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「隠れ部屋を作るのは良いんだけどさ、さすがに時間が無さ過ぎるんじゃない? 念空間作るのってガッツリ複雑なルールがあったよね? しかも、ふーちんも居る前提だから周囲に人が居るしさ」
「そこはルールの穴を突くというか、最初からそう調整している。問題ない」
俺が念空間を作る為に、複数のルールを設けていた。
ボードゲームで達成した状況が成果となり、成功しても失敗してもその結果がシーズン中は固定される。新しく作り直す場合でも、ゲームをもう一度最初から実行する必要がある。それを時間の制限がある中で行ったり、知らない人間にルールを説明するのも時間制限の内。他にもゲームに導入出来ない部屋が有るとか、鍵のオンオフには最初にゲームを説明したメンバー全員の同意と再参加が必要というものもあった。フウゲツも必要と言うのが、最後のルールにガッツリ関わっているわけだな。
「んー。2からクイーンまでのトランプが対応してて最大二十二枚。その中で始める場所によって入らないカードが二枚あったから二十枚。さらにあの時は早めに終わったから、その中のランダムな十二枚だったよね。もう決まっているから、パパっと終了できるって事? 一番最初の説明も要らないし」
「惜しい。『配られるカードが決まっている』のところまでは合ってるよ」
位置から作ったボードゲームはTRPGのランダムダンジョン方式だ。
専用のカードを使っても良いが、トランプやサイコロを使っても代用できるようにしている。最初に七枚、全部使い切ったら追加で五枚ずつランダムに部屋のカードを手に入れて、ドンドン大きく出来るという仕組みだ。最初は自分でも制御できないと言う縛りがあり、二回目からはそのカードに固定されてしまうという、また変わった縛りに変更される。実に面倒だが、これを組み上げたのが俺自身だから、最初から『この時の為』に調整していたわけだ。
「俺は二つ目の能力である念空間の作成に使う。ボードゲームをトランプでも代用できるようにしているのは、俺がトランプを使ったゲームを元に着想を得たからだ。そして水中に念空間を欲しい時に備える為にも、プラスチック製が存在するトランプは都合が良かったというのもある。ここまでは良いか?」
「うん。プラスチックなら水に濡れても良いもんね。避難時にも使える?」
「一応可能だぞ。儀式を終わらせてからじゃないと脱出こそが危険だがな」
神字をカリカリに書き込んだカードの方が強力になるが、そこまでは不要だ。
なので携帯性の為にプラスチック製のトランプをこの船には持ち込んである。俺がゲームを作る会社を設立している事もあるし、下の階層にはカジノもあるので私設兵も何度もチェックはしない。嫌がらせの為に紙製のボードゲームを処分されることはあっても、代用可能なトランプを『王子には相応しくない』と言って捨てさせることは出来ないからな。
「そして俺の一つ目の能力は水を動かすものだ。だから制約と誓約を考える際に、ボードゲームが水で濡れた場合の問題を当然の様に考慮している。さて、ここで問題だが作業用や防護用を兼ねているだけに、水を使うのは頭を使うから技として自動操作を組み込んでいるわけだ。この技のメリットは頭を使わない事、デメリットは印無いし言葉を必要とする上に一定の動きしかしないこと」
「その問題を回避する為に技を複数用意するけど覚える手間もあるんだよね」
ここで唐突に俺は無関係に見える、一つ目の能力を説明した。
海洋資源を探索するのにも戦いにも利用している便利系の能力だ。汎用性を高めているからこそだが、それだけに火力が足りてない。かなり成長して居るはずだが、『堅』をされたら相手が強化系でなくともあまりダメージを与えられないという困った欠点があった。
「それで合って居る。では聞くぞ、面倒な手間を回避する技がある。そして念空間を二回目以降使う時でも、カードを順番通りに並べていくという手間がある。……別に、水でカードを配置してしまっても良いだろう?」
「あっ! そっか! 水でプラスチックのカードを動かすだけだものね」
「その流れを自動操作として組み込んでいるんだ。ずっと以前からね」
「あったまいー!」
制約と誓約に組み込んでいる為、必ず同じカードが配布される。
つまり手元の七枚にどんなカードが来るのか、次に来る五枚のカードが何なのかも判って居る。そして設置するべき部屋の場所も固定しないといけないが。逆にいえばコレも置くべき場所がすべて決まっていると言えた。狭い空間を幾つも作る理由が薄いから継承戦以前では使わなかった。だが、継承戦ではイザという時に隠れられる場所が多い方が良いのだ。その事を判っていたがゆえに、最終調整するのはそれほど難しくは無かったという事である。
「残る問題は『錬』をすればオーラの高まりに気が付かれるという事だな。だが、ここであの晩餐会の情報が生きて来る。俺が周囲を探知するために、水の結界を張って動くとしよう。同時併用するには消耗が問題だったが、今なら問題は無い」
「そっか。ふーちんの聖獣は私たちのオーラを分配してくれるもんね」
「そう言う事だ。おそらく複数回の『視察』を行わなくとも一度で行ける」
「じゃあ逃げるためのコースと、どこに設置するかを考えないとね!」
晩餐会の日、各陣営の私設兵の間でオーラの事が知れ渡ってしまった。
