勇者ヒンメルの子供   作:全智一皆

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第五話 成長、或いは離別

 

■  ■

 ―――勇者ヒンメル(ちちおや)の死から24年。中央諸国・聖都シュトラール郊外。

 

 フリーレンが思うに、だ。

 今この世界に存在する全ての魔法使い―――ゼーリエを除いて―――を総動員したとしても、おそらくフェルゼにはどうやっても敵わない。

 フリーレンはそう結論を出した。

 

「―――やはり遅いな」

 

 鋒が空を走り、うねる閃光を容易に斬り裂き、連続して放たれる全ての攻撃を丁寧に捌く。

 本当にどうやってるんだコイツ……と、フリーレンは自分の魔法を全て斬り伏せるフェルゼに、心底からドン引きしていた。

 

 事の始まりは、至って単純だった。

 フリーレンとフェルゼがハイターの下を訪れ、フェルンに魔法使いとしての修行をつける様になってから早くも4年。

 今回はいつもの修行に、フェルゼとフリーレンの実践訓練をフェルンに観察させるという、珍しい修行が加わった。

 魔力の流れを直感的に察知して、相手がどの様な魔法を使うのか概ね把握出来る―――なんて、あまりにも馬鹿げた能力を持つフェルゼが、魔法使いとどの様に戦うのかを見て、その対処法を考えるという修行内容だ。

 ちなみに、それを聞いたフェルンは普通に引いていた。

 

 まぁ、閑話休題(それはともかく)

 

「―――」

 

 一閃、また一閃。勢いを落とさずに次々と無尽蔵に放たれる色白い閃光を、フェルゼは無造作に斬り捨てる。

 一直線に空を斬り裂いたかと思えば、ひゅるりと、蛇の如くにうねり軌道を変えた閃光をすら、まるで見切っていたかの様に逆袈裟に斬り伏せる。

 フリーレンは基本的に、戦いにおいて派手な魔法を用いない。対人戦において、彼女はエルフであるが故の魔力量によって、基礎的な魔法による物量で大抵のゴリ押しが可能だからだ。

 派手で強力な魔法は魔力の消費も多い。それに加えて、自分の実力を無駄に露見させる事にも繋がる。彼女にとって魔法とは楽しむものであると同時に、魔族を殺す為の道具でもある。

 一般攻撃魔法は派手でもなければ強力という訳でもないが、しかしそれ故に魔力の消費も少なく、工夫次第では魔族を殺す事も容易になる。

 その一般攻撃魔法を、熟練の魔法使いであるフリーレンの技術を、フェルゼは造作もなく斬り伏せた。

 

「……」

 

 その様子を実際に見たフェルンの表情を、どう形容したものか。

 純粋に凄い、という感情もあったのだろうが、しかしそれと同時に、フェルゼに対して『えぇ……なんでそんなにあっさりと魔法を捌けるの?』というドン引きも入れ混じった、何とも説明し難い顔をしていたフェルンだった。

 フリーレンは心底から同意した。

 はっきり言っておかしい。頭がどうとかではなく、もうその力量も何もかもが全部引っ括めておかしいのだ、フェルゼは。

 

「やはりフェルゼ様は人間ではありませんね」

「酷い言い草だな。別に無茶な事じゃない。コツを掴み、タイミングを合わせればそれで良い。魔法で魔法を打ち消すのと、何ら大差はない。父さんなら、きっと同じ事が出来た筈だ」

「流石のヒンメル様でも、そこまでは出来ないのでは……」

「……いや、多分出来たよ。ヒンメルならやりかねない」

「えっ」

 

 勇者ヒンメルに拾われ、育てられたフェルゼだからこそ、或いは、10年という時間を彼等と一緒に旅をしてきたフリーレンだからこそ、その信頼があった。

 決して実戦でそれを見た訳ではないし、何ならやった事がある訳でもないけれど、しかしヒンメルなら―――あのヒンメルなら、確かにやれるだろうな、と、フリーレンは確信に近い形でそう思った。

 ふと頭に思い浮かべてみれば、平然とそれをこなすヒンメルの幻想が完成したのは、つまりそれだけの実力が彼にあって、そして、フリーレンがそれだけ彼を信頼しているからこそだ。

