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「モレナを取り逃がした? この状況でか!」
(やはりな。焦って急ぎ過ぎたな)
原作と乖離し始めた晩餐の後、チョウライの元に呼びつけられた。
念について相談されるのは構わないのだが、エイ=イ一家襲撃に失敗したという報告は余計であった。事前に準備を重ねて、別件に注目が集まった時にコッソリ動く予定だったのだ。それが大々的に討伐戦なんぞやってしまえば、こうなるのは判り切ってたと言えるだろう。
「失態だぞこれは……。申し訳ありませんチョウライ王子」
「他の王子への襲撃に失敗したわけではない。許容範囲だと思っておこう」
(やれやれ。茶番に付き合わされるのは面倒だが、保険案を売っておくか)
止めるのも聞かずに第三王子陣営は小細工に走った。
第四王子陣営の中で不和があり、ツェリードニヒ達首脳陣とモレナ達エイ=イ一家が別系統であるという事は以前から話していた。その上で襲撃計画を周到に練り、予備の隠れ家があることを想定して置くべきだとも忠告した。それなのに今回失敗したのは、政治ゲームをやってシャ=ア一家と手打ちをして、第七王子陣営を傘下に組み込もうとした為である。オウ=ケンイだってスパイくらい用意しているだろうし、場合によってはモレナ達を囮にするという計画を組長に話しているかもしれない。そんな状況で余計なひと手間を加えたら、情報が筒抜けになってしまうよな。
「さて、何かあるかね? この状況を上手く使える手が」
「そうですね。いずれベンジャミン王子が埋められてしまった穴を大きく空けに動くでしょう。と、成れば罪をでっちあげて戒厳令というところかと。ここはエイ=イ一家を追うついでに、隠れ潜むルートを確保しておくべきかと思います。チョウライ王子次第で、ルズールス王子の逃走ルートをどうするか……という算段も含めて」
問題があるとすれば、俺の用意した情報に穴があると言えなくもない事だ。
例えチョウライ陣営の失敗であろうと、軍師役であり様々な情報やら仕入れていたのは俺である。クラピカが第四王子陣営に行くのはともかく晩餐会で水見式をやるとか、その事に派閥的な脅威を感じて、潰す予定だった第七王子陣営とシャ=ア一家に対して勝手に交渉を持ち書けるとは思って居なかった。だが、思いもしなかっただけで可能性を思いつくことはあり得たわけだ、側近たちにしてみれば俺に罪を被せることも出来るだろう。
「戒厳令か……あり得る話だ。その時に
「はい。今ならば自然に逃走ルートを複数用意できます。それを軍に隠して置くことはできるでしょう。その上でどのルートを選ばれるのか、そして傘下に組み入れた第七王子陣営を何処まで遇するのか? そこに私が口を挟む余地はございません。全てチョウライ王子の御心のままに」
偽モレナとテロリズムの情報でエイ=イ一家を潰したのは第三王子陣営である。
だから残党を追うのは当然だし、軍も手間のかかる民間での捜索をシュウ=ウ一家にやらせて高みの見物をしているところがあった。どうせ殺し合いを含めた消耗戦はこちらに押し付けようという算段だろう。だから逃走ルートを用意することも、逆に見つかり易いダミールートを用意することも出来る。ルズールスを降伏したものとして助けても良いし、囮として使って処分するのも良いだろうと暗に含ませておいたのである。
「では戒厳令が起きるとしてこの後でどう動くと思う?」
「ベンジャミン王子には高い積極性があります。国軍を抑えていますし、長兄であり疑似的な王太子とすら思っておられるでしょう。その立場で他の王子たちを排除していくことが当然として行動しておられますし、第四王子閥が第九と第五を抑えた以上は積極性を増すでしょう。暗殺者を送りつけて情報を得て、成功失敗に関わらず軍司令として動かれるかと思います」
原作を知らずとも、ベンジャミンの行動は分かり易い。
国軍司令であり第一王子の優先権ゆえにマッチポンプを簡単に起こせるのだ。私設兵に暗殺を命じて、反撃を行ったら『私設兵を勝手に処刑した』と罪に問えるわけだ。最初に暗殺者を送ったのはお前だろうと反論しようとも、『国家反逆罪の疑いがあった。裁判を待たず兵を殺した以上はもはや明白』とか強弁できるので頭おかしいレベルである。司法や行政が、一応の独立を保っているのが他国から見れば奇蹟に等しい(それも含めてカキンなのだが)。
「ベンジャミン兄は私よりもツェリードニヒの方を脅威と捉えていると?」
「宣伝効果だけならば高かったからですからね。実際に効果が出るのは新大陸に着いてからでしょう。しかしチョウライ王子たちですら動かれたのです。ベンジャミン王子ならば猶更でしょう。その上であちらに付いたハルケンブルグ王子は割り切っているお方です。おそらく己の命を使ってベンジャミン王子を迎え撃たれる可能性は高いかと」
正直な話、ツェリードニヒが目立ったのは意外だったが無視すれば良かった。
