インモラルなステディxステディ【完】   作:ノイラーテム

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他愛のない悪巧み

「挨拶は良い。現在の経過を教えてくれるかな?」

 

「はっ。セイコ妃やセヴァンチ妃は降りました。王子たちはそうも行きませんが、第四から第八王子の誰かに下の者が暗殺された時点で、雪崩を打って継承戦を放棄するでしょう。オイト妃は境遇に対する愛着を存じませんが、故郷に対する執着次第かと」

 

 チョウライ王子に呼び出されたので解説しておく。

 

彼に説明する意味はあまりないが、『第三王子に頭を下げる』という行為には意味がある。他の連中もフウゲツが居残る気が無いと知れば危害を加えなくなる可能性はあるし、もし自分たちも情報を求めて提供されたら、少しくらいは考えを変えるだろう。まあ、此処に来るついでなので、オマケでしかないのだが。

 

「状況が整理されるのは良い事だが、小さな子を殺すのは継承戦を戦う相手としてどうかと思うがな。まあ、降伏するというなら助け舟は出そう。……第九は?」

 

「ハルケンブルグ殿下は既に、自身を排除の為の道具として考えておられます」

 

「くっくっく。なんだ、実に良い流れではないか」

 

 見通しが甘い気がするが、それを含めてチョウライは安牌な王様候補だ。

 

ベンジャミンやハルケンブルグの様な直情気質では無いが、それなり以上に倫理観は持ち合わせている。上に立つ者としての余裕の範囲なら……という前提なのだろうが、それでも他人を排除することを前提としていないのは助かる。少なくとも気に入らない連中は抹殺しようと言う奴よりはマシだからな。逆に不気味なタイソンや極論者であるツベッパは危険でしかない。

 

「放っておいても第一を狙って第二と第九が動く。と成れば第四が問題だが……例の噂は本当なのか?」

 

「ハルケンブルグ殿下の殺意の矛先を調整するのに困る程度には」

 

「まったく困った弟だ。兄王子も含めて直っ直ぐに過ぎる」

 

 この言葉を聞いて『お前は真逆だけどな』とツッコミたくなる者は居るだろう。

 

上位の王子の中でも屈指の有力者なのに、反比例して念に対する警備が薄い。陰謀で押していくようなスタイルでもなく、実に『人の良い叔父さんスタイル』なのだ。強権的なところが陰謀と言うか政治家めいているが、それを含めて上下を整え場を管理する能力に長けているとも言える。ただし念には無知な事も含めて、少しばかり悠長なのではないかと思った読者は多いだろう。

 

「となるとエイ=イの戦力が問題だな。どの程度を確保しているか判るか?」

 

「何分、身内でもめた後なので何とも。ただしすり減った分だけ、別の手段で補う可能性があります。それこそ少数精鋭な代わりに生物兵器を用いるとか、逆に大量の傭兵を雇うくらいはするかもしれません。彼らの縄張りが縄張りですので、貴人としての振る舞いを忘れたら何でも出来てしまうでしょう」

 

 どうやらチョウライ王子はツェリードニヒをライバルと捉えたようだ。

 

実際、政治力的にも戦力的にも五から下は大したことが無い。確かにルズールスにはシャ=ア一家が付いているが、それほど強力と言う訳では無いからだ。カキンで一番のシュウ=ウ一家を従えている彼にとって、純粋に下位互換でしかない。むしろ研究者畑のツベッパ王子や、好青年に見えるハルケンブルグの方を苦手にしているだろう(サレサレとタイソンはおそらく眼中に無い)。

 

「生物兵器に傭兵だと? それは流石に王位継承者の振る舞いではないぞ」

 

「主流派でモメた事が、そこまで決断させるに至ったと考えています。ヒンリギ?」

 

「……ふう。ユキの言う通りです。この三カ月ほど調べておきました。何というか、憶測で済ませたいのですが、彼女らは手段を選びそうにありません。その確信はあります」

 

