インモラルなステディxステディ【完】   作:ノイラーテム

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回天する意味と価値

「肉眼と機械を複合した警備システム。それをここまで重ねるのはやり過ぎじゃないですか? しかも公表してないタイプもありますし」

 

「臆病なくらいで良いんだよ。おっかない来賓に疑われるよりはな」

 

 カチョウとの結婚式に際して厳重どころではない警備を行った。

 

理由としては王子たちの何人かが訪れるのと、少し離れた場所でハンター協会とカキン王室の渡航責任者たちを面会させているからだ。俺がコネの無い人間がメインなのでそこまでやる必要は無かったのだが、『木を隠すならば森の中』という。要するに、無数のハンターが俺たちを祝いに来てもおかしくない状況を作り出したと言える。だから警備は幾ら厳重にしても良いのだ。

 

「ただいまダーリン・アイレン・旦那様! 似合う?」

 

「似合って居るよ。フウゲツにも刻まれてないのが惜しいくらいだ」

 

 カチョウに掛けられた麻酔の影響が消え、朗らかな調子で起きて来た。

 

結婚式の序盤は降嫁の為に王室を離れるという事で、二線者になる儀式として傷を刻んだ。もちろん俺も行ったし、他にも関係者の中に刻んだ者も居た。そうやって周知することで、王位継承者ではなくなったと皆に理解させていくのだろう。儀式を司る念獣が殺す理由がなくなり、同時に殺しても良い他人であることを示すために。

 

「おめでとう、かーちん。似合ってる」

 

「次はふーちんだね! そっちもお化粧似合ってる」

 

 フウゲツの方は化粧の一環として、傷と同じ位置に紋を描いた。

 

染料なので刺青ではないが、『いずれこうなる』ということを周囲に匂わせる為だ。カチョウと双子でありメイクの一環としてもアリに見えるので、まあ、あくまで今の内から行われる布石に過ぎない。

 

「ユキおめでとー。キルアは立場的に来れないからヨロシクだってさ」

 

「ありがとうゴン。気にすることは無いだろうが暗殺者だと知れ渡ったからな。しょうがない。それよりもグリードアイランドのアップデートが来週にも終わるらしいぞ。ベータテスト版だとは思うが、離脱(リーブ)周りと大天使がどうなったかは調べといてくれ」

 

 占い通りにグリードアイランドの情報が出回り始めた。

 

どうやら上位ランカーを中心に、『前回の引継ぎはない予定』という通知が回された。おそらくはネットゲームで新しいゲームとして出すのではなく、アップデートで済ませる場合は、こういう申し送りをしておかないと問題になるからだろう。予定とは記載されているが、ジンの性格的に変更するのはあり得まい。そもそも前回の知識を活かしたり、地形の基本知識があるだけでも有利だからな。

 

「オレも受け取ったよ! でもその様子だとユキは遊べないみたいだね」

 

「流石に新大陸行きの話があるからな。俺が仕切る訳じゃないが、取次だから仕方ない」

 

 取次とか申し継ぎというのは意外と重要である。

 

戦国時代や江戸時代だとそれ自体が役職だったり重要任務なので、それなりの家柄出身者だったり、主君の寵愛を受けた側近が担当する。まあ今回はまったく関係ないし、それこそ王子たちは自陣営で勝手に交渉を始めているはずだ。その為に結婚式で動けない事にかこつけて、あえて並立で話し合いの場を設けたんだしな。

 

「そういえばレオリオは?」

 

「クラピカの様子が悪かったでしょ? それで付き添いだって」

 

(……レオリオでも駄目か。王子たち(・・)が関心を抱いていたし、荒療治が必要かもな)

 

 クラピカは相変わらずで、改善しても原作よりかなり鈍い。

 

暴言を吐かないだけマシだが、陰鬱の気が激しくダウナーモードで何もしない事が多かった。今回だって拝み倒して披露宴には呼んだが、適当に理由を付けて下がってしまったからな。もしクラピカが女の子の世界線だったらレオリオ辺りが口説いたのだろうが、残念ながら男性である。気さくで人懐っこい彼には心を許して居るものの、それで機嫌を直したりはしないようだ。

 

「あれ? あの子、ずっとテーブルから動かないけど……」

 

