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「以上の事を念頭に置いて鍛錬を積んでください。全員が交代で行っても、私を信用せずに一部の者が試す形でも構いません」
「ははは。他ならぬ私が信用しておるのだ。我が配下に断る者はおらんよ」
三日目に入ってチョウライ陣営の行動が決まった。
念能力者としての鍛錬を積む為、様々な知識を授けることにしたのだ。原作同様にチョウライが電話したことで第十四王子の陣営他が庇護下に入ることもあり得るが……。その場合は明確に下位王子が頼って来て、かつ私設兵の提供ではなく自分たち独自の戦力を求めた時のみ、後に渡す最初の知識としても利用する。だから、チョウライの護衛達が先行する意味は大きかった。
「繰り返しますが念能力はルールのある超能力です。付け焼刃にしかなりませんのであくまで基本を重視。その後の応用はSPとしての能力を底上げする為に、『凝』と『堅』を見据えて行くことになります」
「……時間が無い以上は仕方ありませんな」
「納得はします」
側近たちは馬鹿ではないどころか優秀なので即理解を示している。
他所の陣営である俺が指導する事にも含みはあれど、俺がチョウライ陣営で上に立つ気が無いので納得はしている様子だった。その上でボディーガード役を中心に鍛錬時間を調整し、頭脳役の側近たちにのみ、ベンジャミンの私設兵には聞こえない所で、初心者でも何とかなりそうな『発』についてのアイデアを相談して置いた。そこで実際に試すかどうかは彼ら次第だ。
(茶番だな。だが、必要な時間ではある。誰に対する証明のためにも)
概ねチョウライに昨日説明したことを繰り返して居るだけだ。
具体的な修業方法やら、基本的な期間と集中する場合の差を述べただけ。ベンジャミンの私設兵は『付け焼刃』という言葉に納得しているが、付け焼刃でも出来ることが増えることをスルーしているのが面白い。重要なのは俺がチョウライの私設兵に『適当』な教育をしているという事実だけだ。ベンジャミン陣営から見れば付け焼き刃に過ぎず、チョウライ陣営を確かに強化しているという証。この部屋に付けた共専ハンターに能力を見せてもらったり、俺も『流』や『円』を見せただけに過ぎない。
(今ごろは強化系のボディーガードを中心に、そいつが盾になる戦術を考えている頃かな? まあ、それでいいさ。それしかないし、そのペースが次の目安になる。制約と誓約でリソースを使う他者強化とか、約束を順守させる他者依存の能力を側近に提案しておけば色々な意味で問題無いだろう)
チョウライは堅実なタイプなので部下を無駄打ちするとは思えない。
ドラクエで言えば屈強な男に『スカラ』を掛けて、『食いしばり』を覚えるように促すくらいだろう。特殊な事を指示しても間に合わない可能性があるが、この戦術に限ってはそこそこ見込める可能性があるからな。そう言う意味ではハルケンブルグの『弾』になることを決めた連中の覚悟とか、モレナが手下の制御をする気ゼロでレベリングしているのが頭おかしいだけとも言える。
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「ボス。あっちはどうだった?」
「早々モノにはならんさ。目端の利く護衛や頑丈な護衛が誕生すれば御の字だろう。早くて十日、素質があって一週間と言う所かな? まあ、俺たちの陣営にはそれで十分だ。せっかく庇護者が居るなら強い方が良いが、強過ぎると粛清される可能性もあるからな」
フウゲツ陣営に戻ってから、本日の成果を確認。
もちろんベンジャミンやカミーラの私設兵も居るので、先ほどの話を繰り返して居るだけだ。これで三回同じことを言っている事になるが、彼らにとっては再確認でしかない。再派遣されてはいないが、他の王子が施設兵を派遣していた場合は、寝耳に水の話だったという程度だろうか。
「それにしても状況が変化しないのは退屈だね」
「ソレを言えるのは俺たちだからだよ、マチ。フウゲツ王子は降りる予定だから最終段階までは狙われない。戦力を減らしてまで先に潰す理由は無いし、まったくの嘘でこの陣営が強化されているならば、みんなで出る杭を叩き潰せば良い程度だからな。だが第十二王子以降の陣営は大変だぞ」
退屈そうに装って居るマチに合わせてやる。
彼女は他のメンバーから話を聞いて居るはずだが、準協会員としては何も知らないから尋ねたフリをしているのだろう。もちろん旅団が互いにコンタクトを取っておらず、情報をまったく知らない可能性もあるので無駄にはならない。仮に誰かが念獣を送り込んで情報収集している場合もあるが、この話は知られて困る話題じゃないからな。
「ユキ兄さま。この継承戦、どうなったら終わるんですか?」
