あったかい。なんだかふかふかしててーーここ、どこ?
目を開く。真っ白な天井。そしてその瞬間、体のあちこちに痛みが走った。
「痛っ……」
今まで無意識に私を守ろうとして発動していた
「あ、チア起きた」
バラのその言葉にゲンスルーとサブもこちらを向く。……え、なに、ここ、現実?
「……気分は?」
ゲンスルーが読んでいた雑誌をパタリと閉じてそう言った。
「わ、かん、ない……。ここどこ?」
「病院だよ。お前が大天使の息吹を拒否した後、全然目覚めねえから俺らで運んだんだ」
呆れたようにため息を吐く。わざわざ……運んでくれたの? 病院に……?
「金は俺達が払ったからな。これから働いて返せよ」
「うん……。あの、ごめん……私のわがままで、迷惑かけちゃって。普通に大天使の息吹使ってもらってたら、こんなことしなくて良かったのに」
ああ……ダメだ。あの時から精神がぐちゃぐちゃになっちゃってる。声も震えるし、涙が目に溜まって視界がぼやける。でももう泣きたくないよ……。
「チアがどれだけその『ママの顔』とやらに執着してたかは俺達も知ってるさ。だからそれが叶わなかったら死んだ方がマシだってのも理解できる」
サブがそう言って笑う。バラも、
「でも死なせないからな。金なんてまた集めりゃいい」
「ああ。それに
ゲンスルーが懐から一枚の写真を出した。それは、ママの写真……!
「えっ、なっ、なんで持ってるの!?」
「手術の前に服全部脱がせられて渡されたんだよ! マッド博士の整形マシーンには対象の写真が必要だったろ? だからどっかに隠し持ってると思って探したんだ」
下着のパッドの中まで探したってこと……? すごいなこの人達。
「チア、言ってなかったお前のことについて聞かせてくれよ」
「前は『もっと仲良くなってから』って言ってたもんな?」
サブとバラが笑いながら言う。流石にここまでしてくれて、言わないわけにはいかないよね。
「ママが村で1番の美人で憧れだったってとこしか言ってないよね。……ママは娼婦で、私はその客との間にできた子なの。だからこの髪色だけはママと同じだけど、それ以外は到底美人とは言えないーーというか普通よりも下の顔だった。ママはそんな私が嫌いで、家にいる間はずっと顔を隠さなきゃいけなかった。そしたら優しかったし……。で、そのうち私も客を取らされるようになって……そこにたまたま
「変わった念能力者だな」
「うん。そいつ私を買い取りたがってたから、理想の念能力を使える人形が作りたかったのかもね。ーーで、そのうちママに彼氏ができてーーうちに居候するようになって、家族ごっこしてたの。もちろんちゃんとした男だったら良かったよ。でもそいつ働かないし私にもママにも暴力振るうし、ママとヤってるとこを私に見せつけるわ私もコッソリ犯すわで……まあ最低だったわけ。なのにママはそいつが大好きで結婚するって言うから……許せなくて、殺しちゃった」
「男じゃなくて親の方をか?」
バラが不思議そうに聞く。
「うん。私の客もみんなそんなもんだし、別にどうでも良かったの。ただ私は、そんなダメ男に誑かされてるママが惨めで許せなかっただけ。私が憧れてたママは、そんなんじゃなかったから」
もっと、孤高で、高嶺の花で、誰にも媚びない人だったのに。いつの間にかただの「女」に成り下がっていたのだ。許せなかった。私の憧れだったのに、ママは1番じゃなきゃいけないのに……あんな男に!
享年35歳。私はもうすぐ、ママが死んだ年になる。それまでにどうにかしてママのようになりたかった。生きられなかった
「じゃ、こんな奴になるな」
ビリッ。目の前でゲンスルーが写真を破いた。
「あっ……あ〜〜〜〜〜!!!! なっ、ななな……なにするの!? これっ、ママの写真! 1枚しかないんだよ!?」
「ちょうどいいな。これを機に忘れたらいい」
「人殺しぃ……!」
「そうだよ」
ゲンスルーがそのまま破片を握り、
「いくらお前が好きで執着してる相手でも、俺らからしたらダチを苦しめてる知らないババアなんだよ。それに大して美人じゃねーし」
ゲンスルーがほんの僅かに残った灰を払った。……ダチ。
「そーそー。それにまだそこまで似てないだろ? チアはもっと近付けたいんだろうけど、俺はそんな奴よりチアの顔のが好きだぜ」
バラがにかっと笑う。確かにまだ似せきれてないけど……だからマッド博士の整形マシーンで完璧にしようとしてたんだけど。
「それに目だって、わざわざ黒いカラコンつけるより元の方がずっと綺麗だろ」
髪の色とも合ってるし、とサブが言った。……こ、この人達って、この人達って……!
