インモラルなステディxステディ【完】   作:ノイラーテム

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決戦の十日目

「ハルケンブルグ兄上が死んだ?」

 

「はい。お見舞いを申し込む時点で最終確認中だったようです」

 

 十日目の朝はとっくに過ぎ去り、正午に入ってからは刻一刻と過ぎていく。

 

砂時計の様に余裕というものが無くなり、時間は物凄い速さで駆け抜けていった。気が付けば既にロスタイム、こちらの伝手で連絡が取れた時には、『もう無駄だから引き返すように』という関係者からの連絡が検閲を示すかのように、開封状態で送られて来た。

 

「……」

 

「なんだ……。ここで待ってた時間は無駄だったんだね」

 

「無駄と言う時間はないよ。雑草と言う草が無いようにね。時間の過ごし方は何時だって自分達次第さ。ハルケンブルグ王子の為に祈った時間は決して無駄ではない」

 

 ショックを受けるフウゲツと、黄昏ているカチョウの諦め。

 

三カ月前にはそれほど親しくなかったハルケンブルグと親密性が増していた。その事が彼の死で逆転したかのようだ。女の子たちの涙は何時だって心をセンチメンタルにさせるが、待ち望んで居た時でもあり、立ち止まることは許されない。RTAを行う自信などはないが、ここからが正念場であるとハンドサインを双子へと送った。ここまで出てこれた時間こそが、ハルケンブルグからの返礼品だろう。

 

「「「……」」」

 

 そのハンドサインはグリードアイランドに挑んだ時のものだ。

 

ここ最近は使う必要が無かったし、カキンは関係ない場所で覚えた物だから他の連中には判らない。双子からの受諾サインも返って来て、俺たちの心は戦場モードにプリセットされていく。ここからは物分かりの良いフリは必要ないのだ。

 

 

「申し訳ありませんが自由時間は終了です。同行を御願いします」

 

「冗談は顔だけにしてくれ。予定行動はなるべく崩すべきじゃない。それと俺はともかくフウゲツ王子の行動をお前は止められない筈だが? それともお前たちは王家に対して反逆を試みる気なのか?」

 

 やがて所定時間が近づいたところでベンジャミンの私設兵が動き出した。

 

最近くっついている二人組だが、応援なのか軍の兵士が何名か現れ、それぞれがサブマシンガンを携帯している。俺は特質系であり強化系ではないから、船の中で戦うならば十分な武装だろう。相手を刺激しないように少しずつ錬を行うが、オーラをフルに使っても防御し切れるとは思えない。だからこそウショウヒもリハンも、俺の錬を止めないのだろう。

 

「その件ならば問題はありませんな。ベンジャミン王子の指示により、フウゲツ王子の王籍は停止されました。おめでとうございます、コレを望まれていたのでしょう?」

 

「そうか。その言葉が聞きたかったんだ。ありがとう」

 

 用意された紙はフウゲツが二線者と成る事を了承するものだ。

 

全ての王子を武力で押さえつけるつもりだったのだろうが、フウゲツの場合は自ら王籍を離れることを求めている。拘束して手術をするにしろそのまま殺してしまうにしろ、ナスビー王自体が認めているので、政治工作だけなら随分とやり易かったに違いない。そして俺の方もその紙がもらえるならば無理に逆らう事もないからな。出来るだけ刺激しないように、殺されないように祈るべきなのだろう。実際、奴らはそれを望んでいる。何しろ協会経由で呼んでいたマチもこの場には居ないから俺を殺すだけで良いから楽なものだ。

 

「では付いて来てもらいましょうか」

 

「そうさせてもらおう。幸いにもそちらに行くつもりだったからな」

 

 腕はジェスチャーを交えながら予定の動作を行った。

 

何が起きるか判って居れば、所作を組み上げて自動操作の念を使う事自体は問題ない。複雑な水の操作をすると余計な事が出来ないが、自動操作を組み合わせれば、普通は出来ない事が比較的簡単に成るからな。これまで大仰な水の結界を使って見せたのは、僅かな量の水を効率的に使う事を隠す為でしかない。

 

