私は折を見て1人になり、ゲンスルーから受け取った携帯を開いた。
そこにはメールが1件。連絡先にはゲンスルー、サブ、バラが登録されている。
私は届いているメールを開いた。
『要件だけ書く。
まず、ここG.Iは現実世界だ。電波が繋がれば持ち込んだ電子機器を使うことができる。これは俺達の連絡手段になるから、何かあれば必ず連絡しろ。
それから一坪の海岸線を入手した場合の作戦を伝えておこう。
おそらく奴らはゴン組、ツェズゲラ組、ゴレイヌの3組で1枚ずつカードを分けることだろう。お前は今まで通りゴン組に着いて、ゴンが1人になった時を狙ってバインダーを出させて能力を使い、一坪の海岸線を奪え。その後
ただし、ヤバくなったら必ず逃げること。死ぬなよ』
二つの意味で顔がほころぶ。ゲンスルーって、私にもこういうことちゃんと言ってくれるんだ。サブとバラに優しいのは傍目に見ても分かるけど……。
というかG.Iが現実世界だってサラッと言ってくれるけど、初耳だよ。
……よし。これで私達の、クリアまでのおおよその道筋は立った。後は一坪の海岸線をゲットするだけーー!
私は携帯を閉じて
左胸に手を当てる。下着の隙間ーーパッドを入れる場所に、いつもママの写真を隠しているのだ。
私と同じ薄ピンク色で、元から巻いてあるみたいなふわふわの髪。そして私とは全く違う、オニキスみたいな真っ黒の瞳。早く……
あれから1週間。私達は15人でソウフラビに来ていた。……実はサブとバラから応援メッセージが来てて、ちょっと嬉しかったり。
私は念の為、いつものフリフリロリータはやめて動きやすい服装にしていた。ズボンを履くのはどうしても気が進まなかったけど……TPOは守らなきゃだしね。王子系ロリータということで手を打った。髪を一つ結びにするのとかいつぶりだろ?
「この1週間あらゆるシミュレーションをし練習を重ねた。今後のことも考えると、絶対負けるわけにはいかないな」
ツェズゲラが重々しく言う。そうだ。ハメ組含め私達15人は、現在のG.I内ではかなり上澄みのプレイヤーだろう。これで負けるとなれば、後は本当に
どうやら場所さえ知っていれば酒場イベントはスキップできるらしいので、私達は直接灯台まで向かった。
入るとあの時同様、レイザー……ボスとその下っ端達がトレーニングをしている。
「これはこれは……久しぶりだな。用件は?」
きっとこれは、私達ゴン組とゴレイヌとーーハメ組のことも含まれる。全員一緒に来るとはなと笑うレイザーに、ツェズゲラが答えた。
「ここを出て行ってもらいたい」
「よし。お前達はもう分かっているかもしれないが……説明しよう。互いに15人ずつ代表を出して戦い、先に8勝した方の勝利! バトルテーマはスポーツで、こちらがそれぞれ得意なスポーツで勝負を仕掛ける。そちらが勝てば俺らはここを出ていこう」
まずは俺だ、と1人の男がグローブをはめる。……ボクシングだ!
「そっちは誰が出るんだ?」
「バリー!」
「ああ」
ツェズゲラに呼ばれてそばかすの男、バリーが前に出た。彼はインファイターだ。
「くくく……返り討ちにしてやるぜ」
お互い準備をしてリングに上がる。しかし私の目からしても実力差は一目瞭然。まずオーラ量からして圧倒的に違うのだから……!
カーン!
ゴングが鳴る。その瞬間バリーが一気に距離を詰めた。
間合いを詰めれば放出系のメリットはなくなる。相手はガードの比重が大きくなり、拳をわざわざ瞬間移動させる
しかしそれを可能にする為には、相手を逃さない踏み込みの速さと手数の多さが必要だ。彼はしっかり実力があるようだし、いくらガード越しだからといってダメージは蓄積していくだろう。いつまでそのだんまりが続くだろうか?