「も……もぉ〜! 私のこと大好きじゃ〜ん♡」
彼らが安心したように笑う。
「だからチア。お前の次の
「……いいの?」
当たり前だろ、と3人が口々に言う。脳に衝撃を受けたせいなのか、単純に心が揺れ動かされすぎなのか……。
またしても涙が溢れ出た。
「そしたら、先になんて死ねないね」
「当たり前だ」
そっかあ……。私のままで、好きでいてくれる人達がいるんだ。それなら私だって、大切にしないと。
「ゲンスルー、サブ、バラ。私もあなた達のこと、だ〜〜〜〜〜い好き!」
「うわっ」
ベッドの横に並んで座ってる3人を抱きしめる。あちこち痛いし点滴台も倒れちゃったけど、気にしない。
彼らを解放すると、ゲンスルーに呆れた様子で「アホ」と言われた。
「チア〜、そういうことはあんま気軽にやるもんじゃないぜ」
「友情崩れたらどーする」
バラに軽く頭を叩かれる。崩れないでしょ、そんなことじゃ。
「私知ってるよ。3人とも、他人のうちは恋愛として好きになれるけど……ここまで親密になっちゃったらむしろ家族枠でなんにも思わないんでしょ? 途中から接し方全然違ったもん」
「……悪いか」
「全然! 私が家族と作れなかった思い出、3人と作らせて」
涙を拭って、いつもみたく笑ってみる。クリアは絶対したかったけど……でもそれはそれとして、こんなに嬉しいことを言われるなら
「あ、そういえば。お前の病態言ってなかったな」
ゲンスルーがぽつりと呟いた。
「ど、どうだったの……?」
「脳震盪、下顎骨骨折、歯牙破折4箇所、肋骨2本骨折、腹腔内出血。それからシリコンバッグの破裂だとさ」
「丸2日寝てたんだぞお前」
バラに付け足される。……ま、丸2日……。改めて彼らには多大な迷惑をかけてしまった。
「ごめん。ホントごめん……。治療費高かったでしょ?」
「闇医者にしては安い方さ。割引もあったしな」
「割引?」
「麻酔なしだから」
ゲンスルーがなんてことないようにそう言った。
「確かに
「めっちゃ穏やかな寝顔だったけどなー」
サブが笑う。でもこの能力のおかげで安く済んだなら良かった、のかな……?
「その能力、思ったより厄介だな。普通怪我したら自己治癒に使うオーラが全部鎮痛の方に行って、もう一般人とほぼ変わらなかったぞ」
バラが言う。特に今回は自暴自棄だったから、死んでもいいって思ってたし……。
「……うん。だって、とにかく私の辛さを取り除くための能力だから。原因をなくすものじゃないからね。まあとにかく、助けてくれてありがとう! ーーというか、私のことどうやって外に出したの?」
「挫折の弓」
「あ〜……」
アレかぁ。挫折の弓によって苦しめられたけど、今度はそれに救われたってわけだ。私がしみじみしていると、サブとバラがゲンスルーのことを肘で小突いている。
「ほらゲン言えよ!」
「……どうしたの?」
「ん? ああ、ゲンがな……」
「あー……言う! 言うから黙ってろ」
ゲンスルーは2人を黙らせ、気まずそうに口を開いた。サブとバラはニヤニヤしている。
「……呼び方。チアも『ゲン』でいいよ」
その呼び方は。サブとバラ、2人だけしか使ってなかったのに……。
「……い、いいの?」
「俺がいいっつってんだからいいんだよ!」
「こっちのがより仲間入り、って感じするだろ?」
「呼びやすいしな」
よく分からないけど物凄く嬉しくて、思わず笑ってしまう。ゲン……ゲンかぁ。
「ゲン、サブ、バラ……確かに呼びやすいね」
チアもちょうど2文字だし……なんか、嬉しいなあ。
「ねえ。ここの入院費と治療費、働いて返すって言ったよね? 次はなにする?」
「殺しは?」
ゲンスルー……改めゲンが、笑いながら聞いてくる。
「やめるわけないでしょ。次はもっと上手くやろう!」