●
「体調はどうだい?」
「問題ありません。兄さま」
俺は暗い部屋の中、後ろからフウゲツを抱きしめている。
一仕事終えた夜に恋人と共に閨での一時だが、呪殺を受けたフウゲツに大して、少しでもオーラを供給できるように抱き着いている様な物だ。いわゆる背面座位という体勢ではあるが、体位という程の意味はあまりない。
「お昼のふーちん格好良かったもんね。まさしく王子さまって感じ?」
「これでも頑張ったんだよ。でも、かーちんと兄さまが必ず何とかしてくれると信じて居たから」
フウゲツの膝を枕にしてカチョウが抱き着いている。
こちらも少しでもオーラを渡そうとしており、俺が背中側だから前面に居るというところだ。愛撫と言う言葉があるが、子猫同士が寄り添ってじゃれ合うような眺めでしかない。ベッドシーンにありがちなエロティックさはなく、それだけフウゲツが衰弱していたとも言えるだろう。
「……お休みのところ失礼いたします。ただいま急報が入りました」
「直ぐに行きます。湯あみと着替えの準備を」
王族というものはプライバシーが無い。
閨での睦ごとであろうと、普通に付き人が入って来る。BW号では特に人数が限られ、信用の置ける人物たちですら渋滞が起きているのだから仕方があるまい。
「俺たちは先に行く。ゆっく……り……」
「またあの揺れだね。ハルケンブルグの兄がまた実験でもしてるのかな」
カチョウと共に立ち上がるが、その途中で揺れが起きた。
もしフウゲツの体調が十分だったら真っ最中に揺れていたのかな……とか思う訳だが、それよりも重要なのはハルケンブルグが何のために能力を使ったのかだろう。朝の行動予定や昼間の暗殺の情報など、急な伝達をコッソリ行う他、暗号で尋ねられた能力分析に対してはセンリツを通して伝えている。ハルケンブルグの聖獣の能力他、数名の王子の能力考察も教えていた。
「あっ……また」
「ツェリードニヒ王子の部屋の辺りだな。この夜中に……いや、夜中だからこそか。ツベッパの暴走にかこつけたな……」
暫くしてシャワー中に再びの鳴動があった。
危機が故障して熱湯が出たらカチョウが火傷してしまうので、抱きしめながら一時退避させた。鳴動に関してだが、短い間に二度も行う必要は無い。ならば、これは『二回も使って見せた』というパフォーマンスである可能性が高かった。俺たちがツベッパを煽ったように、ハルケンブルグがベンジャミンを煽っているのだろう。
「ツベッパ姉に? どういうこと?」
「俺たちだけに襲撃させても意味は無いだろ? 目立つから一番最初に狙っただけで。だから能力を使ってツェリードニヒ王子を襲う刺客を退けて見せたんだ。それならば能力を使う意味があるし、ツェリードニヒ王子を庇うという事は、明確的に陣営として合流するということを見せつけられる」
貰った情報からも、ツェリードニヒの能力はやはり未来予知で間違いが無い。
だからこそハルケンブルグがツェリードニヒを守る事自体に意味は無い。命の危険がないと分かっているのにあえてやったという事は、まさしくアピール目的なのだ。他者を乗っ取るハルケンブルグの念能力ならば、確かに呪殺兵に有効に働くだろう。何しろ自決して死ぬまでの間に、遠ざかる様に移動させられるのだから。数秒間か十数秒の未来予知……それを繰り返して確認する度に、『ハルケンブルグが命懸けで自分を守った』という情報をツェリードニヒは何度も再確認することになるのだ。
(ツェリードニヒの能力を利用して刷り込みを行うとは流石だな。これでハルケンブルグが自分に隔意を持って居ないと誤認するだろう。もちろん奴が聖君になれるならその通りだが、おそらく道を外した言動を何処かで出して『やはり処刑すべきか』とハルケンブルグは確信するだろうが……む? まさか!?)
