美しくあるために   作:ゲボ

38 / 46
「解放」

 私がスタート地点に来た時には、まだ誰もいなかった。まあ気長に待とうと思って柱の後ろに隠れて絶をする。どうせ爆弾で気が動転して気配とか気にしてないだろうし、これなら彼らが来たとて気付かれないだろう。

 奴隷達がちゃんと働いているか追跡(トレース)で確認していると、ハメ組の方々が来たようだった。私と同じく初心(デパーチャー)でここに来た人の元に、他の人達が同行(アカンパニー)で飛んできたらしい。ここにいるのは主要メンバーと他数人……残りはアジトかな。

 会話することなく、不安そうに押し黙っている。

 すると私の座る柱の後ろで、誰かが階段を降りてきた。……バラだ!

 手に持っているのはビニール袋……に、プーハットの首。きっと交渉をしようとして殺されたんだろう。こういう心臓の強さは結構好きだったけど……死んじゃうぐらいの弱さだったのが残念だ。

 バラは彼らの元に歩いていき、ドスッと袋を放り投げた。

「土産だ」

「う……っ!」

 ここからは見えないけど、プーハットの首に驚いているんだろう。

「もし次! 指定ポケットカード81種を持ってこなかったら交渉中止だ。……『離脱(リーブ)』」

 彼らは応えない。命を握られている立場なのに、媚びへつらうのも下手で可愛げもない。

「スペルカードだよ、『離脱(リーブ)』! ゲーム外(あっち)へ戻るからよこせ」

「ふざけるな『離脱(リーブ)』はとても貴重なんだぞ! ホイホイと渡せるか!」

「おい」

 こういう時まで価値とか気にするアッサムが声を荒げた。それをノームデューが止める。

「そうか。じゃあしかたないな。俺が戻らないとお前達の爆弾を一斉解除するのはムリなんだが」

「何?」

「実は俺も爆弾魔(ボマー)だ。ま……ゲンスルーが本体なら俺達は備品みたいなもんだが。『爆弾魔(ボマー)』は3人いるのさ」

 うわ、備品だなんて……ゲンスルーが聞いたらめちゃくちゃ怒りそうな発言だ。後でチクっておこう。

「3人が右手親指を合わせてキーワードを言うと対象者(ターゲット)に取り付けられた爆弾は消滅する。それがもう1つの解除法だ。ま……すぐに戻れないんならしかたないさ。俺は正規のルートでゆっくり戻るから……お前らはしばらくしたら死んでくれ」

「ちょ、待ってくれ! 使ってくれ……!」

「ん」

 コンターチがバラに離脱(リーブ)を差し出す。その瞬間彼は殴られ、吹っ飛んだ。

「始めからそうしろ……! グズがよ。次の交渉の時も『離脱(リーブ)』が必要だ! 3枚用意しとけ、いいな!」

 バラはそう言い残すと、離脱(リーブ)で現実に戻って行った。後にはハメ組のメンバー達が残る。

 ……そういえば、ニッケスがいないな。それとジスパーも。主要メンバーが集まっている現状を見るに、何か来れない事情があるのだろうか?

 それとも、ここにいるのは交渉に行ったプーハット待ちの人間だけか……。というか、生首って持ち込めるんだ。あれは死体として消滅しないだろうし、このまま朽ちていくのだろうか。

 その時。

『他プレイヤーがあなたに対して交信(コンタクト)を使用しました』

 私は会話が聞こえるように聞き耳を立てる。

「……ニッケスだ。ジスパーが今、死んだよ……。死体も残らなかったさ……。こちらは指定ポケットカード81種をあいつらに渡すということで意見が一致した。そっちはどうだ?」

「交渉に行ったプーハットだが、生首になって帰ってきたよ。それと追加で離脱(リーブ)3枚が必要だと」

 アッサムが答える。そっか、ジスパー死んじゃったんだ。彼はハメ組内の貴重な戦闘要員だし、大方ゲンスルーを攻撃しようとして一握りの火薬(リトルフラワー)でやられたとかだろう。

「それぐらい命に比べれば大したことないさ。今カードを全て俺のバインダーに集めている。……少ししたらあいつらの所に行くよ」

「ああ……」

 重苦しい空気の中、交信(コンタクト)が切れた。

 

 

 しばらくして。ニッケスとゲンスルー、サブ、バラが階段を降りてきた。

「どうなったんだ!?」

「解除はまだか!?」

 そう言うアッサムとノームデューを他所に、サブの出したバインダーをゲンスルーとバラが覗き込む。

「おお……」

 バラの口から声が漏れた。これだけのカードが揃ったバインダーは、さぞ壮観だろう。私も早く拝みたいなあ。

「指定ポケットカード81種……確かに受け取った」

「さあ条件通りにしたぞ! 爆弾を解除してくれ!」

「もちろんだ、約束は守る。その前に俺達がゲーム外へ戻るための『離脱(リーブ)』をくれ」

 ニッケスがゲンスルーに3枚の離脱(リーブ)を手渡す。

「OK取り引き成立だ。サブ! バラ!」

 3人が右手親指を合わせる。

「行くぜ」

 そして……!