まさか第一王子の私設兵たるものが『念の存在など知りませんでした』など言えるはずもない。一度だけで誤魔化せる状況ならまだしも、二カ月近く掛かる行程なのだ。ましてや俺たちはお互いに念使いであることを知った状況で出航しているので、『万が一を考えて結界を張りながら移動するぞ。それともお前が円でも使うか?』と問われたら、断り様がないのだ。後は監視が直ぐ傍に居る時だけ念空間を作らず、少しの間だけでも監視の目が無い時にのみ部屋を作れば問題無いだろう。
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「第二王子が……カミーラ王子が死んだだと!? 一時的な物ではなくか?」
「ああ。自分の監視についてた私設兵を使って再生し、その直後に第一王子の元へ突貫した捕まった後だ。ありゃ確実に情報を抜かれてたね。そこまではまあ良いんだけどさ……」
念空間を作る為に奔走していた時にその事件が起こった。
原作でもあった流れに近いが、ソレを幻影旅団が監視していたらしい。その事を考えると、おそらくカミーラを捕まえて念能力を奪ってから記憶を消すつもりだったのだろう。その為に見張っている最中に、原作でも起きた第二王子乱心事件であり第一王子襲撃事件となるべき問題が起きてしまったようなのだ。死んでも甦るが能力任せで短慮なカミーラだけにそこはまあ原作通りだったらしいのだが、その後に死んでしまったという事である。
「どういう事なんだ? 独房で殺されていたのか?」
「いや。紐無しバンジーで海に飛び込んで、救助された時には死んでたらしいよ。団長は結構乗り気で集めようとした能力だったんだけどねぇ……」
俺とマチはとある懸念に眉をひそめて思案していた。
一見して『虜囚となるのを恥としての自殺』であるが、実に話がおかしいのである。プライドが高くとも蘇生能力があるカミーラが、ピンポイントで魂を抜く事の出来る自殺をするとは思えない。ましてや基礎能力はただの女性に過ぎないカミーラが、当局者の手を振り切ってそのまま海へダイブ? ありえない流れであり、誰かの関与を疑わざるを得なかった。
「これってさ、誰の仕業だと思う?」
「ヒソカだろう。動機としてはそっちの懸念どおり、団長に能力を渡さない為。方法は『紐無しバンジー』じゃなくて、『ゴム付きバンジー』だったんだろう。後はルートの中で海が見える区画で待って居れば良いだけだ。……協力者の手を借りてな」
殺すことはできないが、第二王子の部屋に直接戻される訳がない。
軍なり司法の手で事情聴取する為に下の階層に移動する訳だが、完全に船内である外の目が無いコースもあれば、外に繋がって居るコースもあるだろう。問題なのはそんな事をヒソカが知れるはずがない。つまり、王子または王妃の誰かとヒソカが繋がっており、その情報提供および第二王子を排除する為に、実行犯をヒソカが買って出たという事ではないだろうか?
「やっぱりかい。あいつ、団長の事を殺す気で……」
「それは少し違うな。真剣勝負をしたいけれど、相手だけ無敵コマンドだったら面白くない。だけど手札に入ったらそいつを排除するのは反則だ。だから情報を得た段階でヒソカは賭けに出たんだろう。始末出来ればラッキー、始末出来なければ団長がラッキー。これはこれで面白い前哨戦になるだろう……とな。王子の誰かの共犯者になるのは、あくまでついでのゲームなのさ。俺たちとしては迷惑でしかないが」
マチの表情は怒りから嫌悪感に代わった。
ヒソカはあらゆる流れをゲームとして愉しんでいる。だからルールの範疇では遊ぶが、ルールの外では遊ばない。クロロが不死の能力を得たならどうにか考慮するなり、死以外での決着を望めば良いだけだ。あるいはそう思わせておいて、自分とクロロが一つになるのもアリかと思っているかもしれない。HENTAIの思考なんか読み切れないが、クロロが手札を集める過程も前哨戦=前戯と考えるのはグレーゾーンだろうか。
「とはいえ、これでヒソカが誰の庇護下に居るのか絞れてきた。フウゲツの船内行動に制限が来そうなのが迷惑だが……仕方ない。そこはフウゲツが囮になって誘き寄せをする代わりに、二線者になる事を了承させる取引で提案してみよう。駄目ならその時だな」
「あたしらも多少は協力させてもらうよ。ヒソカは何とかしないとね」
カミーラ殺害が本当にヒソカが下手人だったら……だが推測が付く。
そのルートを把握するのも、念能力として蘇生があるという情報を入手するのも限界があるのだ。ベンジャミンやハルケンブルグでは無いし、おそらくだがチョウライにルズールスも違うだろう。そういった情報を入手できる範囲で、王妃なら第一王妃か第二王妃。王子だとツベッパあたりが怪しく成って来るという訳である。
と言う訳で予定通りに行っている事も、行かなかった事もあります。
●主人公の念能力
予め継承戦に向けて調整して来たので、かなり便利に使えます。
シーズン中は前回の成功と失敗を引き継ぐというのは、この時にはプラス。
今思えば、ノヴの能力をソックリ真似れば良いのでは? と思わなくもないですが、その場合は水を使用して、これまでの冒険が出来ませんでしたからね。継承戦が終わってからの人生でも、念能力は必要なので、念空間オンリーにはできなかった感じ。(そもそも、ノヴと同じことが出来るとは、欠片も思ってませんでしたが)。
●カミーラ死亡
原作で捕まってから、事情徴収と化されるために移動する間に殺されました。死因はバンジーガムで船外に連れ出されて魂を引き抜かれたことになります。