変わってしまったのは 作:ロクデナシな文字書き
夢をみた。
とてもぼんやりとしていて、けれど印象に残る夢をみた。
何者にも染まらない、深くてさらりとした黒髪を靡かせている人を。
その隣で身体よりも大きな盾を持っている、美しい紫陽花色のショートカットの人を。
その後ろ姿が、手を差し伸べている人影が沢山写った光に飲まれて行くのを。
一瞬、二人が微笑んでいるような素振りを見せるのを。
その直ぐ後に、表情が見えなくなってしまったのを。
その二人の内の黒髪のその人が、私の友人によく似ていたのを。
それは、とても美しくて、儚くて、悲しくて____
____何故か、そこはかとなく、恐ろしかった。
***
そう、私は夢をみたんだ。
「でさ、俺は帰らされちゃったんだよね、一回くらいは実家に戻っとけって」
目の前で困ったように話す友人によく似た、いや恐らく本人であろう人の夢を。
彼の名は藤丸立香。私のクラスメイトで、家がご近所さん故に小学生からの幼馴染__私が小学3年生くらいにここに引っ越してきたから正直幼馴染と言っていいのかは分からないけど__だ。
けれど、私と立香は実際話すこと自体は少ない。何かと縁がないのだ。名前順だと離れるし、席は遠いし、部活もタイプが全く違うし、絡む友達も違うし。
だからといって仲が良くないかと言われると、そうでもない。むしろ私達は話せる機会があれば普段からは想像もつかない程に仲良く見えるだろう。こればっかりは付き合いが長いからこその信頼、だと思う。
だがしかし、今その信頼は危ういものになっていた。____私からの一方的なものだけど。
夢を見たことは、特に気にしていない。別に単なる夢だし。……でも正直、隣にいた女の子は気になるかも。後ろ姿でもわかるくらいの美人さんの隣ってずるい。立香、そこ私と代わりなさいよ。
……それはさておき。私がおかしいと感じているのは、立香の体格と雰囲気が明らかに変わっていることだ。
実は今、世界は謎の現象によって知らぬ間に一年、時が過ぎてしまっている。それも、立香がカルデア? とかいうよくわからない国連機関に行ってから。ニュースはずっとその事で騒いでいるけど、一般人からすれば特に気にすることじゃなかった。
まぁとにかく、それだけなら疑いもしなかったし、普通にこの現象が発覚してからも向こうで働いているみたいで暫く帰ってこなかったから、特に気にはしなかった。少し心配っちゃ心配だったけど。
だけど、帰ってきた立香を見てからは、考えが変わった。
まず、体つきが変わってしまった。以前までは華奢な子ども、といった感じだったのに、今では軍人のように鍛えられている。身長も気持ち伸びているような……いやコレは絶対伸びてるわ。
それに、国連機関で、まだ高校生な立香があんなに鍛えられるって、一体全体どういうことだ。普通あり得ないでしょ。
あとそれから、雰囲気も変わった。確かに前から人当たりは良かったけれど、今程頼りがいと責任感と自信のある雰囲気はなかった。目つきも心做しか凛々しくなったようだし、妙に落ち着いている。
立香はまだ、私達と同じ普通の高校生だった筈だ。
それなのに、今ではまるで戦場から帰還した兵士みたいに変わってしまった。
とにかく、私に大きな違和感を孕ませているのだ。
本当に、立香に何があったのだろうか。
「別にもう少しで帰るから大丈夫なのにさぁ……って、聞いてる?」
ムムム、と未だに思い悩む私に気づいた立香が首を傾げる。そうだ、今は立香の家に久しぶりにお邪魔してるんだった。
いつぶりだっけ、中学生ぶり? と思案に耽っていると、急に立香に対して謎の感傷が湧き上がった。
「……んん、ごめん。ちょっと立香が大きくなったなぁと思って」
「ちょっ、■■は俺の母さんなのか?!」
「あらやだうちの子ってばこんなに大きくなっちゃって! おかあさん嬉しいわぁ……あ、立香に女装してもらった時の写真、家にあるんだった。見る?」
「鳥肌立つからやめてっ?! ていうかなんでまだ持ってるの?! あれって小5の頃のでしょ?!」
立香をからかえばツッコミが沢山入るのなんの。もはや慌てすぎて私と目を合わせることもできずに明日の方向へと視線が動いている。というか誰かに弁明しているような目だ。イマジナリーフレンドかな?
