インモラルなステディxステディ【完】   作:ノイラーテム

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交渉とは圧迫面接のことである

「悪いが護衛が山ほど付くのが当然の方でね。脅すつもりはないんだ」

 

「いえ。こちらも一人許してくださるだけでもありがたいです」

 

 第一王子陣営に交渉に赴いたのだが、話が急展開した。

 

意外にも話を聞いてくれるという事で、交渉すると見せてフウゲツが出歩いてもおかしくない背景を作ろうとしただけに驚きではある。もしかしたらルズールスに付けていたNGLのメンバーを、傍証の為の要員として呼び寄せた事で態度を変えたのかもしれない。だが、意外だったのは話を聞く相手が大物過ぎた事だ。

 

「フウゲツが囮になって犯人を特定するだと?」

 

「はい。フウゲツ王子はカキンの王族が殺し合うべきではないとお考えですので継承戦から降りられます。それゆえに、王族として果たすべき責務の為に、命を惜しむわけではございません」

 

 そしてベンジャミン王子(推定本物)による圧迫面接が始まった。

 

王子と言う意味でも、軍部を掌握しているという意味でも、カキン帝国で上から数えた方が早い権力者だろう。しかも本人は特質系能力者でありながら、ライオンを絞め殺せるような筋肉質の持ち主である。『発』が限定付きコピー系だから、相性的には勝てる相手だが、勝てるからと言って精神的に圧迫を受けない訳ではない。

 

「今回の件で儀式に関する情報が洩れ、しかも周知されかねません。もし王子の誰もが外に繋がる場所を避ければ、もはや広まってしまう可能性があります。ならば命を懸けて囮として歩くのは自分の役目であると、フウゲツ王子は仰せなのです」

 

「言うは易し! 他人の命は安いとも言うな。何を企んでおる!」

 

 聖獣に守らている筈の王子だが、儀式の外に出ると死んでしまう。

 

この事は決して外に漏らしてはならない情報だ。時間切れ対策で設定されたルールだとは思うが、逆用して暗殺されたのではたまったものではない。それゆえに噂として広まる可能性を潰すと言うと、ベンジャミンは『フウゲツの命で博打をしているのではないか?』と問い質したのだ。

 

「我が妻を含めた三人は、幼い頃より三人のみでした。ゆえに病気で死に別れるのは慮外として、殺されたのならば一人で生き残ろうとは思いません。そうなったら実行犯も黒幕もまとめて始末してから後を追いましょう。その上で、取引を申し出たいのです。成し遂げたならば、我が王子が二線者として降りる事を」

 

「ここで王族の矜持を見せ、命を懸けるから見逃せと? 口約束なら構わんぞ」

 

「その場合は口約束を本気に変える能力者を雇いましょう」

 

「そんな者が居るならばオレの元に連れて来い。国で雇おうぞ」

 

 ベンジャミンには激情と冷静さが同居している。

 

そもそも俺の話など部下に任せて無視してしまえば良かったのだ。民衆も貴族も王に奉仕する存在であり、王は国家全てを担い奉仕する存在。そう考えるタイプのベンジャミンならば、『命を懸けて当然。いずれにせよそこで死ね』と言うのが普通なのだ。圧迫面接にうってつけとはいえ、彼ほどの人物が出てくる理由など無いのだ。それを考えたら『始まる前から降りる予定だったフウゲツだけは別』と考えている可能性はあるだろう。それはそれとして、王族としての矜持が無ければ殺すだろうが。

 

「……では本題に入る。貴様、我が妹を葬った相手に心当たりがあるな?」

 

「能力者はともかく、黒幕ならば」

 

 おそらくベンジャミンが出て来た本命はこちらだろう。

 

せっかちな彼はフウゲツの話を片付けると同時に、カミーラ暗殺の下手人と黒幕を問い詰めようとしたのだろう。話を聞いた後で俺を殺すつもりがあったかもしれないが、私設兵の誰かが流石に止めたのではないだろうか?

 

「転移系や移動系はレアですが居ない訳ではありません。ゆえに特定するのは直接会わないと無理でしょう。しかし、黒幕に関しては明確な理由があります」

 

「得をするというだけなら全員ではないか?」

 

「駒得と、説明しきれぬ心情ならば御一人」

 

「むっ……」

 

 敵対する王子が死ぬのは王子・王妃全員の得ではある。

 

だが、一人だけ大きく得をする人物がいるのだ。あくまで『上手くいけば』という前提であり、それほど得にはならないかもしれない。しかし、そのチャンスを作りつつ、『激情に流されてやった』という可能性を持つ者が一人だけいた。その人物は普段は激情に流されないが、晩餐会の後に関しては心揺さぶられている可能性があった。

 

「今回帯同いたしました男は、元はルズールス王子を守るために就いていた準協会員のハンターです。仮にコードネームを『ハギャ』としましょう。彼が言うにはルズールス王子に『外に出ると危険かもしれない』という忠告は出していたそうですが、外に飛ばすことで殺せると王子が思いついたのは事件を聞いてからだそうです。その時には、『死なないカミーラ王子をどうやって殺すか』を周囲と相談されて居たそうで」

