インモラルなステディxステディ【完】   作:ノイラーテム

61 / 79
刺激的な変化

「ハルケンブルグ王子の体調は思わしくないと聞いておりましたが、ご健勝な様で幸いです」

 

「そう何度も顔は出せないだろうがね。これも王族に生まれた責務とやらだ」

 

 それから二日の時間が空き、原作と大きく違う事が起きた。

 

最初の変更は鳴動が少なかった事もあり、ハルケンブルグ王子が晩餐会に参加している事だ。それも憑き物が落ちた様にスッキリと落ち着いた顔であることを考えると、実に不安である。間違いなく覚悟を決めた男の顔であろう。でなければ欠片も興味のない王族としての役目に口を出すはずがない。残りの時間が少ないからこそ、王族……あるいは家族として行動しようというのだろうか。

 

「そう言えば、処方した()はお役に立てば幸いです」

 

「ああ。能力に関してもそうだったが、実は兄上がいたく気に入られてね。あの方でも子供に戻ったような顔をするのだなと知ったよ。人が知っている事など、狭い枠のことだったのだな」

 

 クラピカの事を尋ねてみたのだが、どうやら念能力の相談後に放流したようだ。

 

おそらくは鳴動が少なかったのはクラピカが相談に乗った影響だろう。吸い出して貸し出す鎖は使わないと駄目だったはずだから、純粋に考察だけで済ませたと思われる。原作でもハルケンブルグ王子は念知識が少ないのに能力を割り出していたので、二人が相談すればそれほど難しくは無かったのだろう。また乗っ取った護衛に自殺させなければ、新しいのを送りつけられないとでも言った可能性はある。

 

「君はまるで変わらないな。何人かに試したが少しくらいは変わったのだが」

 

「この命はフウゲツ王子の為に使うつもりですので。それと我が妻にですね」

 

「そうか。それは良い。僕もカキンの為にそうするつもりだよ」

 

 ハルケンブルグが俺の手を見たので肩をすくめて見せた。

 

おそらくは王子の聖獣が与える羽に関する事だろう。便宜上の部下として動くハンターならまだしも、フウゲツとカチョウの為に存在する俺に影響がある筈もない。おそらくはベンジャミンが付けた私設兵やクラピカにもそれは言えるのではないだろうか。

 

「それでは次の出し物の時間ですので失礼いたします」

 

「うん。君も彼女の演奏は気に入ると思うよ。素晴らしい人を紹介してくれて申し訳ないね」

 

 不思議な事にハルケンブルグは順番が違うセンリツについて告げた。

 

おそらくは彼なりの礼なのだろう。これからしばらく時間が空くが、センリツの出番で何か仕掛けるつもりだろう。一番確実なのはハルケンブルグの能力を使う事だが……アレは少々大げさ過ぎる。使い勝手の難しい能力であり、しかも多数の賛同者を必要とする為、晩餐会では使い難いのだ。しかもプログラムではハルケンブルグの賛同者たちは集団演奏などを申し出ていない。どうするつもりだろうか?

 

(さしあたって問題なのはマイト曹長のガスだか生物兵器の在処をつきとめている場合だな。詳細までは判らんが、アレをこの場で使われても困る)

 

 パっと見た感じだが、ベンジャミンの近くにマイト曹長は居ない。

 

基本的に地位が高い者が傍にいるのは宮廷晩餐会としての態を保つためだろう。またより上位の情報を日常的に仕入れていると思われるので、相談にも乗り易いのだと思われる。その上で、もしハルケンブルグの賛同者がマイト曹長の近くに居て、王子が抜け出すとしたら危険な事になるだろう。原作で見たアレが個人用か集団用か判らないし、そもそも他の手段の可能性もある。だが、見逃してよいとは思えなかった。

 

(引っかけで俺を動かすつもりの可能性もあるし、狙いがベンジャミンだけなら無視しておくべきだ。だが、想定内容が内容だけに無視はできんな。仕方ない、最低限の対策をしてから言い訳の付く範囲で能力を使うか)

 

 俺はハルケンブルグへの挨拶を終えてフウゲツの元に戻る。

 

王子としての順位的にそう遠い位置ではないので直ぐに戻る事が出来た。そしてハンドサインでカチョウに合図を送ってフウゲツと同じ位置に付いておく。三人が同じ場所に居れば、水の自動操作を使う事が出来る。用いるのは蟻の護衛軍の中でも唯一、俺向きの相手だったプフに対抗するための防御幕だ。それならば毒なり生物兵器から守れるだろう。その上で、俺の耳に水を潜ませて、センリツの曲を阻む準備をすることにした。本当はちゃんとした耳栓や通信機付きのやつにしたいが、使うと目立つからな。

 

「あれってクラピカさんじゃない?」

 

「用意した出し物ってなんだか見覚え在りません?」

 

「まさかやるのか? まさか、こんなところでやる気なのか……」

 

 他人を介する陰謀と言うものが難しいのは、思惑が絡み合うからだ。

 

第四王子閥に入ったクラピカの行動によってハルケンブルグの策略は延期されることになる。もしセンリツがクラピカと同行したらそもそも存在しない計画だったろうが、逆にクラピカがハルケンブルグの元に残っていても別の計画を促された様な気がする。要するにハルケンブルグの計画も、それを計画した俺も、見事に骨折り損と言う訳だ。他の誰かに利用されないだけマシと言えるだろう。

 

「お集りの聖俗諸侯、並びに見守る臣民たちに(オレ)から贈り物を用意した。そして、この世に二つとない出し物もな。損にはならないから最後まで見守って居て欲しいものだ」

 

「ツェリードニヒ……貴様、正気なのか!」

 

「少なくともベンジャミン。あんたよりは余程な」

 

