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「ボトバイ師、首尾はいかがですか?」
「ベゲロゼ、サヘルタ共に乗ってきておる」
「それは重畳。何時までもこのままなら助かるのですが」
「無理な相談よ。甘い蜜は吸うし、水に落ちた犬は叩くものじゃ」
ボトバイ・ギガンテは十二支んの長老であり、軍事アナリストだ。
相談役として大国とも太いパイプを持っているので、原作ではカキンとつながりの強いベゲロゼ連合国やサヘルタ合衆国を利用して乗り込んでいた。この流れを逆用して、こちらからあちらへ積極的に利益を流す代わりにV5取りまとめを依頼しているのだ。お陰でV5が割れて突き上げが緩いと外交部からお礼を言われている(警戒もされているが)。
「それは仕方ない。では分断するとしましょうか。成功した場合と失敗した場合で生じる利益と実利を、あちらの優先度に比例して配分すると個別にお願いします。具体的には現時点でうちが保有している中間の島や、ボロボロになったカキンの保護とかですかね」
「実効支配している島の保有権と、保護と銘打った介入権利か。妥当だな」
テーブルの上にメモを並べた。特殊な香りは薬品焼却用の物である。
ボトバイが暗記してから灰皿の上に放り投げると、暫くして灰になって崩れていく。ちなみに渡したのは俺が保有する会社で抑えた、航路の詳しい情報と中間の島の位置。およびカキン帝国の経済が崩壊した場合の、必要とされる物資の予想データ、並びに健全化するのに必要なインフラの情報である。もちろん秘密情報であるが、俺個人が調べた情報であり、BW号が沈むような事態ならば介入は必須なのであまり気にしてもしょうがない。
「そういえばチードル女史はご健勝でしょうか?」
「ハンター試験を終わらせた後は、おぬしの用意した玩具に夢中になっておるよ。まさか豪華客船を丸ごと病院船にしてしまうとはの」
2001年の1月になりハンター試験が行われた。
チードルが主体になった学識と良識を重要視した物で、今回の暗黒大陸行きに合わせて体力・戦闘面での要求水準を落とした準会員を募集している。その上で
「問題が起きれば必要になりますし、そもそもカキンでは超大型船を20隻用意しますからね。スポンサーが居なくなって建造中止になった船を買収し、
「そして足りないメディックをV5から補充か? おぬしもワルよのう」
「水は高い所から低い所に流れる物ですよ。必要なら仕方ありません」
十老頭たちの死亡で統制がとれなくなったマフィア達。その一つに船があった。
当たり前だが大金持ちから金を吸い上げたり、彼らに蜜を吸わせる裏の稼業は必要なのだ。その商売を巡ってマフィア同士の対立が起きる訳だが、当然ながら即座にまとまる訳もない。BW号でのクルーズに金持ちが集まったのもその影響だろうし、光が生まれれば影も生まれる。中止になった豪華客船は経営難に陥る前に、別のスポンサーを見つける予定だった。その一つを買い取って、ハンター協会の医療改革に使えと推したのだ。
「複数の高速船と大型病院船、足りなければ他国の軍艦での支援に必要な情報、これでバックアップ体制は整いました。ゾバエ病が流行って20万人を焼き払い、海に沈めるとかやりたくないですからね。それを考えれば1000人程度のスパイならば安い物でしょう。BW号からも引き離せるますから」
「普通は判っていても出来ぬものじゃがな。しかし、カキンの王族はみなソレか」
「準王族ですよ、俺は二線者ですから。ただ継承戦で使い捨てるには実に惜しい」
「他にも何人かと逢ったが、その気持ちは判る。まさに蟲毒よのう」
カキン王族は誰しもが一定の資質を示している。
あのサレサレやタイソンですら、自分が指し示す道に
「大方の予想で言えば、軍部を握る有能なベンジャミン王子の勝利。それゆえに袋叩きになって、途中で敗北を悟って部隊を動かす辺りが節目です。才覚そのものは最も高いハルケンブルグ王子と、色々な意味で二番手に来ているツェリードニヒ王子がキーマンとなって相討つと予想しています。その辺りで鎮静化をお願いできますか?」
「やらなければワシら込みで船が沈みそうじゃの。可能な範囲で、じゃ」
「お願いします。フウゲツ王子は降りる予定ですが整うのはその辺りでしょう」
いずれにせよ才能問題は何度も考察しては破棄した考えでしかない。
継承戦が始めまってしまえば流血は避けられないし、相手の方も殺しに来るのだから庇うとかそれ以前の話だ。庇うという意味ではダメもとで勝負を捨ててないセヴァンチ妃のところも、守りの手配を行った甲斐が無いというものだ。ギリギリまで勝負して、無理だったら降りようなんて蟲の良い者を対戦者が許すはずもないのだから。
