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「大変です! ハルケンブルグ王子が暴漢と化した第二王子私設兵に襲われ倒れられました! 緊急治療を行うとの事ですが、予断を許さぬと!」
「そうか。……確認するが、それは1014号室か?」
「はい。ツェリードニヒ王子を庇われたそうです」
「あの揺れが最後にあったのは確かに……」
翌朝になって大事であると報告が入った。
タイソン・サレサレ・カミーラ・ツベッパと四人の王子が既に倒れ、五人目が怪しいという話である。ここで重要なのは撃たれたとか射撃されたという言葉が一切存在せず、ただ緊急治療を要するとだけ告げられたことである。
(入れ替わりがあったとして順当に行けば襲撃者二名と私設兵の三人。原作と違って途中で体を奪った私設兵を自殺させてないから奇襲は出来る。それを考えたらマイト曹長の体を奪っている筈だ。では私設兵はそのままにして、マイト曹長が成功させたと報告を入れさせたのか? だが、それではハルケンブルグが死んでしまう。計算が合わん……何かの可能性を忘れているのか? それとも自分が死ぬ策を、体の入れ替え無しで行ったのか?)
正直な感想を言えば情報が少な過ぎ、それをハルケンブルグは利用している。
原作を知っている俺ですらこの有様なのだ。状況を利用したベンジャミンにも詳細は伝わって居まい。むしろ私設兵が入れ替わって居ないのであれば、マイト曹長に成り代わったハルケンブルグの部下が暗殺に成功する可能性が高まったくらいである。何しろ1014号室で行われた最後の光景が、ハルケンブルグがツェリードニヒを庇った瞬間であり、無関係な目撃者が複数存在してしまう。原作よりも疑う余地が少ないのだから。
「ユキ兄さま……私は……」
「お見舞いを申し出られてはいかがでしょうか? 重篤であれば仕方ありませんが、兄妹として見舞うのは普通の感情ではないかと思いますよ」
どうしようか迷うフウゲツの背中を押すことにした。
それが彼女の選択ならば全力で叶えるのが男の役目だろう。もちろん命の危険を感じているならばソレを排除し守り抜くだけの事。その上で仲が悪くはなかったハルケンブルグの事を心配するのは、人として間違ってはいないのだ。もちろんあちらの護衛として付いたセンリツに話が聞きたいのもあるのだが。
「こう言ってはなんですが、あまり感心致しませんな。いつ暴漢が襲って来るか判らぬではありませんか」
「今の状況でフウゲツ王子がしてはならぬのは、『王として相応しい行動を採る事』さ。どっしりと構えて動かぬ姿勢を見せるのはあまり良くない。それに、大人の論理で世が振り回されているのだ。子供が子供の論理で身内を見舞って何の問題がある」
どうせ『ああ言えばこういう』で静止されるのだ。気にしないことにした。
動くなと言うことを婉曲的に居うウショウヒに、俺は真っ向から我儘路線を叩きつけた。こういうと何だが現段階でベンジャミンの私設兵に我々を押し留める権利などない。こちらが彼らを排除する権利が無いように、彼らもまた第一王子の権力で止めることはできないのだ。
「それに、陛下からの待機命令が出ているならば君は直ぐに口にしただろう? 陛下が仰せられてないならば、何の問題も無いという事だ」
「そ、それはそうですが……」
せっかくなので揚げ足を採りつつ、ベンジャミンの強権を暗喩した。
本来は彼にナスビー王ほどの権力はない。あくまで国軍を抑えている者として、軍人の立場で他の王族に『要請』しているだけなのだ。本来、軍人が王族に対して強く出る権利などない。あくまで第一王子が軍の高官を兼ね、実働部隊を握っているから可能なのである。もちろん、ベンジャミンが国王になって、フウゲツを二線者として認め、王家から放逐すると言うならば大人しく協力するだけだが。
「お前の負けだ。どうせ任務に変わりはない」
「ふう……仕方ありませんな。護衛としては尽くすだけです」
「二人ともそう言ってくれると助かります。申し入れるだけ申し入れてください」
「はっ。臣の力の及ぶ限り、あちらに連絡を取ってみましょう。一番なのはハルケンブルグ王子が健康を取り戻されることなのですが……」
もちろんだが、フウゲツの優しい所を自慢したいだけではない。
場当たり的に見える行動を採る事で情報収集していると見せ、俺たちが主導ではないと他の王子に示すわけだ。その上で、二か所設置している念空間の方向へ移動しつつ、新しい念空間が設置できるチャンスがあれば無駄にしないという流れである。
「移動のシフトは昨日の通り。コースは違うが途中の適当な場所で第九王子陣営からの連絡を待つ」