ボードゲームにはサブマリン戦術というものがあるが、これは勝利に必要な手札を手に入れるまで勝ち筋がある事を隠す戦術である。ポイント制で隠せないゲームではやり難いが、手札を伏せるタイプならば、点数イベントカードを隠して置けば良いからな。チョウライで言うならばツェリードニヒとハルケンブルグが良い囮になったと思って、その他大勢を決め込めばよかったのだ。何も即座にエイ=イ一家を討ち、シャ=ア一家と取引する必要は無かったのだ。
「念能力か。……そういえば私の聖獣では補いが付かないのか?」
「チョウライ王子の聖獣はおそらく他者の能力を覚醒させるタイプですから難しいでしょう。その上で、配下の念能力者や他陣営に対して特殊な通貨として、胴元である王子に変換することで、何らかのコスト代用なり特殊効果を望むものだと思います。私の能力はあまりコストを用いませんし、雇っている準協会員も同様ですから実証や効率的な使用が難しいところがあります」
原作でもあった『何も判らんのと同義だな』問題である。
クラピカの手柄を我が物にする気は無いし、誰でも思いつけそうな『コインはコスト』という概念で適当に誤魔化して置いた。所有することで忠誠度が高まるとか、そう言う所を語る必要もあるまい。
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「オーラの徴収と再分配? それが聖獣の力なのですか?」
「おそらくは……と言うところですね。見た感じは移動能力かと思いましたが、そちらの方が本質でしょう」
外の動きが不透明になって来たので、そろそろ自陣営の話に移ろう。
フウゲツが自力で転移を覚えたこともあり、聖獣の力が原作と変化している。マジックワームの姿はまんまなのだが、移動範囲が狭くて不便だと思っていた。だが、俺やカチョウが念能力を使った時、代わりにフウゲツが疲労していたので注目しておいたのだ。そしてベンジャミンの私設兵がいない時にフウゲツが転移してみるなど幾つかの事を試した結果、聖獣の能力が判明したのである。
「グリードアイランドで闇のヒスイを取りに行った時の事を覚えていますか? あの時の体験が元になっているのだと思います。つまり、マジックワームの体を共に通って移動した者を同志として見なす。そんなイニシエーションを行うキッカケなのでしょうね。もちろん、事故で部屋に閉じ込められたくらいであれば、脱出用に使えると思いますが」
「ああ……あの時の! そっかーそうだよねえ。うんうん」
「……嬉しい。あの時の……」
闇のヒスイを取りに地下水道を通って『宝石で出来た聖堂』と呼ぶべき場所に移動した。
その時に三人で貴重な体験をした経験が、強い印象になっているのだろう。それともう一つ、仮初ながらプロポーズして、必ず救い出すと違った場所でもあるのだ。フウゲツに取って節目であり、またあの時の思いに至りたいという事だろう。
(原作と違って念能力を覚えていたり俺が居るから、脱出用能力が要らないのもあるだろうな。カチョウと一緒にマジカルワームを通った経験もあるだろうが、俺も偶に遊んだことがある。そう言った経験と……最近はカチョウが先に降りたことで、帝王学の時間が増えて、念能力をどう活かすかを考えたことが大きいのかもしれん)
脱出用能力としては使えないが、サポートとしてはかなり有用だと思う。
今は俺たち三人だけだが、その内に友人・知人とメンバーを増やしていけば、互いにオーラを融通できるのでかなり便利だ。もちろんハルケンブルグの様なジョイントにはパワーが劣るが、個人が持つ念能力の幅を上げてくれるという意味では、かなり便利なのだ。特に連発したり、抑え気味にしないとコストに合わない能力を最大限で使っても、仲間に補ってもらえばオーラが枯渇しなくなるのが大きかった。
「そういえばさ、どんな使い道が出来るの?」
「そうですね。私も気になります。イザと言う時に備えたいので」
「そうですね。ノヴ師に
ベンジャミンの私設兵は居ないが、他の者にスパイが居る可能性はある。
そこで言葉を濁しながら、例として強力な念空間使いであるノヴの名前を挙げた。これまでに何度も話したことがあり、彼の名前を出すことで、俺の持つ二つ目の能力で使う事が二人にも理解できるだろう。BW号ならばあえて小さくまとめた念空間を用意して、それを複数設置するという使い方の方が便利なので、部屋の成立に関するオーラをフウゲツやカチョウに肩代わりしてもらえば複数設置できるかもしれない。元からの方法で分配すると、疑似ジョイントしないと駄目だから不便だったしな。
「あ……そういえば、『その能力を使え』と言われたらどうしますか?」
「っ! そうだね。王子を守るために必要と言われたらどうしよっか」
「現状では迂闊に人数を増やす気は無い。最低限のメンバーで十分。でよろしいかと思いますよ。彼はベンジャミン王子が付けてくださった護衛であって、我々の派閥ではありませんからね。脱出装置としては使えないなら、少人数で入る必要性がある事もあって、かえって危険なので強要することは無いかと」