「勝利者が一人と成り、他の候補者が『継承者としては死んでいる状態』に成っている事ですね。ただし他の王子にとって、降りた筈の候補者が政敵に成り得る場合は許さないでしょう。だから俺たちは早々にカキン内部の権益を手放して居ます。勝者が外とのつながりを求めるならば、手放した権益の一部を戻してくれるかもしれませんがね。『基本形としては』こんな物です」
条件に対する
ナスビー王が説明した通りの内容であって、そこには語られている部分に判り易さと、語られてない部分に判り難さが潜んでいる。『説明されてない事はやっても良い』という内容もあれば、『説明していないが当然やっては駄目』みたいなことは沢山あるだろう。そして、その辺りをいかに解釈するかも含めて勝負の一部と言う事だ。
「基本的に……ってことは、そうじゃない部分もあるって事?」
「そうだよカチョウ。判り易い話としては壺中卵の儀式が混ぜられ、守護聖獣が与えられているという事かな。聖獣は王を騒乱や暗殺から守る力を与えるが、王子に対するソレと王に対するソレではまるで意味が異なる。拳銃や流行り病を防ぐ程度ではもはや足りないだろう。ということは、聖獣も成長を要求される。ゆえに他の聖獣を喰らい強く成る必要がある。と言う事はただ降りるだけでは駄目なんだ。二線者の傷は本来、そのためのマーキングなのだろうね」
俺の言葉尻を捉えたカチョウにゆっくりと語っていく。
特殊能力以外にも、下手な強化系を上回る防御能力を有する。至近距離で拳銃を撃とうとナイフで抉ろうと死にはしないが、近世には機関銃やロケット砲が存在してしまっている。いや、長距離ミサイルや爆撃機の攻撃くらいは何とか出来ないと駄目だろう。傭兵でもそのくらいは購入できるのだ、その程度の攻撃を防げなければ、強大な王であっても簡単に殺されてしまうだろう。
「足りるか足りないかを判断する基準が不明なのも困り物かな。勝者である王子や側近にとって、そして儀式を見守る祭祀たる王にとって十分な犠牲なのだろうか? 最初にこの儀式が組み込まれたのは、毒殺や刺殺の時代だろう。だが、このBW号を吹き飛ばせる攻撃を防ぐには、数人の犠牲では済まないと判断する可能性があるんだ。そこに答えは無い。満足させる取引だけではなく、この者は生かしてておきたいという躊躇いが必要だろうね」
「じゃ、じゃあ降伏しても許されないって事? 傷を付ける以外に何が……」
「ついでに殺すという王子には話すだけ無駄だよ。躊躇わせる必要がある」
何度も言うがベンジャミンやカミーラみたいなタイプは駄目だ。
彼らの場合は『大人しく死ね』という結論ありきなので、継承戦前に降りたカチョウは許容範囲かもしれないが……。間に合わなくて仕方なく付き合わされたフウゲツは、発表されていてもギリギリ入るか入らないかでアウトと思ってる可能性が高い。何かの拍子に殺すことは躊躇わないだろうし、気分的に殺意がMAXの時なら躊躇せずに抹殺命令を出すだろう。そして、他の王子も怪しいのは『何処まで殺せば良いのか分からない』と言うことに尽きる。
(加えて、私設兵の前では言えないが、必要なエネルギーを儀式の方が判断している可能性があるからな。仮に古代から近世に移る段階で、生贄が足りなくて全滅した可能性もゼロじゃない。より強い聖獣を生み出そうと、『前回よりも大きな儀式を行う』という制約と誓約を入れた可能性もあるからな)
色々な意味で、要求水準が不明なのが一番の問題だろう。
王子たちはライバルを殺したがるし、強力な聖獣を作るのにどれほど殺せば良いのかも不明。こんな状態でよくもまあカキン帝国が無事であったものである。いや、もしかしたら国体を変えたのも、もしかしたら儀式をリセットできるかもしれないという可能性に掛けたのかもしれない。
「ど、どうにかできないのかな?」
「前にも言ったような気がするけど、さっさと降りることを皆に相談していた。それが通って居たら、陛下は無理に継承戦を行わずに、下の王子をスペアとして使っただろうね。そうなれば良くある国家と同じになってしまうが、カキンは大国だからそれなりに繁栄できたはずだ。政治ゲームだと思って粘って居る方が悪いと言えなくもない」
カチョウは優しい子だし、原作よりも恵まれているから他の心配が出来る。
だが、もし原作と同じ状況だったらフウゲツを救うためにそんな余裕は無かったはずだ。現状は必ずしも上手く行っているわけではないが、カチョウに余裕がある事でそれなりの満足感を味わう事が出来た。最悪よりもマシだというレベルでないからこそ抱ける余裕でしかないが。
「とはいえチョウライ王子の申し出のおかげで少し好転したのは確かだな。王子たちに紐付く念能力者が多く成れば、回収時に強化される幅も大きくなる可能性が高い。『十分だから降伏した者は助けても良い』となる可能性はそれなりに増えて来るだろう。チョウライ王子は下の王子たちにも教えるみたいだから猶更ね」
