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「ユキ兄。誰も居ないね……」
「カチョウ。おそらく最初に入っていた奴以外はカキンの関係者以外は入れないんだろう。だから増援を手配していた勢力ほど動く難くなっている筈だ」
ベンジャミンの思惑とは別に建国王の思惑も存在する。
前者はひとまとめにカキンの王子を集めて一息に勝負を決め、捕まえられない王子はその場で処分命令を出していたと思われる。後者は相応しい候補の中から最も相応しい者……勝者を選んで新しい国王という名の『次の執行者』に乗り移るのだと思われた。確たる証拠などはないが、そのくらいの可能性しか思いつかない。
「あれ、ということはさっきの人は入ってこれないってことですか?」
「理論的にはそうなりますよフウゲツ王子。ですが、この手の排除方法というのは穴がありますからね。今を生きる人類ならともかく、システムに取り込まれた人間がどこまでペテンに対応できるか興味が尽きません。とはいえ時間がない、行こうか」
せっかくなんとか説得したヒソカが入って来れない!
悔しいと思うよりも『最高のタイミングで横殴りしてくる』イメージしか湧かないのは気のせいだろうか? 幻影旅団の出待ち組を煽ってクロロの心配をしてみせながら、此処に入るためのゲートキーみたいな何かを自分の分だけ調達している未来しかみえない。その予想が大きく外れないだろうな……と確信できる時点で、怨霊たちが作ったのか王家に仕える者たちが作ったのか知らないが、結界は穴だらけであるという安心感が持ててしまった。
「ユキ兄! あれ!」
「奥の間の扉が破壊されています……」
「チャンスだ。これで二線者の儀式を実行しても問題ない。記録映像さえ用意出来れば……む。あれはオイト王妃たちとセヴァンチ王妃たちか。やはり捕まっていたんだな。二人とも、念を使ってカプセルを開けてやってくれ」
王専用のエリアの中で、財宝を収めた場所とその奥の死体を収めた場所。
そこを繋ぐ壁が破壊されており、扉が抉れたようになっている。そして棺というよりもカプセルにも似た存在の傍でオイト王妃とセヴァンチ王妃が縋りついていたのが見える。王妃たちは焦っているようだが泣いている様には見えず、カプセルを空けようとしつつ、奥の間に居る何かにおびえた様子も見せていた。そして彼女たちの傍らには、護衛であったはずのポックルら協会所属のハンターたちが倒れていた。違和感を覚えるのはパクノダまで倒れてマチが庇っていることだ。
「マチ。状況はどうなっている? まさか君らまでやられてしまったのか?」
「冗談はよしな。パクは神器にあるカラクリを読もうとして気絶しちまった。後はそこのオッサンが暴れてやったのさ」
パクノダを守っているマチに詳しいことを尋ねることにした。
すると神器を収めている場所にはベンジャミンのクーデーターもどきで潜入することが出来たものの、彼の死に乗じて持ち出す際にナスビー王が暴れ出したという。そしてパクノダが持つ物体の記憶を読む能力『サイコメトリー』を使用して、どんなシステムでナスビー王があそこまでの力を持っているのかを探ろうとして気絶してしまったという。
(パクノダがシステムの記憶を呼んだのか……マズイな。ということは……いや、それよりも先にナスビー王から建国王を
クロロの手元には傷ついたミイラと短刀がある。
残る壺をノブナガが割ろうとしているようにも、そこから縁憑いているナスビー王と戦っているようにも見た。実際には建国王が執り付き次なる犠牲者を待っているだけだし、不埒者であるクロロやノブナガを処分しようとしているのだろう。
「確認するが手助けは要るか? 身内の不始末対策や情報分析だけなら無償で行うが」
「余裕綽々に見えるのか? だったら目医者にでも行って来いよ」
「止せ、ノブナガ。アレを何とかする手は多い方がいい」
ノブナガの方が気が立っているが、幸いにもクロロの方は冷静だった。
この様子なら三種の神器を盗み出して能力を進化させる条件までは達成したのだろうか? あるいはナスビー王に憑りついた建国王を何とかすれば達成できるというあたりだろうか? 幻影旅団のファンボーイとしては前者であって欲しいが、ここからの対処のし易さとしては後者の方が簡単ではある。