「ああ。料理が気に入ったんだろう。ビュッフェ形式が珍しいのもあるが、偏食気味だから好きな物だけを食べてるんだと思う。……ちょっと挨拶に行って来るか」

 

 ゴンが気にしているのは子供用テーブルにつきっきりのマラヤームだ。

 

大人たちとちがって立食形式で社交界とはいかない。自分用のテーブルに侍女が取り置きした新しい好物にずっと齧りついている。大皿に盛っているマスカット系の葡萄や、フルーツトマトを黙々と口にしている姿は、どことなく愛らしさを伺えた。夏の海で半分にしたスイカにスプーンを突っ込んでいる小学生を思い浮かべれば判り易いだろう。

 

「失礼ながらマラヤーム殿下にご挨拶を申し上げます。取次ぎを御願いしてよろしいでしょうか?」

 

「申し訳ありませんがセヴァンチ妃は誰も近づけるなと仰せです」

 

 と言う訳で、間に立っている取次役に声を掛けた。

 

普段は面倒くさいやり取りだが……。相手が寡黙というか、子供だから何を考えているか判らないマラヤームの場合は話が別だ。周囲の大人の方が話が判り易く、そして今回は上の命令を頑なに守るタイプの近習だったので、その背景も含めて判り易い状態である。

 

「ならば仕方ありますまい。ただ、王子はあの料理をお気に召したご様子。遊びに来られましたら何時でも用意いたしますし、昨今の問題もあってお出かけが難しい場合は、構いませんので申しつけてくださればレシピを提供いたしましょう」

 

「さようですか。主にしかと申し伝えます」

 

 この通り余計な事を言わない木石タイプだ。

 

おそらくは外に出さざるを得ないが、失点を出来るだけ抑えるためだろう。こういうタイプは『私は子供の使い同様です。言われたまましかしません』という行動原理なので、本当に言われた事だけは守るのがありがたい。下手に宮廷慣れしている連中は、自分が所属する本来の派閥(上位の王妃は下位の王妃に私設兵を付けられる)の有利になるように働くので、下手な伝言は握り潰されしまうのだ。今回は本当に友好のための顔繋ぎであり、その事だけ伝われば良いだろう。

 

「おう、戻ったか。こいつ美味いな! 後でクラピカに持って行ってやれよ」

 

「そうするよ。『味の宝石』シリーズは自信作だからな。レオリオも医術研修頑張ってくれ。今回の旅次第なんだし、苦労して損はないよ」

 

 レオリオもマラヤームと同じ物を食べていた。

 

分かり易く説明すると、フルーツトマトの中にトマトピューレを注射。同じようにマスカットの中にマスカットピューレを注射して封入した物である。味の濃さはあくまで単品としては成立せず、たくさん食べても問題ない濃さに留めてある。必要ならばトマトジュレやマスカットジュレをタレのようにして味わう、新感覚のサラダだ。ちなみにサイズが普通のトマトだと、少し酸味を残したドレッシングをスープ状にして入れてある。ナイフでカットした瞬間に、トマトや周囲のレタスなどに統一された味が広がる感じだな。

 

「ユキか……オレはどうすれば良かったんだろうな」

 

「まだ悩んでいるのか? そろそろヒソカやクロロも来るんだがな」

 

 クラピカに用意した部屋に行くと真っ暗にして佇んでいた。

 

ボケーっと窓を眺める猫のようにしていたが、俺の来訪を知ると顔の向きを変えずに感想が来る。そう、返事など求めていないのだ、どうすれば良かったのか思いつけず、答えを望んでいるようで特に望んでいない。あくまで自分を痛めつけ『何か方法があったはずだ』と自傷こそしないが、うつ症状で延々と悶えているという訳だ。これが悲劇のヒロイン気取りの女の子なら押し倒して依存させれば終わりだが、生憎と男だし俺もそんな趣味はない。

 

「十中八九は別件で旅団とクルタ族とは争いがあった。その上で旅団は犯罪者だ。邪魔されただけでお前の一族の『戦士』(念使い)を殺しているし、何処かのマフィアが拷問の末に奪った緋色の目を、横からトロフィーとしてかっさらってる。少なくともあの大男は殺されても文句は言えん立場だぞ」

 

「それでも……それでもオレは自分が正しかったとは思えない」

 

「一族全体の仇と、行きがかりの抗争でお互い様では違うって?」

 

