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「やはり死んだか。予想通りとはいえ何の介入も出来なかったのは残念な事だ。……で、どうだった?」
「死ぬかもしれないのに試してみる馬鹿は居ないさ。うちの連中にはね」
五日目に入って第八王子が死に、その私設兵に大量の死人が出た。
予めマチを通して幻影旅団には関わるな、1014号室およびサレサレ死亡後の1008号室に侵入するなと伝えている。確認したかったのは封鎖領域に入って行った馬鹿がどうなったかを知りたかったのだが、クロロの性格上は最低限の監視はさせていたはずだ。となると、『入るな』と言われた場所に入り込むと死んでしまうというか、何かに取り付かれる可能性があるのかもしれない。
「この様子だと融合した1012と1013号室で死んでたのもサレサレ王子の兵だろうな。自業自得だとは思うが、少し派手過ぎる。さてはベンジャミンの兵が張りきったと見える。余計な情報を渡してしまったのかもしれんな」
「その判断の理屈は何処なんだい? 団長も不思議がってた」
「終わってみれば判るが、事前に判った理屈か?」
「ああ。第一王子の仕業だと判ったことも含めてね」
マチを通してクロロが確認したのは、『歴史』に興味を覚えたのかもな。
思えばクロロは読書家だったし、思案の方向性を探りたがる癖があったはずだ。それを考えれば不思議ではないのだが、俺が揺り椅子探偵の如く動くことなくおおよそを当てたということに興味を覚えたのかもしれない。そう言う意味では何もして居なくともその辺りを当てて見せるクロロは厄介な頭脳をしていると言えた。
「その様子だと実行犯の動きも見てたんだろうが……。まあ、ベンジャミンの兵の前で色々と『聖獣の強化に関しての保険案』の推測を立てたからな。どうせ生贄にするとしても、妹より見知らぬ能力者を先に始末しようと思う程度の情はあったらしい。その上で、進入禁止に関してはデスゲームというよりも、時間切れまで逃げ切ってしまった過去例があったんだろうさ」
「……ああ。儀式を取り行える限界まで、逃げれるだけ逃げた奴が居たのか」
ベンジャミンの方は、王子に紐付く魂でも回収しようとしたのかもしれない。
原作に無いレベルで死んで居るが、もしその辺を知らなければ殉死とか抵抗にあって死んだとか思わせるために殺そうとするだろう。だが、知っている立場からすれば、サレサレだけを殺す手段があるのに実行しないのはおかしいのだ。あるいは単純に、捕食者に聖獣を食わせるのはマズイと思っただけかもしれないが。そして進入禁止の方には判り易いリミットの設定だな。
「そう言う事だろうな。運が悪い場合は、それで継承戦が破綻して一度くらいは断絶したかもしれん。運が良い場合は逃げた王子が生き残って、当時の王族が全滅したのを見て、次回以降の戒めにしたんだろうな。どちらにせよ内戦よりマシだと王子を生贄としてやってる儀式なんだ。短く終わればその方が良いに決まってる。このBW号だって、暗黒大陸の魔獣の侵入以外に、時間切れ防止に下の階層を切り捨てかねんよ」
「そいつはゾッとしないね。それまでに下層に居る連中は上げておくよ」
BW号は多層構造であるが、下の構造を捨てることが出来る。
一番上の船もドーム状の装甲で覆い、外からの侵入を防ぐことが出来る様には成っているが……。これは暗黒大陸から流れて来る魔獣対策だけでは無いと思うのだ。継承戦がド派手になって、大破しても良いように、そして下層に逃げ込んだ場合にまとめて始末できるようにするためだろう。巨大な豪華客船を使って隠れんぼなどしたくはないし、仮に結界とかタブーを使って封鎖するにしても広過ぎるからな。
「……念銃使いと運び屋の
「判ってるよ。それに
ここで言う『出禁』とは、一層に上がって来るなと言う意味ではない。