バリーはロープ際に男を追い込み、ついにガードの隙間を縫って左ボディーブローが直撃した。
「ぐっ」
男が苦悶の声を漏らす。
「リング上に描いてある模様は念を補助する『
ツェズゲラの言葉通り、すぐに相手がダウンした。
「ダウン! ニュートラルコーナーへ」
レイザーがカウントをするが……結局、彼は立ち上がれなかった。
「勝者バリー!」
まずは1勝……。できるなら私とゲンスルーの戦力は使わずに他で倒しててほしいんだけど。
その後もツェズゲラ組のロドリオットとケスーが勝ってくれて、合計で3勝! 全員に「いけるかもしれない」という空気が流れる。
レイザーの方をそれとなく観察していると……なにやら、仲間と喋っているようだった。まさか次はレイザーが出るのだろうか?
彼はこの中で一番の実力者ーーおそらく、私よりは格上。対決はしたくない。
「待てよ」
ボポボが声を上げ、全員の視線が彼に集まった。
「もうアンタの指し図は受けねェよ。ここからは好きにやらせてもらうぜ」
彼は勢いよく、その謎コスチュームの帽子を投げ捨てた。仲間が「おい!」と止めるが、聞く耳を持たない。
「女ァ! 表出ろ。てめェにやられた火傷が疼いて仕方ねーんだ」
「それは
確かゼホ……だっけ、ボポボが足を炎で炙った人。
「遊びは終わりだ。なんならここで殺してやろうか?」
「おいボポボ!」
「そいつは契約違反だな。ムショに逆戻りだぜ、ボポボ」
ムショ……つまりこいつらは、囚人……!
ゲンスルーが言っていたここは現実世界だということと繋げると、このレイザーと14人の悪魔は、私達と同じく実在する人間なのだろう。この人達は死刑囚かなにかだろうか?
「知ったことかよ。このクソゲームに付き合うのももうやめだ! 俺に乗る奴はいねーのか!? 全員でかかればあんな野郎ひとひねりだぜ。あとは船でも何でも使って島を脱出すりゃいいんだ!」
あっ。ボポボがレイザーを指差す裏で、レイザが念弾を打ち上げーー
その弾が、ボポボに打ち付けられた。
皮膚と骨がはじけて脳が飛び出るいやーな音が鳴り響く。その大きな図体が一瞬にしてただの死体になり、ボポボは床に叩きつけられた。
「タブーを破ったら厳罰……こいつに言ってなかったか?」
「い……いや、ちゃんと……」
可哀想に。ボポボの先輩らしい死刑囚は顔を青くして震えている。私がレイザーの立場なら、部下に痛みと恐怖は与えないと約束してあげるのに。
「ふん……殺されはしないとタカくくってたかバカが!」
レイザーは重苦しい雰囲気になった私達の前に踏み出す。
「よし。次は俺がやろう」
……沈黙。
さすがハメ組の連中も、ビビってはいるだろうが逃げ出しはしない。数合わせの連中ならこうは行かなかっただろう。
「ちょっといい? そいつ死んじゃってんだけど。相撲の勝敗はどうなんの?」
キルアが臆しもせずレイザーに言う。
「ん? ああ……そっちの勝ちでいいよ」
「ま……待て。こっちはまだ誰がやるか決まってなかったよな? 誰の不戦勝になるんだ?」
そこで今まで固まっていたプーハットが口を開いた。この人は弱いけれど、こういう強かさは好感が持てる。だからここに立候補して来たのだろう。
「誰が不戦勝でも構わないさ! もちろん、お前でも、な」
「へっ……じゃあ相撲の不戦勝は俺だ」
お見事。これでプーハットは私達に4勝目をもたらすと共に、自分の身の安全を確保したってわけだ。
「これでこっちの4勝!」
「順調だわね」
キルアとビスケが言葉を交わす側で、ボポボの死体を仲間達が運ぶ様子をーーゴンが神妙な面持ちで見ていた。
「さて……俺のテーマは8人ずつで戦う……ドッジボールだ!」
8人!?
コイツ……前半の勝敗はすべてなかったことにするつもりだ! 最初から、レイザーに勝つことがこのイベントクリアの条件だった……!