 ここでヒンリギに話を振ると青い顔で応えた。

 

シュウ=ウ一家でも何人か顔触れが変わっているので、おそらくはスパイでも居たのだろう。性格にはスパイではなく、主義としてカキンを許さない派閥に変わったというべきか、あるいは世界を相手に破滅まで戦う気で居るのかは不明だが。

 

「僭越ながら彼女らを監視するだけではなく、そうなった場合に向けて保険を掛けておくのはいかがでしょうか? シュウ=ウ一家や国軍とも、エイ=イ一家に対してのみ共同で当たると決めておくのです。もちろん話を持ち掛ける相手は選んで、です」

 

「ふむ。最終的に第四さえ排除できるなら良いか。検討して見たまえ」

 

「「はっ」」

 

 チョウライ王子はこちらを組下と思っているのか疑う気は無い。

 

むしろ他の側近たちが、俺やヒンリギを廷臣にしてたまるかとばかりに睨みつけて来る。まあ民族が付けた幹部候補とSpなんだろうし、やくざ者に警戒するのは間違ってはいない。ただ、他所の者憎しでエイ=イ一家に情報を漏らされても困る。

 

「そういえばお前に褒美をやらねばならんな。何が欲しい?」

 

「私の言葉は常に決まっております。フウゲツ王子が継承戦を降りた暁には、我が保護下におかれることをお許しくださいますよう。そして我妻となったカチョウともども、その尊い御縁をお忘れなきようにくださいますれば権力も金銭も不要にございます。ただ、私が外に作りました家財だけは、なにとぞ取り上げなさらぬように御願い申し上げます」

 

 試すようにチョウライの言葉にストレートにぶっちゃけておく。

 

というよりも、ここはブレてはならないところだ。外に作った組織で満足しているから、カキン内部の権力や財産は不要。だから殺すような事はするな、警戒もさせるな、もちろん外部の貯金や邸宅の没収などはもっての他。それだけ叶えてくれるならば、カチョウとフウゲツと仲良くやっていくと答えておく。もちろん、何かくれるならばそれを拒否しないが、ことさらに求めないという、つかず離れずの態度である。

 

「そういえばそうであったな。ではコレを遣わそう。きっと気に入るはずだ」

 

「……人事異動の? なるほど。ありがとうございます。非常に助かります」

 

 チョウライ王子が褒美としてくれたのは、私設兵を付けるかどうかのリストだ。

 

第一から第三までは私設兵を引き上げる方向になって居て、BW号の中では『仮配置』として枠を使うが、実質的にカチョウやフウゲツをターゲットにはしないということである。戦力は手元に固める気なのだろう。おそらくだがこの発表を聞いて、第五から第七あたりも追随するだろう(というかタイソン王子は最初から私設兵を付ける権利を使って、速攻でイケメンを呼び戻しているが)。

 

 

「ユキ。どこまで掴んでいる?」

 

「祭孤児主体で反乱を起こして、既にエイ=イまでは統一されてるってところかな。その様子だと外にもシンパがいたのか?」

 

 帰りの途中でヒンリギが尋ねて来た。

 

割りと焦っているような姿なので、おそらくはシンパがかなり居たんだろうな。あるいは少数だが『まさかと思うような人物』まで協力していたとかだろうか。というか原作のオウ=ケンイがモレナと親しそうな、あるいは目論見を知ってそうなあたりが不思議ではあった。

 

「結構ヤバイぞ。というかこの話をお前が持ち込まなければ、ジェイ=ピ一家も疑っていたところだ。信じて良いんだな?」

 

「その答えは既に決まっていると言っただろう? フウゲツも無事に降りれることが優先だ。カキンを滅ぼしてまでやる気は無いぞ。むしろ内戦で殺される、都合の良い知名度のターゲットにされかねん」

 

 ヒンリギの質問には迂遠的な回答を返して置く。

 