「……人数の問題ではないと頭では分かってるんだ。判っては……」

 

 おそらくレオリオは言えなかったであろう正論を突いたら反応があった。

 

レオリオは気の良い男だが、それだけに中々悪役になって仲間を奮起させてやれない。特にクラピカ自身がマイナスイメージを持っている事を突きつけるのは無理だろう。それでも原作以上のダウナーモードでは、少々の言葉が通じる筈もなかった。何しろパリストンが色々あること無いことを公表した為、問題があちこちに散見されてしまうのだ。

 

「それに……シーラは旅団の幼馴染だと聞いた。妹分を守れなくて、自暴自棄になって彷徨っていた可能性が高いって……あいつらが……」

 

(あの馬鹿ども! よりにもよってクラピカに話したのか?)

 

 どうやらフィンクスとフェイタンに話した推測を聞いたらしい。

 

よく考えれば彼らもショックだったはずで、仮説を覆す材料が無かったのも確かだ。その上でクラピカもシーラと関わっていたと知れば、そりゃ話して少しでも情報を集めようとするだろう。フィンクスは男気ある方だしプライドもあるから聞かないかもしれないが、フェイタンはそういうのに躊躇しないタイプだ。推測で済ませてナアナアにするよりは、さっさと情報集めた上でクロロ辺りに相談する可能性はあった(間違いなくパクノダの胃は死ぬ)。

 

(クソ! 全力で俺のせいだな。得意顔で原作知識を交えた仮説をベラベラしゃべったツケが回って来たという訳だ。実に自業自得で涙が出る。だが、ここにきて原作を変えたことにとやかく言う訳にはいかん。クラピカが廃人のままでは困るし、第一……気分が悪い)

 

 当たり前だが原作を変えれば何処かで齟齬が生じる。

 

幻影旅団と手打ちをして、しかもそれをクラピカに波及させたのだからこうなってもおかしくはない。流石に原作並みの敵対状態なら声を掛けなかっただろうが、旅団を味方に付けるために色々と口出したしっぺ返しが起こったという訳である。とはいえこのままクラピカにボケッとされても困るので、どうにかする必要はあるだろう。

 

「クラピカにその気が無いなら、かつて行った約束は果たしておくとしよう。緋の目を回収し、さらにあの大男を殺したことに対する代価をおまえ自身が支払える案を用意する。それを選ぶかどうか、そしてその内の何処まで実行するかも任せる。諦めても良し、一部だけを実行してもよい。そして無事に済んだ場合は、弔いの日々を送るのも良いだろう」

 

「……っ!? 可能なのか……そんな事が……本当に?」

 

「容易くはない。だがクラピカが命を懸けるなら難しくはない」

 

 仕方がないから劇薬を用意しよう。その上で選ぶも選ばないも彼次第だ。

 

少なくとも俺は彼に対する先約を果たせるし、実行に際して最大級の協力をしよう。用意した道を選ぶも選ばないも、他に道を用意してくれと頼むのも良いだろう。少なくともこれでクラピカは再起動できる。そうすれば継承戦を乗り切る事も出来るだろうし、カチョウだけではなくフウゲツを助ける一手になってくれるかもしれない。

 

「それは何だ!? 言ってくれ、オレの命なんか惜しくは無い!」

 

「持ち主であるツェリードニヒ王子自身から買うんだよ。分割払いでも良い」

 

「馬鹿な。コレクターから引き出すのは無理だ。他に望みや問題でも無ければ……」

 

「ここに『世界で唯一』のモノがあるだろう? 『生きている緋の目』はただ二つ。忠誠の代価として片方を抉り出すなら、たった一つしかない。この一対しかない存在なんだ」

 

 あなたは贈り物を送り合うプレゼント交換を始めるだろう。

 

これはネオンがもたらした占いの二つ目にある一文だ。何処にも物を暗示させる言葉が無いので最初は情報かと思ったが、よく考えたら緋の目とクラピカ自身もプレゼント足り得るのだ。ツェリードニヒから緋の目を受け取り、代わりにクラピカが彼に忠誠を尽くす。弔う事が目的だから話しておく必要は無いだろうから、王子から見れば別にクラピカを部下にするだけで、間接的に緋の目を保有できるという事でもある。『オレにも弔わせてくれ』というだけで閲覧は出来るからな。

 