 

「……そうか。情報伝達速度の問題だな? 下の者は知りもせぬ」

 

「はっ。この時点で思いつける人物に限りがあります」

 

 ベンジャミンがカミーラ殺害犯に怒りを覚えているのは理由がある。

 

心理的に公私を分けるのが難しい御仁ではあるが、自分が狙われ部下が殺されて愉快である筈がない。それでもなお、『カミーラを殺したことが許せない』のは、自分の手元から司法に送っている最中だったからだ。ベンジャミンのメンツは丸潰れであり、『いつでも殺せるから逃がしてやる』というスタンスが取れなくなってしまったのだ。しかも『逃がしてやると言いつつ、やはり恐れて殺した』と言われるかもしれないのだ。

 

「この時点で犯行を思い付けるのは上位の王子と上位の王妃のみ。ですが王妃がたには動機がありません、推している王子がおられますし、そもそも影響下に居る誰かでも良いのですから。その上で念の習得に夢中になっているツェリードニヒ王子と、エイ=イ一家を粛正していたチョウライ王子たちは除かれます」

 

「そうか、奴か。ツベッパか!」

 

 消去法だけでは根拠が薄いが、ツベッパ王子が最も可能性が高い。

 

ウンマ王妃やドゥアズル王妃には今動く理由が無い。ウンマ王妃で言えば最有力のベンジャミンに加えて隠し種のハルケンブルグも居る。加えて王国を操っていたと言っても過言でない程度に国家に足跡を残せている。これからの舵取りで新王が彼女を頼る可能性が高いのだ。ドゥアズル王妃はカミーラに弱みを握られているようだったが、情報を提供することはあってもツェリードニヒやルズールスも居るし、やはり今動く必要は無いのである。

 

「懇親会でツェリードニヒ王子が念について暴露してしまいました。しかも傍らにこの世でたった一人のクルタ族を従えて居ます。念については何も知らされなかったのは同じでありながら一歩先を行き、加えて希少性が高く聡明そうなクルタ族を騎士として従えています。自分でも良かったはずだ、自分こそという思いは強いでしょう。その状態で手駒として動けそうな人物に心当たりがあったとしたらいかがでしょう?」

 

「可能性が高いのは認めよう。だが、何処まで行ってもグレーゾーンに過ぎん」

 

 研究者として生きて来て、王族としての立場と資金で困った事は無かったろう。

 

持ち前の聡明さだけでは何ともならない事態でも、身分と資金で何とかしてしまえる。協力者を集め他者が持つ特許の許可を出させ、機材と人員を確保できる彼女は順風満帆だったのだ。あの日までカミーラ王子の事を見下していたに違いあるまい。だが、念というものの存在を知り、カミーラ王子が明らかに稀少性が高く王族向きの念を覚えていた。また私設兵は全員が念能力者。嫉妬したとしても驚くまい。

 

「ではカミーラ王子の私設兵を手に入れられるとしたらいかがでしょうか?」

 

「なんだと? 彼奴等は所詮、不可触……そうか、そう言う事か」

 

「ツベッパ王子は能力主義者。自らに従うなら身分を問わぬと言えます」

 

 今回の一件は、第二王子私設兵である不可触民が最後のキーになる。

 

ベンジャミンなら『妹への殉死、大儀である』とか言って皆殺しにするだろうし、それこそウンマ王妃なら歯牙にも掛けないだろう。逆に何かのキッカケで知る事が出来たとしても、貧民街出身のオイト王妃には味方に付けられないのだ。彼女を支持する層にとって、不可触民と言う『自分達より下の階層』は重要なのだから。そういった人々が声を掛けても信じられまい。だが、ツベッパ王子だけは前評判込みで偏見を抱いてない可能性はあった。

 

「ただツベッパ王子は聡明ですが、人の心が判っておられません。先ほど私はフウゲツ王子が薨去されたならば共に逝くと申しました。おそらくは偏見を一切持たぬカミーラ王子と言う救世主を失った『彼女ら』もまた同じ気持ちなのではないでしょうか」

 

「ふん。自らのみが尊いと思うがゆえの偏見を持たぬ視点か。らしくはある」

 

「そういった反感も既に乗り越えた絆。それ無しに平等を掲げられても困るかと」

 

 ツベッパが動いた最初の衝動自体はただの感情だろう。

 

だが、そこからは彼女の閃きが要因ではないかと思っている。『もしかして、コレっていけるんじゃない?』と思い付き、様々なピースの中から『正解例を引いた』と確信した瞬間を感じたのだと思う。しかしその視点は感情論に重きを置かぬ冷めた目線だ。ツベッパ王子がリクルートしたとしても否定する可能性は高かった。少なくとも、フウゲツ付きであった第二王子私設兵に連絡を取ると、そのように返事が返って来たからな。