「結界はご遠慮願いたいものですな。必要ならば兵士を増します」
「論外だ。これ以上は他の王子から狙われる要因になる」
あれこれと理由を付けるベンジャミンの私設兵が実に面倒だ。
メンバーが入れ替わる事はあるが、基本的にこちらの行動を制限しようとしている。俺に水の結界を使わせようとせず、また護衛の兵士と称しつつ、動きを拘束しイザと言う時には『反逆者』として始末する予定なのだろう(可能性だけなら保護という意味もあるかもしれないが)。
「我々を、もしやベンジャミン王子をお疑いなのですかな?」
「そうならとっくに排除していると思わないか? それに上の王子が下の王子に護衛を付けるのは法だからな。新たな法が制定されない限り排除してはならないし、法が変って慣習となったとしても、意味なく断るべきではないだろう。それこそ国によっては上の王子は独立し、末子が相続する国もあったくらいだ。法や慣習とはそれだけ重視されるべきだろう」
ああ言えばこう言う論法は実に面倒だ。
お前らが邪魔だとは言えないし、自分達だけで守った方が良いから出て行けとも言えない。また、国法に文句を付ければそれを理由にされるし、相手がグレーゾーンで尋ねてきているからと言ってグレーゾーンで返せば理由を付けて拘束されることになる。そう言った事は面倒だが、まだ問答無用で俺たちを排除は出来ない。なので刑徳と法治こそが重要なのだと返して終わりにしておいた。
「兄さま。何とかならないのですか?」
「無理だな。最初にやった時と同じ(手札)になるのがルールだ。知っての通り今回は無理だったし、そもそもハルケンブルグ王子自身が望まないだろう。ツェリードニヒ王子を庇って倒れるのは……たとえ死ぬことがあったとしても望み通りなのだから、何とか出来るとしても手を出すべきじゃない」
私設兵たちが交代で離れて行き、フウゲツが秘かに尋ねて来る。
もしかしたら知らぬ間に盗聴器が仕掛けられている事もあり、肝心の部分はボカして話すしかあるまい。いずれにせよ現時点で出来ることは、設置した念空間の中に逃げ込み易くするだけなのだ。特に今回は治療部屋が手札に回って来なかったこともあり、今シーズンはどうしようもない。
「マチ。そっちで何か判った事はあるか?」
「サッパリだよ。第四王子とその取り巻きの兵士が修行をしてる最中に第九王子がやって来て暴漢を退け、油断して音楽鑑賞会なんぞやってる最中に『お代わり』が来て殺されたらしいってさ。……あ、まだ生きてるんだったか」
ここでマチ経由で旅団からの情報を仕入れたら詳しい事情が分かった。
どうやら呪殺兵の排除には成功というあたりまでは確定のようだ。その上で悠長に音楽会なんかしたから不意を突かれたと彼女は言うが、この情報で俺には何となく察しがついた。ここで音楽を聴くことに意味があったのだろう。
「マチ。おそらくだがその音楽鑑賞会には意味があったと思うぞ。『殺気だった心を和ませるために』という理屈で音楽鑑賞をしたんだ。その音に紛れて何かを狙ったのかもしれないし、もしかしたら全部聞いたら要請型の念に掛かったのかもしれないな。理屈としてはおかしくないし、その為に集中した所を狙われたんだろうさ。油断と言えば油断かもしれないが、ハルケンブルグ王子には必要な過程だったんだろう」
「理屈としては判るさ。でもアタシらが見逃すと思うかい?」
「むしろ必要があって聞き逃したかと思う程度には信用してるよ」
「けっ」
おそらくだが、幻影旅団すら状況が判らなかったというのが最後のピースだ。
第一王子陣営も第四王子陣営もその場にいたのに、揃って状況を完全には理解できていない。見た目にはハルケンブルグが好感度を稼ぎにやって来て、勝手に盾になって死んだという程度だろう。もし何か目論んでいたとしても、焦り過ぎたせいで実行中に失敗したと見える訳だ。これは『その場にいたからこそ』起き得た事象であろう。
「ねえ、それってハルケンブルグ兄が何かしようとてたってこと?」
「おそらくツェリードニヒ王子
カチョウが悲しそうなのは残念だが、この場で全てを話す訳には行かない。
せっかくハルケンブルグが命を懸けて実行した罠が成就したのだ。彼が自分の陣営よりも他者を優先して置いた事、何よりカキン帝国の未来、人民の未来を考えて居たことだけを伝えておこう。それに、庇って見せる事と、音楽を聞かせる事に意味があるのは正しい情報だからな。
(キーに成ったのはセンリツの曲で間違いはない。では何のために使ったのか? それは『マイト曹長の入れ代わり』を隠し、『第三者に証言させる為』だ。能力を使って暴漢を止めたというのは本当だろう。しかし、ソレはその場でする必要のある事か? 本当に彼自身が止める必要がある事か? 三度の鳴動の何処かでハルケンブルグはマイト曹長を駒とし、自分の魂も何処かで弾にしている。組み合わせがどうかまでは不明だが、その結果を最初から狙っていたのは間違いない)