「『解放(リリース)』!」

 瞬間、物凄い衝撃音と共に彼らの身体が弾け飛んだ。頭に取り付けられた者は眼球から脳みそ、顔の大部分。肩に取り付けられた者は肩から顔ーー顎、そして歯。腹に取り付けられた者は内臓が飛び散る。

 人間が一瞬で死体になり、動かなくなった体と内容物と血液が、グリードアイランドの綺麗な草原を汚した。

 ……5年。彼らの地道な努力が実った瞬間だった。

「解放してやったぜ……くくくくく……恐怖からな。守るわきゃねーーだろてめーらクズとの約束なんてよォ! 『解放(リリース)』は解除じゃなくて起爆の合図さ! ハハハハハハハアハアハアハ!!」

 ゲンスルーの高笑いが静かになった草原に響き渡る。私も静かに笑いを漏らした。ゲンスルーって普段結構冷静なのに……それだけ嬉しいんだな。

「おいチア! いるんだろ、出てこい」

「バレてた?」

 絶を解き、柱の後ろからひょっこり顔を出す。彼らの後ろでハメ組の死体が消滅した。

「勘だよ。お前は近くで見たいタイプだろ?」

「その通り。それにしても、言ってた通り派手だったね」

「だろ? にしてもスッキリしたなー。仲間ごっこも5年やると疲れてしょうがねェよ」

「これで俺らも堂々と一緒にプレイできるってワケだ!」

「チアも正体バレてるしな」

 サブとバラが笑う。彼らもゲンスルーと仲間でありながら、G.I内ではコソコソとプレイしなくちゃならなくてしんどかっただろう。

「あっ、私にもバインダー見せてよ!」

「ブック!」

 サブの開いたバインダーを見せてもらう。……すご。これは確かに声も漏れるな。

「ハハ……やったね! すごい……マッド博士の整形マシーンもある〜!」

「これに俺の手持ち9種と、奇運アレキサンドライトで合計91種……!」

「まずは複製(クローン)で大天使の息吹を増やそうぜ。最悪他の組の引換券が大天使になってる可能性がある」

 サブの言う通りだ。ツェズゲラ組が大天使を保有した可能性は十分にある。ということで指定ポケットのカードを整理しがてら、私達は大天使の息吹に複製(クローン)を使用。結果はーー

「よしっ! 2枚ゲット! これで大天使の息吹と闇のヒスイを独占だな」

「これで少なくとも他のチームが先にクリアすることは防げるね」

 バラとハイタッチをする。聖騎士の首飾りは複製(クローン)で作ったカードも元に戻っちゃうから、ひとまずコレはバラと私で所持するということになった。

「んじゃ早速マサドラ行くか。奴隷は……5人だったか?」

「そ、5人。同行(アカンパニー)結構ゲットできたから、それで行こ」

 そうして私たちは、可哀想なモタリケ君の元へ飛んだのだった。

 

「みんな集まってくれてありがとう! これから君たちには、リスキーダイスを振って、カードショップで買い物をしてもらいます」

 集めた5人の前で説明する。「リスキーダイス」の言葉を聞いた瞬間、彼らが震え上がるのが分かった。

「じゃあ後はお願いね」

 私は続きをゲンスルーらにバトンタッチした。こういう恫喝まがいのことは、私よりも彼らの方が適任だろう。

「お前達の有金がなくなれば俺らの金を渡すから、ダイスを振った者からショップに買いに行け。くれぐれも()()()だなんて悪い気は起こすなよ」

 ゲンスルーがダイスを持ち、彼らの前に差し出した。

「ほら、最初にやる奴は?」

 答えはもちろん沈黙……。

「じゃ順番に行くか。お前が最初に振れ」

「え……っ、あ、ハ、ハイ!」

 ゲンスルーは一番左に座っている男にダイスを押し付けた。彼は目をぎゅっと閉じ、震える手でダイスを振る。

 それは転がり……「大吉」で止まった。

「はぁあ……」

「よし、じゃあお前買ってこい」

「頑張れよ〜」

 サブとバラがヨロヨロとカードショップに向かう男に手を振る。お手軽桃源郷(ユートピア)使っちゃうと、恐怖心がなくなるあまり無計画に逃げたりする可能性があるからなあ。だから使えないのだ。

 ゲンスルー達が、残る男達に視線を戻す。

「さて……じゃあ次はお前だな」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。