インモラルなステディxステディ【完】   作:ノイラーテム

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そして継承戦へ

「十二支んの説得、見事。このまま新天地に辿り着けると良いホな」

 

「お言葉を賜った事、感極まって何も言えぬとのことでございます」

 

 協会上層部を説得して全面的な協力を取り付け登城した。

 

基本計画は流動的になっており、カキンが必要なポジションを掌握する事が出来るようにしている。その上で複数の案を裏で提出しており、協会重視型やカキン重視型、必要であれば他の国も一枚噛めるようなパターンも用意しておいた。要するに城で公表されたのは表向きに差しさわりが良い物、裏で渡したのは暗躍向きやら実働向けに調整したものである。今回はソレに対して、王からお褒めの言葉があり、俺の代わりに侍従が返答するという、宮廷でありがちな儀礼を行った。

 

「で、あるか。知っての通りそのものは王子の婿であるホな。そなたらは下がる様に」

 

「「ははあ」」

 

 茶番ではあるが、宮廷を経由する以上は必要な流れではある。

 

俺は準王族である二線者なので避けては通れない儀式だ。普段ならば俺の事を敵するかもしれない内部勢力たちも、俺が誇ることなく功績を回しているので今のところは反発は無い。疑われる以前にカチョウの降嫁が間もなく行われるから、それと功績を相殺する形になっていたというのもあるだろう。

 

「……で、代価は何になっているホな?」

 

「協会に関してはビヨンド・ネテロならびにパリストン・ヒルの捕縛を邪魔しないことになっております。非常時の優先権においては誤魔化しておきました」

 

 一対一という事になっている直接の諮問が始まる。

 

当然ながら侍従と護衛は脇に控えているし、そいつらにはそれぞれ別の派閥が付いているから話は筒抜けである。それでも国王に直接の話が出来るという意味は大きいし、特にこちらの要望を『無理のない範囲で』聞いてもらえる可能性があるのは重要であった。また、やろうと思えば他愛ない話として、伏線を捻じ込めなくもなかったが。

 

「V5と一部の富豪に関しては、安全な渡航手段を確保して……」

 

「そなたの望みはなんであるホ? 野心を抱かぬ男に娘は任せられぬホ」

 

「フウゲツ王子の件に関して前倒しにしていただきたいと存じます。せめて詔なりとも先行して告知していただければ幸い」

 

 他の連中の要望に関して話して居たら国王に割り込まれた。

 

まあその気持ちが分からなくもない。俺が野心家ならば国王としては制する必要があるし、娘婿として考えるならば少しくらいは上を見てくれないと困るという事だろう。だが、そこには継承戦に関する制約と誓約に関する不満と、それでもなおせねばならないという覚悟。そして可能であれば子供を少しでも助けてやりたいという親心が伺えた。

 

「儀式は旅の終わりまで待つホ。そこが限界ホな」

 

「国事成れば迂闊に妥協して良い物ではないと理解いたしまする」

 

(本当はベンジャミンの子供に関して告げ口出来れば良かったんだがな……。まさか占いで明示されるとは思わなかった。フウゲツの代理を捻じ込んだら破滅が起きる。ならばここで口に出すべきではない)

 

 今月に入ってネオンの占いに変化があった。

 

基本的には十二支んの説得によってカチョウが念願を果たす内容であったが、最終週に『あなたの望みは満願を成就するだろう。ただし、十二と1の王子の門出を祝ってはいけない。海に還ってしまうから』と表示されていたのだ。最初はカチョウが降嫁してはいけないのかと焦ったが、それならば『十二と一』になる筈。わざわざ『1』と書き方を変える筈はない。おそらく別系列、ベンジャミン王子の子供の事だろう(ビヨンドの托卵の場合は今更なので違う)。

 

「良く当たる占い師の話では、旅そのものは恙無く終わるとの事。国家の社稷、その新たな行く末にお祝いを申しあげます」

 

「……そうか。それは良い事を聞いたホな。詔はいずれ吉日に出して置くホ」

 

 ネオンの事は知らずとも、念能力に寄る予知くらいは察したのだろう。

 