「ふん。負け惜しみを。所詮は命惜しさに……」

 

「ああ。君は用済みだウショウヒ君。ここからはリハン君だけで良い」

 

「は? っ……」

 

 透明度を上げた水を操りウショウヒの口元から侵入させる。

 

声そのものが出せないのでもがき苦しむだけで、悲鳴すら漏れ出て来ない。巻き込まれた周囲の兵士一同には同情もするが、暗殺能力を持つ彼にはさっさと退場してもらおう。

 

「殉死者がいないではベンジャミン王子が寂しいだろう? ご苦労様」

 

「そうか、透明に!? ですが愚かな事をしましたな。撃て!」

 

「はっ!」

 

 喉元を抑えるウショウヒを見下ろす中、リハンが兵士に指示を出すのが見えた。

 

前に水の透明度を下げて姿を隠したのを思い出し、逆に透明にすることも出来たことに気が付いたのだろう。これ以上能力を使わせないために、即座に射殺を命じたのだ。良く鍛えられた兵士の様で、躊躇なくトリガーを引く姿には感動すら覚える。どう考えても自殺行為なのに……。

 

「じゅ、銃が! ひぃい!」

 

「弾詰まりによる暴発だと……いつの間に……しかもここまで精密に……」

 

「リハン君。君は優先順位というものを勉強した方が良いな」

 

 暗殺者であるウショウヒを始末したのは最後の最後だ。

 

順番的には全員の銃に水を入り込ませ、それを凍らせたというのがタネになる。何時でも出来るわけではないが、今回は問題なく条件が揃っているからな。カチョウとフウゲツがこの場に居る以上、俺にとって特に難しい事ではない。

 

「言ってなかったか? 俺は水の操作を自動的にも行う事が出来る。もちろん限られた動きだし、その命令を維持するには手や足の動きが必要なんだがね。それがあれば集中力の一部を肩代わりできるという訳だ」

 

「馬鹿な。ここまで予測していたというのか? 一体いつから……」

 

「最初からに決まって居るだろう。最初からそう言う制約にしたんだ」

 

 透明度を上げるだけ、自分たちの姿を消すだけ、逆に解像度を増すだけ。

 

一部の行動のみを自動化し、手や足の動きでオートにする。後は集中力を活かす部分を決めておき、実行するだけである。俺が念能力を作った時からこの継承戦を睨んで用意したというだけの話だな。

 

「俺の能力は水を操るだけでは無くてね。特定の条件でソレをやり易くするだけという能力があったという訳だ。そもそも俺の能力はカチョウとフウゲツを守るためだからな。その為だったら何でもできる」

 

「そうか。それで素早く水を動かし、氷にする……」

 

 ある程度を話しておけばリハンの能力は俺に効かない。

 

その上で全てを語る必要などはない。カチョウとフウゲツを守る時に全力を発揮できるのだと誤解してくれれば良い。嘘ではないが、本当ではある。そういう風に誘導することも出来るし、リハンの制約と誓約はあくまで『リハンの全体認識』に作用するので、それで十分に『大多数を推理しないと機能しない』という条件を阻害してしまうのだ。

 

「殺せ。オレも王子の元へ逝く」

 

「良い心がけだな。その忠心見事。だが、断る。お前の能力をベンジャミン王子に渡す訳には行かないんだ」

 

「なら後悔するなよ!」

 

 リハンは俺に殺させることで、ベンジャミン・バトンを起動する為に動いた。

 

売り言葉に買い言葉で挑発しつつ、兵士たちを置いてこの場から立ち去る事で攻撃させようとした。あるいは俺が追う事で、フウゲツの傍から引き離そうとしたのだろう。

 

「マチ。報酬はアレで良いかい?」

 

「ああ。今ごろ団長が追ってるよ。まいどあり」

 

 こう言っては何だが、敵ばかりが先んじて動いた訳ではない。

 

私設兵たちの襲撃は万全を持していたはずだ。兵士だってこれだけな筈がない。カメラに証拠を残すはずがない。フウゲツから王籍をはく奪する書類だって日付は怪しい物だ。だが、協力者が居ればどうだろうか? そう、マチはフウゲツを守るのではなく、その対処に動いていたのだ。リハンの除念能力を報酬として。