グリードアイランドを使った裏口からの侵入の事を意味している。他の連中でも大概やばいが、フランクリンやシズクが好き勝手に移動できると危険過ぎる。いよいよと言う事態になったら仕方がないのだが、それだって頭を下げてお願いすることになるだろう。逆に彼らの方からこちらの伝手を頼るならば条件を付けるのは当然の事だ。そういう手段を許可するかどうかでも交渉になるし、対策案があったとしてもその事をバラす必要は無い。
「ともあれこれで二人。ここから流れが……なんだい!? この揺れは!」
「……個人じゃないな。波長が揺れて居る割りに捻り出すまでが早い。おそらくはジョイント型能力の発動だろう。どうやったら可能かは別として、相当な人数でやったな」
話の途中で周囲が鳴動し始める。どう考えても念能力絡みだ。
原作を知っている事もありハルケンブルグの能力であることは判る。日程にずれがあるような気がするが、モモゼが死んでおらずタイソンが満足そうな死に顔だった影響もあるのだろう。おそらくは父親であるナスビー王を尋ねるのが遅れ、サレサレ死亡の話を聞いて尋ねに行ったのかもしれない。あるいは俺からある程度聞いていたが、部屋が融合した話やら大量殺人込みで、ようやく決断しただけかもしれないが。
「あたしでも知らないってのに、こんなの良く判るね?」
「おそらく人数を動員する経験の差だろうな。うちは王家と軍の関係もあるし、カキン・マフィアは組の中なら身内だ。当然それなりにジョイントを試そうって話はある。逆にそっちは最強格の個人が集まってるだけだからな。ジョイント能力を作ろうってのは夢にも思わなかったか、さもなきゃ団長を中心とした数人だけだろ? その差だよ」
俺は話しながら別室に居るフウゲツの方向を見ながら説明した。
フウゲツとカチョウは念能力者として鍛えている所だし、そのそばにはベンジャミンが付けている私設兵が監視している。狭い場所に俺も含めて念能力者が数人居る事になるし、ベンジャミンのところはみんな念能力者だ。一人一人は旅団の方が強いし戦闘経験も豊富なのだろうが、ジョイント能力に関して考えた事のある奴は少ないだろう。
「ジョイント型ねえ。そう言われてみればそんな気もするけど、うちには……」
「そうかな? 奪った奴との疑似ジョイントにすれば抵抗力は少ないだろ? その場合は相手を殺せなくなるが、無力化する方法なんぞ一杯ある。その上で仲間から借りる場合はオーラの融通も可能な疑似ジョイントと言う事にしてしまえば問題ない。第一段階の進化で他人とのジョイント、第二段階で身内のジョイントとかな。そして第三段階の進化で身内に貸せるようにすれば良いさ。条件は厳しいが、これなら遣り甲斐がある」
俺は以前に話した考察を練り直す形でマチに告げた。
そんな例を出す必要は無いのだが、ここでハルケンブルグの能力を何故か即座に判別したと思われても困る。メモ帳の一枚に簡単な例をグラフのように記していった。
「言いたいことは判ったよ。でも、そんな事が可能な、団長級の奴なんて……まさか、聖獣の能力!?」
「部屋を融合させる能力に比べたら、ジョイントはまだあり得る範囲だ」
一番あり得るのは要請型・強制型だと説明しながら王子の性格を記した。
高貴な人間にありがちな命令を聞いてもらえるのが当然と思っている奴。そこまで幼稚でなくとも、他者に何かをやらせることで自分を再確認する奴も居る。自分を卑下して、協力して欲しいと思う奴も居る。それとは別に、確固たる目的があって邁進する奴。そんな奴を尻目に、援助者として一定の立ち位置があれば満足する奴。そう言う人格例をメモに記載し、協力要請型や強制型などの能力タイプを載せ、ハルケンブルグは猪突猛進の目的型とプロファイルを添えた。
「問題はジョイント型である事じゃない。その能力で何をするかだ。俺がチョウライ王子の処で念の講習会をしている話を聞きつければ、準会員のハンター経由で伝わる可能性もある。そうなれば判り易く実効性を持つ能力を作りかねんぞ。相手をこの船から弾き飛ばすだけでも、継承戦でなら手っ取り早く勝利できるからな」
「……そうは思ってないみたいだね。その理由は?」
「ハルケンブルグ王子の性格に合わない」
首を傾げて見せながら、まだ洗脳とか精神汚染の方があり得ると告げた。