ナスビー王は色々な意味で頷いていた。国王として安心したと同時に、継承戦無しで乗り切ることが出来ないのだとガックリ来ると同時に決意を新たに固めたのだろう。そこにあるのはカチョウが死のレールから離れた事、そしてフウゲツも流れ次第で助かる可能性があると、せめてもの心の支えにしたと思われる。まあ未来は変わるから……来月以降の占いで修正される可能性もあるけどな。

 

「下がって良いホ」

 

「はっ。失礼いたします」

 

(ここで伝えてはならない、後でも良いならば派閥のスパイによってベンジャミンに伝わるという事。来月以降でも同じ表示であれば自分の命とは無関係に、おそらく我が子がターゲットされた時点で決断するんだろう。やはり彼の武力行使は脅威で間違いはないか。言葉に出せば避けられるなら、生贄として差し出すんだが)

 

 重要なのはネオンの占いは『避ける事が出来る』という点だ。

 

ベンジャミンの行動で危険になるのは当然として、彼が武力行使すると一気に危険になるのであれば……裏を返せば、ここで『フウゲツもカチョウに続いて二線者になる』という情報が伝われば彼にとってのターゲットではなくなるという事だ。身分に恋々としていつまでも王籍に残るつもりなら殺すだろうが、『この場で儀式を実行する。少し待って欲しい』と言えば、傷をつけるまでは待ってくれるだろう。その上で自分たちが勝手に実行するのと、儀式に必要な術者を連れて行けば問題なくなるならば、フウゲツも助けられるという事だ。

 

「アレはどういう事か? 僕にも判る様に説明して欲しい」

 

「……ツェリードニヒ殿下は器が大き過ぎるのです。巷の人間が言うように狂人などでは御座いません。間違った存在を許せぬだけでしょう。いずれ時間が解決されるかと」

 

 その日は王に面会して終わりではなく、ハルケンブルグとも会談した。

 

占いを受けて扱いを大きく変える事になったのはこの王子に関してだ。以前はツェリードニヒにぶつければ良いかと思っていたが、ベンジャミンの武力は想像以上に影響が大きいらしい。ツェリードニヒを殺して自分も死ぬ……という未来では困るのだ。やはりベンジャミンを何とかする為に死んでもらわねばならない。我ながら現金な事だ。

 

「馬鹿な。殺人を平然と行うはずがない。それは許されぬ事だ!」

 

「軍隊の戦闘も処刑人による執行も合法です。V5が外交官特権の枠内に収めたのであれば、法の枠では無かったという事です。協会の手の者がそう促さずとも、国際問題になる前に指示して、直接にカキンと取引したでしょう。過去の担当者がその利益を得ただけで、流れが変わるわけではありません」

 

 面倒なのはパリストンが公表した話をハルケンブルグが信じている事だ。

 

荒唐無稽な事件も多いので全てでは無いにしろ、少なくともツェリードニヒが殺人を犯してそれを協専がもみ消したという話は真実であると断定している。しかし、ここで彼を放置してしまうと、直接にツェリードニヒを殺しに行ってしまうだろう。最低でもここで合法であると認めさせ、『殺すとしてもリストとしては下の方』と見なさなければならないのだ。そして継承戦の中で、『ベンジャミンを殺して、できればツェリードニヒも殺しておく』くらいの考えを抱かさなばならない。

 

「それは詭弁だぞ! 殺人が行われたことは間違いがない!」

 

「ではベンジャミン王子やカミーラ王子はいかがか? あの方々は間違いなく同様の行為をされておいでですよ。また、謝肉祭によって間接的に追い込むことの問題は殿下もご存じでしょう。だからこそ、あの儀式に参加しないツェリードニヒ王子を尊敬されていたのではありませんか? ホイコーロ家の素晴らしき点、そして悲しき点はみなさまがいずれも王器を備えて居られることです。ツェリードニヒ殿下はたまたま、他の方よりも器が大きく、そして『罪ある者を許せぬ』と考えた時のタガが緩いだけの事なのです」

 

 原作では多重人格とか狂人説もあるが、俺はそうではないと思う。

 

