インモラルなステディxステディ【完】   作:ノイラーテム

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雪月花を覆い隠す雲

「ユキにい。どうなっちゃうのかなあ……」

 

「カキンはどうなるのでしょうか?」

 

「そうだな。この場合、王子ではなくプレイヤーを中心に考えてみるべきだろう」

 

「「プレイヤー?」」

 

 意気消沈して念空間へと逃げ込む双子の質問に答えることにした。

 

邪魔者が多かったころは三人だけになりたかったものだが、いざ三人だけになって不安なのだろう。どのみちこれから数時間、ベンジャミンが死ぬまでは出るわけにはいかないのだ。少しばかり解説しても問題はあるまい。

 

「例えばナスビー陛下は『王家の存続』を担保できる後継者であれば誰でも良い。できれば子供たちに死んで欲しくないとは思っておられたと思うがな。対してウンマ王妃は自分が意見を通せる者になり、例え他の王妃の子供でも……極論、王家の血を引いて居なくとも言う事を聞くならば問題がない」

 

「ああ、そう言う事ね」

 

「なるほど……」

 

 それぞれのプレイヤーが微妙に異なる条件を継承戦に求めている。

 

後継者を送り込んでいる者も居れば、最終的な勝利条件さえ達成できれば良いと思っている者まで様々だ。ダメもとで参加している者も居るし、がっつり勝ちに行っている者も居るだろう。盤面を読み切るにはその辺りに注目した方が速い。

 

「例えばハルケンブルグ王子はカキン帝国の政治をまともにできる王子なら誰でも良かった。ツェリードニヒ王子に協力しようとしたのも、ベンジャミン王子を倒しに行ったのもその為だ。そう言った背景上、もしツェリードニヒ王子に邪悪な本性が隠れていた場合は、取り除く準備もしているだろう」

 

「ハルケンブルグ兄様が命を懸けて……」

 

「ツェリ兄かあ。結局どうなんだろね」

 

 まあ普通にツェリードニヒは殺す選択肢だろうな。

 

仮面を張り付けて隠そうとしても、あそこにはセンリツが居る。邪悪な考えを抱いて居れば、側近との会話を聞かれて筒抜けだろう。ハルケンブルグが命を掛けたことで感動して心を入れ替えるか、さもなければ『殺人快楽症に眼をつむれば名君』と結論が付いた場合に限ると思われた。

 

「現在、生き残っているのはチョウライ王子、ツェリードニヒ王子、ルズールス王子、フウゲツ、モモゼ王子、マラヤーム王子、ワプル王子の七人。ツェリードニヒ王子とルズールス王子はケツモチだった戦力は今は居ない。チョウライ王子が生き残るか、それとも積極的に狙われて下位の王子の誰かになるだろうな」

 

「ユキ兄様。もしやツェリードニヒ兄上の事は……」

 

「ツェリ兄は駄目だと思ってるんだね?」

 

「証拠も消せない殺人癖は駄目だろう」

 

 露骨に話を変えたことで、流石に双子も察したらしい。

 

ツベッパ王子やハルケンブルグ王子が知らなかっただけで、側近やエイ=イ組の関与で証拠隠滅していただけだからな。ちゃんとしたバックボーンの持ち主が探したら証拠を完全に消すのは難しいのだ。

 

「でもツェリードニヒ兄上は未来視が使えるのでは?」

 

「そ、そうだよ。聖獣だって凄い力があるんじゃない?」

 

「逆だよ。特殊能力先行型過ぎて論外だ。凄まじい基礎能力があるなら未来視で無敵に成れるだろう。嘘発見や制約を課す力は確かに陰謀では役に立つだろう。だが、この二つの噛み合わせは悪い。サブマシンガンを持った兵士数名が居たら終わってしまう。強化系や放出系なら凄いんだろうけどな。せめて王宮の中に隠れ潜んで居れば別だったんだろうが……」

 

 ツェリードニヒは誰もが考えるボス系能力を二つも持っている。

 

だが、念能力の初心者が持ってどうするのだろうか? もちろん新大陸に渡ってそこから姿を消すとか王宮に籠るなら話は別だろう。だがサバイバルゲームで戦闘モードに入ったらどうしようもない。ベンジャミンが名指しで戦力を振り向け、それに隠れてハルケンブルグが暗殺者を潜ませたら終わるだろう。原作はまだモレナ達が居たが、その流れと違っているのでどうしようも無くなっていると言えた。むしろセンリツが私設兵の意識を奪い、軍隊の接近に気が付かせないだけでも終わりである。

 

「そういう意味でツェリードニヒ王子は黒幕となるプレイヤーたちが用意した判り易い悪役だろうな。ベンジャミン王子はまだウンマ王妃の用意した本命ではあると思うが、彼ですら最有力の駒でしかない」

 

「だからプレイヤーが重要なんだね……」

 

「……」

 

 こういうと何だが、ベンジャミンもだがビヨンドもヘイト管理役だろう。

 

最も強力で軍隊も握っているが、同時に最も狙われ易いのがベンジャミンだ。また黒幕としてハンター協会から監視されているビヨンドもそうだろう。だがビヨンドにとって必要なのは『カキンを動かして暗黒大陸に渡る理由を作る』ことでしかない。彼からしてみればBW号が沈まなければ……いや、沈んだとしても代用品として十二支んや俺が用意した海洋資源探索チームが残れば問題ないのだ。

 

「今のところ『民意を聞く傀儡』としてチョウライ王子が主流派の上に君臨するだろう。ナスビー陛下と同じ流れを踏襲して『逆に考えたら都合の良い駒』として浮き上がる事になる。後は彼を守るか、それとも下の王子に逆転させるかの差でしかないだろうな」

