなら投票しやがれ!」
からからと小気味よい笑顔を浮かべるカミナリ小僧が最後に全てを持って行った。
協会の歴史にはそう記されており、一位選出と同時に即座の引退表明。次点枠の数人の中から、一番向いている奴を勝手に指名するという事で決着がついたのである。こんな会長選などあり得ないが、おそらくはパリストンとチードルの茶番を見て、そのグダグダさ加減にげんなり来た者が多かったのだろう。俺もキルアが嫌がるのを承知で適当に票を入れたしな。同じ事を思ったハンターが多かったのだろう。
と言う訳で会長選は終わりました。
他人に勝つならともかく、他人の失敗を見て笑う様な性格ではないので
パリストンの仕掛けた罠を盛大に踏み抜くチードルを見るのは苦痛な模様。
なお、パリストンは別に悪人を気取って、世界のターゲットを背負う贖罪者になりたくないので、犯罪情報の公開も茶化しています。別に幻影旅団と違って、悪人を演じる理由は無いですからね。あとはルパンよろしく、チードルの前に置いておきたかっただけとも言えます。
●会長はキルア!?
原作以上にグダグダし、パリストンが逃走したので、レオリオ枠のキルアが会長に。当然ながら嫌がって、次点の人たちに押し付ける感じですね。
しかし、今思えば会長選編とアルカ/ナニカ編は微妙な流れになるのは判ってたので、無理に決行せずに、そのまま飛ばしてしまえば良かったと思わなくもありません(原作が止った状態なので、アイデアが練られてはいませんが)