「あ、そっか。今回はみんな能力者って場所も多いもんね」
「十三人全員である必要は無いと思うが、もっと減ると思うよ」
これはアテにならない考察でしかない。
そんなルールはどこにも明示されてないからだ。あくまで私設兵に聞かせて『見逃しても良いかも』と思わせるブラフに過ぎない。ただ、今までにない程の念能力者が集まっているのは確かだろう。聖獣の能力でオーラを徴収するならば、それもあり得るという希望的観測はゼロでは無かった。とはいえ回収できるエネルギーが多いとしたら……ベンジャミン王子とハルケンブルグ王子だけだろう。
(魂を操るベンジャミンとハルケンブルグ。連中には確実に死んでもらわなければならん。しかも、配下をより多く巻き込んでな……)
カキン王族とそれ以外では差もあるかもしれない。
だが、配下の魂を吸収して役立てるベンジャミンやハルケンブルグならば数人分のエネルギーを持つ可能性はあった。どうせ殺し合いをするならば役立ってもらうことにした。
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「大変です!」
暫くは様子見の心算だった。降りる予定なのだと思わせる為だ。
だが、開けて四日目。事態は急転する。いまだ小さな変化であるが、原作とは違う意味で違う方向へと進んでいったのだ。
「今度は何だ。本当に大変などと言うことは滅多にないぞ」
「し、失礼しました。しかし、部屋が一つになってしまったのです!」
「……は? 報告は正確にしろ。物理現象を曲げたのは判る。何処と何処の部屋だ?」
「だ、第十二王子と第十三王子の部屋が一つになったのです!」
それは驚くなと言うのも無理がある話だった。
カチョウが降りた為に原作と違って繰り上がって1014号室が空き、モモゼが1011号室でマラヤームが1012号室を居室にしている。隣り合うこの部屋を『続き間』にしてしまったという事だろうが、聖獣の仕業であるならば、仮に原作と同じ斜め配置でも可能だったかもしれないし、その方が異質であっただろう。
(原作に無い展開だが……あえて近い光景を探すなら、やはりマラヤームの聖獣か。空間を閉ざす力の代わりに部屋の融合に当てたという事かな? 『念』の秘匿のクソも無いが……攻めるにしても守るにしても、これはこれで面白い変化だな)
無垢な子供の精神性が影響し、能力の方向性が変ったのだろうか?
そう考えれば割りと納得は出来る。原作知識で空間を封鎖し、外に出て行ったものが戻れない防衛意識の現われみたいな事をしていたからだ。それが姉の部屋を取り込んだという事は、家族に対しての愛情を覚えたのか、あるいは母親が姉の部屋に顔を出す動きを嫌って『いっそ同じにすれば良い』と思ったのか等の理由で差はあるが、『結果としては同じ』だった。この動きを他の陣営が黙って見て居るはずがない。
「起きた結果はどうしようもない。他の王子や王妃に変化はあるか?」
「はい。スィンコスィンコ妃が一つの部屋になったのだから最大で二十名という制限を守るべきだと申されているとか。後は……カミーラ王子が最も大きな部屋を下位の王子が有しているのは不快であるとも」
事情を伝えた従事者が後半で言いよどんだ理由も判る。
何というか子供の我儘であり、その部屋を寄こせと言わないのは、単純に他人が使った部屋を割り当てられるのが嫌なのだろう。また、王に近い方が権力に近いということでもあり、離れた部屋に移動するのを嫌がったともとられる。その意味ではスィンコスィンコ妃の方がマシに見えるが、意味合い的には大差は無かった。
「カミーラ王子は置いておくとして、自分が望むままに動かしたいという気持ちが透けて見えるな。ベンジャミン王子は特に動いておられないのだろう?」
「はい。些事であり、まとめて警備すれば良いのだから同じことであると」
「だろうな。王位の立場と戦力からすれば、同じことだ」
この話は『暗殺する予定』というのをキーに置けば判る。
戦力が豊富で多様なベンジャミンからみれば、戦力をまとめて投入し一気に仕留められるチャンスなのだから、予定としては大して変わらない。だが暗殺者を数人飼っている程度のスィンコスィンコ妃にとっては、護衛や目撃者が多くなってしまっては暗殺し難いということになってしまうのだ。そう言う意味でこの件はスィンコスィンコ妃が一人で株を下げたという事になるだろう(カミーラの人格がアレなのは今更なので)。
(これは状況が動くな。奇しくも原作に近い形でサレサレが死ぬ形になるが、スィンコスィンコが迂闊なのだから仕方がない。動こうとしないサレサレの方が正しいという事になるの訳だが……。さて、この状況をどう利用するべきか?)
