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「ワブル王子が襲われた?」
「はい! 王子は無事ですが、護衛に相当数の被害が出た模様です」
継承戦は二日目に入り、情報が新たに入って来た。
一日目の段階で一番年下である第十四王子が狙われるのは、原作知識を除いても誰もが予想することだ。何しろ上の王子が暗殺者を護衛として送り込めるが、それを拒否する権限が無いからである。そして、この報告から既に原作と乖離している事が伺えた。
(王子が無事なのは当然としても、護衛が壊滅してないのか。クラピカが居ない事を考えれば、相当なキレ者を抱えたな。……クロロでも雇ったか?)
原作では僅か二名の生存者になってしまった。
クラピカが奮闘してソレなので、『相当の被害』で収まったならばかなり善戦した方だろう。その上でクロロを雇ったのだと考えれば納得は出来る。年に対する考察力も対人経験も、世界で屈指の実力者なのだから。クラピカと違って焦る理由もないため、むしろ一人死ぬごとに証拠を固めて、後半に入った所で特定したのではないだろうか? もちろん原作通り王子の守護聖獣が関与したならば、序盤で撃退しただけかもしれないが。
「二十名まで補充して良いルールだ。協会から派遣された者で補充するだろう。だが油断はするなよ。何が起きるかは分からん」
「はい。念には念を入れます」
原作とどこまで違っているのか分からないが、二十名制限がある。
王子が派遣できるルールはそのままなので、私設兵に余裕があれば誰かが送り込まれてくるだけだ。だがそれ以外の自分で雇った護衛に数には限りがある。入室させて良いのは一階ロビーを警備する協会の準会員だけであるが、そこから護衛を雇えるという意味では下位の王子こそ多用するルールなのかもしれない。
「大変です! 王子が、第六王子が暗殺されました!」
「なに!? タイソン王子がか!?」
原作と大きく違うのはここからだった。何故かモモゼ王子は殺されてない。
代わりに殺されたのはタイソン王子だ。ただ何となく理由自体は推測できる。協会から戦力を護衛として雇い入れようと言ったのは俺と言う事になって居るし、カチョウが降嫁したことで反感を覚えて雇わなかった様なのだ。原作ではクラピカの師匠であるイズナビの他、準協会員でもイケメンが居たはずである。それらが居なくなったことで、狙い目だとされたのかもしれない。
「可能な範囲で良い。情報を集めておいてくれ。難しいかもしれんが、犯人らしきものの情報や、犠牲者の情報もな」
「はい。鋭意努力はしております。ですが芳しくなく……」
当たり前の話だが、様々な勢力が林立し、そして入室制限問題がある。
決定が下されると死亡した王子の部屋に入る事は許されなくなるのに、それまでの短い期間で情報を集めようにも、各種勢力があの手この手で情報を持って行ったり邪魔しようというのだからやり難い事この上ない。こう言っては何だがフウゲツを擁するジャポン閥は強い方ではないので、出遅れた以上は難しいだろう。かと言ってその遅さが潔白に繋がる訳でもないので、難しい状況であった。
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「すまないが、この現象について解説を貰えるかね?」
「拝見します」
第六王子死亡に関する情報を得たのはチョウライの所だった。
情報をくれるだけなら良いのだが、その場で分析して説明しろとか無理をおっしゃる。こんな状況に追い込まれるのだったら、情報なんか欲しくないと言いたかった。だが最初の段階で拒否しなかったため、原作のクラピカの様に過労で倒れる未来しか見えない。まあエンペラータイムが無いから寿命が削れないだけマシか。
「……まず直接的な方法ではなく、間接的な方法について説明します。今の王子ならば資格を満たしておられますので、『念能力』について語っても罰せられることはありませんから」
「念能力? それがこんなことを可能にするというのか?」
「はい。ルールに基づいた超能力とお考え下さい」
資料を読んで情報をインプットし、考察しながら説明を始めた。
時間稼ぎに念能力についての説明を始め、前段階である『関係者にしか語ってはならない』という不文律について説明し始めた。その間も第一王子の私設兵はチョウライ王子の傍に控えており、『お手並み拝見』と言った風情で見守って居る。この段階で第一・第三王子の関与は否定されたが、だからといって滔々と語るのも危険だろう。