 

「まぁ、だとしてもフェルゼのそれが異常なのは変わりないけどね」

 

 それはそれ、これはこれである。どちらにしたって、フェルゼの力量があまりにも異常極まっている事には何ら変わりはないのだ。

 

「……大変不服なのだが」

「いえ、フリーレン様の言う事は合っています。フェルゼ様はおかしいです」

「フェルンが一際毒舌なのが俺には皆目見当もつかない。フリーレン、何故だ」

「私に聞かないでよ。別に良いじゃん、仲良しなんだから」

「なかよし……?」

「はい。私とフェルゼ様は仲良しでございます」

 

 仲良しってなんだっけ? フェルゼは真剣に頭を悩ませた。

 これは自分がおかしいのか? はたまた二人してからかっているだけなのか。どうにも判断し辛い。

 声色から察するに、別にからかっている訳ではなさそうだが……はて、若干罵りが混じる会話の何処に仲良しと判断される材料があるのだろうか。フェルゼには甚だ疑問である。

 

 まぁ、閑話休題(それはともかく)

 

「僅かな差だが、フリーレンのそれよりフェルンの方が速いな。順当に成長すれば、今よりさらに速くなる。これで物量が増えるとなれば……かなりの脅威になるだろうな」

「速い……私の魔法が、ですか?」

「うん。フェルゼが言うんだから、間違いないよ。フェルンは私より魔法を撃つのが速くなる」

 

 今はまだ基礎的な魔力制御の修行が主ではあるものの、これを積み重ねて成長し、本格的に魔法使いとしての修行に取り組めば―――フェルンは魔法の発射速度において、フリーレンを越える。

 一般攻撃魔法の使用速度が速いというのは、単純なアドバンテージでもあり、一つの武器だ。魔法使いにとっては、それだけで戦況を有利に運べられる。

 言うならば早撃ち(クイックドロウ)だ。相手の隙を突くのなら、これ以上に素晴らしいスキルはない。

 

「じゃあ、もう1回やろうか。フェルゼ、次は攻撃も交えてね」

「当たっても知らんぞ」

「フェルゼならそんなヘマしないでしょ」

「信頼に預かり光栄だよ」

 

 他愛もない会話が繰り広げられた、その刹那。

 

 世界が、真っ二つに割れた。

 

「え――――――」

 

 その声を上げたのは、いったいどちらだったのか。

 音はおろか、風圧すらも其処には無かった。瞬きの一つすらも許さずに、何の疑問もなく二人を眺めていた筈だったフェルンは、あまりにも突拍子もなく起きた不可解な現実を受け入れられずにいた。

 

「ちょ、フェルゼっ!?」

「珍しく声を荒らげたな、フリーレン。不意打ちなぞお前にしてみれば、珍しいものでもなんでもないだろうに」

 

 それはもはや、本能によって引き摺られた結果とも言える行動だった。

 反射的に―――なんて表現するにはあまりにも速く、フリーレンはこれまで生きてきた時間の中で最も素早く、そして最も一点に特化した防御魔法を展開した。

 右方向から襲い掛かる不可視の斬撃は、肌に届く寸前で防御魔法によって防がれた。まさに紙一重と言わざるを得ない隙間だ。

 

 何ら珍しい事など、この瞬間には起きていない。やってみた事はあまりにも単純で、しかし、だとしても理解のし難いものでもあった。

 腰を落とし、足を引き、柄に手を添え、疾走。鯉口を切り、抜刀。たったそれだけの動作しか、フェルゼは行っていなかった。

 ただ、強いて言うならば―――それを、その一連の動作を、人の目にも映らない程の速度でこなしたというだけの事。

 

「距離を詰めれば剣士に、距離が開けば魔法使いに軍配が上がるのは常識。だが、世の中には俺の様に一瞬で間合いを詰める奴も居る」

「居ません。そんな事が出来るのはフェルゼ様だけです。絶対に」

「やけに食い気味だな、フェルン……」

「いきなり過ぎるんです。もう少し抑えてください」

 