「また? 最初のがハルケンブルグ兄を襲う奴で、二回目がツェリードニヒ兄のじゃないの?」
「……おそらく、ベンジャミン王子の私設兵も排除したんだ」
不安がって顔を上げるカチョウの額にキスをして宥める。
汗は既に落していることもあり、そのままタオルを取りに向かった。簡単に乾かしながらカチョウが髪の毛を乾かすための手伝いを始める。この辺りは既に慣れたものだが、女の子は準備が多いな。好きな子の手伝いなら構わないが、自分でやるなら少々面倒に感じてしまう。
「でも、どうして急にそんな事をし始めたの?」
「そうだな。最初はツェリードニヒ王子を味方につける為かと思ったんだが……そうか。マイト曹長だ。しまったな……ベンジャミン王子の方も、ツベッパ王子を言い訳にして最側近であるマイト曹長を送り込んだ……と言う事は……」
状況は時にビリヤードの様に跳ねまわって、一気に突き崩していくという。
俺たちのそばにいた私設兵にも呪殺に対する手段を説明した。そのことで念空間を作ったことを秘匿し、意識を反らしたわけだが……。その事がベンジャミンに『ライバルの元へマイト曹長を送り込む理由』を作ってしまったのだろう。危険すぎて生物兵器なんぞ最側近であるマイト曹長にしか渡せない。彼ならば間違いなく運用するし、取り上げられそうな時の処分方法も知って居るだろう。そして万が一、反逆されても育ての親に近い彼に裏切られるならば、それも止む無しと思っている可能性はあった。
「え? マイト曹長ってアレでしょ? ヤバイ兵器を持ってて……」
「そうだ。その為に排除したんだ。説明役として送り込まれたなら、近くにいるもう一人。場合によってはさらに一人を処分する。問題はその時にハルケンブルグ王子が助かったかどうかだな。場合によっては我が身で兄を助ける可能性もあるぞ」
マイト曹長が誰の元に送り込まれたかにもよるだろう。
ハルケンブルグの元に送り込まれたなら、最初の段階で交代させてある可能性もある。あくまでツベッパが送り込んだという態で呪殺兵が動いている訳だが、ツベッパがカミーラ殺しの主犯であると判明して居るならば呪殺兵が大人しく従う理由が無い。また、彼女を油断させる為にも呪殺兵が偽りの特攻を仕掛けたとして、ルートさえ想像付くならば普通の拳銃で決着がつくからな。念能力を使ったと思わせておいて、銃弾で処理し、能力はマイト曹長に使ったというセンも考えられるだろう。
「遅くなりました。何が起きたのですか?」
「その……ツベッパ王子が衰弱死されました。原因は不明で……ただ、殉死者が出ております」
やがてフウゲツの準備が終わった所で情報伝達。
伝えられた情報は私設兵が一人死んでツベッパが不審死したというもの。この時点でクソ怪しいわけだが、ほぼ間違いなく殉死した私設兵とやらは呪殺兵だろう。『殉死者が出たという事は、既に主は死んで居る』という逆転現象でツベッパは死んでしまったのである。
「つまり、以前から話していた通り、やはりカミーラ姉上を殺したのは……」
「ツベッパ王子から我々を襲う命令を受け、その時にやり取りで関与の言動を引き出したのかと。予め疑って居れば、特定するのは容易いですからな。その上で報復に踏み切ったのだと思われます」
フウゲツの顔が青ざめるが仕方のない事だ。
一歩間違えれば自分もそうなっていたわけだし、それでなくとも姉たちが殺し合って居たという事実を突きつけられている。そしてそのバカ騒ぎはまだ収まっておらず、先ほどからの鳴動もソレから考えを離せない要因であった。
「ユキ兄さま。どうすれば……」
「それそれ! さっきからさ。アレ大丈夫なの!?」
「こと、ここに至ってはハルケンブルグ王子が最後の賭けに出るかもしれない。となれば性格的にも、陣営を組んだツェリードニヒ王子の為に命を尽くす可能性があるだろう。ゆえに早ければ今夜未明、遅くとも明日には状況が大きく動く可能性も高い」