「馬鹿な……一族の目をコレクションしているような奴の部下に……」

 

「全て取り返すからコレクションはしなくなるな。その上で、真人間に戻すのを目標にするのはどうだ? 犯罪者ですら解体しても良いとは思ってない。あくまで条件に見合う女を見たら、更にそいつが犯罪的な事をやったら殺して陳列したくなるだけだ。その趣味を上回る面白さを与え、逆に人間の解体を面白く思わせない経験を用意すればいいさ」

 

 それは月の下で雲に掛かった地雷原の舞踏会。

 

この言葉は三行目にあたる。王子たちと情報の交換会をするのかと思ったが、もしかしたらクラピカの機嫌やら何やらも含まれるのかもしれない。俺が保険として『雪月花』を用意できる状態で私設兵や旅団と話をするのだと思ったが、よく考えればクラピカに対してフウゲツの命運を託すこともまた該当するだろう。そして、もう二つ別の意味でのプレゼントもだ。

 

「ツェリードニヒ王子はのめり込むタイプでネテロ会長の血筋疑惑があるから念を覚える可能性が高い。その上で難易度の高い能力を覚えさせても良いし、世間と苦労を知らせるためにグリードアイランドに誘っても良いさ。ゲームは俺が予備を持ってるし、なんなら旅団と交渉して回収した緋の目を取り戻す契約も可能だ。脱出したいならその時でも良いな。判らないか? 旅団の団長の能力は世界で有数のナニカを手に入れるまでが条件なんだ」

 

「そうか……オレ自身を連れ出すことも能力の成長条件……」

 

「そうだ。忠誠を尽くしても良い、逃げ出しても良い。好きにしろ」

 

 クラピカは旅団にとってもプレゼント足り得る。

 

だから回収時に『逆らわない』『手引きをしても良いが、条件に反するならしない』という交渉を行えるのだ。そこでグリードアイランドのソフトを提供しておき、タップを使って半数を埋め指輪を使用状態にしたモノをクラピカに携行させても良いだろう。そうすれ離脱(リーヴ)を使った場合は第四王子の部屋に出れるし、シズクをメンバーに加えてデメちゃんに吸い込ませ、彼女が港から別の場所に移動すれば問題なく財宝と一緒に緋の目を持ち出せるだろう。もちろんクラピカが脱出するなら一緒に逃げても良い。

 

「一つ、一つだけ確認させてくれ。その申し出を王子は受けるのか?」

 

「俺からだと無理かもしれんな。だからハルケンブルグ王子を経由する。彼はツェリードニヒ王子を信奉していて、王になるなら彼だけだと思っていた(・・)。同時にその解体趣味を持ったまま王になろうとするならば絶対に殺害せねばならないと決意した(・・)。協力を申し出れば受け入れてくれるだろう」

 

 夜通し独楽たちと踊ると良い、どうせその日は来るのだから。

 

これは四行目にあたる文章だが、独楽は駒か狛だと思っていた。だが、三行目のプレゼントの交換会に関わるならば、立場をドンドン入れ替え回転していくとも取れる。誰が地雷原に居るかも分からないし、同時に交換する物が何になるかも入れ替わって行くのだ。どうせ、継承戦は開催される。打てる手は打つべきだし、原作に準拠しない運営となったのならば俺も全力で行動すべきだろう。




 と言う訳で結婚式当日です。
とはいえ婚約の段階から長いし、儀式的な物は傷を刻む方が重要ですが。

●カチョウの運命
 二線者となり船から出ても死にませんし、王子として狙われません。
ですが王子たちが持つことになる念獣からは狙われるようになります。
もちろん私設兵が攻撃する可能性はあるので、それは仕方ないところです。

作中でも書いてますが、フウゲツがメイクしてるのは、その延長。
もし集合知が重要な場合は、当日に傷付けても駄目ですからね。
なお、特に書いてませんが、蟻編以降のアレコレで主人公の念は進化・進歩してます(モラウとノヴを平均化した感じですが)。

●クラピカの問題
 悲報、全力で主人公の自業自得であった模様。
なので強制的に立ち直らせるために賭けに出ました。
ワプル? どうなるんでしょうねえ。少なくとも原作みたいに『や火器なのはむしろ、赤ん坊の方かもしれない』な上体ではなくなりそうな気もします(意味深)。

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