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「俺たちが先行する。注意してくれ」
「「はい」」
俺は水に自分の姿を映して二重に歩く姿を作る。
所詮は幻影に過ぎないが、不意打ちで殺すためには躊躇うレベルの用心は出来た。防御力やら結界力を用意するには手持ちの水の量が無いので
「しかしこのまま儀式を出来るのでしょうか? 殆どクーデターでは?」
「殆ども何も、ナスビー陛下の権限を奪って閉じ込めて居る時点でガチのクーデーターだと思うよ。だからこそ、必ず関係者を一か所に集めているだろうね」
ベンジャミンが死ぬまで一時間とロスタイムのみ。
どこかで情報を見誤ってない限りは、もはや彼は動けも無いはずだ。時計だけではなく体内時計を全て弄っているとか、俺たちの周囲の時間経過を調整する様な馬鹿みたいな能力は無い筈なので、おおよその流れは想像できた。
「そんな……パパを捕まえるだなんて!? ベンジャミン兄って何を……」
「彼にはもう時間がない。だから勝てる目が揃ったら迷わず実行するだろうし、させるだろう。例え自分が死んでも良い様に手配しながらね。そして、それはナスビー陛下にも言える。おそらくは最終儀式の中に入っているからこそ、捕まったのではなく動く必要がなかったんだ」
原作でもナスビー王は拳銃で撃たれたくらいではビクともしてなかった。
サブマシンガンで乱射されたくらいでは死にはしないし、それこそバズーカで木っ端みじんにされない限りは動き続けるのじゃないだろうか(それでも中身は多分生きていると思う)。その上で一か所から動かないのであれば、ベンジャミン一派からもまとめて同じ場所に閉じ込めておくだけで良いのだから大した変化ではない。それこそ籠城している姿を幽閉だと言い張るくらいだし、対外的には保護と銘打ってるのであまり差は無いだろう。
「逆に言えばベンジャミン王子が集めた関係者は、このタイミングに限り全員がそこに集められている。だからその時点で二線者になる儀式としては十分さ。TVカメラも用意されてるだろうし、フウゲツが王になる気がない以上は、逃げ切って居る王子を無理に集める必要が無いというのも良い」
「そうですね。チョウライ兄上やルズールス兄上は逃げられているでしょうし」
ルズールスはどうかと思うが、チョウライはまあ生きているだろう。
ということは全員を殺して誰かが王に成るなんてことも出来ないから判り易い。掴まっているとしてワブルの他は居てもモモゼとマラヤームくらいだろう。この構成でチョウライが一方的に虐殺するとも思えないので、本心かはともかく交渉する時間はあるだろうしな。
「そこは良いんだけどさあ。結局、継承戦ってどうやれば止まるの?」
「可能性としては三つだな。まずは最後の一人となった王子が勝利宣言はするが、今後の継承戦も国体維持も必要ないと最終確認前に行う事。ただしこの方法は勝ち残った王子はやらないだろうし、その段階で精神が呑み込まれている可能性が高いから少し妖しい」
最初の一つは要するに、王位継承宣言を逆用するパターンだ。
壺中卵の儀式が太子決定から後継者認定どころか、そのまま王位継承に移行する流れなのは間違いがない。だから逆利用そのものは可能なのだが、それこそ建国王が魂の一部をミイラへ残して居そうなのに、逆らえるか疑問なのだ。しかもフウゲツが最終勝利者にならないと宣言すら怪しいだろう。
「二つ目は壺・宝刀・ミイラといった三種の神器を儀式場の外に持ち出してしまうこと。理想を言えば一つくらいは破壊してしまうことか。そうすれば現時点では不可能な除念も可能になる」
「なるほど。今ならばそれも可能ということですね」
「ベンジャミン兄が持ち出してるって事か」
現時点でベンジャミンが使う為に、持ち出し可能な位置までは動かして居る筈。
宝物庫のカギを開けることも相当な危険な筈だが、もう直ぐ使うのだから途中までは持ち出し可能に成って居るだろう。儀式を守る特殊な念能力であったり、王家直属の能力者がいたとしても、そこまでは問題なく見守ってくれる可能性が高いのだ。そして封印している念能力がある場合、クロロに持たせた
「なるほど……三つ目はどんな条件なのでしょうか?」
「気になるよね。だって正攻法はその二つしかないもん」
「あるさ。建国王の魂が居るとして、暗黒大陸の巨獣が現れるみたいに何もかも台無しになりそうなピンチを起こすのさ。建国王の側から出て来てもらうなら対処がやり易い。ナスビー王の体を使うか、それともミイラの体を使うか……。問題があるとしたら、激しい戦いになるからコッソリ何とかするとか騙し切るのは不可能な事かな」
説としては二つ目の亜流になるだろうか?
