ドサ……。
私に殴りかかっていた拳の勢いがなくなり、私が軽く左に避けるとーービスケはそのまま前に倒れ込んだ。
「はは……ははは……よ、よかっ、たぁ……」
私の左手には
そして、それが見事的中したんだ!
今まで針とか血液入り小瓶とか色々試してみたけれど、もっと距離を取って戦えないか考え、今回水鉄砲を新たに取り入れたのだ。血液は固まらないように加工して。
敵がゆったりとした服を着ていたら何かを隠していると疑うのが常識だけどーー彼女自身ファッションとしてロリータを着ていて、尚且つ私もファッションでロリータを着ているのを知っていたビスケだからこそ、コレを隠していることを疑わなかった。
……良かった。これで1時間は安泰……! いや、でも早く行かないと。時間がない。
私は立ち上がってスカートの土埃をパンパンと払いーーいつのまにか元の姿に戻ったビスケを振り返った。
「ビスケのおかげて私、こんなに強くなれたんだよ。……それと、あの姿もカッコイイじゃん。またね、バイバイ」
返答はナシ。だって精神の鎮痛もオンにしてるもん、今は特に敵意もないんだろう。
私は光の差す表通りに飛び出した。
「いままでありがとう、アーニー君。これで君の役割はおしまい」
バインダーから
今すぐゲンスルー達の所に行きたい。でも
お願いだから、勝っていて……。
「
本日何度目かのまばゆい光に包まれ、私の体はマサドラへと運ばれる。
……
走ってショップに向かう。
プレイヤー狩りの噂が広まっているせいで運悪く誰にも出会わない。誰かいたらショップまで向かう時間を短縮できたかもしれないのに……!
最悪だ。
全速力で走ってーー5分ほど経っただろうか。私はようやくカードショップに入った。
いつも通りカードショップの説明をして来ようとする店員を「知ってます」で黙らせ、購入したカードをショップ内で開封する。
……あった!
とにかくコレを使って、まずはゲンスルーの所に飛ぼう。ゴンが一番カードを持っているはずだし、もし万が一ゲンスルーが負けてしまっても私がゴンを倒せばいい話。ゲームのシステム上、というか彼らは殺しをしないはず。
このまま外に出るとカードが消滅しちゃうから、一旦バインダーにしまった。
そしてショップの外に足を踏み出すーーこれで。
さっきしまったばかりの
カードを持つ手の甲に衝撃が走った。
何これ、矢!? なぜ、一体誰が……。
次の瞬間。
一瞬辺りが暗くなりーー私はゲーム機の前にいた。
ここはバッテラの古城? 挫折の弓か!
あれを装備すると残っている弓の数だけ
しかし私を射ったのが誰であれわざわざゲーム外に出したということは、誰かがスタート地点で待ち構えているということ。私が預かっているカードは闇のヒスイ。ゲイン対策分はサブとバラが持っているけど、カードはダブり含めて全て私のバインダーに入れてある。でも私がゲーム外に出たらフリーポケットのデータは消滅しちゃうから……今頃サブとバラ所持の闇のヒスイがカード化されているはず。頼むから、勝っててくれよ……!
もう一度グリードアイランドに戻ろう。それが例え……罠だったとしても。
始まりの階段を降りる。最初にここに入ってきた時は、まさかこんなに早くゲームクリアに近付けるとは思ってなかったな。まさか
「チア」
広がる草原にはゴンが1人。今度こそケリを付けなければならない。
「1人なんだね。大勢で待ち構えてるかと思ってた」
……きっと、ゴンが私を1人で倒したいとでも言ったんだろう。長袖長ズボンは、確実に私の能力への対策。もしかしたらビスケから
そして。私を倒しに来たということは、おそらく彼らはーー。
ゴンがバインダーを出す。
「ゲンスルーは倒した。あとはチアが持ってる闇のヒスイだけ……! だからここで約束しろ。先に『まいった』って言った方が持ってるカードを全部相手に渡す……!」
ゲンスルーが負けたってことは、きっとサブとバラも負けたんだろう。ぐっと歯を食いしばる。
……そうだ、ゴンはこういう人間だ。私達の独占がなくなったんだから、闇のヒスイなんて自分で取りに行けばいい話。それなのに、カードを全て奪われるリスクを冒してまで私と戦おうとしている。
「……それって、あまりにも私に利がある提案じゃないの? 私が勝てばカードを総取りでクリア可能。そっちが負ければカードを全て失うーーたった1枚のカードのためだけに、なんでそんなこと」
「それは俺が負けたらの話だ。俺はーー絶対お前には負けない!」
ゴンの“練”。ゲンスルーと戦ったはずなのに、あまり疲れが見られないーー大天使の息吹を使ったか?