 

「と言う事は手を下さずとも勝手に共倒れするという事だな?」

 

「話を付けて来たところでは、我らが囮になって動く間に見極めるそうです。昨日の今日で動くとは思えませんが、心は逸るでしょう。『彼女ら』が動くには十分なキッカケになるかと思います」

 

 実の処、第一王子陣営に来る前に第二王子陣営には話を付けて来た。

 

ツベッパ王子が勧誘に来ていないか? もしそうなら怪しいので、我々が囮になるから確認して欲しいと。もちろん、こちらの陣営を疑うならば移動中に襲ってくれても『寝返ったフリ』の為に利用しても構わない。それだけ今回のカミーラ暗殺には憤慨しているし、同情はしないが共感しているからこそ、共闘を持ちかけたと伝えたのである。

 

「……食えん奴だ。つまるところ、此処に来たのはフウゲツの為の取引か」

 

「その為に臣も命を懸けております」

 

 カミーラ暗殺の黒幕を暴き始末を付ける。その為の引き金となるという宣言だ。

 

ここまで段取りした俺の事を低くは見積もらないだろう。その上でフウゲツの為に動いており、全身全霊で成し遂げるとの宣言をしに来たわけである。実際にフウゲツが二線者になって継承戦を降りる事を承諾するかは別にして、少なくとも此処で頷かねば後で報復が待っていると見せに来たわけだ。不遜であるがやっておかないと戒厳令で一緒くたに始末されかねないし、その時に回避する為にも、『外に出る理由』を作って念空間を作りたかった。要するに、二重三重の『偽動機』を見せる為だと言える。

 

「では最後に確認しよう。貴様はフウゲツを守り切れるのか?」

 

「端的に証拠をお見せしましょう。たとえばそうですね……そこの陰、ここに一匹の虫が居ます。会合の最初から居た様ですが、此処に居られる私設兵のどなたかの作った念獣では無いかと思います」

 

 ベンジャミンの脅しに、俺は隠れていた念獣を捕まえて見せた。

 

虫だという割りに微動だにしておらず、野生の虫が意外と我慢強く動かないことを含めても異様であろう。まあタネ明かしをすれば普通に『凝』で見破って居ただけだが、僅かな瞬間の凝でも怪しいと思えるモノを先に見破って居れば、一瞬で見破るには難しくないのだ。

 

「その上で僅かに表情が変わった方がおられました。しかし、それは虫を発見された事ではなく捕まえられてから。察するに見つかったら二度とその人物には使えない、あるいは……」

 

「旦那。この手の能力に問うのは禁物です。『借り』で済ませてはどうでしょう」

 

「そうですね。失礼いたしました。このような虫は居なかったということで」

 

「「……」」

 

 俺が傍証から幾つかの事を述べると、脇から『ハギャ』が静止した。

 

彼はNGLの裏に所属する幹部だが、鍛錬方法はあまり知らなかったので念を鍛えておいたのだ。もっとも原作に登場した『ハギャ』=『レオル』と同一人物なのかは分からない。実際に、レンタルポッドの能力には至らなかったからな。だが感情の機微は判るし、裏社会の論理には詳しいので連れて来たのだ。もちろんルズールスの所にNGL組を準会員として放り込んだのは嘘じゃないけどな。

 

「そう言う事にしておいてやれ。さて、これでも忙しい身でな。……ウショウヒ、リハン、協力してやれ」

 

「「はっ」」

 

 こうしてベンジャミンによる圧迫面接は終わった。

 

問題なのは暗殺能力を持つ私設兵と、除念ならぬ喰念を持つ私設兵を付けられたという事だ。彼らは護衛として十分な能力を持つと同時に、フウゲツ暗殺に使える組み合わせでもある。実際にサレサレを暗殺したのはこの組み合わせだからな。まったく面倒な事に成ったと思いながらも、俺は一つの段階を越えた事に安堵していた。何故ならば本気で王子を皆殺しにすべきと考えているのはベンジャミンくらいであり、彼から一定の理解を引き出せたのは収穫だったからである。




 と言う訳で日程は既に8~9日へ。
カミーラ王子が死に、ツベッパにもリーチが掛かります。

●ツベッパ黒幕説
 と言う訳でツベッパがカミーラを暗殺させた黒幕となります。
実際にはその可能性が高いだけで、ビヨンドなりパリストンの手を借りたら誰でも行ける筈ですが、理屈的に私設兵を味方に付けられるのはツベッパだ! という流れの説明になります。まあ、外を三人で出歩く理由が欲しいだけで、本当である必要は無いのですが。

●ハギャ?
 死んでないので推定ハギャが登場。
もちろん蟻に転生してないので、レンタルポッドなんか覚えてません。
惜しいなあ。今憶えて居たら、借りを作って能力パクリ砲台だったなあ……とこのタイミングで思いついても、今更できない。要するに、そう言う感じで能力後出しで何とかしないという説明用ですね。
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