インモラルなステディxステディ【完】   作:ノイラーテム

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泥仕合

(フウゲツの聖獣がもらたしていた恩恵は既に失われている。心細いがフウゲツが呪いから解き放たれた証と思えば何の問題もない。ヒソカに付けられた傷は痛むが、これ以上の攻撃がいずれクロロを襲うだろう。ならば横槍上等と知れた特典だと思って諦めるしかないな)

 

 ヒソカとの戦いの中で、オーラを供給してくれたつながりが消えている。

 

アレはあくまでフウゲツが得ていた聖獣由来であった。使えないのは顔に傷を付けて二線者となり、システムの呪縛から解き放たれた証なのだ。何の問題もあるはずがない。そしてヒソカと戦った影響であるが、奴の本命がクロロとの一騎打ちなのだから、この後で戦いを代わってくれるのだと思えば先払いの費用であると思うしかなかった。

 

(実力差を考えても戦闘での勝利は不可能だ。ならばクロロの目的を揺さぶり、戦う意味を無くすしかないな)

 

 埋め難い実力とコンディションの差を勝利目的を変える事で何とかする。

 

勝てないのであればお互いが物『これをやったら勝ったと言える』を確認し、戦闘ではなく盤面で勝つのがゲーマーというものだ。念使い的にも『俺なら何とか出来る!』という自負は必要だが、蟻編のモラウですら戦闘そのものでの勝利は目指していないからな(王が強すぎたのが悪いが、それでも人類の勝利自体は諦めてはいない)。

 

「おいおい。クロロ、お前本当に……」

 

「くだらん。答え合わせをする必要があるのか?」

 

「っ!? しまった。幻術か! 既にクロロは動き出しているだと!?」

 

 自分を心配しているノブナガの声にクロロは先ほどと同じ答えを返した。

 

言葉の内容的には意味は通るのだが、いくら何でもおかしな反応だ。『団長モード』のクロロが仲間に対しても非情な性格をしていたとしても、文脈がおかしくなるのだから。となると先ほど本を広げて錬でオーラを迸らせた瞬間に、幻術系の能力を起動して簡単な会話をやらせていたのだろう。もしかしたら二度繰り返した時には思いついており、三度目の段階で既に入れ替わったのかもしれない。

 

「優れたギャンブラーは指先でカードや配牌の番号すら理解するという。迂闊だった……この状況でクロロが行動するとしたら駒を殖やす為か! 出遅れた!!」

 

 おそらくだがクロロは指だけで本のページを把握したのだろう。

 

そして錬に紛れて能力を起動するために、極限までオーラの強度を制御していたはずだ。精神を安定させ、同時にこちらの行動を縛る為に意味深な対応を見せていたに違いあるまい。そしてそこから一度姿を消して、何かをやるという行動に俺は憶えがあった。

 

(オーダースタンプとコンバートハンズのコンボ!! サン&ムーンは手に入れてないにしろ、何かの能力を使いつつ牽制するにはそれで十分だ! しかもここには死体が幾つもある!)

 

 原作でヒソカと戦った時の念能力。アレが脳裏によぎった。

 

ヒソカを粛清するために使うかどうかは別にして、『この時期のクロロ』が関心を持っていた可能性は高い。奪った念能力に人格が影響されるからこそ『この能力を使ってみたい。実証したい』という行動に現れているんではないだろうか? そう判断した段階で俺は目的地へと向かう事にする。

 

「全員、第一層から降りろ! 過去の亡霊をこの階層ごと海に放り捨てるぞ! 動ける者は眠ってる者を助けてやれ!」

 

「なん……だと」

 

 この船には自分達だけで王族が脱出するために、切り離しシステムはある。

 

それを逆用して第一階層のみを分離、脱出システムに乗せて放り捨てる。様々な状況に対応するため、緊急脱出的なパターンもあれば、下を順次パージするものもある(というか遮断する壁まである)。複数の手段を検証した上で、下の階層が安全そうな方法で切り離せばいい。

 

「貴様! それが何を意味するか分かっているのか!?」

 

「分かっているともさ。俺は嫁金蚕を実行するだけのことだ。クロロ。お前が用意した策が人形を用意するということなら、どうせ事前に作った奴を呼び寄せて利用するつもりだったんだろう? せっかくシステムが合流の邪魔をしていたんだ、まとめて捨ててやるよ」

 

 ヒソカ戦に関して原作では共闘説か、それともタイマン説かは判明していない。

 

共闘していた可能性もあれば、クロロが事前に作っていた可能性も考えられるし、単純に能力の進化で『能力を借りた相手が近くにいたら疑似ジョイントになる』可能性もある。いずれにせよ、クロロが無数の人形を操れるのは間違いがない。そして継承戦編で使うならば、うってつけの隠し場所があるのだ。

 

(侵入者が死ぬ可能性の高い『死んだ王子の部屋』。あそこなら人形を大量に隠しても問題ない。番人がいても人形は死なないし、王や王子が集められた後ならやり放題だからな。ならば幻影旅団を危険な集団として宣伝したいというクロロの願いを叶えつつ、まとめて処分するまでだ)

 

 クロロが俺を殺すためだけに行動するだろうか?