 何をしたのかもさっぱり分からない様な事をされたって、見てる側としては何を伝えたかったのかすらも全く理解が及ばないだけだ。

 自分と他者の度合いを考えろ天才。フェルンは心の底からそう叫びたかったが、そんな感情をぐっと抑え込んだ。

 しかし、当のフェルゼはそう言われてもな……と困るばかりだった。それに、とも付け加えて。

 

「俺のコレは真似事だ。義父(ヒンメル)が『七崩賢』の一人、断頭台のアウラを相手した時のな」

「えぇ……」

 

 蛙の子は蛙という言葉を教えてもらった事があるが、まさしくこういう人達に対して使うべき言葉なのだろうと、フェルンはドン引きしながら実感する。

 勇者ヒンメル―――正確には勇者パーティ―――が、かつて断頭台のアウラと対峙した時、断頭台のアウラは魔法を使う事もなく斬り捨てられ、あえなく逃亡した。

 『服従させる魔法(アゼリューゼ)』―――アウラが持つ『服従の天秤』に自分と相手の魂を乗せ、互いの魔力を測り合う事で魔力の大きい方が相手を服従させられるという魔法。

 魔族の操る魔法は主に『呪い』と呼ばれるものだが、魔王直属の部下にして幹部とも言える七崩賢の魔族達が操るそれは、他の魔族のそれとは一線を画す。

 故に、勇者ヒンメルが取った方法はシンプルだった。

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「魔法使いに勝つなら、そもそも魔法を使われる前に決着をつける。父からの教えだ」

「それはそうだけど……そんな本気(ガチ)で来るとは思わないじゃん」

「修行ならともかく、試合は互いを鍛え合うものだぞ。不意打ちはお前の専門分野ではない、という事だ」

「……まぁ、それはそうだね」

「魔族の中には、魔法ではなく武術に全てを注ぎ込んだ奴も居るだろう。そんな奴と相対した時の対応が必要だろ」

 

 魔法使いとしての土台であれば、間違いなくフリーレンに軍配が上がる。そこだけは、フェルゼも断言出来る。この数十年、伊達に傍で彼女と戦ってきた訳ではないのだ。

 だが、それが剣士や戦士、或いは暗殺者といった―――そもそもの枠組みから外れるようなものとなった場合は、その限りではない。

 

「俺の様にとまではいかずとも、距離を殺して即座に攻撃するタイプの魔族が出てくれば、魔法使いである以上お前も手を焼くだろ。対策は多く持つに越したことはない」

「フェルゼが居るから良いじゃん」

「仮定の話だ。勿論、前衛を任されている身としては決して手は出させん。だが、俺がいつまでも一緒に居られる訳じゃないだろ。俺も人だ、いつかは死ぬ」

「……」

 

 それを言われたら、何も言えない。沈黙せざるを得ない。

 人の一生は短い。エルフだけでなく、ドワーフと比べても。人間は数百年という時間を生きる事だって出来はしないのだ。それは―――ヒンメルの死で、分かった事の筈だ。

 フェルゼも、その例には漏れない。どれだけ人後に落ちない才能を有していようが、どこまで行ってもフェルゼは人間だ。そこだけはどうしようもない。

 

「道半ばで斃れるかもしれない。病に伏せるかもしれない。毒に侵されるかもしれない。俺もお前も、平然と生きていられる保証なんて何処にもない。だから、お前は俺が居ない時の戦術と対策を、俺はお前が居ない時の戦術と対策を詰め込んでおくんだ」

「……フェルゼ様は、何処か遠い先を見据えている様ですね」

「南の勇者みたいな便利な能力は無いぞ、俺には。所詮、俺のコレは行き過ぎた洞察だよ。或いは過保護と言ってもいい。何度言っても、フリーレンは言う事を聞かないからな」

「うぐっ……」

 

「俺も人間だからな、いつまでもフリーレンと一緒には居られない。だからこそ、俺が居なくなった後もフリーレンが平和に、そして無事に生きていける様に、少しでも多くその術を覚えておいてほしい―――ただ、それだけの事なんだよ」

 

 

 

 