持ち出されている神器をコッソリどこかへ移動させるのではなく、守って居る領域ごと叩き壊せそうな存在を持って来る。判り易い例で巨獣を挙げたが、出力さえ足りているならばゴンさんでもフランクリンでも構わない。昏睡しているネテロ会長が無事なら彼が……いやネテロ会長もカキンの血筋説があったな。ツェリードニヒが似ているのではなく、会長もカキンの血筋なだけと言うミスリード説だ。その場合は操られると危険なので、やはり会長は居ない方が良いか。
(四つ目としてナニカに願うのも手だが……これも止めた方が良いな。神龍みたいに『私の手に余る』と言ってくれれば良いが、リソースとしてBW号の人間とハンター協会の人間全てを使って実行しかねない)
結局のところ、誰かを勝たせつつ今回は二線者になるか、団長次第だ。
今ごろはベンジャミンが危篤になって兵士が混乱している所で、マフィアであったり幻影旅団などが介入して大騒ぎになっている可能性が高かった。そこを突いて幻影旅団を勝たせつつ、クロロに神器を奪ってもらうのが最適解だろう。もちろんフウゲツは二線者になっておく必要があるだろうけれど。ここまでは順調でここからが本番。そう思っていたのだが……思いもせぬ伏兵が俺たちも敵も襲い掛かる事になったのだ。
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「二人とも一度止まるんだ」
「え? 何も無いじゃん?」
「ううん。よく見るとボヤがあったみたいだよ」
俺がハンドサインを出してから声を出すと双子はそれぞれの演技を返した。
カチョウは何も考えずに尋ね還し、その間にフウゲツが周囲を見て確認する。そして答え合わせを待ちながら、俺と共に周囲を警戒し始めた。
「以前にここで誰かが戦ったって事?」
「違うと思う。火を焚いて見せただけじゃないかな」
「だろうな。おそらくは俺の能力を知る奴が、予めスプリンクラーから水を抜いたんだ。用意周到と言うというか暇な事を」
スプリンクラーの水を抜き、排水溝から捨てさせる。
そんな事をする必要がなく、やるとしてもここで騒動を起こして人を引き付け、その間に他を襲撃するくらいだろう。だがベンジャミンの暴走が起きている状態でそんな事をする奴は居ない。存在するとしたら、ここで陽動を掛けつつ俺を邪魔する策を同時に行うくらいだろう。
「正解❤ キミに十分な水を用意するとやり難いからね♣」
「ヒソカ……よりによってお前か。お前と敵対する必要は無いはずだが?」
「敵対する理由がなくたって戦う理由は作れるだろう? 暇潰しだけなら、そこのお嬢さんとかでもボクは良いんだけどさぁ♠」
俺たちが警戒し始めるとそこへ意外な男が現れた。
俺は可能な限り誰かと敵対するのを避けていたし、ヒソカには俺と戦う理由がない。だが、バトルマニアのヒソカならばワンチャンあり得るというのは嘘ではないのだろう。
「判った。二人には離れさせるし、お前とも戦うとしよう。ただ、せめてどうしてそう考えたのかを教えてくれないか? お前の本命はクロロだろう?」
「考えてみてよ。キミはクロロを助けてボクを止めるだろう? ヨークシンみたいに」
「買いかぶり過ぎだな。俺はそこまで善人じゃないよ。俺の目的の為に……」
言いながら俺は気が付いた。俺がクロロを助けたくなる状況なのだ。
つまり俺の介入次第で三つの神器を奪える状態になって居るか、さもなければ関係者の殆どが本当に一か所に集まっており、フウゲツを二線者としてドロップアウトさせられる状態。かつ、それがクロロに強大な力を与えたり、ヒソカにとって相当に相性の悪くなる状態だとしたらどうだろう? あるいはクロロは神器を奪えるが、人格を建国王に奪われて楽しめる戦いではなくなってしまう可能性だ。
「ふふ。良いねぇ❤ 最初は気乗りしなかったけど、キミとも随分と楽しめそうだ。うん、この船に乗ってからキミは随分と仕上がってきている。覚悟が決まったせいかな?」
「ヒソカ。一つだけ確認したい。スポンサーは誰だ?」
「当てて見なよ。キミ、そういうの得意だろう?」
「質問に質問で返すなよと言いたいが、俺もだな」
ヒソカがこんな行動を採ったのも、スポンサーの情報だろう。
そいつにとって俺が邪魔であり、同時にヒソカがクロロの対決に関して重要視している事を理解している人物。継承戦が王位を狙う戦いでありながら、個人的な目標を軸に動いている俺のような人物。かつ、心理戦が得意だが権力などにはあまり興味がない……あるいは王族としての権威で十分だと考えている人物だろう。そして情報が入り易く、また調整し易い人物である。