「何が聞きたい? アレを何とかするために俺たちはやって来たんだが」
「ならさっさとやってくれと言いたいが……アレはなんだ? 王子たちの意志の塊にしては強過ぎる。それとも歴代の王……いや建国王なのか」
やはりクロロは頭が良い。自分で考えていた推論に俺の表情だけで完結した。
流石の頭脳ではあるが、俺の表情が無ければ完成しなかった結論だ。こういう処はパズルの組み合わせというところだろう。このまま何とかするとして、無事に終わって欲しいものである。
「そのミイラはあくまで象徴なんだ。古き王の遺体が新たなミイラだし、歴代王の中に宿る建国王の魂を斬り割かないと意味がない。壺は既にこの船が壺に成っている。加えて建国王を何とかしても、この馬鹿馬鹿しい儀式が留まる訳じゃないのが面倒なところだな」
「止まらない? ……そうか。建国王は意図して死後の念に成ってはいないと」
「そう言う事だ。あの体から落とすからパクノダを頼む。マチには手術を頼んだ」
「パクを……? そう言う事か。言われるまでもない大切な仲間だ」
クロロの知性と洞察力は恐ろしいほどに冴えている。
建国王の魂は不滅ではないが、極めてそれに近い状態で王者を操っていると告げるだけで殆ど察してしまった。そして俺が懸念している次の危険に関しても即座に察してしまったようだ。しかし、この流れだと連中がハッピーエンドに成る代わりに、後でフェイタン辺りに恨まれて決闘を申しこまれそうだな。
「ホイコーロ陛下。そこに
『……誰ぞ不埒者と思うたが、少しは者を知っておるようじゃの』
「はい。ホイコーロ家の始祖にして最後の王に在らせられます」
カキン帝国の前は、王家の名前を国名としていたと言う。
その名前がどこから採られたかだが、建国王の名前であったという方が自然である。同時にナスビー王が『●●でホイよ』と言う怪しげな語尾を使っていたのが、建国王の幽霊が時々彼の体を使っていたことを示唆していると思えば納得は出来る。名前と苗字に関してはあてずっぽうであるが、蠱毒を参考にした壺中卵の建国王なんて尊大で自意識過剰な奴が名乗る名前ならば想像がついた。
『この器も古き器ほどではないが痛んでおる。朕の新しい体を用意せよ』
「残念ながらホイコーロ陛下。王家は手じまいにございます。王権は返され、民の中から新しい王が合議で選ばれるでしょう。何故ならば、ここは既にアイジエン大陸ではございませぬ。陛下が制覇を夢見たアイジエンではないのです。陛下の名を戴いたホイコーロ家は全てを捨てておりまする」
次の継承者を寄こせ、その体を使うという建国王に俺は否と答えた。
俺は新しい国家で派閥の領袖になる気はないし、フウゲツも王にさせる気はない。現在進行形で二線者の手術を実行させいるし、拒否しなければワブルやモモゼたちにも傷を刻ませるつもりだった。もし彼女たちが『私が王に成る! 建国王の魂を王冠代わりに受け入れる!』というならば好きにしてもらおう。これ以上は面倒見切れないのだから。
『何を馬鹿な! そのような勝手がまかり通ると思っておるのか!』
「そのツケは払いますとも。王子の地位に貴人としての身分。帝国で稼いだ財貨と領地を捨てております。陛下の叡智であればお判りでしょう? この船ですら棺も同然。一族の繁栄と権勢を捨てる為の旅なのです。王子たちも殆どが死するか継承を拒んでおります。帝国の権勢も地位も捨てることは、取り込んだハルケンブルグ王子がよくご存じです。お尋ねになられてはいかがでしょうか?」
実際にその意図がなくとも、そうする事もそう判断する事もできる。
実際にカキン帝国は帝国社会主義から議会民主主義に移行しているし、今回の強引な渡航でV6と呼ばれるに相応しいとされた強大な国力と権威は失われるだろう。仮に新大陸を切り拓いたとしても、その先でイニシアティヴを取り続けて絶対権力者をやるには難しいのではないだろうか。それに、この船が階層構造で一部を捨てられるように成っているのは確かだ。物理現象的に上が下を捨て易いのだが、かなり難しいが一番上を捨てられなくもない。だから念能力による超感覚でどれだけ調べようとも、パっと見た目には捨てる為の準備にしか見えまい。いや、そうする準備もナスビー陛下がしていたのだと思われる。