『残せるものがあるなら、残しておきなさい。きっとそれは、誰かがフェルゼを憶えていてくれる理由になる』

 

 義父(ヒンメル)からそう教わった時、まだ幼いフェルゼはその意味をよく理解してはいなかった。

 残せるものを残す。それが、自分を憶えてくれる理由になる。例え路傍の石ころであろうが、そこらに生えた花であろうが、それを贈り物にしたなら、誰かに残したのなら、それだけでそうなるのだと。

 その時は、雰囲気に流される様に、うん、と頷いていたけれど、大人になった今になって思い返してみると、なるほどと、真意まで理解が及ぶ。

 道中の旅で、都市にも村にも何度も寄ったが、その殆どに勇者ヒンメルの銅像が建てられていた。

 それが、勇者ヒンメルを憶える証なんだと、フリーレンは言った。ナルシストだったからね、とも付け加えて。

 だが、きっとそれだけではないんだろうな。とも、フェルゼは考えた。

 あの優しい父は、その最後までフリーレンの事を想っていた。そんな父が、ただそれだけを理由にはしないだろうと。

 自分の事を憶えていほしい――――――ただそれだけじゃ、ない筈だ。あの人は、きっと誰よりも仲間の事を想っていたから。

 だとしたら―――自分には、いったい何を残す事が出来るだろうか?

 幸いな事に、出来る事は多い。大した自覚はなかったものの、自分が他の人に比べれば才能に恵まれているという事は、薄々勘づいてはいた。

 だからこそ、やろうと思えば、アクセサリーの類くらいは簡単に作る事が出来るだろう。誰かに贈り物をすることは容易い。

 だが、それに果たして意味はあるのか? とも、最近は考える様になった。

 

「俺は―――誰かに憶えてもらう必要があるのだろうか」

 

 人を助ける。それは決して変わらない、変えるつもりもない。それは父への憧れであり、そして、フェルゼという人間が自分で選んだ答えだ。

 だが、その人助けをする上で―――自分を誰かに憶えてほしい、なんて考えた事は一度もなかった。

 誰かに憶えてもらう必要などあるのだろうか? 決して、それを理由にして助けた訳でもないのだから、例え助けた人々から忘れられていたとしても、それを気にする必要もないのではないか?

 

「父さんは何を想って、銅像を建てさせたんだろうか……」

「珍しく、悩み事ですか?」

 

 優しげな声が、思考の海に沈んだフェルゼを引っ張った。

 

「ハイターさん……」

「失礼、何やら悩んでいた様でしたので。私で良ければ、話してはくれませんか? 何か力になれるかもしれません」

「……昔、父にこう言われました。『残せるものがあるなら、残しておきなさい。きっとそれは、誰かがフェルゼを憶えていてくれる理由になる』と」

「ほう。それは、また……ヒンメルらしいですね」

「でも、俺は思うんです。自分は誰かに憶えてもらう必要はあるのか、と」

 

 誰かに憶えてもらいたいから、助ける訳ではないのに。

 ただ純粋に助けたいから、助けるのに。それではまるで、偽善の様に思えてしまう。自分は良い事をしたんだから憶えてくれよと、言外に言っている様に感じてしまう。

 それなら、わざわざ誰かに憶えてもらう必要なんてない。

 自分が助けた誰かに忘れられようが、それでも構わない。憶えてほしかった訳でも、感謝されたかった訳でもなく、ただただ自分が助けたかっただけの事だから。

 褒められなくてもいい。忘れられていい。それでも、きっと自分は後悔しないから。

 

「それは―――とても、悲しいですね」

「悲しい……ですか?」

「えぇ。それは悲しく、辛い事ですよ、フェルゼ。貴方にとっても、そして―――貴方が助けた人にとっても」

 

 ハイターは説く様に、優しい声で語る。

 

「誰にも憶えられない、誰かに忘れられる……それは人間にとって、いや、誰にとっても、最も辛い事なんです。フェルゼには居ませんか? 自分の事を忘れないでほしいと思える人が」

「…!」

 

