その名に宿るは嘘か未来か 作:アトランティスの観測者(自称)
初めまして、アトランティスの観測者といいます。
海底都市には二度と戻らないからこその美しさが眠っており、沈み逝く過程を想像するのは愉しいものです。
作者のどうでもいい前置きもほどほどに、どうぞお進みくださいまし。
アビドス砂漠の外れの方、砂に埋もれた廃墟の地下深くにて、一人の人間がパソコンと向き合っていた。
そのパソコンには難解なレポートが記され、今もカタカタとキーボードの音を立てながら内容が綴られていく。
一段落ついたのか手元のマグカップに注がれたコーヒーを啜ると、タイミングよくゲートのようなものが開き、中から黒いスーツに身を包んだ人型の生物のようなナニカが現れる。
「お邪魔します、調子はいかがでしょう?」
「ん、黒服か。 悪くないよ、順調とも言いがたいけど。 ・・・それで、頼んでたものが完成したって聞いたんだけど」
「・・・えぇ、こちらに」
そう言って黒服と呼ばれた異形の男は目の前のデスクに座る人間に一枚の仮面を手渡す。
この部屋の主は振り返ることなく後ろ手で受け取ると躊躇いなく装着し、そしてすぐにそれを外す。
「・・・うん、完璧。 素晴らしい出来映えね。 見た目もちゃんとリクエスト通り、これでワタシも生徒としてキヴォトスで活動できるようになるのよね」
「えぇ、その通りです。 ・・・それはいいのですが、その口調は一体?」
「あら、いいじゃない。 見た目と声が女性なのに男口調のままだと違和感あるでしょ?」
そう言ってようやく振り返ったその人間は、頭から口元までが青みがかった白色、そこから下は青紫色のグラデーションになっている髪を胸元まで垂らし、夜空を思わせる美しい青の瞳と、血のように濁った赤の瞳のオッドアイを持つ美しい少女だった。
「・・・今更では? あなたは元々女性でしょう」
「アナタは知ってるハズだけど、人格は男なのよ。 元の姿と声は中性的だからどっちでも通ったけど、この姿だとそうも行かないでしょう?」
「そうですか・・・」
そうして少女は立ち上がると軽く伸びをし、マグカップを持ってキッチンに歩いていく。
「それにしても長かったわね~。 大体一年くらい? ワタシがアナタと契約してから。 ずっと研究室に籠りっぱなしだったから、お外が恋しいわ~」
「クックックッ、それはなによりです。 では、支払いは契約通りに」
「はいはい、わかってるわよ。 で、今回は何が知りたいの?」
「・・・今回は“名もなき神々の王女”について、彼女が貴女の知る未来でどう“成った”のかをお聞かせ願います」
その問いを聞いた少女はニッと笑みを浮かべると、懐から一冊の手帳を取り出しページをめくる。
「・・・名もなき神々の王女、AL-1Sはミレニアムサイエンススクールのゲーム開発部によって発見、保護され、彼女達との交流を経て“勇者”を志すわ。 彼女、天童アリスは廃部の危機に立たされていたゲーム開発部に自らの言葉で希望を与え、ミレニアムプライスで特別賞を受賞。 ゲーム開発部は廃部にならず、彼女は友達と共に生きることができる」
少女はそこで一度区切ると、手帳を閉じて黒服に目を向けた。
「・・・ま、ハッピーエンドってやつよ。 とっても平和で美しい、子ども達の青春物語の一端ね」
「・・・ですが、それで終わりではないでしょう?」
「あははっ、やっぱアナタならわかってるわよねぇ」
「当然です。 名もなき神々の王女はキヴォトスを滅ぼすために作られた兵器、それが生徒としてのハッピーエンドを迎えるなど、そう容易く達成できるとは思えません」
「大正解! けれど、未来の情報の価値は大きいわ。 さっきのじゃまだ支払いに足らないというのなら払うけれど?」
「いえ、前金としていただいた情報と加算すればむしろ払いすぎです。 貴方からは随分多くの研究成果を得られましたし、私たちとは異なる視点でのアプローチも興味深い。 一枚目の仮面などはその代表例です」
そう言うと黒服は少女が腰にぶら下げている骸骨のような機械仕掛けの仮面を見やる。
「フフッ、これね。 前にも言ったけれど、これはアナタがホシノにやろうとしてた実験の内容を聞いて思い付いたの」
「・・・ミメシスを通して観測した“恐怖”を生きた生徒に適用できるのか。 結局私はこの答えを知ることはできませんでしたが、代わりにミメシスを用いて“恐怖”を外付けすることは可能であると貴女が身を以て証明した」
「ただし、その“恐怖”を仮面に閉じ込めるのには膨大な手間がかかる上、外付けの紛い物だからか神秘だけでなく生命力も消費する。 著しくコストが悪い上にリスクも高いけれど、これは一つの完成形ね」
「・・・しかしまだ解明されていない点もあります。 この外付けの恐怖は通常の生徒でも使用できるのか。 貴方が扱えたのは生徒のテクスチャが特異であったからであり、そうでない者は扱えないのではないのか、と」
「それなら、ワタシが彼女達で色々試すつもりよ。 元々危険なシロモノだから、まだどう始めようか考えてる段階だけどね」
そこまで言うと少女は眼光を鋭く黒服を見据え、先ほどまでと打って変わって殺意すら感じれる声でこう続けた。
「・・・黒服、わかってるよね? 俺に許可なくホシノやユメ先輩、アビドスの後輩達で実験しようとしたら、本気で殺すよ」