 

それを考えたらならば、俺を狙いつつ本来の目的である『カキンの宝物を強奪すること』の方がまだありえる。スキルハンターの進化条件が『世界レベルのお宝』であるならば、国宝三つ以外にも『カキンの王族が持ち出した大量の財宝』という物も視野に入っている筈だ。一度に二回の進化を果たしてはならない等という理由がある筈もない。クロロの頭脳ならばそのくらいは余裕で狙ってくるだろう。だからこそ自分の場所を誤魔化す為だけではなく、手数を増やすためにもオーダスタンプで人形に何かしらの行動を付与するのはありえる行動であった。

 

「王や王妃が持つ財宝が欲しいなら持って行くがいい。だが急いだほうが良いぞ。俺は第一層を捨ててしまうからな!」

 

「馬鹿な。そんな事をやらせるわけにはいかん」

 

 俺は水で幻像を作りながらコントロール・ルームへと急いだ。

 

正直な話、念の才能や戦闘センスでクロロを上回れとか無茶が過ぎる。だが、奴の目的が分かって居るならばバッティングしないようにしてしまえば良いだけだ。王の間や王妃の間から様々なコレクションを持ち出そうとも関係ない。壺中卵の壺も今ではこの船が掃討している可能性が高かった。短刀は権威の象徴としての象徴なら何だって良いし、王の遺体はそこに転がっている。仮にコンバートハンズでクロロに似た人形に作り変えていたとしても、この第一層から出せないならばまったく問題はなかった。

 

「……行かせるわけにはいかん」

 

「……行かせるわけにはいかん」

 

「……行かせるわけにはいかん」

 

(早速お出ましか。だが原作に比べて数が少ないな。やはりギャラリーフェイクは持ってきてないのか。となると王や王子たちの死体を使ったな……後は私設兵や侍従らの死体くらいか。このくらいならなんとでもなる。そしてコンボを考えれば能力は三つ程度が限界の筈。サン&ムーンの代わりを入れ替えながら次の手を探ってるな……)

 

 クロロにはクロロの予定があった筈だ。財宝を奪って持ち逃げするという大犯罪。

 

その為にはサン&ムーンで爆破など出来ない。もし幻影旅団が盗賊として活動出来なくなって、悪名の為にテロリストへ鞍替えするならまだあり得るだろう。だが現状はこのうえなく上手くいっているのでそんな事をする必要はないのだ。そして人員を確保し、現場を撹乱するためのギャラリーフェイクで作った人形は先ほどまで結界に阻まれていた。今ごろは王子たちの部屋で財宝を奪っているか、こちらに向かっている段階だろう。クロロもいきなり全ての手札を切れるわけでは無かった。

 

「実体は……そこだ」

 

「実体は……そこだ」

 

「実体は……そこだ」

 

(五感を共有した操作型の人形を複数も……化け物か。だが、いくらクロロでもそれが限界だ。本体を操りながら同時に幾つもの思考をマルチタスクし続ける事は難しい。つまり今のクロロは本命の仕事をしながら単純作業に徹しているということ!)

 

 幻像ではなく俺の本体を狙って来る人形たちを回避し、あるいは殴り倒していく。

 

自動操作で足音を立てることも可能なのに確実に狙っているという事は、この人形の操作にリソースを割いているということだろう。クロロはこちらが判断する前に俺たちの一歩先を行き、外に居るであろう増援組と合流した可能性が高い。そこで何らかの作業を実行しながら、俺の足止めをしていると思われた。悪いがそのレベルで操っているからこそ、俺も移動しながら突破が出来る。

 

「クロロ! 悪いがお前さんの思惑通りに行かせる訳にはいかないな!」

 

「「「っ!!!」」」

 

 俺はクロロに倣って人形を作ることにした。

 

その辺の死体を水で覆うようにして操って、簡単な操作でよいから立ち上がらせる。そして幻像をその上から被せれば終了だ。所詮は浮遊現象と幻覚の組み合わせに過ぎないが、クロロが自分の知覚を振り分けて単純操作しているだけならこれで十分である。浮かび上がらせた死体と同じ動きを、俺の方がしてやればよいのだ。さっきとは逆に浮遊することで音を消し、速度こそだせないがコントロール・ルームに移動すればよい。下手に死体を切り刻むと、誰かに見られていたら危険だし……クロロはしないとは思うが気絶させたカチョウやフウゲツを操られて居ても困るからな(団長モードならやりかねないので油断はできない)。