不安がるフウゲツに続いてカチョウが鳴動について触れる。
流石にマイト曹長に関する事は口にしないが、カチョウ自身が不安なのもあって尋ねて来た。だから手持ちの情報を元に、おおよその流れを想像してみる。ハルケンブルグが動いて何かをするか、その前に『マイト曹長が未然に防いだ』という態で原作の様に動く可能性もあるだろう。原作通りなら『矢』はランダムなのでハルケンブルグになるとも限らないが、何度か使っている間に彼が選ばれたら似たようなことはできるだろう。
「ウショウヒ、リハン、二人とも今日はご苦労だった。本来の主であるベンジャミン王子の傍に侍るが良い」
「いえ、私たちはフウゲツ王子に付くのが任務でありますれば」
「せめて確認を取りたまえ。向こうが良いと言えばそれまでだ」
「……承知しました」
私設兵二人に関しては第一王子陣営次第としておく。
能力が完全に割れている彼らに関してはそれほど脅威ではない。むしろサブマシンガンで武装して張り付かれて居る方が脅威だ。変事が起きて逃げる時も一緒に着いてくるだろうし、仮にベンジャミン王子が在庫一掃セールを始めた時は『ご同行願えますな?』と真顔で着いてくるように指示するに違いあるまい。現時点でも一人が別室に移動し、もう一人が残っているくらいだからな。
(他に指示を出すとしたらチョウライ王子だが……イザと成れば伝えた通りにルズールスを囮にして逃げるだろう。マラヤームとモモゼは原作と違うが、守るだけなら部屋を閉ざせば良い。ならばするべきはフウゲツを無事に外の念空間へ連れ出すだけだな)
他の王子たちについてはサッパリと忘れることにした。
グリードアイランドの時は殺し合いでは無かったからゲンスルーだけ注意しておけば良かった。ハメ組を救ってほぼ完全勝利に持って行けたというのは結果論でしかない。ならば他の王子たちに関しても助けられたら助ける、殺し合いから抜け出すために協力したというオマケであると切り捨てる事にした。
「マチ。追加報酬を払う事にする。少しばかり協力してもらっても構わないか? もちろん自分の命や、ヒソカが悪さしていた場合は、そっちを優先してくれ」
「構わないけどこの状況だとお高いよ。二線者としての執刀じゃないんだろ?」
「暴漢が来た時にドアにカギを掛ける程度で構わないさ。君なら行けるだろ」
「そりゃあね。ただ念の維持は面倒だから報酬次第だよ」
通信に向かった私設兵が、そのまま銃を構えてやって来かねない。
そんな状況で頼む仕事なのだからマチにとっても危険な筈だ。周囲には念糸にそれほどの強度は無く、あくまで手術用としか伝えていない。だが、そんな甘い事を兵士たちが思い込む筈もないだろう。死後の念に成っても困らないように、ドアの錠前をふっ飛ばせるような環境でマチに解除しろと脅すか射殺することになる。それを避けるためには、マチも何処かに潜んで、そして十分な距離から念糸を維持し続けるという負担になる訳だ。
「ツベッパ王子がカミーラ王子をヤらせた実行犯の行動に予想が付く。そいつは細マッチョのイケメンだが、その強さは知性を元にしている。ツベッパ王子はいずれ自分に靡くという前提で、暫く自分の伝手が及ぶ範囲に入れていたと思う。王子は好待遇だと思っていたが、どうでも良い待遇であり、だからこそどうでも良い部分までを受けた。王子の暗殺を止めなかったのは、忠誠を捧げる程では無いし、そもそも王子の自爆だからな」
「なるほど。自分の賢さに自信があるタイプだったんだね」
「そう言う事だ。だからこそ他人も『自分の理想に従う』と思っていた」
「本質を見誤ってちゃ世話ないけどね」
ヒソカは一宿一飯の恩義にだけ報いたのではないかと思う。
ツベッパの性格的にヒソカはドストライクだろう。クラピカの様に誠実な対応が通じるタイプではないが、その奔放なところも嫌いではない筈だ。その上で猫のように躾られると思っていたし、自分の方から尻尾を振って来ると信じていたに違いない。そしてヒソカが傍にいるという事からも、呪殺兵に対してある程度の抑止力になると思っていたのではないだろうか。もちろん呪殺兵の方もツベッパに従うと思っていたし、物の見事に間違いなのだが。