「OK、乗ろう。先に『まいった』って言った方が負け、ね」
こちらも“練”……!
ゴンになら失態を犯さない限りは勝てるはず……! おそらく彼らはビスケが倒されることは作戦に入れていない。これはイレギュラー!
ゴンに右半身を向けた姿勢で右腕を前に伸ばす。つま先に体重を乗せて、前後左右どちらにでも動けるように。
「だッ!」
来た! ゴンの回し蹴りを避けつつ首元に手を伸ばすーーも、上手く避けられた。流石、対策しているな。
ゴンのアッパーを避ける。ゴンは私のフックーーというかビンタを避けつつ地に這って回し蹴り。……攻撃自体はさほど重くないし避けられるけど、手数が多い。
これじゃ針や水鉄砲を操作して取り出す隙がないな。
ならば、作るまで!
突っ込んでくるゴンの拳を左に交わして左拳の攻防量を70!
ブッ飛べ……!
「ぐェッ……!」
ゴンの体が後ろに吹っ飛ぶ。私が直接的なダメージを与えてくるとは思っていなかったのか? とにかくコレで隙がーー
「なっ……」
「ダァッ!」
向かってきた!?
いや、動きが鈍い。相当効いたはず……なのに、無理矢理体を動かして私に特攻して来ている。ただ私の隙をなくすためだけに。
ゴンの左拳にオーラが集中しているーーバレバレだ!
「行くぞ!」
私に向かってきたゴンを闘牛士のようにかわす。しかし聞こえたのは
「は……っ!?」
コイツ、最初から私を狙ってたんじゃない。スカートを破った……!?
当然、破れたパニエからは血液入り水鉄砲が落下する。いや、まだーーまだ使える!
ガッ。
ゴンの靴が、落下途中の水鉄砲を遠くに弾いた。
「チッ……」
奥の手は封じられた。しかし戦闘力なら私の方が上!
肘を思いっきりゴンの背中に打ちつける。いや、さほど手応えがない……予測してオーラを集中させていたか。ゴンはそのまま体を翻して私に殴りかかる。まだまだ攻防力移動がお粗末だ。背中に集めたオーラが滑らかに拳に乗っていない。
ここはカウンターだ。
ゴンの拳が向かってくるギリギリのその時まで、私は右拳にオーラを集中!
リーチは私の方が上。スピードも私の方が上。攻防力移動の練度も私の方が上……!
突き出した右拳が肉に沈む感触がする。やはり当たった。ゴンは今度こそ吹っ飛んで、シソの木の柱に打ち付けられた。
無防備な腹にたっぷりオーラを込めたパンチをもらったんだ、今度こそ向かって来られないぐらい悶えている。
でも、もっとだ。もっと完膚なきまでに打ちのめさないと、ゴンは「まいった」なんて絶対に言わないだろう。
私がゴンの元に向かおうと足を踏み出したその時。ゴンがよろよろと立ち上がって、そのままシソの木の下に入った。……何を、する気だ?
急激に生み出された莫大な量のオーラが、全て……ゴンの拳に集まっていく。
「最……初は……、グー!」
必殺技!?
いや……しかし20メートル以上離れている。当たるわけがない!
未完成のパーは放出系の技だから、完成すればそこからでもダメージを与えられるかもしれないけど……私がいないあの短期間で技が完成するはずない。なら、なぜ!? 何を!?
「ジャン! ケン!」
……いや、ゴンの前の柱に、何かいる? 何アレ……黒っ、ゴリラ? よく見ればゴンは
「
ゴレイヌの声……瞬間移動系の能力か……! 目の前にはゴンの拳。後ろには柱。逃げられない! 今からオーラを移動させても間に合わない!
どこを狙う!? 腹……、ってことにしよう、とりあえず。これが正解なら多分、ギリギリ、致命傷は避けられるはず……!
「グー!」
腹に伝わる衝撃。
「ぐぅ……ッ! が……ッ、は……ッ!」
体がくの字に折れ曲がる。見開いた目からカラコンがぽろりと落ちた。とんでもなく痛い。胃液が逆流して吐きそうだ。
でも……このまま、ゴンの腕に噛みついて傷口に唾液を入れる程度の余力はある!
「アイコで……」
アイコ!?
聞、いて、な……!
「グー!!」
顎に伝わる物凄い衝撃。
世界がぐにゃりと歪む。
……あ、あー……。……負けだ。負けちゃった。
視界が真っ暗になって、次の瞬間には頬に触れる草の感触だけがした。