 

「やはり日程はもう少し先か。仕方ないな。この書類を元に関係者に了承を取ろう。王籍停止のスケジュールではあるが、別に手術だけなら書類の有効後でないといけない訳じゃない」

 

「あー。確かみんなの共有認識が重要なんだっけ?」

 

「そう言う事だな。だから俺たちだけじゃダメなんだが……そろそろ大問題が起きる」

 

 逃げ込む為の念空間に向かいつつ、水を操って俺たちの幻像を作り上げる。

 

ただの画像でしかないが、カメラと通行人の目にさえ止まれば良いだろう。あくまでベンジャミンが暴走中に『フウゲツ王子の居場所を特定するのは無理です!』と兵士に言わせれば良いのだ。

 

「大問題って何?」

 

「まだ何か起きるのですか?」

 

「ベンジャミン王子が暴走する。もうすぐ死ぬと判って、生きている間に他の王子を皆殺しにする筈だ。無理だとは思うが可能な限り……始まったな」

 

 カチョウとフウゲツに説明を始めようとしたところで放送が始まった。

 

俺は念空間までの移動時間を見据え、途中から俺たち三人の姿を水のスクリーンで消していく。オーラが足りなくなるので移動させていた幻像も解除し、水には可能な限り拡散させて乾燥することを目論んでおいた。

 

『ハルケンブルグ王子がツェリードニヒ王子と共謀してクーデターを起こしました』

 

「え? どういう事? そんなの絶対おかしいじゃん!?」

 

「おそらくだがマイト曹長から奪った生物兵器だかガスなりを、関係者が復讐としてベンジャミン王子に使ったんだ。だから彼が昏睡するまでの数時間に大半の王子を確保し、寿命が尽きるまでの数時間に処刑して疑似的な戴冠を目指すだろう。幸いにもというか、クーデーターに対するカウンターとして、立法府や行政府を一時的に閉鎖する為の戒厳令が行えるからな」

 

 コレを待って居たんだ……という他はない。

 

非常事態宣言が発令されたことで、この書類を元に執刀する為の言い訳が立つ。最低でも数人の関係者と画像記録が無いと駄目だろうが、この場を乗り切ってしまえば何とでもなるだろう。チョウライ王子なら話は通じるだろうし、何だったらマラヤームとモモゼ辺りでも良い。あいつらが王になる路線でも構わないので、とにかく王子と関係省庁の連中には生き残って居て欲しいものである。

 

「さあ。急ぐそ、ここまで来れば後少しだ」

 

「う、うん。さ、ふーちんいこっ。あんまり時間無いみたいだしさ」

 

「はい。誰も死んで欲しくありませんが今は計画通りに」

 

 こうして俺たちは避難場所へと逃げ込む事に成功した。もちろん敵が大軍を送り込んだら袋のネズミであるが、そこまでの戦力を用意できない事は知って居る。今はあと数時間を耐えきることで、まずは最大の暴力から逃れることにしよう。




 とりあえず原作時間終了のお知らせ。

バトルパートに移行し、ウショウヒを確実に始末。リハンは『死亡確認!』状態ですね。

やってることに関しては、自分たちでマチから意識を反らせ、マチが相手の遣ってる事のカウンターをしただけです。ベンジャミン一派がフウゲツ王子を殺そうとして、その反撃に動いたというデータを残したという流れになります。

なお、『なんでここまで条件揃うの? 都合よくない?』とおっしゃる方もおられるでしょう。この日の為に調整していたからこうなった。もし能力の強化とか、調整とかで条件足りてなかった場合は、作者の描写不足ないし説明会の準備不足であるという事になります。その場合は足りない条件を補うために何かをしていて、幾つかの強化案件がっそれで消費されたことになるでしょう。

●ベンジャミン
 面倒くさいので次回に死にます。ウショウヒ?
彼が死んだのはベンジャミンへエネルギーを送る為ですね。他にも何人か死んで居て、ベンジャミンの魂は『王子数人分』とかになってるかと思います。
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