「そいつはおそらく自分の目的に都合が良いから便乗していただけだ。だから部屋を出てブラつくし、自分の目的の為に行動するだろう。面白い相手を見つけたら戦いを挑むだろうし、面白くなくても邪魔だったら、ツベッパ王子の仇だったらついでの様に挑むかもしれない」
「……らしいっちゃらしいね。なるほど、場合によって今夜は荒れると」
「だから出歩かない方が良いし、出歩くなら気を付けた方が良い」
「了解」
もちろん、この話はストレートに忠告と言う訳ではない。
ヒソカが暴れる可能性があるので、隠れて何かをするなら都合が良いぞという情報だ。逆に言えばその過程で出逢ってしまうと、『君は何処かの王子に付いてる? 付いてるなら仇だから殺すね』くらいのノリで理由にしてくると思われた。逆に言えば無関係なら殺さないし、いずれ一騎打ちをする予定のクロロとの戦いは最後まで取っておくだろうけれど。
「その……差し支えなければその人物の目的について教えていただけませんかな? 妹君殺害に関する報告義務もありますので」
「佳い男漁り。オレより強い奴に逢いに行くタイプだから気を付けた方が良いぞ」
「それは……その。難儀な方の様ですな……ははっ」
話にリハンが割って入ったので、躊躇わずに教えてやった。
何しろヒソカは横入りも楽しむタイプなので、本命との
「確認するけど今の話をここでしたのは?」
「報酬は必要だろ? それだけさ」
「ああ……そう言う事かい」
最後にマチが剣呑な表情で尋ねて来た。
ヒソカは旅団にとっては裏切り者と言うか、最初から味方では無かったウザイ奴と言う枠だ。いずれ決着を付けるとしても、自分たちの手で……という思いは強いし、それはそれとしてマチとしては『腐れ縁』という意識がまだ残っているので、勝手に他人の前でベラベラと話をされたら不快なのだろう。
「……あの能力だとするとこっちが貰い過ぎじゃないかな? でも命は懸けないよ。受け取るとしても団長だしね」
「試し切りの機会が有ったらで良い。使って欲しい相手が居る」
「なら団長に話は通して置く」
「頼んだ」
今度の話題はリハンとその能力である。
このまま見張りに付くとしたら彼は邪魔だし、そしてその能力は美味し過ぎる。そして推理が前提で情報収集してはいけないというルールはクロロの好みにピッタリだろう。しかも盗賊の極意こそが本命であるため、あてずっぽうで放っても問題無いというのがとても相性が良かった。これ以上どうしようもない状況だが、五分程度の話で得られる助力ならば試して損は無かった。
「失礼します。本陣に問い合わせたところ、我々は待機することになりました」
「そうか。では休んで明朝に備え給え。フウゲツ王子の傍に侍って守る役目は私がやらせてもらう。こればかりは譲れないよ」
こうして九日目の夜を終え、運命の十日目に突入するのだった。
昼間の襲撃事件の後、まさかの連続事件です。
主人公が原作から離れて行ったこともあり、思わぬところで玉突き事故。
ベンジャミンもハルケンブルグも動いていたので、結果的に一周回って原作準拠に? という流れ。
●ハルケンブルグ劇場
ツ「襲撃だと? えーっと、オレは未来予知するわ」
ハ「インタラプト! その行動に割り込み、呪殺兵に対して攻撃!」
ツ「は、ハルケンブルグ……お前命懸けて……無茶しやがって」
ハ「まだです兄上! そこにもう一人刺客が!」
ツ「未来予知……おお、ハルケンブルグ。まだオレの事を心配して……」
ハ「命を懸けたこの一打!」
マ「ベンジャミン王子よりの報告で……え?」
だいたいこんな感じで未来予知を逆手にとって接近してます。
●ツベッパ
ナレ死しました。まあ王子たちはナレ死がデフォですが。