にしても、あの頃の立香は可愛かったなぁ、女装が似合ってたのも驚いたけど、嫌がりながらも若干満更でもなさそうだったのが一番驚いたわ。(正確には私とかお母さんたちに褒められたからかもしれないけど。いやでもやっぱりおかしいか)
そのまま楽しく会話を続けていると、ふと今日立香と一緒に行きたいと思っていたカフェがあった事を思い出して、机に立て掛けてあったカバンからおもむろにスマートフォンを取り出す。
「……どうしたの?」
「ちょっと待ってて……あった……えぇと、確か」
何だ? と立香がこちらのスマホを覗き込んできたので、手を突き出して、「ステイ」と一言。
立香が大人しく席に戻ったのを傍目で確認しながら、お目当てのモノを見つけた私は、にんまりと笑みを浮かべた。
「これ、覚えてる?」
立香の目の前にぐっと持っていった画面に写っているのは、かつて私と立香がよく食べに行っていたカフェのカレーライスだった。
***
「んっま〜!」
レトロチックなカフェで、これまた昭和めいたカレーを頬張る。日本特有のとろみのついたスパイスが舌をちょっぴり刺激するカレーと、釜炊きのほかほかご飯との相性は抜群だ。
子どもでも食べれるように、と控えめながらも程よく効いたスパイスの辛味を、ご飯粒を一粒一粒噛み締めた時に滲み出る甘さで調和する。ごろごろとした具材はちょっとした贅沢をしているような気持ちにさせてくれて、なんとなく子どもの頃に戻ったように思える。
小さな頃からよく通っていたこの味は、私達にとっての家庭の味同然で、安心感とその美味しさに声と笑みが溢れてしまって、つい立香と顔を合わせてしまった。
「やっぱおいしいね」
「ね」
「ちっちゃいころはあんなに辛いって言ってたのにね」
「……っ! やめてよ、立香! もう大丈夫だし!」
私をからかいながら頬を緩ませて微笑む少年を前に、幸せ、とはこういう事なんだろうか、とふと思う。
立香は前と比べて確かに変わってしまった。
けれど、やっぱり立香は立香だ。今、目の前で瞳を輝かせてカレーライスに夢中になっているその姿は、あの頃と同じだ。体格が変わっても、雰囲気が変わっても、それでも立香の本質は変わらない。立香は、私の幼馴染で、ただの子どもで、それは今も変わらない。
だったら私は、立香に対してかつてと同じように接すればいい。いつまでも変わらない、安心して帰れる故郷の、ちょっとした仲の幼馴染。
なんだ、簡単なことじゃないか。何を私はうじうじとしていたのだろう。
何故かこの店に入ってからぼんやりとしていた頭がすっきりとして、すとんと、何かが胸に落ちたような気がして、心做しか気分が落ち着いた。思わず微笑むと、立香も嬉しそうに笑みを浮かべた。
「変わってないね」
「うん」
「元気でよかった」
「そっちこそ」
「また、食べに来よう」
「うん」
***
小噺はこれでおしまい。
____え? どこが恐怖と不安を抱くだけのお話だ、って? ハッピーエンドじゃないか、って?
うん、そうだね。これは確かにハッピーエンドだ。いいじゃないか、君たちはハッピーエンドが好きだろう?
それでも気に食わない?
なら一つ、ヒントをあげよう。いや、もはや答えだけどね。
ここまでのお話は、ハッピーエンドだ。
____これで話が終わるのなら、ね。
続きあります。三日後くらいには出したい。誤字脱字があればお願いします。
※訂正※
後日見直したらくっそ駄文だったのでかなり修正。これだから勢いに任せて書くのはやめとけって言われてるんだよ!__2/18