インモラルなステディxステディ【完】   作:ノイラーテム

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BW号の事件簿編
真剣な茶番劇の始まり


「それでは我々はこれで」

 

 あれから半年が経過、BW号が出航し、いよいよ継承戦が始まった。

 

原作と最も違う事は、フウゲツの降嫁と王籍離脱が予定されている事だ。王家の行事を盛り上げるため、その儀式は新大陸に着いてからを『予定』していると告げられた。継承戦には参加するが、形式だけだという事になっている。もちろん壺蟲卵の儀式はさせられているので、念獣というか聖獣は憑いているし、他の王子が殺すためのターゲットリストにはまだ載って居るだろう。

 

「くれぐれも兄さまたちを御願いしますね」

 

「そうお伝えします。もっとも、お伝えした後で戻ってくるかもしれませんが」

 

 監視役を兼ねた護衛が一度下がっていく。

 

上の王子たちが付けた兵士だが、予定が変わるかもしれないので一度相談に戻ることになって居た。聖獣を宛てられている以上は殺害対象だし、また他の王子が全滅すれば王になる人物だ。念の為に戻るというか……監視を主にした者から、暗殺を得意とする者に入れ替る可能性の方が高い。茶番かもしれないが連中にも我々にも、必要なステップではあろう。

 

「君らも戻って良いんだぞ?」

 

「お構いなく。私は見届け人ですから」

 

「同じく。約定を果たされないならばそうではなくなる。という意味でもですが」

 

 第一王子と第二王子の私設兵は態度が決まっている。

 

彼らは最初からこの方針を知っていたし、念能力者の配置をおいそれと変えない方が良いと理解している。仮にこいつらが王子にとって必要な事態に成ったとしても、迂闊に戻して他の王子に把握されるより、ノーガードであるフウゲツ陣営に場所を間借りする方が良いという判断かもしれない。なお第三と第九にはこちらから流れを告げているので、最初から居ない。何時までも居残って居たら、他の陣営の連中と同じように暗殺者を派遣するかもしれんが。

 

「おかえり」

 

「ただいま。侍従さんを送って来たよ」

 

「おや。その方は新しく雇われた護衛の方ですか? できればご紹介を願えれば幸いですね。人数が減った以上は、親睦が必要でしょう?」

 

 とはいえ私設兵が味方な筈はない。その都度に牽制もするし介入もして来る。

 

例えばカチョウとフウゲツが同じ格好をしてどちらが本物か判らないと言う策をやって見せたら、『本物を守る時に躊躇うのでやめてください』と正論をかまして中断させたりする。これが部下ならば『どっちも守れ』と言えるのだが、上の王子が付けた護衛であればそれを強要する訳には行かなかった。

 

「あたしは……」

 

「マチ=コマチネ。エンバーミングの達人だよ。フウゲツ王子は降りられる予定だが、他の王子がお亡くなりになった時に、ご遺体が傷ついていた場合は修復してもらう契約になっている。護衛と言うよりは職人だな」

 

 この日も仲間に引き入れて居るマチの事を聞いて来た。

 

彼女は試験を受けて準会員の中に潜り込んでおり、複数人囲い込んだ護衛の中に含めている。そして侍従が壺中蟲の儀式に使った壺を何処に持って行くのかを、送迎と言う理由を付けて出て行ったのだが……。戻って来た時に、人数が減ったことを理由に詳細に尋ねて来たわけだな。まったく抜け目がない。

 

「ほう。と言う事は体の中に糸を?」

 

「古代の女王が黄金の糸でシワを延ばす美容をしたと言う話があるだろう? あの要領で念の糸を通すんだ。治療にも使えるから、『万が一の時』には彼女がフウゲツ王子の施術をする事になっている」

 

 ここまで言うと張り詰めた緊張が解けた。

 