「ドゥアズル王妃か。意外だったな……いや、意外でもないのか。今ならば全ての頸木から逃れられる」
「うん、正解❤ 付け加えると二人だけズルイってさ。ボクには関係ないけど」
今の状況で王子が黒幕であるとも思えない。
最大部族出身ゆえに第一王妃でありカキンの真の支配者と言えるウンマ王妃には行動する理由がない。第三王妃であるトウチョウレイ王妃に見る目があるならば『今回』動かない方が良い。マフィア最大のシュウ=ウ一家の協力を取り付けはしたものの、チョウライ王子は有望株でしかないからだ。様子を見守り王に成ったら喜び、失敗したら次の継承戦に向けて親族を上位の王妃に付けるだけで良いのだ。唯一の息子がナスビー王ではなく二線者の子である時点で不利を察しているだろう。
「自由と愛への嫉妬か……判らなくもないな」
「うんうん。やっぱり人間が大切な感情は愛だよねぇ❤」
「「……」」
文句を言いたそうだった双子が押し黙った。
鳴り物入りで王妃となったウンマ王妃には絶大な権力があった。幼いころから王妃教育を受け、王子などよりも国家についての知識も気構えも教育されてきたことだろう。翻って第二王妃以下にはそこまでの権力がない。まあ王位継承のために調整されているだけだし、上の王子ほど戦力を集め易い様に出来ているだけだ。場合によっては王妃側でその気が無い者も居たかもしれないし、その気があっても本命の王子に肩入れしていた可能性がある。カミーラ王子に命令されて居たり、ツベッパの性格からして助力何て期待できない。ましてハルケンブルグはウンマ王妃の息子だ。王宮など針の筵でしかなかっただろう。
「二人とも隠れているか協会ハンターの中で信用できる人間の元に行くんだ」
「で、でもユキ兄ぃ!」
「ユキ兄様……」
「……♠」
双子には悪いがむしろ巻き込まれかねない。
第三の能力である雪月花は惜しいが、ヒソカが気が付いた場合は二人から殺そうとするだろう。カチョウとフウゲツが死んだら俺が戦う理由も生きている理由も無いし、ゴンさん程ではないが死後の念に期待して暴れそうな自覚しかない。ならばここは自分の力だけで戦うべきだろう。ヒソカは愁嘆場と言うより、俺の決断の推移を戦いの一貫として楽しんでいる様だった。
「そうだな。二人には人命救助を頼みたい。ベンジャミン王子の私設兵が生き残って居たら、彼の息子が居るから救出に協力してくれと言うんだ。預けられていたウンマ王妃は既に殺されたって」
「それも正解❤ 殺したのはおばさんと護衛だけだよ」
「えっ!? それってどういう……」
「……判りました。いこっかーちん」
目的がドゥアズル王妃の自由であるならばウンマ王妃を活かしては意味が無い。
最高権力者の名前は変われど、実質的な真の支配者が生きているから体制に大きな変化は無いのだ。だからドゥアズル王妃の目的は最初からウンマ王妃だったのだろう。自らが産んだ子供たちには情報やら伝手で協力はしたが、それも半強制。生きていても死んで居てもよいから自分を解放して欲しかった。もしかしたら権力欲もあったかもしれないし、どちらにせよウンマ王妃は邪魔でしかなかった。
「ヒソカ。お前の話は聞いてやった。代わりに俺が勝った場合は協力しろ」
「ボクが勝ったらキミを殺すかもしれないけど良いかい?」
「俺が生きて居たらクロロがやりそうな番外戦術を教えるよ」
「仕方ないなぁ……努力はするよ♠」
こうして望みもしないバトルが始まる事になった。
相手十分、援護なし、水の補充無し。手元に用意している一定量の水しかない。だがそれでもやらなければならないし、勝たねばならない戦いと言うのも時にはあるという事だろう。
と言う訳で乱入者の登場です。
ヒソカのスポンサーはツベッパではなくドゥアズル王妃。
彼女は基本何もする気がなく、放し飼いにしていたのでヒソカも居ただけ。
ツベッパが彼を王妃に頼んで(脅して)借りただけですね(借りただけなので守ってはくれない)。
●ヒソカの気持ち
「お前と戦ってみたかった!」byガルフォード
まあ実際にはクロロが神器奪取に王手懸けたけど、ヒソカは王妃サイドからもっと詳しい話を聞いてるだけですね。このまま放置したらヒソカにとっては微妙な展開になると教えてもらった感じ。
真面目な話、主人公からはヒソカと戦う理由は無いのですが……。
HxHで一度は戦ってみないと駄目かなあと。尺の都合的にも、ここで戦わないと延々と考察が続くんですよね。