重要なのは誰もがツェリードニヒとマイト曹長は無事だと思う事である。
ツェリードニヒも、彼付きの私設兵も、ハルケンブルグ付きの私設兵も。その誰もがハルケンブルグが庇い、マイト曹長が無事に任務を成し遂げた瞬間を見ただろう。もちろんベンジャミン排除が確定できればハルケンブルグが生き残る必要は無いのだが、ツェリードニヒの本性を確認する為にも、そしてその後に能力が必要になった時の為に、一時的にハルケンブルグが退避しておく必要はあったと思われる。
(原作と違ってハルケンブルグの能力をベンジャミンは推測できていない。その上でマイト曹長の無事を他の私設兵が見ている。もちろん操作系の念対策でハルケンブルグが死ぬまで隔離するだろう。しかし、原作よりも疑う余地が少ないのは確かだろう。おそらくセンリツはこの後、何もしない。だからこそ他者がこの入れ代わりトリックに気が付くこともあるまい)
深夜のどこかで発症し、十時間と追加の二時間で死亡が確定する。
最大で見積もって午後の十五時には死亡の確認と葬儀の流れが確定する筈だ。そこから葬儀の手配をする段階で……遅くとも夕刻の段階でマイト曹長の体を乗っ取ったハルケンブルグないしその私設兵がベンジャミンを襲う算段であろう。そこから自身も罹患したベンジャミンが暴走して兵士を動かすものと思われる。よって我々は正午から十五時ごろの段階で、ICUの近くで見舞い、そこから着替えるためにUターンすることになるだろう。
「よし。皆の意見次第だが、今日の予定を仮決定する。彼らが戻った時にも見せるから調整はするだろうが、大枠では変わらないと思う」
「拝見させていただきますね」
「見せて見せて~」
名目こそ違うが見舞いと着替えの時間をスケジューリングしてみせた。
ルートは幾つか存在するが、一応はそのどれでも良い様にしている。もちろん連中の意見としても『ルートはどれでも良いが、この時間は不適切だ』と言い返すだろう。ただ、危篤の人間に対してせめて寄り添おうとする段階でこちらの言い分の方が正しいのだ。また、ツベッパを挑発する時と違って、メディアに姿をさらさないので人気取りではないという意味でも言い分として正しいのもある。
「アタシらは報酬の分だけは動くさ。その意味で何かして欲しい事はあるかい?」
「ハルケンブルグ王子が死んで佳境に入ったからな。今頼むとそっちが危険だから無理には構わんさ。以前に贈ったゲームでも遊んでいてくれ。巻き込んでも心苦しい所だ」
軽口を叩くマチに『好きに動け』と返しておいた。
これからベンジャミンが動く大騒動になる。それらの細かい事は伝わらずとも、グリードアイランドを使って潜むなり襲撃するなりして良いと解放することにしたのだ。彼らが国宝を奪いに行こうとも、そのための布石をしようとも俺は構わない。一応はフランクリンあたりに偽りの襲撃をして欲しくもあるが、旅団としては目立つのを避けたいだろうしな。
(後は水の結界で昨日ワザと見せた全体の色彩変更じゃなく、一部情報だけカットするだけで良い。出来るだけ違和感なく、出来るだけ素早く念空間を作る。ただそれだけだ)
出来れば私設兵と戦う事なく逃走したい。そう思いつつ午後に向けて最終調整することにした。
と言う訳で当日の話になります。
と言っても原作でベンジャミンが疑いつつ、何処かで出し抜かれた話が、ハルケンブルグが確実に突破しただけの内容ですね。
●旋律は結局、何をしたの?
マイト曹長に入れ替わった私設兵がハルケンブルグのガワを攻撃。
この構図を作り出す為、1014号室の外でマイト曹長に能力を使用。
第九王子陣営が先ぶれの兵士を送って話を作っている間に、ハルケンブルグのガワが丁度良い感じの位置に移動するのを助けただけです。都合よくツェリを守れる位置に何か移動できませんし、先に移動してたら怪しいですしね。もちろん、この構図を未来予知で見抜くことはできませんし、他社が見ていても、意識が飛んで居るので判りません(記憶をパクノダが引き抜いても、意識が無いので分からない)。
まあ、ご都合主義を通すために、センリツが居たのだと思ってください。
●主人公が気が付いた意味はあるの?
主に時間経過と、何時頃に出かけてどのへんで待機するべきか?
そのルートで何をしてる時に念能力を使うか? という事に気が付いた。
と言う訳ですが、まあ何が起きるか判らないよりマシな程度ですね。その上で旅団に『今から大混乱が起きるから、好きに利用してくれ』と伝言した感じになります。