私設兵は見慣れぬこの護衛が何のために居るのか、戦力としてどのくらいか、そして暗殺用に使えるのかを確認したのだろう。例えば糸が寄生虫のように高速で潜り込んで来るとか、蛇のように這いまわって気が付いたら身動きできないとか困るからな。だがマチの使い方はそう言う方法ではなく、旅団の中でもサポートだし、コロシに使う時も正攻法で首を絞めるからロープと同じ使い道なので一周回って気が付かれなかったりするんだけどな。

 

「ユキ! あたしの能力を勝手にしゃべんな!」

 

「悪い悪い。後で穴埋めしておくよ。いつもの報酬で良いな?」

 

「……そう言う事なら仕方ないね。ちゃんと借りは返せよ」

 

 当たり前だが能力をバラされて嬉しい能力者は居ない。

 

だからマチはバレても問題ない能力であろうと怒って見せるし、それを期待して私設兵も煽りながら情報を集めているわけだ。抜け目が無いと言えるし、そのくらいの機転が利いてこそ第一王子や第二王子の私設兵なのだろう。もちろん無関係な時にはちゃんと護衛もするので、他の国の横槍やマフィアならぬテロリストを防ぐという意味では、彼らを無碍には出来ないのが一番の問題であった。

 

「首尾はどうだった?」

 

「場所は把握したよ。念空間になってたら齟齬は出てると思うけど」

 

 幻影旅団にはカキンの国宝を盗む手助けをすると言っているのでマチが居る。

 

強奪向きの連中ではなく護衛というほど戦闘力が高くなくとも、協専の連中より強くて潰しが効く能力の持ち主ともあって傍に置いて置き易い。追跡向きと言うのも旅団からすれば都合が良かったのだろう。原作的にはエイ=イ一家を追跡するのに向いていると思うのだが、俺は別に頼む気は無いので、こんなものだろう。

 

「それにしても、あたしがエンバーミングできるなんてよく知って居たね?」

 

「俺が殺したいと思っていたクズはスナッフビデオを撮っていたし、金持ちに売りもしていた。そして君らの結成当時には犠牲者が沢山。察するなと言う方が嘘だろう? まあ神経節を繋げる治療師という方が有名かもしれんが、それにしては治療能力は無いしな。治療系がレアとはいえ、の話だ」

 

 怒っているというよりは牽制弾としてマチは尋ねて来る。

 

能力以前に来歴を知られて居る方が厄介だし、それこそアジトを探されていても厄介だろうしな。だが、うちの組とエイ=イ一家が対立しているのも確かだ。そして該当人物がクズなのも周知の事実なので、マチがそれ以上を突っ込んで来る事は無かった。まあ、彼女からすれば旅団は流星街の自衛手段の為に『ワザと悪評を広めている』と気付かれるよりは、自分の理由がセンチメンタルだと思われる方が良いと思ったのだろう。

 

「まあいいさ。それよか穴埋めとしての情報には期待しているんだけどね」

 

「判ったよ。なら報酬とは別に、忠告を一つ無償で渡そう。ヒソカと団長の対戦が組まれて、継承戦の後にするという話だったな? ならそれに関する忠告だ。ヒソカはあれで基本ルールには忠実で、その枠内でのみ無茶をするタイプだ。『あいつは偽者の団員だったから、粛清ではない報復だ。無残にハメ殺そう』なんて主張が出た場合は、先にその事を説明しろ。そうすれば生き残ってもヒソカは納得する」

 

 俺の言葉にマチは嫌そうな顔をした。

 

おそらくは旅団内でそういう話が出ているんだろう。パクノダが死んでないからまだマシだが、ウヴォーギンが死んでシャルナークが死んだ遠因もヒソカである。あいつが裏切らなかったり、最初から仲間面して居なければそんな事には成らなかったはずだ。だからこそ殺せという話は間違っていないのだが、ヒソカとも交流があるマチには何とも言い難いのだろう。

 