 第一王子が怒り、呆れるのも無理はない。クラピカが用意したのはグラスだ。

 

中に入っているのはただの水であり、純水でも酒でも何でもない。そこら辺にあるただの水であり、普通ならば宴会の出し物になる筈もなかった。タネも仕掛けもなく、今から追加されるであろうただの葉っぱも同様の他愛ないはずの代物だった。こんなものを王侯貴族に見せる時点で正気を疑わせるが、そこから始まる喜劇を余人に見せる時点で、もっと頭がおかしい。

 

『まずは出し物の方から紹介させてもらおう。この男はクラピカ、我が私設兵で最も上位に……ああ、もっと相応しい言い方があるな。我が騎士であり、おそらくは誰が王になろうとも『カキンの騎士』と呼ばれる待遇になるに違いあるまい』

 

『もったいないお言葉です。ツェリードニヒ王子』

 

『さあ。みなに本当のお前を見せてやってくれ』

 

『はっ。お望みのままに』

 

 ツェリードニヒの表情はどこか下卑ており、同時に聖人の様であった。

 

さながら世界有数の美術品を前にした愛好家の様であり、神聖な祈りの場に佇む一人の神官の様でもあった。おそらくはこの茶番劇を演出することで、継承戦に優位に立つ度同時に、その後の政争でも優位に立てると自信があるのだろう。つまり、この晩餐会が彼にとっては戴冠式の予行演習と言えるわけだ。

 

『紹介に預かりました、クラピカです。そして、私の事を良く知っている者たちは、私の血統に対してこう言うでしょう。最後のクルタ族、世界でただ一人のクルタ族であるクラピカであると』

 

「ああ……瞳が……赤い……」

 

「何て美しい……」

 

「まるで生きている至宝だ」

 

 クラピカは決してツェリードニヒの私設兵だとも騎士とも言わなかった。

 

以前から知っている者からみれば、クルタ族を滅ぼした可能性のあるツェリードニヒに従う筈がないからだ。しかし、紹介ではあくまで『緋の目』を所有している貴人に対してお願いに行った立場でしかない。だからツェリードニヒは所有する緋の目と引き替えにクラピカを雇って手駒にしていると思い込んでいるのだろう。もちろん彼に掛かって居る疑いがただの憶測で無関係であり、精神性が本当に聖人の様であれば本気で使える可能性もゼロではないだろう。

 

『この世でたった一つの、生きている至宝は我に仕える騎士だ。我が王になれば名実ともにカキンの騎士となるし、何かの間違いで他の王子がそうなっても、我の命名を否定はしないだろう。だが、出し物はここからだ。我が贈り物はここからなのだ。クラピカ?』

 

『はい。この水をご覧ください。ただの水と葉っぱです』

 

『世界に隠れた神秘を見せよう。そして、望む者に教授もしようではないか』

 

「ツェリードニヒっ……!」

 

 原作とは違い、念の講習会をツェリードニヒが政治手段として用いた。

 

これから水見式をやって見せ、『念』という隠された、神秘的な力が存在することを示すのだろう。そして味方する者にはその力を享受し、形ばかりでも従って見せない者は無視する。ただそれだけのことだ。もちろん水見式を邪魔して見せるとか、その信憑性を疑う事も出来る。だが、最後のクルタ族と生きている緋の目を前にして、更なる神秘を見たいと言える者が居るだろうか? 邪魔できるはずのベンジャミンも、反発を恐れて出来ないでいた。

 

『この世の中には鍛え上げれば誰でも覚えることのできる能力が存在します。多くは護衛が得意になる程度ですが、使い方次第では嘘を見抜いたり隠れた物を捜索すると言った、直感を鍛える様な使い方や、中には超能力めいた使い方をする者も居ます。使いこなすにはハンターになるだけの実力が必要で、護衛任務のみに絞っても、準協会員くらいの鍛え方は必要になるのが欠点ですが』

 

『だが、鍛えれば済むならばやらないのは、方法を探さないのは怠惰だ』

 

『はい。その能力を磨く方法も、自分に合った能力を探すことも出来ます』

 

『それがこのコップに入った水と言うわけだ。くくく、ここまで長かったぜ』

 

 ツェリードニヒは既に他人の事は頭に無く、コップの中の水だけを見ていた。

 

マイクを伝って流れる二人の会話と、苦々しく見つめるベンジャミンとチョウライ。その間でカミーラは興味深そうに……おそらくは『わざわざ鍛えるなんて下々の者は哀れ』くらいに思っているのだろう。彼女から見れば、天が自分を守るために与えた能力だろうしな。もちろん他の王子は何も知らない様だった(ハルケンブルグは計画の為に席を外している)

 

(水見式そっちのけで、ベンジャミンの私設兵たちの動きがあわただしいな。この様子だとハルケンブルグの策は一度お流れになるだろう。問題は他の連中がどう動くか……だな。判らなくなってきたぞ)

 

 原作と違ってハルケンブルグではなくツェリードニヒの脅威が上に来た。

 

おそらくベンジャミンは先に第四王子閥を始末しに掛かるだろう。チョウライが同調するとしたらどうだろうか? エイ=イ一家の話はベンジャミンとハルケンブルグがぶつかる前提で使う予定だった。だが、この様子だと焦って直ぐに使うのではないだろうか? だが……この状況でエイ=イ一家を始末すると宣言しても、ツェリードニヒは喜んで切り捨てて、他の王子たちの派閥を取り込むだろう。その先は原作と同様以上に激しい戦いが予想されたのである。




 と言う訳で一気に晩餐会です。
原作と違う流れもあれば、同じような流れもあります。
しかし、元の水に非ずと言う感じですね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。