目を開くとそこは、だだっ広い青空。
ああ、私、ゴンに負けちゃったな……。ゴレイヌの能力を知らないまま、あまり警戒していなかったのが失敗だった。あと、ちょっとだったのに。ママと同じになれるはずだったのになあ……。
「お、気付いたか。バインダー出して」
キルアが私を見下ろしている。そしてその奥には、ゴンと、ゴンに支えられているビスケーーゴレイヌ、そしてツェズゲラ組。
「……その前に、ひとつ聞かせて……。あの時、どうして私が裏切り者かもしれないって分かったの?」
ゴン達がツェズゲラの方を見る。そして、ツェズゲラが私の前に来た。
「もう隠す理由もないから教えてやろう。ビクテムとはな、一度トレードしたことがあるんだ。さほどカード枚数は多くなかったが……
ああ……ずっと前からミスってたのか。完敗……だな。
「……ゴン。そういえばアレ、言ってなかったね。『まいった』よ……カード、持ってって」
ブックと唱える。ゴンは私のバインダーから闇のヒスイを取り出すと、自身のバインダーにはめた。
「アンタ、あたしのこれ解除しなさいよ! もう意味ないでしょ」
「ああ……」
そうだった、ビスケに鎮痛かけたままだったな。確かにもう何の意味もないので、鎮痛をオフにした。ビスケはようやくと言った様子でため息を吐き、私を見下ろす。
「ゴン、
「うん」
ビスケにゴンがカードを手渡す。……なんで?
「何に、使うの……?」
「大天使の息吹だわよ! コイツらもそれで治したから安心なさい。ったく、ゴンも無茶しすぎだわさ! アンタももう一回使うわよ」
「え……えっ……、ハァ!? なんでわざわざ……そんなこと」
「そう思うよな」
ゴレイヌがため息を吐く。大天使の息吹……!? 確かにクリアするなら
「や、ちょっと、約束と違うでしょ……ビスケは裏切ったら殺すって!」
「ま、戦う前はね。でももう勝負はついた。あたしらの勝ちよ、チア。それならあたしらに決定権があるでしょ?」
「い……嫌! やっぱ嫌! そりゃあなた達がそういう人なのは分かってたけど、私には使わなくていいから! 私裏切ったんだよ!? 能力も情報も全部流して……それなのに、なんで!」
「許してないよ。チアも、ゲンスルー達が大勢の人を殺したことも……。でも俺、チアのおかげで強くなれたんだ。それと裏切りは関係ない」
「俺もな。それについては感謝してるよ」
キルアが笑う。……やだ、嫌だ、負けて情けまでかけられて、ママの顔にもなれなくて、そしたら死んだ方がマシだ。どうせこれから死ぬんだから、治してもらわなくていい……。治してもらいたくなんて、ない。
涙がボロボロ溢れ出る。最悪。カラコン取れるし、服も破かれるし、メイク崩れるし、こんなとこで横にさせられて……。あーあ、きっと惨めだって思われてるんだろうなあ。でもそんなのももうどうでもいい。
「……クリアできないなら……目的が達成できないなら、私に生きてる意味ないの! どうせこれから死ぬ奴をわざわざ治す必要なんてないでしょ……、とにかく、私には使わなくていいから」
「いーや使うね! 全員で決めたことなんだ!」
「い、や、だ! そんなに治したいなら治した後ソッコーここで死んでやるから。意味ないんだよ!」
「使う!」
「嫌!」
まあまあ、とゴレイヌがゴンの肩を掴む。
「本人もそう言ってるんだ、別にいいだろ。死ぬほどの怪我ならまだしも……こんなに元気なら治す必要はない」
サブがコソッと「本当に大丈夫なのか?」と聞いてくる。……多分、
「しょうがないわね……。2人を鍛えてくれた礼として、特別に言う通りにしてあげるわさ。次会ったら覚悟しなさいよ」
「……それでいいんだけど」
やっぱり嫌だと言うゴンをゴレイヌ達が宥め、彼らのカードの譲渡が始まった。……そういえば、なんでツェズゲラ組とゴン達が協力してるんだろう。
「気になる? バッテラさんの依頼がキャンセルになって、ゲームクリアの必要がなくなったそうよ。あたしがアンタに負けて倒れてる時に、
「……そう。ハハ……全部読まれてたんだ」
「……でも、みんなに大天使の息吹を使ってくれたのはありがと」
ビスケは数秒私を見つめると、私の横でかがんで……小さく口を開いた。
「アレを『かっこいい』だなんて言ったの、チアだけよ」
呆れたように笑う。その視界がまたぐにゃりと曲がってーー真っ暗になった。今度こそ深い眠りにつくのだろう。次起きた時はどうなってるかな……。プレイヤー狩りをしまくってたんだ、恨みがある連中にリンチにされててもおかしくない。でもまあ、それでもいいかな。
鏡に映るのは、目が細くて小さくて腫れぼったくて、鼻は大きくて潰れてて、角張った輪郭にガタガタの歯並びの私。……子供の時のチア=クロッバー。
どれだけ丁寧に歯を磨いても歯並びから来る印象の悪さは消えない。どれだけ痩せても目は腫れぼったいまま。スキンケアをして肌がまっさらになったところで、元がダメなんだから何も変わらない。唯一ママから引き継いだ、桜のような薄ピンクの髪だけが自慢だった。毎日頑張ってケアして、
身支度を終えた私は、レースが何重にも重なったベールを頭にかぶる。私はその醜い顔を見たくないからと、ママに家にいる時は常に顔を隠すことを命じられていた。
……それに、顔を隠してさえいれば私でも客を取れる。
子供が好きな客に体を売るのだ。娼婦のママはそれしか稼ぎ方を知らなかったし、その子供の私ももちろん同じ。「アンタみたいな顔で客が取れることに感謝しなさいよ」と言われて育った私は、ほぼ毎日のように男に抱かれていた。
しかしある日。私を買わせてくれないかと言ってきた男がいた。ママが高額な値段をふっかけたせいでそれは叶わなかったけど……その男のおかげで私の人生が変わったのだ。
彼は念能力者。それも、他人の念を開花させるタイプの……!
私はその晩彼に抱かれて中で射精され、初めて
この能力のおかげで私の生活はだいぶ楽になったのだ。強引な性交にも苦痛を感じずに済むし、何を言われても何をされても心が傷つかない。
そしてある日。
私は再婚しようとしたママが許せなくて、その細い喉を絞めて彼女を殺した。念を覚えた者とそうでない者の力の差は一目瞭然。ママはなんの抵抗もできず、その美しい顔を苦痛に歪めて醜いまま、死んだ。私はママとーーその彼氏と私が写っている唯一の写真を持って家を出た。あんな顔のママがこの世に存在するのが嫌で、家を燃やした。
どうしてママの顔になりたいのかーーきっかけは覚えていない。それでも、一番大切で大好きで美しくて、でも大っ嫌いで憎い人だったから。私は自分でママを復活させようとしていたのかもしれない……。殺しておいて、ね。