ハルケンブルグは正義漢だが狭視野的なところがあり、正統性やら社会的な正しさを追及するところがあると説明する。そういうタイプが直接的に暗殺などしないと思うと伝え、もし使うとしても説得に説得を重ねて、全員が分からず屋だったら始めて考えるだろうと締めくくった。ザキとは言わないがバシルーラを覚えて一人ずつ抹殺する様な性格はしていないと思う。
「天空闘技場でもそうだが、意図せずに能力を得た者は『必要に対して正直な能力』が多い。王子たちは権勢欲があるから要請型や強制型が多いと思うが、ハルケンブルグ王子は状況を打開する為のパワーとしてジョイントを前提とした能力を得たんだろう。強制ジョイントは性格に合わないし、側近たちに念能力を疑似的に与えて徴収する能力である可能性が高い。付いて来れない奴を切り捨てて、今のリソースだけで何とかする覚悟の現れというところか」
「言われてみるとそうだね。能力は判らないけど……今のは試し斬りかな?」
「能力把握のテストだろうな。これほどの力だ。決戦は一週間も掛かるまい」
「その前に殺されるかも……なんて甘くないか。近づくのも一苦労だろうね」
俺とマチでおおよその能力を推測しながら話を締め括った。
これ以上、見ても無い能力について話すことに意味はない。重要なのはこの能力がどこに向かうか、誰が動くかの差でしかないのだ。そして、これだけの力ならば暫定トップのベンジャミンの牙城を切り崩すだけの能力がある可能性があるし、ベンジャミンの方でも己の脅威を見逃すはずはない。その事だけを見据えて、一週間以内に決戦が行われるものとして準備することを目指したのだ。何を? もちろん国宝を奪うための動きであった。
(クラピカは参加せずに修行でも促したか、さもなければツェリードニヒの所だろうな。ハルケンブルグとベンジャミンは原作通りの動きになるとして、そのタイミングで面倒な連中も始末しておくか)
理想形はモレナがチャンスだと思って動くところで、待ち構えることだろう。
彼女が目的とする人物と能力が誰かは判らないが、混乱を巻き起こすために攻勢を仕掛けて来るならば、一般兵の一部を少し引いた立ち位置で待たせておくだけの話だ。能力を得て好きに暴れ回り、二階から一階へ抜けつつ王子の誰かを捕まえようと動き始めたところで狙撃でもさせれば良い。能力を使って隙が出来たところを始末してくれるだろう。その手前でモレナとの共謀でシャ=ア一家に釘を刺して置けば、ルズールスも始末できる可能性は高くなるかもしれない。
「マチ。エイ=イ一家を片付ける算段を組む。もしそっちが因縁を付けてるなら譲るし、ありえないと思うが万が一、奴らの味方をしてたら引くように言っておいてくれ。あいつらについてヤバイ情報を仕入れたから、ハルケンブルグ王子が動く前後で潰す流れで行く」
「急な話だね。それだけヤバイんだろうけど、どんな奴らなんだい?」
「奴らの頭がイニシエイション型で制御しない制約入れてるらしい」
「げっ。そりゃ下層でテロってるわけだよ」
幻影旅団にも似たようなところがあるので話が通じ奴い。
エイ=イ一家が下層で馬鹿な事をやってるのは既に連絡済みというのもあるのだろう。奴らはマフィアというより半グレ上がりだが、即席念能力者になることで無秩序なテロリストに早代わりするのだから。
『ユキ。何の用だ?』
「ヤバイ情報を伝えても問題ないか?」
『そういう回線を使ってるからな短ければ構わん』
「さっきの鳴動はハルケンブルグ王子のジョイント型能力というのは判るな? その内に動くだろうが、それに前後してエイ=イ一家を処分しておいた方が良い。今からどうしてそこまでするのか、兵を使ってでもしなきゃならないのか、上を説得する為の札を言うぞ。メモには書くなよ」
マチが去ってから俺は素早くヒンリギに連絡を取った。
ひとまず旅団に借りを作るほどではないので、遠慮しても良いというスタンスを見せれば十分だった。むしろ確実にエイ=イ一家を始末する方が先だろう。その為には俺たちだけではなく、最大勢力であるシャウ=ウ一家の力も必要だ。ルズールス対策でシャ=ア一家を止める労力も必要だからたな。