「逆に後から気が付いたら、確実に根に持ってすべての手段を動員して来るぞ。こだわり以上のプライドなんか無いからな。それを考えたら最初からお前は許せないからハメ殺すと伝えて、『全員に袋にされるか、それとも団長が選び抜いた新しい能力と護衛二人。好きな方を選べ』と言えば納得するだろうよ。それならあいつがチャンスが無い場合に狙う条件より少し厳しい程度だからな」

 

「……あいつらが聞くかは別にして伝えとくよ。んで、報酬の情報は?」

 

 過去話を止めさせるための話題転換だったのに、また苦い話になった。

 

だからマチは再び逃避する様に、報酬の話に飛び火させる。この辺が彼女の弱い部分であり、マチ・コマチネという少女を作り上げている精神性なのだろう。その細くみえてどこか粘り強く、そして余計なまでに情緒を持つ部分が、彼女の『念糸』に繋がっているのではないだろうか? まあ、こういうタイプは俺たち縁のある人間にも躊躇を覚えるから、フェイタンよりよほど好意を持てるけどな。

 

「第二王子カーミラはカウンター系で、殺された相手の肉と魂を使って自分を蘇生する。死後強まる念という程じゃないが、油断している相手に使うとか自動発動だからかなり強力だぞ。その代わりに捕まえてしまえば対処が簡単なのと、王子と言う身分的に最初は拘束で済ませるだろう。使うかどうかは別にして、覚えておいて損はない情報だと思うぞ」

 

「ふーん。使えるかどうかはともかくとして面白そうだね。団長は好きそうだ」

 

 報酬は他所の陣営の念能力になる。

 

ただし、旅団はソレをハントする必要はない。俺の為にあえて危険に挑む必要は無い。逆に俺の方も奪い易い能力を伝える必要もない。奪ってくれたら嬉しいな……程度の話であり、場合によっては時間潰しに伝える程度だったりする。それこそリハン……だったか? 考察に成功させると、奪える能力の幅が広がっていく私設兵なんかは有用だとは思うがな。そういうのを別に相談したりはしないのだ。旅団が勝手に判断して、行けると思うならば奪う程度だろう。

 

「しかし、判らないね。あんたの国の人間なんじゃないかい?」

 

「大前提が『お前の大切な者を殺す。その後で生きているならお前を使ってやろう。ありがたく思え』という連中だぞ? 君は君の大切な人を殺そうという奴が居たとして、流星街に居る別グループの連中を、同じ故郷と言う理由で見逃すのか?」

 

 そしてお互いに肩をすくめ合ってその場を離れる。

 

長話をするのも色々な意味で危険だ。私設兵が余計な事を考えるかもしれないし、俺たちの間柄を勘繰られるかもしれない。密談しているのも確かだが、あまり時間は掛けたくは無かった。




 長引変えても仕方ないので、サクっと継承戦の本編が始まります。

●移設兵と王子の対応
 前々からその気が無くて、王籍事態を離脱する心算なのは知られ
「人数問題で王が止めていた」と言う事も知っているので、ベンジャミン・カミーラ・チョウライは今のところ静観です。何時までも残って居たら、「王子であるなら態度は一貫しろ」と言って殺しに来るでしょうけど。少なくとも「覇気がないから見苦しいので殺す」に放ってません。これは敵対してないなら優しいベンジャミン、誰にも興味が無いカミーラの性格ゆえですね。チョウライ? 彼は未だに政治ゲームだと誤解しています。

●旅団との駆け引き
 比較的に同情的・交渉に前向きなマチが居ます。
シズクはさっぱりしてる性格なのと、盗んでから即座に移動できる能力は貴重で、殺されたら話が終わるので置いてません。もちろんフェイタンは国宝を盗んだら、その瞬間に『お前は用済みネ』というキャラでしょう。フィンクスは借りがあったら躊躇するけど、仲間がその気なら止めないタイプかな。
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