「念能力は心身を鍛えて発現させるのが『基本的』なやり方で、概ね本人の資質をそのまま反映します。ただ自分を強くするだけでも相当な物ですが、運用を過てば危険であり、かつ今回の様な殺人も容易です。ゆえに関係者のみに説明することを許される『慣習』があり、王子は壺虫卵の儀式により守護聖獣を得たことで知る資格を得ました」
「実感は判らないが、守護聖獣……それが私に着いていると?」
「はい。この状態でも生半可な呪いや病気を跳ね除けるでしょう」
「ふむ……有用ではあるのだな」
この段階でチョウライはそこそこに納得したようだ。
それなりの特殊能力を得て、超人とは言わないがスポーツマン並の身体能力を得られるならば、それだけで犯罪などやり放題である。迂闊に説明しないのは当然であり、それこそカキン・マフィアの中でもチョウライ閥のシュウ=ウ一家が彼に喋らない理由にもなり得るからである。そしてルールのある超能力ゆえに、情報次第で紐解くことも可能だと推測したのだろう。
「そのような聖獣が付いて居ながらタイソンが死んだ。万能ではないのだな?」
「はい。まったく修行しておらずとも、相当な実力者しか作れない念獣の中でも格の高い聖獣を与えられる。そこまでが限度であり、より凶悪な能力で襲われたり、拳銃弾以上の銃器や毒物であれば殺害は可能でしょう。その上で、御遺体の笑みそのものが情報になるのです」
持ち上げすぎても意味が無いので、一定の限界があると告げた。
王子が何もしなくとも得られることが凄く、生半可な危害であれば無効にする。だがそれ以上ではなく、重機関銃やロケット砲は防げないだろうと補足する。とはいえただ存在するだけで拳銃やナイフ程度なら無効化し、爆弾でもかなり軽減してくれると思うので、支配者には垂涎の能力だろう。そんな事を説明しながら、事件現場に存在した死体が齎す情報について解説を始めた。
「巻き込まれた者も含めて眠る様に死んで居るな。これはどちらの能力だ?」
「おそらくは『どちらも』です。しかし、その不明瞭さが今回の件では傍証になります。意図して開発しない念能力は本人の性質が如実に表れますので、タイソン王子の場合は幸福感の強要や恐怖の抑制、あるいは約束の堅守などでしょう。その前提で言いますと、王子や取り巻きの笑みそのものは当然の結果でしかありません。しかし、一人だけ違和感がある者が居ます」
原作でも不明瞭だったが、忠誠の強要から繋がる自認化が怪しい。
仮に『言葉だけで忠誠を誓います』と言っただけであろうとも、口にしたが最後、最終的には『本当に忠誠を誓う』タイプの要請型能力だろう。その上で従う者……タイソン教の信者に様々な精神的特典を与え、数少ないながらもタブーを課する者と思われた。だから取り巻きが一緒に笑って死んで居るのは、それほどおかしくはないのだ。口先だけでも忠誠を誓い、タイソン教を信じると言えば最終的に従うのだから。
「む? 別に違和感など……いや、第二王子の兵までが笑みを浮かべている?」
「その通りです。取り巻き達は王子への仮初の忠誠と、権勢を期待しての忠誠を誓うでしょう。しかし、それは長らくの奉仕と聖獣の後押しで本当に忠誠に変わってもおかしくはありません。しかし上の王子が付けた私設兵は、その様な前提を必要としません。ゆえにこの兵士が実行犯であり、無事に任務を果たせたことで笑みを浮かべていると思われます」
聖獣の守護があれば通じ難い念攻撃でも、通じ易い能力はある。
一定の条件に寄る『強烈な制限付きの攻撃』か、俺が水を操って水没させるような『場の条件自体を変更する間接関与』か、さもなければ攻撃ではなく治療行為など『親和的な行動を暴走させる』系統だ。タイソン王子を思いやって、一緒に死ぬ『道連れ自殺』をされたら、聖獣だって防ぎようがない。使用前提に命の消費がある程にコストが重い制約があり、かつ害意による攻撃ではないので区別がつかないのだ。
「理解はできる。確認するが第四や第五の可能性は?」
「チョウライ王子ですら念能力の事をお知りには成りませんでした。そう考えれば王子たちも能力を知らないと推測されますので、やれるとしたらエイ=イ一家でしょう。しかしエイ=イ一家は内紛の後ですし、タイソン王子のもとへ兵を送り込む余裕があるとは思えません。逆説的にも、可能性が最も高いのは第二王子の私設兵です」
俺と王子は、傍らにいる第一王子の私設兵を省いた。
この会談に最初から参加している以上、彼が『助言を求めてみたら』と提案したのではないだろうか? 重要な会合ならば流石に居合わせないように細工するだろうし、序盤過ぎて『機密事項だ。外せ』と命令出来なかったとしても、俺に何の含みも伝えずに引き合わせる時点でその可能性が高かった。チョウライ王子としても聞いてみたかったのだろうし、ここで命令するカードを切るよりも、同席を許可する方があり得る話だ。そして提案した事実そのものが、第一王子閥が犯人ではないと推測させる。