アナーキーなあの連中に与する気は無いが、幻影旅団を使って引っ掻き回す気だからだ。それこそ蟲中卵の儀に参加しないでよいのであれば、そのまま強盗団として襲来しようが構わないくらいである。だがそれを口にするわけにはいかないし、愛国主義な他のマフィア連中との距離は適度に保つ必要があった。

 

「以前に言ってたろ? オウの奴も怪しいぞ。利用する気かもしれんが」

 

「その可能性が高いな。いや……案外、根が同じだけの別系統なのかもしれん。ビヨンド・ネテロが手駒をカキン・マフィアや国軍の一部と入れ替える気であるとかな。まあ、それを言い出したら一番怪しいのはうちなんだが……ふむ」

 

 オウ=ケンイの意見が不明なので余計な事は言わないでおく。

 

とりあえず、この騒ぎを使ってマフィア同士や国軍とのバランス変更を目論んでいる程度にしておこうか。その路線で話しながら、あくまでエイ=イ一家を利用しつつ、彼らに便宜を測って矢面に立つ鉄砲玉にしようとしている……くらいの立ち位置で考えておこう。

 

「ひとまず重要なのはツェリードニヒと隔意があるのは間違いが無いという事だ。そう言えば殿下は聡明な女性へ尊敬を抱くと同時に、愚かな女にコンプレックスを持っているそうだ。もしかしたらモレナに人間の汚さでも見て、解体して裁きたいのかもしれん。とても他愛ない話だとは思うが、だからこそもう協力はしないと思わないか? 他所に付け込まれないように『聞いても答えない』だけで」

 

「つまり連中を切り離せ。各個撃破しろと? 確かにそう考えれば兵は多くない」

 

「そう言う事だ。ツェリードニヒ王子の下には念使いが四人か五人、後は一般人」

 

「なら無茶をすれば何とでもなる。その上でエイ=一家の規模を考えれば……」

 

 ここで原作で起きた、第四王子陣営の脆さに注釈しておく。

 

本来は一枚岩であるはずの連中は、王子の私兵とモレナの私兵で対立しているのだ。そう考えてみればツェリードニヒ王子を武力で排除できなくもない。またモレナ達を護るはずの『ケツモチは第四王子』というお札が機能しなくなれば、やはり追い詰めて始末すること自体は可能なのだ。

 

「最悪を考えて、ハンター協会を襲った暗殺者クラスが居るのを考えておこう。世界有数の操作系が一名、そいつが操る即席の念能力者がニ・三十名。それとは別に、モレナが育てた祭孤児出身の自殺兵が何人か」

 

「……あまり考えたくない戦力だな。だがそうと考えれば策が使えんでもないか」

 

「ああ。突っ込むのは別に俺らである必要は無いだろ? 場所だけ掴めばいい」

 

「国軍にやってもらうのか? まあ掃除は掃除屋に任せる方が安全ではあるな」

 

 こうして俺たちは簡単に作戦を決めて行った。

 

あくまで現段階の話であり、ここから流れが変ったら話が別になるのは当然だ。だが、ツェリードニヒとモレナが隙を晒した時、一気にベンジャミンの私設兵あたりが襲ってくれるなら別に構わない。その為に連中の根城候補や、逃走経路を掴んでおこうとだけ決めておいたのだ。もちろん、オウ=ケンイあたりが協力している可能性も含めて。




 と言う訳でBW号の中での戦いに向けての仕込み会です。

●チョウライ王子
 相変わらずの癒し枠。実に温い事を言っていますが、こういう人が居ないと困ります。もちろん原作での振る舞いは全て二面性で、コインの裏のように陰謀家である可能性もありますけどね。

とりあえず、原作と違ってかなり私設兵が移動しています。もちろん移動しない人や、入れ替わりで来る人も居ますけどね(BW号の枠もあるし)

●ヒンリギ
 やはり原作同様の胃痛枠。原作と違うのは、オウ=ケンイも怪しいと現時点で気が付いた事。今の間からエイ=イ一家対策に動けるという意味でかなり楽にはなって居ます。
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