 

(よし。これでクロロが本格的に財宝を強奪する前に第一層を切り離せる。後はマニュアルが本当に正しいかどうかだが……)

 

 原作を見れば分かると思うが、BW号は構造的に分離できるとしか思えなかった。

 

それゆえに『念のために』と称してマフィア経由でマニュアルを流してもらっていたのだ。水産資源を調査する会社を立ち上げていたから、非常時に船を運転して王族を逃がせる可能性があったからな。その辺りは『読後焼却処分』という前提で優先的に回してもらえた。唯一の問題は『最初から教える気がなかったから偽物を寄こした』という可能性くらいだろう。

 

「うん? どういうことだ? どうしてコントロール・ルームまで扉が開いている? それとも船長やクルーまで生贄に捧げたのか?」

 

 だが予定外というものは起きるものである。

 

俺がコントロール・ルームに辿り着くと、そこにある筈の頑丈な壁が空いてしまっている。ゾンビ・サザードが起きても十分に耐え抜いて操縦できるはずの壁が移動して、中に隠されている筈の扉が開いているのである。

 

「まさか……」

 

「まさかここまで同じ事を考えているとはな。少しばかりお前に興味が出て来たよ」

 

「クロロお前……お前までこの船を切り離そうというのか!? いや、それならば俺の策に協力すればいいはず。まさか……」

 

 そこにはクロロが本を開いて待ち構えていた。

 

正確には俺の知らない能力を使って、船長やその他のクルーたちを操っている。航海士たちはまるで人形のように動いており、普段は行わない操作を行っている。その中には俺が調べていた操作法まで含まれていたのである。

 

「そうだ。俺は第二層にいる金持ちどもからも金を奪っていくつもりだ。せっかくたいそうな金を持って移動しているんだ、奴らを逃す必要はないだろう?」

 

「馬鹿な……そこまで切り離してしまったら、残された中層以降がどうなるか分からんぞ? 一層目だけならともかく、それ以下は浸水以外で切り離す設計じゃない可能性すらあるのに」

 

 どうやらクロロはスケールのデカイ分取りを考えていたらしい。

 

王族専用の第一層と貴族や他国の金持ちたちがいる第二層の両方を奪っていく気らしい。確かにベンジャミンのクーデターもどきで金持ちたちは第三層に逃げている可能性がある。今ならば持ち込んだ資金や貴金属を奪い放題ではあるが……そもそも『カキンの王族たちが考える万が一』に平民たちを考慮しているとは思えないのだ。下から浸水してきたら上層階への扉は壁で完全に締め切り、全てを水没させて捨て去ってしまう可能性すらあり得た。それこそ大型の肉食魚がいた時に、餌にするくらいにしか思っていない可能性すらあるのだ。

 

「国を捨てて自分達だけ上手くやろうという連中だ。考えてやる必要なんかないだろ」

 

「クロロお前、本当にクロロなのか? 確認するが建国王達に侵食されてないか?」

 

「そう思うのはお前が恵まれて来たからだよ。オレたちには何も無かった。ゴミ溜めの中にある町が一つ。そんな故郷でもオレたちには大切な場所だったんだ。そこに暮らす人々が居れば十分、そう思って来たんだからな。この船に乗っている連中は、少なくともオレたちより、まともな人生を送って来た。それなのに故郷を捨てて行くなら、やはり不要だろうさ」

 

 クロロからみて新天地に逃げ込めば気が楽になる連中はおめでたいらしい。

 

だから巻き込まれて危険な目にあっても、危険たっぷりな新大陸への渡航なんて挑む以上はリスクの内だというつもりなのだろう。この考えがクロロ本人の気持なのか、建国王たち過去のデータに影響されつつあるのかは分からない。だが一発逆転で狙った行動が、既にクロロの手の内だった。この絶望的な状況にどう抗うべきなのか、この時の俺は考えすら浮かばないでいたのだ。




 という訳で、最終戦の始まりです。

前回のクロロは最後の方で本当にbotでした。
何パターンかの適当な答えを返す人形ですね。
そこから途中で念により攻撃したり、攻撃されたりとか書いていたのですが……止めました。クロロっぽくないんですよね。

短い戦闘でも恐るべき知性を発揮し、スケールはデカイし行動を把握しても対処不能! そのくらいの凄さであるべきなので、ここは主人公を出し抜いてもらおうかなと何度か書き直した次第です。主人公がクロロの行動を呼んで対策しようとしたら、最初からそれはクロロの掌の上だった感じです。
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