おそらくだが今夜にでもサレサレが暗殺されて死ぬだろう。
スィンコスィンコがベンジャミンの言いぐさを聞いて、まとめて殺せば良いのだと手持ちの暗殺者を動員することになるだろう。念能力者が減ればそれだけ第八王子陣営が手薄になる訳で、放っておいてもサレサレが死ぬ流れになるのは避けられまい。そして暗殺者なんぞを多用する彼らを助ける意味などは無い。ここは『見』に回るべきだろう。だが、何を見るべきかで意義が変って来る。
「……セヴァンチ妃に何か必要な物が無いかを確認してきてくれ。部屋が一つになったなら、間仕切りによるパーティションが欲しいかもしれないしな。もちろん物資の搬入は段階を分けて妙な物が混入しないように注意するし、そちらの私設兵に任せても良いと告げてくれ」
「しょ、承知しました」
まずは人としてあるべき姿を見せておくことにしよう。
普通ならばありない状況になったら混乱するし、仮に王子の聖獣が引き起こした現象だと納得できるならば、この機会を利用して防御を固めようとするだろう。だから俺たちの陣営としては、『必要なら協力するよ、疑うなら別に何もしないよ』という姿勢を見せておく訳だ。それは二人の王子にだけではなく、他の陣営に対しても穏健路線であることを見せることになる。もちろん政治ゲームとしてアピールしている事になるからやり過ぎは禁物だけどな。
(後はこの後の変化を確実に見守る事かな。空室になっている1014号室を利用した場合にどうなるか、性質の変ったマラヤームの聖獣が次の行動を起こすかどうか。それを注意しておくだけでも意味がある)
他の王子はともかく、この後の流れが分かっている所は注目すべきだ。
空室になっているが入ってはいけないことになっている1014号室を利用する可能性は高い。だが、そこは念能力で封鎖されている可能性もある。『死亡した王子の部屋に入室してはいけない』という縛りは、犯人の証拠を見つけない為だけでは無いだろう。デスゲームを加速させるために入室可能な部屋を増やしている可能性があり、結界なりタブーを用意する可能性もあった。また、マラヤームの考えが姉や母親だけではなく身内に向いているならば、ワブルの1013号室を取り込む可能性もあるのだ。
似ているようで逸れ始めた運命。その行く先がどうなるかは、いまだ不明であった。
と言う訳で四日目まで経過し、五日目も見えてきました。
●念講習
原作と展開が違いますが、念能力について関心を持たない筈はない。
そこでまずはチョウライ陣営だけ練習、他は「頼むなら教えるスタンス」
妥当枠のチョウライ枠が強くなっても良し、囮になって死んでも良し。
●どう考えるかも重要
要するに王子の判断の他、周囲を含めた勢力がどう思うか。
また、それらとは別に、継承戦を運営している存在が十分と思うか?
「せっかくだ殺せ」と思ったら降伏しても殺すし、「生贄が足りない」とか思ったら勝手に徴収するでしょう。その上で、エネルギーが余ったとしても申告してくれないし、何だったら『前回より壮大にする』という制約があったら、大変なことになるでしょうね。
その上で『集合知』として@「フウゲツは降りている」と思わせ
「ついでに殺せ」と思う連中は確実に始末。それとは別に、国宝を盗む準備もしてる感じ。まあ、こういう考え自体が、やり過ぎからの壊滅を招くのでしょうが……主人公もカキンの家系なので。
●おや、マラヤームの様子が?
原作と少しばかり変わりました。良い変化でもあり、悪い変化でもあります