 

「えっと、ふーちんは此処だよね? モモゼ達も隠れてるし……」

 

「残ってるのはワブルちゃんくらい?」

 

「居るとしてベンジャミンの子供かな」

 

 だから、ここからの流れはもう決まっている。

 

チョウライ王子を守りたい勢力と、彼を排除することで大逆転を狙うとか、勢力図を固定従っている旧来の勢力の争いである。ウンマ王妃は何かの事情で嫌っていない限りはもう動かないだろう。チョウライ王子にしてもワプル王子(正しくはオイト王妃)にしても、旧来の勢力と敵対し得ないのだから。若さと美貌を持っている下の者に嫉妬するよりも、女王然とした自らの権力に固執する方があり得る。ビヨンドは暗黒大陸行きを邪魔しそうな者の排除に動くだろうが、王子たちには何もしない可能性があった。

 

「……兄様。一つだけ確認しておかねばならないことを思い出しました。兄様の目標は?」

 

「ふーちん? 何言ってるのさ。ユキにいはいつだって、ふーちんの事を……」

 

「よく見たフウゲツ。俺には俺の目標がある」

 

「え……?」

 

 そこまで話した段階でフウゲツがこちらの方を睨んだ。

 

憎しみではなく決意に満ちた良い目だ。実に良い目をしている。まさかフウゲツがこんな表情が出来るとは思わなかった。もしかしたら、俺が頼めば兄弟たちを殺して国王の座に就いてくれそうな雰囲気すらあった。

 

「嘘……だよね。ユキにいには野心……」

 

「カチョウ。人を動かす最も強い感情はそんなものじゃないよ。それはひとえに……愛だ。お前たち二人がもっとも大切だし、生まれてくる子ども達に未来を用意したい」

 

「……」

 

 驚くカチョウと静かに言葉を待つフウゲツ。

 

感情豊かなカチョウと冷静に構えるフウゲツ。二人の性格は全然違うものだが、イザと言う時にはその性質も役割も大きく違っていた。その意味で誰かを引っ張り親身になる役はカチョウに、目的に向かって邁進する役はフウゲツがピッタリなのだろう。

 

「この継承戦をこれからも続けるのか? 念を覚えて強くなるだけなら別に儀式なんか必要ない。肉親と殺し合って得る能力で病を退けて何になる? 世代が変わればまた殺し合いだ。その能力だって移動中に飛行機が落され、薔薇や核爆弾を使えば突破できる代物でしかない。そしてもう一つ、継承戦を勝ち抜くのは本当に王子なのか? 王が受け継いだ初代王の魂ではないのか? 初代王の延命の儀式のために付き合わされているんじゃないのか? 俺にはその懸念がぬぐえん」

 

「ユキ兄さま……」

 

「ユキにい……」

 

 俺の言葉を二人は静かに聞いていた。

 

言いたい事はあるだろう。聞きたいこともあるだろうし反論だってあるだろう。だが、俺の言葉を二人は否定できないでいた。何しろずっと一緒に居たのだ。前世の知識で多少考えることは先んじて居たが、俺が考えられることを二人がカケラも考えなかったとは思えない。実際に俺は二人に念を教えたし、ベンジャミンに至っては部下と一緒に念能力者に成っているのだ。過去に計画した程度の事など、今の時代の人間には実行可能であろう。

 

「俺はこの継承戦を根本から叩き潰したい。国宝の三神器を何とかし、もしミイラの中に初代王が眠るならば、魂が壺の中に奪われているならば、刃でその魂を切り刻むならば……。その永劫に続く業を、此処で断ち切りたいんだ」

 

「やりましょう。失敗したとしてもこの魂、共に参ります」

 

「そうだよ! ずっと一緒だもん! 知らない奴なんか知らない!」

 

 こうして俺たちは最後の戦いに挑むことにした。

 

もちろん継承戦が終わるとしても生きて行くつもりだし、死ぬつもりなどはない。だが、本当の意味での戦いはこれから、最後に挑む難関はここであろう。

 

「方法はあるの? 物凄い困難じゃあ……」

 

「ある。計画を練ってる連中にとって、俺たちは時間が来るまでは動かない事になっているだろう。だからその裏を突く。『もうロスタイムまで探し出せない』と思っているところで外に出て、そこで既に動いている他の連中に便乗して動く。その対象は三神器の近くに行かせてくれる連中だ」

 

 ずっと隠れていて、暫く出れないと言ったな?

 

悪いがそれは嘘だ。誰もがそう思う既定の戦術。そう思わせておいて最後の一時間くらいに討って出る。正確には神器を収めている場所に辿り着ける時間になるだろう。

 

「すまんな。二人の命をくれ」

 

「「はい!」」

 

 そこに笑みがあった。例え目を閉じても思い浮べることのできる笑みである。




 と言う訳でラストバトル前のお話になります。

ただ出撃して行っても良いのですが、それだと面白くないですよね。
逃げ切って二線者に慣れたらそれでも良いのですが、場合によっては『やっぱり死ね』もありえますから。

●ツェリードニヒ王子
 凄い! スーパー特殊能力! と判り易いキャラです。
しかし、逆に言えば今の彼は、ジョジョ系ボスの基礎能力を持ってない。
そして基礎能力は特質系には一番遠い能力。もしベンジャミンが同じ能力持ってたら話は変わってたでしょうけどね。

●最後の目標
 まあ三神器が一番胡散臭いでしょう。
それこそフウゲツが生き残った時に「御苦労。お前たちは用済みだ」
とかありえかねないのが怖い。まあ主要人格は残る筈ですが、寄生されそうなので。そういう意味でフウゲツを説得してから挑むことになります。
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