『その証拠は何処にある! 誰もが納得しておるわけでもあるまい! ならばそやつを新たな王にして頷かせれば……』
「ホイコーロ陛下。この国の名前を知っておられますか?」
『は……? 貴様……何を……』
「
ナスビー陛下がこの儀式ごと捨てる気であったと思う理屈は少ない。
一つは原作においてモモゼ王子の死を悼んでいた善性を持っていた事。そして『カキン帝国』という国名である。この名前がソシャゲで流行った『課金』であるならば別だが、俺には『嫁金蚕』の『カキン』だと思うのだ。何故ならば、蠱毒を参考にした壺中卵の儀式があるのだ。蠱毒を止めて、放り捨てる為の『
「王国から帝国に変えた時には叶いませんでした。それは蟲がナスビー陛下の分しかおらず、陛下を放り出す訳には国家的にいかなかったからです。ですが今ならば問題ありますまい? 出て来た貴方ごとこの階層を放り捨てるまでです。稀代の剣士であるノブナガは宣言した対象を切る事が出来る言霊の使い手だ。その借り物の体が何時まで保ちますかな?」
『き、き、貴様! この慮外者が! 貴様に罰を……』
燃は念の基礎であり、そのまま力に繋がる大事な部分だ。
生きている生者ならばともかく、死者の魂であり『死後の念』に過ぎない建国王には存在し続ける理屈を解体されたら致命傷なのである。今は裁判所で法整備の話をしているわけではない。念能力者たちが聞いて『なるほど納得した』と言える理屈が通れば十分なのだ。『嫁金蚕』が最初から国名として計画されていたという言葉を聞けば、クロロですら納得するだろう。
「手伝ってやろうか? ただし、真っ二つだぞ」
「やってくれ。ノブナガ」
『や、やめよ。朕はこの程度では死なぬぞ!』
「あらよっと!」
ノブナガは素晴らしい指捌きで居合を放った。
鋭い斬撃は言葉通りにナスビー陛下の体を真っ二つにする。斬り割かれており言葉を放つことはできないが、建国王の断末魔に対して実にスッキリした表情であった。
「お? 随分と簡単に切れやがったなあ」
「そりゃそうだろ。ナスビー陛下は切られることを受け容れていたし、建国王は次の体に移動したからな。……そこで待ち受ける最後の嫁金蚕という罠に気が付くこともなくな」
驚いたノブナガだが、それもそうだろう。
クロロを守って戦っていた頃は、念を駆使して切っても切っても手応えがないというか、再生されてどうしようもなかったはずだ。王子たちの死体に気絶した体と言うバッテリーに接続され、魂の融合体として機能している以上は際限があるまい。だが、カチョウとフウゲツによって救助され、そのフウゲツや王子たちもマチの手で二線者の手術を実行中であれば、逃げ出す先は一つしかなかった。
『馬鹿め! 油断したな。この朕が……何故だ!? どうして力が失われる!?』
「パクが読んだ時に一部の魂を送り込んでいたな? だがパクは専門家だ。こういう時に準備はしているよ。少なくともオレはパクに攻撃されても後悔しないし、そうならないと信じている」
そして建国王はクロロに抱かれたパクノダの体に乗り移った。
だが、その瞬間に全ての力が失われていく。どうしてかというとクロロが神器の短刀でパクノダの額を軽く切った事。そして……クロロは知らなかったが……パクノダの絶対的な能力条件の中に『一番大切な人に二度と触れない事』があるからだ。これが機能して得られたすべての神通力的な念能力を嫁金蚕の儀式として成立させてしまったのである。
という訳でこの話もあと数話です。前も言ったような気がしますが。
何度か書き直したので伸びていますが、違和感がなければ幸いです。
●舞台装置
ミイラ → ナスビー王 → 死を受け容れる気だった
壺 → 船の第一層 → 本来は嫁金蚕を利用した他者転嫁
カキン → 嫁金蚕 → この国自体を捨てる気だった
ホイコーロ・アイジエンという建国王 → あてずっぽうだけど、中二病っぽい感じでありそう。
という感じですね。
あくまで昭和~平成のオカルト漫画的な解釈になりますが。
最後はパクノダがシステムを読み込んでいたので、タッチダウンしたところをクロロと短刀でジ・エンドです。