どちらかと言えば偉大な王様にありがちな『やり過ぎ』の面が強い人格ではないかと思う。おそらくは人間を解体することを趣味としつつも、それを実行しないで居られる精神力もあるのだ。だから何も無ければ良い人で居られるのだろう。だが、何かの拍子に『罰しても良い女性』を目にすると豹変し、『こいつは趣味の延長で殺しても良い相手だ』と思って殺害するのではないだろうか? 士官学校で友人を撃ったのも、『罪を許すことが出来ないから、友人として我が手で処刑した』ということではないかと思う。

 

「重要なのは二度とツェリードニヒ王子が殺人を行われない事ではありませんか? 幸いにも殿下はのめり込むタイプであると聞き及んでおります。そもそもが他者と出逢う機会が少なく、またその機会を何かしら夢中に成れることで代用できるならば、時間次第で己の衝動を操る事もおできになると思われます。現にそのほかの衝動は、既に乗りこなしておいでの様ですしね。何か問題が起きるとしても、国王陛下に今直ぐなられる場合のみとなるでしょう」

 

「此度の新大陸行きは自分を見つめ直す良いキッカケになると?」

 

「はっ。時間は若い我らの味方なのですから」

 

 時間さえ許せば常人化する、時間がないから後で殺してもらう。

 

その流れにハルケンブルグを置くために、今は詭弁であろうとも納得してもらわねばならない。このままの人格で国王になった場合、罪のある人間を次々にギロチンにかけかねない。また裏では教養のある女を芸術と称して殺しかねない。だが、それは国王になった後の事であり、今過ぐではないのだ。それに、そんなことを言ったらベンジャミンは他国に戦争を吹っ掛けかねないしな。そういったホイコーロ家の人間全てを処せないのだから、今は流れに身を任せるしかないと説得することにした。

 

「その件に関しては判った。ついでで悪いがカキンはどうなるべきだと思う?」

 

「……連合王朝制により複数の王を並立し、その折の時流に合わせた最も良い皇帝を、王族の中から擁立するのはいかがでしょうか? 行政・司法・立法はそれぞれ独立し、やはり相応しい能力を持つ者が率います。王を始めとした王族はその立場にあっても良いでしょうし、元老院として見守る形でも良いでしょう」

 

 どう考えてもついでで聞くような話ではないが仕方がない。

 

おそらくハルケンブルグが継承戦よりも前の段階で、この国を良くするためにはどうしたら良いのかを考えていたのだろう。この問いをする事が俺の能力と思考の方向性を計る事であり、同時に一定以上の判断力と見解を持つ者に問うていたのだと思われる。要するに幕末で思想家に色んな話を聞いているようなものだな。

 

「複数の王と代表者としての皇帝を? 大統領制では駄目なのか?」

 

「衆愚政治になる可能性は否定できません。また、現時点で勢力を握っている各民族が急激な共和制移行に賛成するでしょうか? 現時点の帝国性社会主義は、あくまで王権の強さを維持して、すべての民族はその下に位置するから政府が何を言おうが構わないというものです。内戦でも起きて灰燼に帰さない限りは大統領制への移行は難しいでしょう」

 

 戦国時代にあちこちが水浸しだった事を知る者は居るだろうか?

 

大阪城や江戸城の周囲は水浸しだし、武蔵やら上野もそうだ。伊勢と尾張の間には巨大な川も存在している。越後は米処どころかろくな作物は無かった。治水率が低いから暴れ川の反乱で災害は常に起きているし、また地元の利権であり同時に他の連中から身を守る盾だから治水など納得しないのだ。おそらくはカキンの治水率が低いのは、継承戦に向けたワザとである(生贄用)と同時に、各民族が許可を出して居ないのだろう。そして何かあればカキンが滅びかねないというのは、地球で言えばイラクやらアフガニスタンみたいな内戦に突入してしまうという事だろう。

 

「小王たちに自らの領地を発展させることで権威を認め、彼らの利害調整を行う長として、強権を持った皇帝の存在は必要だと思います。治水を整えて開墾地を用意すれば、本来は新天地などなくともカキンには発展の余地があると言えるでしょう」