全員がレイザーに目を取られている隙に、ゲンスルーと軽く目配せする。これは出し惜しみしている場合ではない。
「8人……! メンバーを選んでくれ」
レイザーの背後には1〜7の数字を胸に記した念獣。念獣を8体も出した上で戦うなんて……舐められている。とんでもない侮辱だ。
「こっちはもう決まっているからな」
「ちょっと待てよ! 勝敗はどう決めるんだ?」
「1人1勝なんだろ!?」
ゴレイヌとバリーが詰め寄る。
「ああ、1人1勝だ。だから勝負に勝った方に8勝入る。簡単だろ?」
「そういうことか……」
ツェズゲラが私達の意見を代弁してくれた。レイザーと14人の悪魔ーー
「……メンバーを決める時間をくれ」
「ああ、どうぞご自由に」
壁際に全員で集まる。ツェズゲラ組はツェズゲラ以外全員出ちゃったから、私とゴン、キルア、ビスケ、ヒソカ、ツェズゲラ、ゴレイヌで7人。あと1人ハメ組のメンツから出さなくてはならない。
ある意味度胸があって強かなプーハットは不戦勝で使えないし、一応ハメ組内ではそこまで強いとされてないゲンスルーが急に立候補するのは不自然だ。
「俺達だけでやろうよ。命がけなんだから、やれる人達だけでやろう。こっちは7人でも構わないでしょ?」
「いや、そうはいかないな。8人対決の時はちゃんとその人数でやってくれなきゃ、15人仲間を集めさせた意味がないだろ?」
「そっちは1人じゃないか。ふざけるなよ!」
ゴンの声が広い室内にビリビリと響く。
「ゲームの……キャラクターにこんなこと言ってもしかたないけど……仲間だったんだろ? ボポボって人が殺されなきゃいけない程の何をしたって言うんだ!」
「強盗殺人強姦殺人……確定しているだけで11件だったかな」
「現実だよここは♣︎」
「え?」
それじゃ私はボポボ以上に
「
ツェズゲラがレイザーを指す。そりゃこんだけ強ければそうだろうな。
「ゲームマスターって……」
「このゲームを創った奴の1人ってことさ」
「え……え? じゃ……え!?」
「ボポボやそこの連中は実際の死刑囚だろう。絶対服従を条件にプロハンターが雇用することはままある。ボポボは命令違反はおろか脱走の煽動までやらかした……極刑は当然。むしろ見逃せば雇用側が罰を受けるケースだ」
そうなんだ……。雇ったら何してもいいってわけじゃないんだ。
「ここが現実……」
「そういうこと♠︎」
ボクが説明したかったのに、とヒソカが小声で呟く。
「気付かなかった」
「疑いすらしなかったわさ」
私もゲンスルーに教えられるまでは全く疑いもしていなかった。
その時、ダンっとレイザーが床でボールを跳ねさせた。
「ま、本来はどっちでも同じことさ。外界から隔離された空間であることに変わりない」
「えっ…… ちょっと待って、現実ってことはじゃあまさか……ジンもこの中にいるの!? G.Iのなかに!」
「ジン?」
ゴレイヌが言う。私も知らない名前だ。
「そうか。お前がゴンか」
「うん!」
レイザーのオーラ量が跳ね上がる。圧倒的……!
これは……やはり、かなり
「お前が来たら手加減するな……と言われてるぜ。お前の親父にな」
ゴンは嬉しそうだけど……あいにく私は手加減なしの勝負とかはどうでもいいタイプだ。
全く、こっちは萎え萎えだよ……。それじゃゴンがいなかったら手加減してくれてたってこと? 最悪だ……。もちろん勝つつもりだけど、こんなので致命傷を負いたくない。
私がストレスを感じていると、すっとゲンスルーが手を挙げた。
「こちらから1人出す件だが……俺が出よう」
「ゲンスルー!?」
大丈夫なのか、とニッケスが言う。そっか、まだこの人達は仲間だと思ってるんだよね。
「ルールを聞かせてくれ。外野はアリの状態でのスタートか?」
「ああ。両チーム内野7名、外野1名でのスタートだ」
「それじゃあ、俺を外野にして始めてくれ。流石に自分の命を守るぐらいの力量はあるさ……。そっちはこれで大丈夫か?」
「うん。やりたいならいいよ」
「決まりだな」
これで、8対8……!
あとは勝てるかどうかだけ……!