 憶えてほしいではなく、忘れないでほしい人。

 そう言われて、初めて気が付く。居ない訳がない。この両手の指では収まらない程に、沢山の人が居る。

 ヒンメル(父さん)も、フリーレン(母さん)も。

 最近で言うならば、フェルンも。ハイターも。ノクスで出会った家主だって―――自分の事を忘れてほしいだなんて思った事は、一度もない。

 

「貴方が助けた人が何人も居るとして。その内の何人かが忘れてしまったら、貴方の事を憶えている人は決して良い思いはしないでしょう。自分の恩人が誰にも憶えられず、時間に呑み込まれて忘れ去られる……それは、本当に悲しい」

「……そう、ですね」

「知っての通り、ヒンメルは旅の途中で寄った街や村で功績を打ち立てたては、いつも銅像を建てていました。『僕のイケメンぶりを後世に伝えるために』とか言って」

「父さんらしいですね」

「えぇ。ですが、それだけではありませんでした。各地で銅像を建てさせた理由の一つは、フリーレンを独りにさせない為でもあったんです」

「フリーレンを……」

 

 人間以上の寿命を持つエルフであるフリーレン。彼女は自分が誰に憶えられようが忘れられようが、きっと気にもしないだろう。

 だが、ヒンメルはそうではなかった。自分達よりも長く生きるであろう彼女を、独りぼっちにさせない為に―――憶えていてほしくて、思い出してほしくて、寂しくさせたくなくて、銅像を建てたのだろう。

 その銅像について、彼女が何か口を出した時、その村や街の人がフリーレンの事を思い出す様に。

 

「ですから、そんな悲しい事を言わないでください、フェルゼ。貴方は誰かに忘れられていい様な人ではありません。貴方の為に、そして貴方が助ける人の為に―――どんな形でもいいから、何かを残してあげてください」

 

 忘れられていい人間なんて存在しない。こんなにも優しい子が、忘れられていい筈がない。

 どんなものでもいい。父を習って銅像を建てるでも、何かものを作るでも、或いは技でも、なんでもない。

 なんでもいいから―――誰かに憶えてもらえる様に、何かを残してあげてほしい。

 優しく、けれど感情の込められた言葉に、フェルゼは胸の底から熱い何かが込み上げた様な気がした。

 

「……はい。ありがとうございます、ハイターさん。また一つ、成長出来た様な気がします」

「礼には及びません。……フェルゼ」

「はい?」

「見返り、という訳ではないのですが……一つお願いをしても、良いですか?」

「勿論。なんでも言ってください」

「ありがとうございます。……フェルンの事を、お願いしたいんです」

「え…? それは、どういう―――」

 

 言葉が止まった。ハッとした様に、見開いた目をハイターへと向ける。

 その顔は、何処までも穏やかで。けれど、寂しそうで……怖そうでも、あった。

 

「―――」

「フリーレンから、フェルゼにはわりと口が強いと聞いています。…あの子は一人っ子でしたから。きっとフェルンにとって、フェルゼは良いお兄さんなのだと思います」

「ハイター、さん……」

「似た境遇を持つ貴方達だから、こそ分かり合えるものがあります。ですから―――どうか」

「っ――――――」

 

 今この時程、自分の才能を恨めしいと思った事はない。

 分かるな。分かってしまうな。

 察するな。察してしまうな。

 理解するな。理解してしまうな。

 ダメだろ、それは。こんな事は―――誰かに理解させては、ダメだろっ…!

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…!

 

「っ、くっ…!」

「……すいません、フェルゼ。貴方にはきっと、すぐバレると思いましたので」

「なん、で…ハイターさんが、謝るんですか……!!」

「貴方に、辛い思いをさせてしまった。そんな私がこんな事を言うのは、とても図々しいと分かってはいるのですが……貴方にしか、頼めませんから」

「ぅ、うぅ…!!」

「……フェルゼ」

「っ……は、いっ…!」

 

「どうか―――フェルンを、頼みます」

 

 その言葉に、フェルゼは。

 

「っ――」

 

 黙って。

 

「あ、くっ…!」

 

 我慢出来なくて。

 

「うぅ……!!!」

 

 涙を流して。

 

「――――――っ」

 

 それでも。

 

「……はいっ」

 

 確かに、頷いた。

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