 

「そうだな……、ああ、そうだ。本当は僕も判っては居るんだ」

 

 こういうと何だが、王室の存在がカキンの長所であり短所なのだ。

 

王妃を輩出する民族こそが主要な力を持ち、その王妃たちを束ねる夫として国王が存在している。諸民族の対立を自然に収め、彼らの力を王が占有して押さえつけるからこそ内部対立が起きていない。その縮図として継承戦で殺し合わせているとも言えるけどな。重要なのは王の血ではなく王妃の一族としての証明、托卵とか好きにしろとしか言えないシステムは、彼らをまとめて黙らせる為のものでもあるのだろう。

 

「やはり誰かが王にならなければならないのか」

 

「少なくとも後一世代はそうかと思われます。おそらくナスビー陛下ならば『王を不要だというならば、王になってから言え』くらいの事はおっしゃられるでしょう。逆にいえば、その順番であれば何も文句はおっしゃられないかと。ただ、過去の継承戦では血で血を洗う抗争が起きました。我らは戦わずして退きますがご注意を」

 

 継承戦後のカキンはどうなっても良いとも言い切れない。

 

継承戦が途中で終わったと仮定して、制約と誓約の問題が何処まで波及するか判らない。親類縁者他の生贄が足りなくてが次々と襲われても困るのだ。だからこそ、おおよその形を保ち優先順位の上からまずは王子の生き残り、二線者となったカチョウやフウゲツはそのずっと後で無いと困る。だからこそ、最低限の提言は行っておいて損はあるまい。まあ性格的にハルケンブルグが生きているとは思えないが、継承戦から降りる陣営としてまともな政治判断を下せる姿を見せる事に意味はあるだろう。

 

(フウゲツを継承戦前に降ろせなかったのは残念だが、ハルケンブルグの矛先を調整できた。今のところは原作よりもマシに進んでいる。後は『生き残った王子は一人。それは解釈』という言葉をどう捉えるかだな)

 

 惜しい所まで来ているが、ここが限界だろう。

 

ベンジャミンが覚悟を決めて動き出すまでに、どこまで情勢を調整できるかだろう。もちろん幻影旅団が国宝を盗み出して、そこで無事に継承戦が追流れと言うのが理想的だが、それを期待するのは難しいだろう。

 

こうして俺は王宮での出仕を終え、カチョウとの結婚式に向けて動き出した。




 と言う訳でビヨンドの演説とカキンの暗黒大陸の進出発表。
その前後で協会のプランを持ち込み、カキン側が調整可能にした功績をゲットです。まあ、どういう選択をするかは十二支んが読んでいるので、原作と流れは変わりませんけど。

●ネオンの占い。
 結婚式前の占いで、カチョウは降りても問題ない。
フウゲツを降ろすことはできるけど、それをやったらベンジャミンが覚悟を決める。という一文が最終週に挟まれました。なのでベンジャミンの子供生贄にして、フウゲツをリストから外す案は使う前に廃案。逆説的にそこで口に出せば、降ろすことが出来るという保証を得た感じですね。まあ、儀式で魂が呑み込まれる可能性はゼロになってないんですが。

●ハルケンブルグとの知己
 さすがに協会の問題が大騒ぎになりますし、ツェリードニヒは国外でもやってるでしょうから噂になるでしょう。なので知り合いになって、そこで「第四王子は悪漢ではない。我慢が効かないから悪即斬してるだけだ」と詭弁を言う事で庇うと同時に、「ああ、やっぱり殺人癖はあるんだ」と刷り込んだ形になります。逆に「あいつは殺人鬼」といっても絶対に信じないでしょうが、仕方ないと庇えば納得する不思議。まあ意志が強固でも飛び級で大学行った若者ですからね。同世代の若者が真摯に語れば信じやすいかと。

とりあえずこんな感じで、原作よりもマシな体制で継承戦が始まります。
逆に言えば原作前に色々準備しても、カチョウが助かってフウゲツの優先順位が下がっただけでしかありませんが。
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