「対策は? 居合わせるだけで殺されるのではたまったものではないぞ」
「念能力を都合よく使う場合、『制約と誓約』と呼ばれるルールでガチガチに縛らればなりません。例えば『約束を守らせる』という行為一つをとっても、詐欺師は使用できない可能性があり、自分でも約束を守るタイプの人間にしか作る事は難しいのです。その事を踏まえれば、幾つもの行動を予言した上で、自分が先に服毒自殺するくらいの手間が必要でしょう。もちろん予言が一つ外れただけで、無駄撃ちになるほどの狭量さになるでしょうね」
メモに七つの空白を書き、六つ目に自身の死亡、七つめに主の死亡と記す。
何も知らない人間が五つの予言を叶えるなど無理だが、主に対して親身になって行動して居れば可能かもしれない。少なくともチョウライ王子の側近ならば、ある程度意識して埋めて行くことが可能だろう。逆説的にそこまでの予想を組み立て、後戻りの利かない予言としなければ念能力で直接の暗殺など不可能なのだ。もちろん、弾丸とか毒の代用を行うなら簡単ではあるが、それは防御される可能性もあるからな。
「家臣の命を使い捨てにして行う力か。何とも不条理だな」
「カミーラ王子は背景となる支持母体がなく、己のみが尊いという気質ゆえに、不可触民を拾い上げ平等に扱い崇められております。不可触民たちから見れば希望なのでしょう。そして、そういった後が無い連中ゆえに、その精鋭はみな同じ能力を共有している可能性があります。警戒すべきはそこでしょう」
チョウライ王子は清濁併せ呑むがゆえに理解はしているのだろう。
志尊の王座を賭ける戦いであり、しかもカキン帝国ほどの大国である。そこにどんな価値があるか判るがゆえに、家臣に命を懸けさせる意味を理解すると同時に、命は資産だと考えて居るに違いあるまい。今は『そんなもったいない事をするのか?』と考えるだろうが、必要が迫れば『人間の命一つで済むならば、やれ』くらいの事は言うだろう。少なくともツベッパの言葉からすれば、上の三人はそう言うタイプなのだと思われる。
「ともあれ具体的な情報を与えず、単独で接近するチャンスを許さねば何とかなるでしょう。その存在自体は他の王子対策にも有用ですので、シフトの調整で当られるのが良いかと」
「その辺りは何とかしておこう。その上で尋ねるが今から覚えられるか?」
「素質と時間に寄ります。第四王子なら国事を傾ける程にのめり込むでしょう」
「私ではなく、部下ならばどうだ? 少しは戦力が増すのではないかな」
俺の言葉に頷きつつもチョウライ王子は具体的な質問に入った。
先ほどのタイソン殺害の手段を尋ねることは、あくまで真偽を確認する為に深堀りして見せただけだろう。本命は部下を鍛えて戦力化できるかどうかの判断。概ね原作に準じた行動であった。
「平和な日々に一時間程度で二年、数時間ずつで半年と言う所です。今の緊張感で数時間の鍛錬を行うならば、基礎修業を数週間で終えることは可能かと思われます。とはいえ素人ですので、特殊な能力を得るよりも、察知能力や基礎体力の向上に充てるべきだと思われます」
「……あくまでSPとしての才能を高めよと?」
「特殊能力は専門家に任せるべきです」
「判った。やってくれ給え」
原作と違ってクラピカが勢力の均衡を計ってはいない。
だからこそ、ここでの行動にはアドバンテージがあるのかもしれない。チョウライ王子も俺の進言を勘案した上で、余計な事をするよりも、察知能力を優先すべきという提案に乗ったのだろう。
(しかし……ベンジャミンの私設兵にしては静かだな。様子見を気取って居るようだが……案外、既にチョウライの影響下に入りつつあるのかもな)
原作でも念獣が吐き出したコインを拾ってから変化が見られた。
最初は何も情報を与える気は無いと言ってるのに、クラピカが色々関与し出す頃には、チョウライの質問に答える程になって居た。大した情報では無いと思っているからだろうが、やはりそこにチョウライの念獣の性質が見えているような気がした。
と言う訳で継承戦の二日目です。
ワブルが襲われるのは同じですが、死者が少ないという差があります。
その上でモモゼが死なず、代わりにタイソンが死んで居ます。
まあ頼れる護衛が原作よりも増えて、逆に減った場所があればこうなりますよね。
それ以外は第二王子の私設兵の能力解説。
原作で詳細が語られてないので、適当に穴埋めしています。
まあ真偽はあまり関係ないというのもありますしね。