(おおよその手配は済んだ。計画通りに進めば無事に降りれるはずだ。だが、問題なのは『例え最初からその気が無くとも、継承戦に挑まず降伏するのは王子として相応しくないから処刑する』なんて意見を持ちそうな連中だな。そう言う意味ではベンジャミンもツェリードニヒも生き残っては困る。そう言う意味では『生物上の死以外は許容するな』と主張するカミーラ王子も生きていては困る。まったく、面倒な事だ)
継承戦で問題なのは政治ゲームではない事だ。
なのに何人かの王妃は子供を駒にした政治ゲームをやって居る。勝てば栄光が入り、負けそうでもギリギリまで試したいというものだ。だが現実的には継承戦はゲームなどではない。都合よく立ち回る奴を他の陣営は許さないし、それでなくとも血の気が多いのがカキンの王族である。カミーラ王子は情報を流せば何とでもなるにせよ、ベンジャミンとツェリードニヒだけは確実に除いておかねばならないだろう。
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「ノヴ師。そちらはいかがですか?」
「問題があるはずもない。君が押し付けた思想チェックに弟子たちが拘束されている以外はね」
一方、神経質な様子で物資の搬入状況を確認しているのがノヴだ。
彼は念能力を駆使してありえないほどの遠方まで物資を輸送している。ひとえにシンプルな『欠点付き念空間』と『欠点付きゲートキー』を組み合わせている為だろう。原作ではマンションとして組み立てていたが、把握できる限界距離にワンルームだけ設置し、そこにゲートを作って繋げ、物資を輸送しているという訳である。順調な筈なのに彼がカリカリしているのは、選び抜いた人物ばかりとはいえ、輸送目的で他人をゾロゾロと秘密空間に招待している為だろう。
「どうせ数名ずつは取引で通すことになるでしょうし、雑にやって構わないと思いますよ?」
「ふん。それで文句を言われるのが弟子でなければな!」
「……その言葉をお弟子さんに掛けてあげれば喜ぶのに」
「余計なお世話だ。妙な方向に付け上がりかねん」
ちなみにクラピカの代わりに受験生をハネているのはパーム
彼女の監視能力やプロファイルの出来るメンバーを用意し、クラピカのダウジングほど簡単にではないが、十分に機能する篩い落としが出来ているようだ。この様子なら原作に勝るとも劣らないとは言わないが、致命的な差が出ない状態にできるだろう。ちなみに推薦状を持っていると幾つかの試験を省けるが、思想チェックはどうしようもない。護衛任務ゆえに協調性のない人間や殺気を抑えることの出来ない人間は論外だからである。
(準会員か……彼らは一層を守るだけの契約の筈だ。だが原作では協専を含めた準会員の護衛が部屋に居たな。おそらく政治取引は有効というか、自分が送り込んだ人間を中心に、●名まで引き入れて良いとか言うルールになって居たんだろうな)
結局のところ私設兵や世話人に、準会員を合わせて二十名ほどだろうか?
その私設兵には上の王子が送り込んだ『監視』と『自前の兵士』、そして協会が派遣する『準ハンター』や『人数制限の迂回目的の兵士』といった四種類の人間が居る訳だ。玉石混合でハンターだったり暗殺者だったり、ただの兵士まで居るという有様だった。そんな状態では王子が暗殺されるのも当然だし、豪華客船で船旅と言う段階で守り切るのは相当な無茶だと言えた。だからこそ……継承戦の舞台としたのだろうけれど。
(ともあれ暗殺者の数を抑え保険としての船舶も用意した。これで舞台は整ったと言えるが……後は上手く逃げ切れるか、あるいは勝ちに行くしかない状況に追い込まれるか……だな)
原作のBW内での継承戦開始時までは来た。
ヒソカと団長の戦いが繰り延べになって居たり、この間まで続いていたクラピカの不調などの不明点はある。だが、可能な限りの準備は整えたつもりだ。穏健派に見えるチョウライ王子を勝たせつつ、フウゲツを継承戦から降りさせる予定も立っている。だが、予定はあくまで未定でしかない。数人の王子が『降伏は認めん。死ね』など行ったらそれだけで話が変わって来るし、それでなくとも前世の俺が死んだ段階で原作でちゃんと終了したパートなのかも不明なのだ。状況はいまだ不透明であった。
(だが、それでもこのクソな転生先に生まれ、たった一つ描いた目標なんだ。絶対に叶えて見せるさ)
そう決意を固めつつ、俺は継承戦が始まるまで可能な限りの準備を行う事にしたのである。
と言う訳で最後の準備と言う所ですね。
原作よりも船が沈んだ時へのフォローがしてあるけど、準会員のハンターは少し妖しくなってます。ただし最終的に政治取引で調整が入るので、あまり変わらない結果になるでしょう(王子が選んだ精鋭が入り易くはなりますが)。
とりあえず原作に対して介入できるのはこの辺まで。
準王族の二線者であり、ハンター協会の上層部と懇意に成った人物……。
ではここが限界であると思われます。上位王子の権威とか使えば、まったく別の結果になったのでしょうけどね(チョウライ王子を積極的に勝たせるために、側近になるルートとか)