『オウ=ケンイと繋がってる話だけじゃ足りないのか?』
「そうだ。上を説得する理由だが、モレナが本物じゃない。王家の血が入って居ないとは限らんが、組長とは血は繋がってないぞ。祭孤児でも『肉』として扱われたタイプで、王家というかカキンに相当な恨みを持っている。おそらくだがビヨンドあたりに利用され、引っ掻き回す役になってるんだろう」
以前に伝えた話を元に確認するヒンリギに否定を返す。
それだけの情報ではもはや事態を動かすには足りないだろう。国元に居るならば『秘密同盟で勝手な事をしようとしている』と言う情報に価値はあるが、時ここに至っては『第四王子とは不仲』とか『奴らが何処をアジトにしようとしているかを見張る情報』以上には機能して居なかったと言っても良い。まあ王子がケツモチだっから仕方ないけどな。
『なん……だと。そいつは全部覆るぞ。本当なのか!?』
「ああ。だから内紛をして組員を入れ替え、最低でも現秩序を崩壊させようとしている。その上で偽モレナはイニシエイション型能力……殴って目覚めさせるより確実な念能力を持っている。足りない部分は『自由意思に任せるから味方になるか分からない』という制約と誓約で補っているみたいだな。その問題は、祭孤児で固めることで無視していると言う訳だ」
当然だが話の信憑性を求めて来たので、情報で殴り返した。
味方になるか分からないのに念能力を授ける。それはそのまま能力の信憑性を上げ、そして情報を抜いている事にも信憑性を上げてくれる。裏切るかもしれない相手に対して能力を与えるのはそれだけリスキーなので制約と誓約としては十分な強度がある。祭孤児をリクルートすることで補うというのも理に叶っている。まあ100%味方になるわけじゃないから、ヒンリギからしてみれば『祭孤児を中心に据えると判った時点で、潜り込ませる手駒を用意していた』と勘違いしてくれるだろう。
「ゲームを使うから完全な味方でも殺す可能性があるとか、他にも条件があるみたいだが……。ヤバイのは『殺人によって念の強度が上がるが、殺人を犯さなければ強く成らない、王子や念能力者を殺さないと大して上昇しない』というルールだろうな。だから連中は簡単に殺人が出来る場所を用意して、上層に待機して中層でレベル上げをしている可能性が高い」
『狂ってる。エイ=イの連中もだが……なんでこんな爆弾があると黙ってた?』
「誰が信じるんだ? 相談しても誰もが疑うぞ。それに処分を躊躇うからな」
『そりゃそうだろうよ! 直ぐに上と話を付ける! 後で詳しく聞かせてもらうぞ!』
カキンという超ド級肥溜めをふっ飛ばす特大の爆弾情報である。
モレナが偽者だと言う情報もそうだが、制御不能な念能力者を量産し、そいつらのレベルを上げてテロリズムに走らせるという最悪な行為だ。こんな情報を迂闊に信じる馬鹿は居ないし、祭孤児と言う繋がりがある以上、何処で誰と繋がっているかも判らない。クソみたいな儀式を嫌っている連中は多いし、そんなクソみたいな儀式で犠牲になった連中や、その影響を受けた連中も多いのだ。扱うには困るだろうし俺も困っていたと思わせるには十分だった。
(モレナが偽者なのにオウ=ケンイが組んでいる以上、シャ=ア一家もこれで動けなくなる。例え知らなかったとしても大事過ぎるからな。ルズールスが逃げる段階で身動きが出来なくなっていれば致命的だろう)
このまま上手く押し込めば、放っておいても有力な王子が減っていく。高みの見物が許される立場ではないが、今の所は順調に成った筈だ。しかし流されるよりも誰かを陥れる方が簡単だと思えるようになるとは、我ながら因果な所に来たものである。
という訳で五日目から六日目にかけての話です。
とうとうハルエンブルグが目覚め、試射を経て能力を確認。
何度も使って検証するうちに、ベンジャミンが始末しようと動く。
それに対するカウンターを行うという、原作の流れが見えてきました。
後はその前後でエイ=イを倒す算段と、シャ=アを止める準備をしただけ。
長らく解説役になっていた主人公が、ようやく動けた感じですね。