「・・・えぇ、ご心配なく。 元よりそういう契約ですので、あれから彼女達とは接触していませんよ。 私の契約の効力はよくわかっているでしょう?」
そう聞くと少女の剣呑な雰囲気は霧散し、元に戻る。
「ま、そうね。 悪かったわ、どうにも彼女達のことになると少し・・・ね」
「クックックッ、彼女らも随分と愛されてますね」
「当然よ。 あの子達には、ワタシの分まで幸せになって欲しいの。 ホシノを泣かせたワタシにそれを願う資格があるかは・・・怪しいけれど」
そう言った少女は後悔や悲哀の感情を浮かべながら自嘲気味に笑う。
「・・・それについて、私は口出ししませんからね。 さて、その二枚目の仮面はマエストロの“ミメシス”を用いた一枚目と異なり、ゴルゴンダの“テクスト”を利用しています。 詳しいことは貴女が一番知っているでしょうし説明は省きますが、今の貴女は"生徒"でありながら“先生”としてのテクストを纏っている状態にある」
「・・・確か、ワタシがユメ先輩を救けられたのも、ワタシに“先生”のテクストが眠っていたから、なのよね?」
「はい。 梔子ユメは本来であれば砂嵐に呑まれて遭難し砂漠で朽ちていましたが、貴女に“先生”のテクストが含まれていたことでそれを阻止できた」
「ま、そこからワタシはアビドスには生還できなかったけれどね。 なんであそこでよりによってビナーが来るのよ。 あの時は本気で死を覚悟したわ、アナタがいなかったら今頃ユメ先輩共々砂に埋もれてたでしょうね」
"アレは今でも思い出したくないわ・・・"と少女は苦笑いを浮かべ、ふと部屋の時計に目を見やる。
「・・・あら、もうこんな時間ね。 折角仮面も完成したことだし、色々検証したいことを試してるわ」
「・・・変なことはしないでくださいね。 私は貴女の身分証明書を作製しておきますので」
「ありがと、面倒かけるわね」
「いえ、お釣りとして受け取ってください。 ところで、その姿の名前はどうしますか? 本名を使うつもりはないでしょうし、ゲマトリア内での名はキヴォトスの生徒としては異質すぎますよ」
「そうよねー。 ・・・ユイロ。
「クックックッ、承知いたしました。 ではユイロさん、行ってらっしゃいませ」
その言葉に振り返ることなく、少女───ユイロは扉を開くと静かなオフィスを後にした。
「一年も経ったっていうのに、アビドスは様変わりしないわねぇ。 ま、あの時ビナーくんをなんとか撤退に追い込めたからか、だいぶ砂嵐の被害は減ったけれど」
外の様子をモニターするカメラの映像を見ながらそう呟く。
・・・さて、これからどうしようか。 長いこと表舞台での行動には制約が多かったから、やっておきたいことが山ほどある。
とりあえず、シャーレが完成するより前に一定の立場は欲しい。 パヴァーヌへの備えとしてリオの協力者としての活動も進めておきたいし、そろそろ“あの事業”に手を付ける時期が来たか。
いや、でもその前に。
ようやく“仮面”が完成したことだし、さっさと実用化させるべき、か。
いずれにせよ、このカラダはもう長くは持たない。
あぁそうだ、折角だし、この機会にこの場を覗き見てるであろう“観測者”さんに向けて身の上話でもしておこうか。
・・・一応言っとくけど、俺はそっちを認識してないよ。 深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いてるって言うけれど、ここは深淵ではなくキヴォトスで、俺はこの世界の住人の一人だから、一方通行の窓を認識できないんだ。
だから正直に言うと、“先生”がいない
もしいるのなら、ブルーアーカイブのプレイヤーとは別で世界に紛れ込んだ異物が選択する未来を見届けようとするような、そんな物好きな奴らなんだろう。
とはいえ、別段大した話ではない。 大まかにかいつまんで話すとしよう。
まずアビドスの廃ビルで目覚め、自身が“虚月ライ”という生徒に転生した。
その後廃ビルの崩落に巻き込まれ、瓦礫に埋もれていた所を偶然通りかかったユメ先輩に救助された。
そこから色々あって黒服に命を助けられ、それから名を変えゲマトリアの一員になった。
大まかにはこんな感じだ。 しっかり話すと長くなりそうなんでナ。
ここまで語ってから言うのもなんだが、そもそも観測者がいなかったら勝手に脳内で語りだして過去を振り返るとかいう中々にイタいことしてるよな俺・・・。
うん、それについて考えるのはやめておこう。
あ、そういえば自己紹介がまだだった。
“元”アビドス生徒会、現ゲマトリア、
呼びはこれからユイロって名乗るから、どうせならわかりやすく
「さて、ホントに何から始めましょうか。 ・・・そうだ、今のワタシなら、アリスちゃんを回収できるかしら。 あの子がいると色々と便利になりそうだし、ケイちゃんを最初からゲーム開発部側に入れてしまえばAL-1Sによる厄災を抑えやすくなる、はず?」
とはいえ、そうならなかった場合の備えも必要だが。
場所の目星はついてるし、時間はたっぷりある。 一つ一つ種を回収していこう。
簡易プロフィール
・名前 :
・性別 : 女/女 (中身の人格は男)
・一人称 : 俺/ワタシ
・二人称 : お前/アナタ or アンタ
・武器 : リボルバー 《
※投稿してから名前を間違えていたことに気付いた。 修正済。