ベンジャミンの寄こしている兵は強権的な事も多い。
問題なのはカチョウが言うように、『王子を守るために必要だ』とか『カキン帝国のやり方に合わない』とか理屈を付けられたら否定できないことだ。そして外の暗殺者が襲ってきた場合は、平然と我が身を盾にするところがあるので文句も言えない。ベンジャミン王子の勝利を前提にしているだけで、カキンの忠臣であるというスタンスは本当だから面倒なのである。
(それに……フウゲツが最初に疲弊した事を考えると、能力の起動というか、『誰が主に疲弊するか』はフウゲツが選べるはずだ。つまり私設兵の誰かが強制的に割り込んだとしても、有利さを与えるのはフウゲツが決めるということ。逆止弁の様な物があって、オーラを一方的に徴収されてしまう可能性があるならば、無理には乗って来ないだろう)
当たり前だが護衛は護衛であり、ベンジャミンの使いでもあるだけだ。
状況に寄って立場を切り替えて強弁してくるわけだが、自分たちに不利な事を彼らが選ぶことは無い。『プールしてあるオーラを参加者が好きに使える』という能力に進化すれば別だが、今のところはあくまでフウゲツの意志で分配しているだけなのだ。無理に参加してこないだろうし、ベンジャミンの使いとして指示書を用意しないと、そうそう強弁できないので無理には行わない物と思われた。
(さて。この状況で何処に部屋を設置するかな? 三人で設置することで鍵を仕掛けたから、できるのは三人一緒の時に限られる。つまりフウゲツを伴って移動しても問題ない場所限定。やはり甲板的な場所や、王侯貴族が出入りしても問題の無い公共的なエリアか)
原作通りに進むか分からないが、ベンジャミンが暴走する可能性は高い。
兵士を動員して一気に制圧してくる場合、フウゲツをあえてスルーする筈もあるまい。もしそれまでに降りることが出来れば別だが、間違いなく現状ではナスビー王が許すまい。せめて王をベンジャミンが幽閉してから、みなの前で二線者になる儀式をする必要があるだろう。だから逃げ込む先を幾つか用意しておければ助かるのは確かだ。まあ俺の能力は色々制限があるからこそ便利なので、設置とか移動方法とかに問題があるのだけど(設置時のカードを踏襲するとか、鍵ルールもその一つ)。
体調不良と言うか、寝違えて痛んで居ましたがようやく痛みが治まり出しました。なので続きですが、こちらでも変化が少しずつ。
●エイ=イ一家組終了のお知らせ。
面倒くさいので次回死にます。
問題は大きな傷跡を残して死ぬのと、サイキンオセンの危険が伴うこと。
というか原作からして彼女たちは狂言回し以上では無かったのですが、キャリアーが残るのは問題です。誰かがレベルUPしちゃうと、また感染源になりますからね。
●なんで第三王子陣営は馬鹿な事したの?
第一王子陣営>>越えられない壁>>二・三>四・七>その他
こういう構図だったのが、第一>四>>二・三>その他になった為です。
第四陣営を落とし、シュウエイシャを一つにすれば再び上位に!
と言う事がしたかったんですが、ボードゲームだと間違いなく握手。
それが出来る手腕をチョウライたちは持っていたけど、ここは暫く「ツェリに出し抜かれただけの馬鹿を演じて」おく方が無難だったという流れになります。
●『何も判らんのと同義だな』問題
チョウライの能力ですが考察の中で、「エネルギーの代替になる」と言う案を使いました。正しくは、そう言う案を代合って、チョウライが納得した能力を得られるとか、コインを仲間内で取引できるルールを追加する感じですね。貯蓄・流通・消費、その全てに意味があるという方が、チョウライらしいと思います(「奢侈」は上位三人に共通するけど、チョウライが特に該当しそうなので)
●フウゲツの聖獣
移動能力が原作よりも激減しています。
代わりに一緒にくぐった人を繋げ合い、オーラの消費を補い合う物に。
これによって「全開ならもうちょっと行けるけど、消耗戦を考えて省エネ」という時に、全開で行っても疲れないとか、「最大で二か所か三か所設置」という能力を、数倍に設置できるようになります。
今回は主人公が消費するオーラを控えめにして、以前より狭い念空間を作っているので、それを何か所にも増やす感じですね。
●念能力の進歩と進化
主人公は条件を達成しているので、結構能力が向上しています。
進歩の方は幾つかありますが、特に効果が大きいのは……。
1:水で操れる水。
予めオーラを注いだ水が、数倍の通常の水を操作する。
ナルトで我愛羅がやってる能力みたいな、大規模化が可能なように進化している。
2:念空間のカード能力調整
意図的に狭く作ったり弱く作る事で、ノヴみたいに数を増やしたりできるように進歩している。
辺りになります。
とりあえず見張られっぱなしだったり、あちこちの組・暗殺者が動いて居たりと、主人公が動けない状況が継きましたが、そろそろ動けるようになってきます(フウゲツの政治力が大幅低下して、無視されるようになったとも言います)。